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第6章 黒幕を追い詰めるも蓮花絶体絶命
2 毒入り菓子
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「まあ、なんてことかしら。池の鯉が死んでいるなんて」
水面には無数の死んだ鯉が浮かんでいた。
凜妃は口元に手をあて眉根を寄せる。
「あたしがこの鯉たちを殺したようなものです」
「蓮花が? まさか」
「以前、あたしが池の中に菓子を落としてしまったせいで」
「その菓子に毒が仕込まれていたということ? そういえば、一颯将軍によくお菓子を貰っていたわね。彼があなたに毒を盛った?」
いいえ、と蓮花は首を振り、挑むような目で真っ向から凜妃を見る。
「凜妃さまからいただいた菓子ですよ」
凜妃から貰った、白い雪の玉のような菓子、艾窩窩をここで食べようとして翆蘭の生霊に驚かされ、びっくりして池の中に落としてしまった。
菓子の中には毒が混入していて、そのせいで池の鯉たちは死滅してしまった。
「凜妃さまはあたしを殺そうとした。あたしが生きていると邪魔だと思ったから」
「どうして私が蓮花を殺さなければいけないの。殺す理由がないわ」
「それがあるのよ。何故なら、あたしが笙鈴の娘だから」
「翆蘭の侍女の娘? 蓮花が? そうなの?」
どこまで白々しい態度をとるのだろう。まるで今初めてそのことを知ったという凜妃の態度に、蓮花は呆れるばかりだと緩く首を振る。
「何から話せばいいのかしら。たくさんありすぎて頭の整理が追いつかないわね。そう、まずは、そもそもの発端である氷妃のことから話すべきかしら」
蓮花はいったん息をつき、頭の中を整理するように目を閉じた。そして、語り始める。
「先帝の皇后の座を狙っていた氷妃は、自分が皇后に選ばれないと知り、先帝の弟、つまり皇弟に近づき親密な仲となった。氷妃は皇弟に陛下暗殺をそそのかし、この国のあらたな皇帝になれとすすめた。皇弟が帝位についたあかつきには、自分を皇后にたてるという約束で。しかし、暗殺は失敗、皇弟は謀反の罪で処刑。そして、皇弟の正妃であった翆蘭とその子も処刑されるところを先帝に救われた。翆蘭を気に入った皇帝は彼女を妃として迎えた。結局、氷妃の企みによって翆蘭は冷宮に送られ、翆蘭の子は宮廷を追われ、臣下の養子として育てられることになった。皇弟をそそのかした氷妃は、自分がこの計画の首謀者であることがばれないよう、この件に関わった皇弟や翆蘭の侍女、従者、太監すべての者をみな殺しにした。だけど、一人だけ翆蘭の侍女を逃がしてしまった。以来、氷妃はその侍女の行方を追い、殺すよう姪の凜妃に命じた。そうよね? 叔母の奸計が明るみになれば、氷妃はもちろん、凜妃さまや舒一族が危うくなるから」
ふふ、と凜妃はねっとりとした笑いをもらす。
「そこで氷妃は行方をくらました侍女の笙鈴を探し、笙鈴の家族もろとも始末するよう命じた。そして、笙鈴の行方を掴んだあなたは、従兄弟を白蓮の町に差し向け、あたしたちを殺害しようとした。もちろん、証拠はあるわよ。実は恵医師に頼んだことがあって。恵医師来てくれる」
蓮花の合図と同時に、岩陰から恵医師が現れた。
「以前、従兄弟が亡くなったと言っていたわよね。突然心臓麻痺で亡くなったと。でも後になって思い当たることがあって恵医師に、凜妃さまの実家の墓を掘り返してもらったの。死者を冒涜するようで、本当は気が引けたけど、でも、そんな気持ちはすぐに消えた」
蓮花は凜妃に鋭い視線を投げる。
「掘り返した死体を調べさせてもらったわ。死因は附子の毒によるもの。血液から附子の毒が検出された。村で刺客に襲われた時、畑で育てていた附子を一人の男の顔になすりつけたの。たぶん、凜妃さまの従兄弟ね。彼は誤って附子を口にした。あの時一颯将軍の従者が逃げた刺客を追ったけど、結局、逃がしてしまった。その直後に蓮妃さまの従兄弟が亡くなった。もしやと思ったのよ。トリカブトを口にしてから症状が発症して死に至るまで六時間以内」
「だからといって、蓮花を襲った刺客が私の従兄弟だという証拠はなにもないわ」
「凜妃さまも仰っていましたよね。従兄弟が亡くなった日は辰月の満月の夜だと。あの夜のことは一生忘れない。そう、あたしの両親が殺されたのは、辰月の明るい満月の夜だった。ぴたりと合うでしょ?」
凜妃は黙り込んでしまった。
「だけど、あたしは運良く生き延び、ひょんなことから後宮へ入ることになった。凜妃さまも、笙鈴の娘が後宮に来たと知って驚いたでしょう。と同時に、こんな都合がいいことはない。凜妃さまは親切をよそおいあたしに近づいた。最初は、己の手を汚さず景貴妃に殺させようと計画をたてた」
「物騒なことを言わないで。それに、どうしてここで景貴妃の名前が出てくるの?」
「紅玉の簪、わざと落としましたね?」
蓮花は結い上げた髪から、凜妃から貰った簪を抜き取った。
水面には無数の死んだ鯉が浮かんでいた。
凜妃は口元に手をあて眉根を寄せる。
「あたしがこの鯉たちを殺したようなものです」
「蓮花が? まさか」
「以前、あたしが池の中に菓子を落としてしまったせいで」
「その菓子に毒が仕込まれていたということ? そういえば、一颯将軍によくお菓子を貰っていたわね。彼があなたに毒を盛った?」
いいえ、と蓮花は首を振り、挑むような目で真っ向から凜妃を見る。
「凜妃さまからいただいた菓子ですよ」
凜妃から貰った、白い雪の玉のような菓子、艾窩窩をここで食べようとして翆蘭の生霊に驚かされ、びっくりして池の中に落としてしまった。
菓子の中には毒が混入していて、そのせいで池の鯉たちは死滅してしまった。
「凜妃さまはあたしを殺そうとした。あたしが生きていると邪魔だと思ったから」
「どうして私が蓮花を殺さなければいけないの。殺す理由がないわ」
「それがあるのよ。何故なら、あたしが笙鈴の娘だから」
「翆蘭の侍女の娘? 蓮花が? そうなの?」
どこまで白々しい態度をとるのだろう。まるで今初めてそのことを知ったという凜妃の態度に、蓮花は呆れるばかりだと緩く首を振る。
「何から話せばいいのかしら。たくさんありすぎて頭の整理が追いつかないわね。そう、まずは、そもそもの発端である氷妃のことから話すべきかしら」
蓮花はいったん息をつき、頭の中を整理するように目を閉じた。そして、語り始める。
「先帝の皇后の座を狙っていた氷妃は、自分が皇后に選ばれないと知り、先帝の弟、つまり皇弟に近づき親密な仲となった。氷妃は皇弟に陛下暗殺をそそのかし、この国のあらたな皇帝になれとすすめた。皇弟が帝位についたあかつきには、自分を皇后にたてるという約束で。しかし、暗殺は失敗、皇弟は謀反の罪で処刑。そして、皇弟の正妃であった翆蘭とその子も処刑されるところを先帝に救われた。翆蘭を気に入った皇帝は彼女を妃として迎えた。結局、氷妃の企みによって翆蘭は冷宮に送られ、翆蘭の子は宮廷を追われ、臣下の養子として育てられることになった。皇弟をそそのかした氷妃は、自分がこの計画の首謀者であることがばれないよう、この件に関わった皇弟や翆蘭の侍女、従者、太監すべての者をみな殺しにした。だけど、一人だけ翆蘭の侍女を逃がしてしまった。以来、氷妃はその侍女の行方を追い、殺すよう姪の凜妃に命じた。そうよね? 叔母の奸計が明るみになれば、氷妃はもちろん、凜妃さまや舒一族が危うくなるから」
ふふ、と凜妃はねっとりとした笑いをもらす。
「そこで氷妃は行方をくらました侍女の笙鈴を探し、笙鈴の家族もろとも始末するよう命じた。そして、笙鈴の行方を掴んだあなたは、従兄弟を白蓮の町に差し向け、あたしたちを殺害しようとした。もちろん、証拠はあるわよ。実は恵医師に頼んだことがあって。恵医師来てくれる」
蓮花の合図と同時に、岩陰から恵医師が現れた。
「以前、従兄弟が亡くなったと言っていたわよね。突然心臓麻痺で亡くなったと。でも後になって思い当たることがあって恵医師に、凜妃さまの実家の墓を掘り返してもらったの。死者を冒涜するようで、本当は気が引けたけど、でも、そんな気持ちはすぐに消えた」
蓮花は凜妃に鋭い視線を投げる。
「掘り返した死体を調べさせてもらったわ。死因は附子の毒によるもの。血液から附子の毒が検出された。村で刺客に襲われた時、畑で育てていた附子を一人の男の顔になすりつけたの。たぶん、凜妃さまの従兄弟ね。彼は誤って附子を口にした。あの時一颯将軍の従者が逃げた刺客を追ったけど、結局、逃がしてしまった。その直後に蓮妃さまの従兄弟が亡くなった。もしやと思ったのよ。トリカブトを口にしてから症状が発症して死に至るまで六時間以内」
「だからといって、蓮花を襲った刺客が私の従兄弟だという証拠はなにもないわ」
「凜妃さまも仰っていましたよね。従兄弟が亡くなった日は辰月の満月の夜だと。あの夜のことは一生忘れない。そう、あたしの両親が殺されたのは、辰月の明るい満月の夜だった。ぴたりと合うでしょ?」
凜妃は黙り込んでしまった。
「だけど、あたしは運良く生き延び、ひょんなことから後宮へ入ることになった。凜妃さまも、笙鈴の娘が後宮に来たと知って驚いたでしょう。と同時に、こんな都合がいいことはない。凜妃さまは親切をよそおいあたしに近づいた。最初は、己の手を汚さず景貴妃に殺させようと計画をたてた」
「物騒なことを言わないで。それに、どうしてここで景貴妃の名前が出てくるの?」
「紅玉の簪、わざと落としましたね?」
蓮花は結い上げた髪から、凜妃から貰った簪を抜き取った。
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