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第5章 危機一髪皇帝暗殺を阻止せよ
8 母の過去
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「殺された。あの笙鈴が……なんてこと……」
ひたいに手を当て、皇太后は悲しそうに瞳を震わせた。
主を気遣った侍女が肩に手を添えようとするが、皇太后は首を振る。
蓮花は戸惑いを覚えた。
まるで皇太后は、母のことをよく知っていたような口振りだ。
蓮花は続けた。
「突然、黒ずくめの男たちがやって来て、そいつらに両親は殺されました。最初は村に現れた賊だと思ったんです。でも、賊のわりには手際がよかった。そして、彼らは何者かの命令によって動いているようでした。いったい誰の命令で両親が殺されたのかはまだ分かりません。あの……皇太后さまは、もしかして母のことを知っているのですか?」
「ええ、知っているわ」
蓮花の胸の鼓動がはやまる。
ようやく、母が何者であったか知れる。
「おまえの母、笙鈴は、先帝の弟の正妃である翆蘭が実家から連れてきた侍女だった」
「え? は?」
母が先帝の弟の正妃の侍女?
頭の中で相関図を描くが、どうにもぴんとこない。だが、簡単に言うと、母はこの後宮で働いていたということだ。
母が後宮にいたなんて、聞いたことがない。
「おまえの両親は賊に殺されたと言っていたが、おまえの言う通り、ただの賊ではない。何者かが笙鈴を殺すよう命じたのだ」
「母を殺すように命じたなんて。だって、母は誰かに恨まれるような人では……」
いや、恨まれないにしても、何かに巻き込まれ、身の危険を感じたから後宮を抜けだし、辺境の片田舎に身を潜めるように暮らしていたのか。
「蓮花、よく聞きなさい。おまえの母を殺すよう命じたのは、おそらく……氷太妃」
「氷太妃?」
初めて聞く名の妃であった。そんな名の妃がこの後宮にいただろうか。
「話は長くなるわ」
皇太后はちらりと侍女に目配せをすると、彼女たちはいっせいに部屋から退出した。
他の者に聞かれてはまずいことなのか。
皇太后は当時のことを思い出すように、ゆっくりと語り始めた。
「この後宮には二人の妃が人目に触れず、ひっそりと暮らしている。一人はおまえの母、笙鈴が仕えていた妃で、今は冷宮にいる」
「冷宮?」
聞き慣れない言葉に蓮花は首を傾げた。
「寂しい所よ。皇帝の寵愛を失った、あるいは重い罪を犯した妃が幽閉される場所」
宮廷内でも、人に忘れられ誰も近寄らなく寂しくて荒れた場所がある。そこに修理されないまま老朽化した建物に住む落ちぶれた女たち。
冷宮とはそういう所だという。
そんな場所がこの後宮に存在するなど初めて知った。
皇太后は続けた。
「貴妃の位を剥奪され庶人に落とされた翆蘭と、もう一人は、昔私と先帝の寵愛を競った氷太妃だ」
「何故、二人ともそんな寂しいところへ?」
「この話を誰かに聞かせることになるとは」
皇太后の手が蓮花の手に重ねられた。
「当時、先帝の皇后だった私は、何度も氷妃に命を狙われた。彼女は私から皇后の座を奪い取るため、あらゆる手を使い私を陥れ、亡き者にしようと計略を張り巡らせていた。だが、皇后の座を奪い取ることが無理だと分かった氷妃は計画を変えた。そう、皇帝そのものを変えてしまえばいいと」
皇帝を変えるなんて、氷妃はどこまで悪辣なことを考える女なのだろう。
「氷妃は先帝の弟に近づき、皇弟に玉座を簒奪するよう言葉巧みにそそのかした。氷妃の計画に乗せられた皇弟は謀反を企み、皇帝陛下を殺そうとした。だが、その計画は失敗に終わった」
皇太后はつらそうに眉根を寄せ、その時のことを思い出すように続けてこう語った。
ひたいに手を当て、皇太后は悲しそうに瞳を震わせた。
主を気遣った侍女が肩に手を添えようとするが、皇太后は首を振る。
蓮花は戸惑いを覚えた。
まるで皇太后は、母のことをよく知っていたような口振りだ。
蓮花は続けた。
「突然、黒ずくめの男たちがやって来て、そいつらに両親は殺されました。最初は村に現れた賊だと思ったんです。でも、賊のわりには手際がよかった。そして、彼らは何者かの命令によって動いているようでした。いったい誰の命令で両親が殺されたのかはまだ分かりません。あの……皇太后さまは、もしかして母のことを知っているのですか?」
「ええ、知っているわ」
蓮花の胸の鼓動がはやまる。
ようやく、母が何者であったか知れる。
「おまえの母、笙鈴は、先帝の弟の正妃である翆蘭が実家から連れてきた侍女だった」
「え? は?」
母が先帝の弟の正妃の侍女?
頭の中で相関図を描くが、どうにもぴんとこない。だが、簡単に言うと、母はこの後宮で働いていたということだ。
母が後宮にいたなんて、聞いたことがない。
「おまえの両親は賊に殺されたと言っていたが、おまえの言う通り、ただの賊ではない。何者かが笙鈴を殺すよう命じたのだ」
「母を殺すように命じたなんて。だって、母は誰かに恨まれるような人では……」
いや、恨まれないにしても、何かに巻き込まれ、身の危険を感じたから後宮を抜けだし、辺境の片田舎に身を潜めるように暮らしていたのか。
「蓮花、よく聞きなさい。おまえの母を殺すよう命じたのは、おそらく……氷太妃」
「氷太妃?」
初めて聞く名の妃であった。そんな名の妃がこの後宮にいただろうか。
「話は長くなるわ」
皇太后はちらりと侍女に目配せをすると、彼女たちはいっせいに部屋から退出した。
他の者に聞かれてはまずいことなのか。
皇太后は当時のことを思い出すように、ゆっくりと語り始めた。
「この後宮には二人の妃が人目に触れず、ひっそりと暮らしている。一人はおまえの母、笙鈴が仕えていた妃で、今は冷宮にいる」
「冷宮?」
聞き慣れない言葉に蓮花は首を傾げた。
「寂しい所よ。皇帝の寵愛を失った、あるいは重い罪を犯した妃が幽閉される場所」
宮廷内でも、人に忘れられ誰も近寄らなく寂しくて荒れた場所がある。そこに修理されないまま老朽化した建物に住む落ちぶれた女たち。
冷宮とはそういう所だという。
そんな場所がこの後宮に存在するなど初めて知った。
皇太后は続けた。
「貴妃の位を剥奪され庶人に落とされた翆蘭と、もう一人は、昔私と先帝の寵愛を競った氷太妃だ」
「何故、二人ともそんな寂しいところへ?」
「この話を誰かに聞かせることになるとは」
皇太后の手が蓮花の手に重ねられた。
「当時、先帝の皇后だった私は、何度も氷妃に命を狙われた。彼女は私から皇后の座を奪い取るため、あらゆる手を使い私を陥れ、亡き者にしようと計略を張り巡らせていた。だが、皇后の座を奪い取ることが無理だと分かった氷妃は計画を変えた。そう、皇帝そのものを変えてしまえばいいと」
皇帝を変えるなんて、氷妃はどこまで悪辣なことを考える女なのだろう。
「氷妃は先帝の弟に近づき、皇弟に玉座を簒奪するよう言葉巧みにそそのかした。氷妃の計画に乗せられた皇弟は謀反を企み、皇帝陛下を殺そうとした。だが、その計画は失敗に終わった」
皇太后はつらそうに眉根を寄せ、その時のことを思い出すように続けてこう語った。
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