視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子

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第6章 黒幕を追い詰めるも蓮花絶体絶命

1 黒幕の正体

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「話というのはなにかしら?」
 相手に背を向け、花園の池の縁に立っていた蓮花は、ゆっくりと振り返った。
「わざわざご足労いただき、ありがとうございます、凜妃さま」
 いつもとは違う、どこか距離を感じさせる蓮花の態度に、凜妃は戸惑いを見せる。
 凜妃の目が、結い上げた蓮花の髪に向けられた。
「初めてね。私があげた紅玉の簪をつけてくれたのは。似合うわよ。可愛らしいわ」
 蓮花はちらりと凜妃の側に控える侍女に視線を走らせる。
 蓮花の意図に気づいた凜妃は、侍女に下がってと命じた。そして、この場にいるのは、蓮花と凜妃だけとなる。
「凜妃さまは優しくて、慎ましく、慈悲深い方だと思っていました」
 思いやりがあって、優しい凜妃のことが好きだった。
「まさか、この一連の事件の黒幕が凜妃さまだったとは、今でも信じられない気持ちです。いいえ、嘘であって欲しい、何かの間違いだと今も願っています」
「本当に今日の蓮花はおかしいわね。急にどうしたの?」
「あたしの両親を配下の者に命じて殺害したのも、皇后の子を害そうとしたのも、皇太后に呪術をかけ呪い殺そうとしたのも、陛下の暗殺も、景貴妃を毒殺しようとしたのも、そして、あたしを殺そうとしたのも。なにもかも全部、凜妃さまの仕業だった」
 犯人扱いされても凜妃は、不愉快な感情ひとつ見せることなく、ましてや動揺することもなく、いつもの穏やかな笑みを口元にたたえていた。
 蓮花の背に薄ら寒いものが走った。
 凜妃の微笑みがいつ崩れるのか。
 彼女の知られざる悪の本性がいつさらけ出されるのか。
 豹変するその瞬間を、見るのが恐ろしいと思った。
「その昔、皇弟をそそのかして皇帝暗殺をけしかけた氷妃は、凜妃さまの叔母ですよね」
「ええ、そうよ。氷妃、今は氷太妃ね。彼女が私の叔母だということは、宮中の誰もが知っている。でも、皇帝暗殺に叔母は関わっていない。滅多なことを言ってはだめよ、蓮花。命にかかわるわ。気をつけて」
 蓮花のことを殺そうとしておきながら、その口で命にかかわるから気をつけてと、殺そうとした相手を気遣う、凜妃のねじ曲がった根性に、怒りがふつふつと込み上げる。
「表向き氷妃は皇帝暗殺とは無関係ということになっている。なぜなら、真実を聞きたくても氷妃は気が触れてしまい自分の宮に閉じこもったまま、誰とも会おうとしない。だけど、氷妃は気なんか触れていない。振りをしているだけ。そうして、自分の手は汚さず、姪である凜妃さまに命じ、一連の事件を企てた。再び一族に栄華を取り戻すために。そのためには、まず凜妃さまに後宮の主である皇后になってもらわなければならない」
「誰からそんなことを聞いたの? 氷妃のことは宮中では禁句なの。何度も言うけれど気をつけて。その名を口にするだけで罰せられるわ」
「そうですね。この後宮では氷妃と翆蘭の名を口にするのは禁忌となっている。それは過去の事件を蒸し返されると、困る者がいるから」
 凜妃は周りに人がいないか気を配り、困ったように息をつく。
「私とあなたは姉妹同然だと思っているのよ。なのになぜそんなことを言うの?」
 蓮花はへえ、と口元を歪めた。
「妹だと思っているあたしを、凜妃さまは毒殺しようとしたのですか?」
「毒殺? あなたを殺そうとするわけがないでしょう」
「じゃあ、これは何?」
 凜妃にもよく見えるようにと、蓮花は身体をずらし、池の水面を指差した。そこに浮かぶものを見つけ、凜妃は目を見開く。
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