厄災の姫と魔銃使い:リメイク

星華 彩二魔

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第七部 三章「信じる者」

「敵か味方か」

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 ――ああ……。せいせいした……。

 生い茂る雑草を踏みしめながら、夜闇でネアはそう頭で呟く。
 気が晴れた物言いと反し、現状ネアの苛立ちは解消などされてはいない。
 エリーを抱えながら彼女の足は早歩き。表情は未だ険しくもあり、苛立ちを隠せない。
 不満が胸の奥に渦巻いているというのに、ネアはそれを見向きもせず……。

「……で? アンタはなんでついてくるわけ?」

 ふと、ネアは思い出したように後ろを振り向く。
 後ろには連絡を届けてきた黒いローブに身を包む男がいる。男は慌てた様子でそこそこあった感覚を更に広めるように後退した。情けなく森の木の裏にまで隠れて。

「す、すいません! ……ですが、一応私もお屋敷に戻らないといけませんので。……働いている身分ですので」

「…………ああ、そうだったかしら」

 そういえばそうだった。と、ネアは思い出して再び進みだす。
 その後ろを男は夜闇に怯えながらついていった。

「……あ、あの。随分機嫌が悪そうですが、大丈夫ですか?」

 気遣いのつもりか心配されるも、それはネアにとって不快でしかない。
 ネア本人も機嫌が悪いのは知っていても気にしないようにしていた。それを思い出させるように問われれば、癇に障るというものだ。

「は? あんなクソガキの野郎どもと離れられて嬉しいに決まってるでしょうが。誰が機嫌悪いって? ほっといてちょうだいっ」

「すみませんっ。………………あのぉ、よろしければそちらの方を私がお持ちいたしましょうか?」

 これもまた気遣いだったのだろう。
 しかし、それは先ほど以上にネアの苛立ちを煽る。
 男の身を紫電がかすめ、殺意のある眼差しで睨みつけられた。
 
「この子に触れたら殺す。アンタにできるのは屋敷まで私に話しかけない事。……いいわね?」

 ゴクリ、と。男は生唾を呑み込み、なんとか首を縦に振って応答した。
 暗い森の中で向けられた眼光。それはまるで夜に紛れて人間を襲う獣の様でもあり、今にも喰いかかろうとするほどだった。
 それから目的地に到着するまで男はだんまりを強いられる。
 
 緊張を抱える足元で、静かに草木がゆっくり枯れる事に気付かず……。

   ◆

 あれから数十分の時間が経過する。
 エリーをネアに奪われ、魔銃使い二人だけが取り残される。
 先に動けるようになったイロハが一度クロトを宿の中にへと引きずり部屋に戻ってきた。
 
「~っ。先輩、大丈夫?」

 部屋に入ると、最初に帰ってきたのは怒号だ。

「ハァ!? 無事に見えんのかよ!? 階段で背中いてーわ、ボケ!!」

「……え~。だって飛んだら怒るでしょ?」

「うるせぇ!!」

 その時、クロトは咄嗟にイロハに蹴りを一発当てた。
 不思議と痺れが薄れている事に気付く。自分の意志で起き上がれるとわかれば、目を丸くさせて自身の体を確認する。
 両手共に動く。若干の痺れは残るが、いつもよりは早く解放された事には首をかしげる。

「……あと数時間は動けないと思っていたが、意外に早いもんだな」

『手を緩めたって言うよりは、そこまで動きを封じる事に意識集中できてなかったって感じか? だがこれで早くあの電気女を追えるってもんだ』

「……」

 クロトは魔銃を取り出す。
 意識を銃に集中させ、エリーの居場所を探る。
 
「……さすがに速いな。それなりに距離をとられてやがる」

『だが余裕で場所がわかるぜ。蛇の執念深さなめんなよ電気女め。姫君はぜってー取り戻すっ。……つーか。なんであの女に先手許した我が主? 相棒出してればアレくらい止めれたっての』

「うるさいっ。……正直、まさか本当に裏切ってくるとは思ってなかった」

 ネアのあの行動はクロトにとって予想外でもあった。
 そのせいで彼女の行動が読み切れず、一撃をくらうこととなった。
 これを完全なロスタイムと認めても良いだろうが、例えその事象がなくともこの距離の離されように変化はないだろう。
 相手はネアだ。これまで一緒に過ごしたといっても、ほとんどネアがこちらに合わせていたと考えれば、その力の底が未だつかめない。
 幸いなのが、このレガルを離れておらず、とある場所で動きが止まっているという事。イロハもいるため、動かないなら追いつくのは可能である。
 
「……半魔って奴は、ただの魔族よりもつえーもんなのか? 人間と魔族の半端なくせに」

『正直、電気女はそこらの魔族よりはつえーな。そもそも、半魔であそこまで自我を持って人の形をしてる奴なんていうのは稀なんだ。たいていは動く肉塊か、辛うじて人の形に寄せたような出来損ないとかだからな。というか、まともに産まれる事すらねーって話だぞ?』

『よほどの魔族が関与していればその力を引き継ぐこともある。あの異端者が雷を扱えるという事しかわからぬ故、判断はそう簡単に出来ぬがな』

 半魔である以上、人間と、その対になった魔族がいるはずだ。
 魔族の種類も幅広く存在し、正体を暴く事は早々できない。
 相手がネアと考えれば対策も考えねばならない。しばらくの静寂を一人眺めていたイロハが、ふと、ぽつりと呟いた。


「ねぇ? お姉さんはもう敵なの?」


 その問いに、クロトは呆気に取られた様子で目を丸くさせた。

 ――敵? そもそもネアは味方だったのか?

『……わ、私は、あの異端者を味方と見た覚えはないぞ?』

『クソガキ何言ってんだよ? 電気女が敵って今更だろ、あの女ムカつくしー』

『お前も相当嫌われていただろう? あそこまで暴力的な半魔など見た事がない』

『ないわー。あんな女いなくなってせいせいするっての。俺の姫君奪うような奴だし敵でじゅんぶんだろ』

 若干の焦り口調で、まるでお互いの声が聞こえてでもいるかの様にフレズベルグとニーズヘッグがネアは敵あると判断する。
 ネアの行動は確かな裏切り行為だ。……いや。元々その手はずなだけで、ずっと同行し隙をうかがっていたのやもしれない。
 元々……。そう。クロトがネアと初めて会ったその日から、ずっと……。


 ――ねぇ! もし厄災の子見つけたら、私に教えてよ! きっと可愛い子だわ。私も会ってみたいの!

 
 過去に、そう言われた事を思い出す。
 厄災を抱える存在に会いたいと、好奇心の目で言われた。
 そんな嬉しそうに素性を知って会おうとするような輩など、ネアぐらいしか知らない。
 ただの女好きで。極度なまでの男嫌いで。ハッキリと物事を言い、これまで幾度も張り合ってきた。
 ……だが、ネアは嘘が上手い人間にはさほど思えない。人並程度だ。
 現状のような、騙し討ちな行動を得意としていると納得することができない。
 だからこそ、あの行動がネアの意志から外れていると、予知する事ができなかった。
 
 ――……ずっと…………本当にそうなのか?

『なぁ、クロト。お前からも言ってやれって。電気女はもう敵でいいって』

 状況を理解させろと後押しされるが、クロトは言葉を詰まらせる。
 これが騙された行動なら、確かにネアはもはや敵でしかない。もはや使える道具としての情報屋ではなく、自分の道具を奪った障害だ。
 障害は排除するに限る。ずっとそうしてきた。それが一番安全だと。
 間を開けてから、クロトは一つ納得した様子で口を開く。

「……俺は、アイツを味方とは思ってない」

 そうだろうな。と、ニーズヘッグは頷く。
 だが、それにはまだ続きがあった。

「もちろん、今までただの敵とも思ってない。……俺はアイツが嫌いだし、アイツも俺が嫌いだ。ただの平行線だけの奴を、敵か味方で判断した覚えはない。それはお前らも同じだ」

 クロトにとって、同行者は敵と味方では判断していない。
 使えるか、使えないか。ただそれだけだ。
 イロハやフレズベルグ、ニーズヘッグですらその対象でしかない。
 
「それに、アイツが考えなしにあのガキを連れ去ったとは思えないしな」

『……お前らしくもないな。これまでの事もあるし、せめてもの温情か?』

「温情? ふざけんなクソ蛇。俺がそういう人間に見えるか?」

 ――俺はただ、確かめたいだけだ。ネアがどういう理由でこんならしくない事をしたのか。それを知ってからでないと、この納得のいかないものが解消されないだろうが。


「――とっととあの馬鹿をとっちめて、クソガキを取り戻すぞ」
 
 
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