18 / 76
第2章 あたしが宮廷女官? それも皇后付きの侍女!
10 陛下のことなんて興味ない
しおりを挟む
「来世は幸せになれるよ。きっと」
この様子を遠目で見ていた宮女たちが、顔を引きつらせていた。
「あの子、何もないところに向かって喋ってる」
「前にもそんなことがあったわ。その時は怒鳴ってた。やっぱり頭がおかしいのよ」
「どうしてあんな子を皇后さまは気にかけるのかしら」
蓮花に霊能力があることを知らない者からすれば、彼女が独り言を呟きおかしな行動をとっているとしか思えないのだ。
「ほんとに、後宮って大変なところなんだなあ」
「慣れるまで大変かもしれないけど、頑張って!」
背後から励ましの言葉をかけられ、蓮花はびくりと肩を跳ねた。
いつの間にか皇后付きの侍女、明玉が後ろに立っていた。
明玉は蓮花の指導係もかねている。
同じ年頃ということもあり、気さくに蓮花に接してくる。
明玉という名を現すように、明るい性格で、玉のようによくころころ笑う少女であった。
「あ、そういう意味で言ったんじゃなくて……」
どうやら思ったことを口に出してしまう癖は気をつけなければならない。
ここは後宮、余計な一言が後々の災いを招くことになるかもしれないのだ。
「意地悪する人もいるけれど、気にしない方がいいよ。ここはそういう所だから」
「え? あたし意地悪されてるの?」
明玉はぷっと吹き出した。
「気づいてないんだ。それならいいけど。蓮花ってほんと、面白いね。てか、皇后さまから聞いたよ。蓮花って幽霊がみえるんだって? もしかして今も霊と喋ってた?」
「あー」
蓮花は言葉を濁す。
「私も亡くなった祖母が枕元に会いに来たことがあるから霊の存在は信じるよ。でも、理解できない人も多いから」
「ありがとう。気をつける」
「後宮は優雅で食べるのも寝るところにも困らないけれど、同時に、恐ろしいところだから、まじ気をつけて。ところで蓮花はどうして後宮に?」
「それは……」
言いよどむ蓮花に、何か深い事情があるのだと察した明玉はあ、と言って手をかざす。
「言いたくない事情があるなら言わなくていいよ。無理には聞かない。おとなしく波風立てず目立たなく生きていけば大丈夫。年季が明ければここを出られるし。皇后さまのお気に入りなら、良い嫁ぎ先も世話してもらえる。まあ、陛下の目にとまって寵妃にでもなれば別だけど」
陛下の目にとまると聞き、蓮花は口を曲げた。
「まさか、興味ないよ」
陛下の寵妃なんて冗談ではない。それに、用がすんだら後宮を出るつもりだし、自分はあくまで両親を殺した奴を見つけてもらうために一颯に協力しただけ。
興味がないと言った蓮花に、明玉はふふふ、と意味ありげに肩を震わせ笑った。
「故郷に思う人がいるんだね。今度、恋バナ聞かせてよ!」
「え? 違っ」
なんか勘違いしているし!
「陛下に目をかけられたくないなんて、誰か好きな人がいるからでしょう? 大丈夫、大丈夫。目にとまるなんて、そんな機会まずないから!」
明玉はけたけたと笑い、蓮花の肩をぽんと叩いた。
「とめて」
蓮花と明玉がそんな会話をしているところ、永明宮の門の前を通り過ぎようとする輿があった。
輿に乗っていた女の命令で、太監や侍女たちがぴたりと足を止める。
退屈そうな顔で輿に乗っていた女は、何かに興味を引いたらしく、永明宮の中をじっと見つめていた。
「あの娘、見たことのない顔だけれど、誰?」
輿に乗った女が側に控える侍女に尋ねる。
「はい、先日皇后の侍女として後宮に来た者で、名を蓮花といいます。凌家の若様が連れて来られたとか」
「ふうん」
輿に乗る女は目を細めた。
艶やかな色気を漂わせる女性であった。
着ている衣の生地も刺繍も、身を飾る装飾品も上等なもので、高貴な身分であることが窺える。
彼女こそ、皇后と勢力を争う景貴妃であった。さらに、侍女は景貴妃の側に一歩詰め寄り声を落として言う。
「凜妃の侍女たちが話していたのを小耳に挟んだのですが、あの蓮花という娘には特別な力があるそうです」
景貴妃は整った眉をあげた。
永明宮の庭で侍女と話し込んでいる蓮花に興味を示す。
「なんでも、亡霊が視えて祓えるとか。さらに、未来も予測でき、人を呪い殺すことも……つまり、霊能者だそうです」
「ほう? 未来が見えると」
景貴妃は朱く塗られた唇の端をつり上げ、興味深そうに蓮花を見つめていた。
この様子を遠目で見ていた宮女たちが、顔を引きつらせていた。
「あの子、何もないところに向かって喋ってる」
「前にもそんなことがあったわ。その時は怒鳴ってた。やっぱり頭がおかしいのよ」
「どうしてあんな子を皇后さまは気にかけるのかしら」
蓮花に霊能力があることを知らない者からすれば、彼女が独り言を呟きおかしな行動をとっているとしか思えないのだ。
「ほんとに、後宮って大変なところなんだなあ」
「慣れるまで大変かもしれないけど、頑張って!」
背後から励ましの言葉をかけられ、蓮花はびくりと肩を跳ねた。
いつの間にか皇后付きの侍女、明玉が後ろに立っていた。
明玉は蓮花の指導係もかねている。
同じ年頃ということもあり、気さくに蓮花に接してくる。
明玉という名を現すように、明るい性格で、玉のようによくころころ笑う少女であった。
「あ、そういう意味で言ったんじゃなくて……」
どうやら思ったことを口に出してしまう癖は気をつけなければならない。
ここは後宮、余計な一言が後々の災いを招くことになるかもしれないのだ。
「意地悪する人もいるけれど、気にしない方がいいよ。ここはそういう所だから」
「え? あたし意地悪されてるの?」
明玉はぷっと吹き出した。
「気づいてないんだ。それならいいけど。蓮花ってほんと、面白いね。てか、皇后さまから聞いたよ。蓮花って幽霊がみえるんだって? もしかして今も霊と喋ってた?」
「あー」
蓮花は言葉を濁す。
「私も亡くなった祖母が枕元に会いに来たことがあるから霊の存在は信じるよ。でも、理解できない人も多いから」
「ありがとう。気をつける」
「後宮は優雅で食べるのも寝るところにも困らないけれど、同時に、恐ろしいところだから、まじ気をつけて。ところで蓮花はどうして後宮に?」
「それは……」
言いよどむ蓮花に、何か深い事情があるのだと察した明玉はあ、と言って手をかざす。
「言いたくない事情があるなら言わなくていいよ。無理には聞かない。おとなしく波風立てず目立たなく生きていけば大丈夫。年季が明ければここを出られるし。皇后さまのお気に入りなら、良い嫁ぎ先も世話してもらえる。まあ、陛下の目にとまって寵妃にでもなれば別だけど」
陛下の目にとまると聞き、蓮花は口を曲げた。
「まさか、興味ないよ」
陛下の寵妃なんて冗談ではない。それに、用がすんだら後宮を出るつもりだし、自分はあくまで両親を殺した奴を見つけてもらうために一颯に協力しただけ。
興味がないと言った蓮花に、明玉はふふふ、と意味ありげに肩を震わせ笑った。
「故郷に思う人がいるんだね。今度、恋バナ聞かせてよ!」
「え? 違っ」
なんか勘違いしているし!
「陛下に目をかけられたくないなんて、誰か好きな人がいるからでしょう? 大丈夫、大丈夫。目にとまるなんて、そんな機会まずないから!」
明玉はけたけたと笑い、蓮花の肩をぽんと叩いた。
「とめて」
蓮花と明玉がそんな会話をしているところ、永明宮の門の前を通り過ぎようとする輿があった。
輿に乗っていた女の命令で、太監や侍女たちがぴたりと足を止める。
退屈そうな顔で輿に乗っていた女は、何かに興味を引いたらしく、永明宮の中をじっと見つめていた。
「あの娘、見たことのない顔だけれど、誰?」
輿に乗った女が側に控える侍女に尋ねる。
「はい、先日皇后の侍女として後宮に来た者で、名を蓮花といいます。凌家の若様が連れて来られたとか」
「ふうん」
輿に乗る女は目を細めた。
艶やかな色気を漂わせる女性であった。
着ている衣の生地も刺繍も、身を飾る装飾品も上等なもので、高貴な身分であることが窺える。
彼女こそ、皇后と勢力を争う景貴妃であった。さらに、侍女は景貴妃の側に一歩詰め寄り声を落として言う。
「凜妃の侍女たちが話していたのを小耳に挟んだのですが、あの蓮花という娘には特別な力があるそうです」
景貴妃は整った眉をあげた。
永明宮の庭で侍女と話し込んでいる蓮花に興味を示す。
「なんでも、亡霊が視えて祓えるとか。さらに、未来も予測でき、人を呪い殺すことも……つまり、霊能者だそうです」
「ほう? 未来が見えると」
景貴妃は朱く塗られた唇の端をつり上げ、興味深そうに蓮花を見つめていた。
17
あなたにおすすめの小説
同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました
菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」
クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。
だが、みんなは彼と楽しそうに話している。
いや、この人、誰なんですか――っ!?
スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。
「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」
「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」
「同窓会なのに……?」
後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる
gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
月華後宮伝
織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします!
◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――?
◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます!
◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
【完結】『左遷女官は風花の離宮で自分らしく咲く』 〜田舎育ちのおっとり女官は、氷の貴公子の心を溶かす〜
天音蝶子(あまねちょうこ)
キャラ文芸
宮中の桜が散るころ、梓乃は“帝に媚びた”という濡れ衣を着せられ、都を追われた。
行き先は、誰も訪れぬ〈風花の離宮〉。
けれど梓乃は、静かな時間の中で花を愛で、香を焚き、己の心を見つめなおしていく。
そんなある日、離宮の監察(監視)を命じられた、冷徹な青年・宗雅が現れる。
氷のように無表情な彼に、梓乃はいつも通りの微笑みを向けた。
「茶をお持ちいたしましょう」
それは、春の陽だまりのように柔らかい誘いだった——。
冷たい孤独を抱く男と、誰よりも穏やかに生きる女。
遠ざけられた地で、ふたりの心は少しずつ寄り添いはじめる。
そして、帝をめぐる陰謀の影がふたたび都から伸びてきたとき、
梓乃は自分の選んだ“幸せの形”を見つけることになる——。
香と花が彩る、しっとりとした雅な恋愛譚。
濡れ衣で左遷された女官の、静かで強い再生の物語。
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる