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第2章 あたしが宮廷女官? それも皇后付きの侍女!
9 権力争いから外れた女の末路
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「さて、することも特にないし、階段の掃除でもしようかな」
蓮花は、ほうきを手に永明宮入り口の階段に向かった。
庭に咲く牡丹の前に一人の女性が立っている。
品のよい美しい女性であった。だが、顔立ちはきつい。あきらかに高貴な身分だとうかがい知れる。
「ああ、恨めしい。私は赦寧陛下の寵妃よ。陛下のために皇子も産んだ」
赦寧? と呟いて蓮花は首を傾げる。
赦寧陛下は、現皇帝の二代前の皇帝だ。
つまり目の前の女性は霊だ。
「なのにもうずっと陛下がいらっしゃらない。ねえおまえ、今宵陛下はどの宮へお渡りになったか知っている? ああ、悔しい。私から陛下を奪った女は殺してやるわ!」
死してもなお、女はいまだにこの宮の主でいるつもりなのだ。
「いつまでここにいるの? あんたは死んだの」
死人に話しかけないよう気をつけなければと思ったそばから、話しかけてしまった。
また周りからおかしな目で見られるだろうな。
別にかまわないけど。
それにしても、この女性は自分が死んだことも、そして自分が仕えていた皇帝がすでにこの世にいないことも気づかず、こうして成仏できずにいるのだ。
もっとも、そういう霊はたくさんいる。
「無礼者!」
女は手をあげ、蓮花の頬に平手を打つ。
もちろん霊に叩かれても痛くもなんともない。
激怒したかと思えば、今度ははらはらと袖口で目元を押さえ泣きだした。
寂しい。寂しい……。
女の亡くなった時の映像が、蓮花の脳裏に流れた。
皇帝の寵愛を失った彼女の元には誰も寄りつくことはなくなり、やがて女は病に倒れ、寂しく死んでいった。
これが後宮の権力争いから弾かれた女の末路だ。
「寂しい思いをしながらここで亡くなったのね。もう楽になりなよ。いつまでもこんなとこにいちゃだめ。あなたはもう死んだの。分かる? 自由なの」
自由……と、女は呟く。
「あなたが生まれ変わる頃には、きっと時代も変わっていい方向になっているはず。それに、子どもがいたんでしょう? その子もあっちの世界であなたが来るのを待ってるよ」
「私を待っている?」
「そう、空の向こうで待ってる。早く会いに行ってあげれば。待たせたらかわいそう。あなたが迷わず旅立てるよう、あたしも祈ってあげるから」
「私のために祈ってくれるの?」
「あなたのためだけに、経を唱えてあげる」
蓮花は懐から数珠を出し、手をあわせた。
ああ……と、声をもらし女は緩やかに空を見上げた。
まなじりから涙が頬を伝い流れ落ちる。
天から淡い光が落ち、女の身体を包み込んだ。
その光に溶け込むように、すっとその場から女の姿が消えた。
蓮花は空を見上げ小声で経を唱えた。
本当は自分がとうに亡くなっていたことに気づいていたのだろう。だけど、天へあがるきっかけが分からず、この世をさまよっていた。
蓮花は、ほうきを手に永明宮入り口の階段に向かった。
庭に咲く牡丹の前に一人の女性が立っている。
品のよい美しい女性であった。だが、顔立ちはきつい。あきらかに高貴な身分だとうかがい知れる。
「ああ、恨めしい。私は赦寧陛下の寵妃よ。陛下のために皇子も産んだ」
赦寧? と呟いて蓮花は首を傾げる。
赦寧陛下は、現皇帝の二代前の皇帝だ。
つまり目の前の女性は霊だ。
「なのにもうずっと陛下がいらっしゃらない。ねえおまえ、今宵陛下はどの宮へお渡りになったか知っている? ああ、悔しい。私から陛下を奪った女は殺してやるわ!」
死してもなお、女はいまだにこの宮の主でいるつもりなのだ。
「いつまでここにいるの? あんたは死んだの」
死人に話しかけないよう気をつけなければと思ったそばから、話しかけてしまった。
また周りからおかしな目で見られるだろうな。
別にかまわないけど。
それにしても、この女性は自分が死んだことも、そして自分が仕えていた皇帝がすでにこの世にいないことも気づかず、こうして成仏できずにいるのだ。
もっとも、そういう霊はたくさんいる。
「無礼者!」
女は手をあげ、蓮花の頬に平手を打つ。
もちろん霊に叩かれても痛くもなんともない。
激怒したかと思えば、今度ははらはらと袖口で目元を押さえ泣きだした。
寂しい。寂しい……。
女の亡くなった時の映像が、蓮花の脳裏に流れた。
皇帝の寵愛を失った彼女の元には誰も寄りつくことはなくなり、やがて女は病に倒れ、寂しく死んでいった。
これが後宮の権力争いから弾かれた女の末路だ。
「寂しい思いをしながらここで亡くなったのね。もう楽になりなよ。いつまでもこんなとこにいちゃだめ。あなたはもう死んだの。分かる? 自由なの」
自由……と、女は呟く。
「あなたが生まれ変わる頃には、きっと時代も変わっていい方向になっているはず。それに、子どもがいたんでしょう? その子もあっちの世界であなたが来るのを待ってるよ」
「私を待っている?」
「そう、空の向こうで待ってる。早く会いに行ってあげれば。待たせたらかわいそう。あなたが迷わず旅立てるよう、あたしも祈ってあげるから」
「私のために祈ってくれるの?」
「あなたのためだけに、経を唱えてあげる」
蓮花は懐から数珠を出し、手をあわせた。
ああ……と、声をもらし女は緩やかに空を見上げた。
まなじりから涙が頬を伝い流れ落ちる。
天から淡い光が落ち、女の身体を包み込んだ。
その光に溶け込むように、すっとその場から女の姿が消えた。
蓮花は空を見上げ小声で経を唱えた。
本当は自分がとうに亡くなっていたことに気づいていたのだろう。だけど、天へあがるきっかけが分からず、この世をさまよっていた。
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