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第5章 危機一髪皇帝暗殺を阻止せよ
6 母の名前
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「ちょ、ちょっと! 人の足元にすがりついて何してんのよ!」
一颯も、しがみつくように蓮花の足に抱きついたことに気づき、慌てて身を起こす。
ちらりと戸口を見ると、明らかにみんなが引いていた。
一颯はわざとらしくこほんと咳払いをする。
「すまない」
「で、どうするか気持ちは決まった?」
「むろん。陛下暗殺をたくらんだ奴を見つけこの手で捕らえる」
「そう、それならよかった。それで陛下を襲った人物の見当はつく?」
「いや」
「あたしが陛下の元に駆けつけた時、陛下は矢で打たれ馬から落ち倒れていた。さらに、陛下を殺害しようと黒装束を着た男とおぼしき人物が立っていた」
「黒装束の男だと?」
「誰かが矢を打って陛下を落馬させ、その男がとどめを刺そうとしたのかもしれない。それと、これを見て」
蓮花は懐から、陛下が倒れていた現場で拾ったものを一颯に見せた。
「この玉佩が落ちていた。黒装束の男が落としたものかどうか分からないけど、見覚えある?」
玉佩を手に取った一颯は眉根を寄せる。
「羊脂白玉の玉佩。これは、景貴妃の兄、楽斗将軍のものだ」
「陛下は景貴妃の兄に殺されかけたってこと? じゃあ、黒装束は楽斗将軍?」
「いや、楽斗将軍は僕よりも後方にいた。それは間違いない」
「どうして陛下は命を狙われたの?」
「単純に考えるなら、何者かが玉座を狙っているということだろう」
いったい、陛下を殺そうとしたのは誰? 陛下を殺して誰が徳をする?
なんだか、ますます踏み込んではいけない、泥沼のような深みにはまっていきそうだ。
「ところで蓮花、おまえの両親を殺した奴のことなんだが」
「何か分かったの?」
「あの日の夕方、白蓮の町で、見かけない黒い衣を着た数名の男たちの姿を見たと、町の者が言っていた」
「そいつらが両親を殺した犯人?」
一颯は部屋の外に誰もいないことを確認し、声をひそめる。
「内密に調べたいことがあったから、今までおまえにも黙っていたが、おまえの家に駆けつけ敵と対峙した時に感じた。あれはただの賊ではない。奴らは訓練されたプロの刺客。あるいは殺しに手慣れた者。その証拠に、家の物には何も手をつけなかっただろ?」
確かにそうだった。家は荒らされた形跡はなかった。わずかな金目のものすら奪われることなく残されていた。
「でも、どうしてプロの殺し屋があたしの家を、両親を襲った……」
はっ、と蓮花は息を飲む。手が震えた。今頃になって重要なことを思い出す。
「あたし、たった今思い出した。あの時、両親を殺した奴らはこう言っていた『全員殺せとの命令だ』って。いったい、誰の命令だというの? 母も父も誰に殺されたの?」
一颯は深刻な顔で腕を組む。
「他に何か思いついたことや、変わったことは? 思い出してくれ」
何も、と首を振りかけた蓮花だが、何かを思い出したようにあっ、と声をあげた。そして、その時の状況を思い出すように、遠くに視線をさまよわせる。
「あたし、白蓮の町で占いの商売をしているの。あの日やたら羽振りのいい客が訪れたっけ。身分の高そうな夫人と、その側仕えらしき女」
「何か聞かれたのか?」
「おかしな相談をされたけど、あたしの能力のことを褒めてくれた。そうしたら聞かれたの……母の名前を」
「母親の名前? それでおまえの母親の名は?」
「答えたわ。母の名前は笙鈴って」
「笙鈴……」
一颯は小声で呟いた。
そこで、蓮花は初めて一颯と出会った時のことを思い出す。確か、一颯も笙鈴という名の女を知らないかと聞いてきたではないか。
思えば、どうして一颯が母の名前を? 何故、母を探していた?
あの時は余計なことに巻き込まれたくないから、知らないと答えてしまった。
頭が混乱してきた。
そういえば、皇太后も母の名前を聞いてきた。そして、名前を聞いた途端、顔色を変えた。さらに、さっきも陛下が母の形見の数珠を見たことがあると言っていた。
母はいったい何者だったの?
側に立つ一颯が、厳しい目でこちらを見下ろしていたことに、蓮花は気づかなかった。
一颯も、しがみつくように蓮花の足に抱きついたことに気づき、慌てて身を起こす。
ちらりと戸口を見ると、明らかにみんなが引いていた。
一颯はわざとらしくこほんと咳払いをする。
「すまない」
「で、どうするか気持ちは決まった?」
「むろん。陛下暗殺をたくらんだ奴を見つけこの手で捕らえる」
「そう、それならよかった。それで陛下を襲った人物の見当はつく?」
「いや」
「あたしが陛下の元に駆けつけた時、陛下は矢で打たれ馬から落ち倒れていた。さらに、陛下を殺害しようと黒装束を着た男とおぼしき人物が立っていた」
「黒装束の男だと?」
「誰かが矢を打って陛下を落馬させ、その男がとどめを刺そうとしたのかもしれない。それと、これを見て」
蓮花は懐から、陛下が倒れていた現場で拾ったものを一颯に見せた。
「この玉佩が落ちていた。黒装束の男が落としたものかどうか分からないけど、見覚えある?」
玉佩を手に取った一颯は眉根を寄せる。
「羊脂白玉の玉佩。これは、景貴妃の兄、楽斗将軍のものだ」
「陛下は景貴妃の兄に殺されかけたってこと? じゃあ、黒装束は楽斗将軍?」
「いや、楽斗将軍は僕よりも後方にいた。それは間違いない」
「どうして陛下は命を狙われたの?」
「単純に考えるなら、何者かが玉座を狙っているということだろう」
いったい、陛下を殺そうとしたのは誰? 陛下を殺して誰が徳をする?
なんだか、ますます踏み込んではいけない、泥沼のような深みにはまっていきそうだ。
「ところで蓮花、おまえの両親を殺した奴のことなんだが」
「何か分かったの?」
「あの日の夕方、白蓮の町で、見かけない黒い衣を着た数名の男たちの姿を見たと、町の者が言っていた」
「そいつらが両親を殺した犯人?」
一颯は部屋の外に誰もいないことを確認し、声をひそめる。
「内密に調べたいことがあったから、今までおまえにも黙っていたが、おまえの家に駆けつけ敵と対峙した時に感じた。あれはただの賊ではない。奴らは訓練されたプロの刺客。あるいは殺しに手慣れた者。その証拠に、家の物には何も手をつけなかっただろ?」
確かにそうだった。家は荒らされた形跡はなかった。わずかな金目のものすら奪われることなく残されていた。
「でも、どうしてプロの殺し屋があたしの家を、両親を襲った……」
はっ、と蓮花は息を飲む。手が震えた。今頃になって重要なことを思い出す。
「あたし、たった今思い出した。あの時、両親を殺した奴らはこう言っていた『全員殺せとの命令だ』って。いったい、誰の命令だというの? 母も父も誰に殺されたの?」
一颯は深刻な顔で腕を組む。
「他に何か思いついたことや、変わったことは? 思い出してくれ」
何も、と首を振りかけた蓮花だが、何かを思い出したようにあっ、と声をあげた。そして、その時の状況を思い出すように、遠くに視線をさまよわせる。
「あたし、白蓮の町で占いの商売をしているの。あの日やたら羽振りのいい客が訪れたっけ。身分の高そうな夫人と、その側仕えらしき女」
「何か聞かれたのか?」
「おかしな相談をされたけど、あたしの能力のことを褒めてくれた。そうしたら聞かれたの……母の名前を」
「母親の名前? それでおまえの母親の名は?」
「答えたわ。母の名前は笙鈴って」
「笙鈴……」
一颯は小声で呟いた。
そこで、蓮花は初めて一颯と出会った時のことを思い出す。確か、一颯も笙鈴という名の女を知らないかと聞いてきたではないか。
思えば、どうして一颯が母の名前を? 何故、母を探していた?
あの時は余計なことに巻き込まれたくないから、知らないと答えてしまった。
頭が混乱してきた。
そういえば、皇太后も母の名前を聞いてきた。そして、名前を聞いた途端、顔色を変えた。さらに、さっきも陛下が母の形見の数珠を見たことがあると言っていた。
母はいったい何者だったの?
側に立つ一颯が、厳しい目でこちらを見下ろしていたことに、蓮花は気づかなかった。
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