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那須隼人3
高梨の目撃談
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「のんびり広報活動なんてしてる場合じゃないんじゃないか」
高梨の言葉に、隼人は思わずそう言った。
六守谷で行方不明となると、否が応でも美月のことが思い浮かぶ。何の変哲もないニュータウンで、たかだか数年のうちに複数の行方不明者が出ているなど、普通ではあり得ない。
実際のところは別としても、騒ぎ立てる者が出てきてもおかしくはなかった。
「勘違いしないでくれ。その動画を上げた後に連絡が取れなくなっただけで、そのYouTuberがむつもりヒルズで行方不明になったと決まったわけじゃないんだ。おそらく、不法侵入で炎上するのが分かってて、ほとぼりが冷めるまで黙ってるんだと思う」
「なるほど」
たしかに、そう考える方が自然だ。
隼人は、ちょうど運ばれてきた唐揚げに箸を伸ばしながら頷いた。
高梨の言うことは筋が通っていた。だが、それでも彼の声のトーンにどこか引っかかるものを感じた。
「……隼人、お前、あの家を見たのか?」
少しの間を置いて、高梨が言った。
隼人は箸を止め、彼の顔を見る。
「養生シートで覆われた家なら見かけたよ。建築中の家とは何か違う雰囲気だったから、印象に残ってた。あの家がそうだったんだな」
「そうだ。解体工事の手続きは進めてるらしいが、着工は来月になるらしい」
高梨はそこでジョッキの残りを一気にあおぎ、店員におかわりを頼んだ。
再び隼人に向き直ると、少しためらうように言葉を続けた。
「……あの家で、何か感じたりは、しなかったか?」
「いや。オレは霊感とかそういうのはないからさ……」
言いながら、隼人は気づいた。
高梨の目は、ただの好奇心ではない、切実なものを湛えていた。
市役所の職員としては、そんな怪談めいた話はむつもりヒルズの開発を妨げる「迷信」でしかないはずだ。
だが、それでも彼個人としては――どうしても無視できない“何か”があるのだ。
「なあ、高梨。あの家には……やっぱり何かあるのか?」
隼人の問いに、高梨は小さくため息を吐いた。
まるで覚悟を決めるようにして、ゆっくりと口を開いた。
「実はオレも、あの家の中で火が飛び回ってるのを見たことがあるんだ」
「……本当か?」
隼人が身を乗り出すと、高梨は頷いた。
「動画が出る前の話だよ。たまたま夜遅くに、あの家の前を通ったんだ。あのときはまだ養生シートはかかってなかった。
一階の窓の奥で、赤い光が揺れていた。最初は信号か何かの光が映り込んでるのかと思った。でも――あの家、もう窓ガラスなんて残ってなかったし、周囲に信号なんてない場所なんだよな」
高梨は、新しく届いたビールを手に取ったが、口をつけることなく話を続けた。
「最初は、ヤンキーでも入り込んで、ランプか何かを振り回してんのかと思ったよ。注意まではできなくても、通報くらいはしようと考えた。なんせ、市役所の人間だからな。
でも、目を凝らして見るほどに、動いていたのは火だった。
火の玉って言うにはでかすぎる、でも本物の火とも違う。まるで……何かが再現されてるみたいだった」
「再現?」
「そうだ。あの家は、一階のリビングで旦那が焼身自殺をして、そこから火事になったって話だ。
どうやら、使ったガソリンが足りなかったらしくて、燃えたのは頭だけだったらしい。
旦那は熱さに耐えきれず暴れまわって、その拍子に家中に火が燃え移ったって話だ。
そのときの場面が、まるで映写機みたいに焼き付いてる――そんなふうに感じたんだ」
隼人は言葉を失った。
「それで……火の玉を見て、お前はどうしたんだ?」
「逃げ出したさ。市の職員でも怖いもんは怖い。
……そんで、あとになって他にも目撃者がいないか調べてたら、さっき話したYouTuberの動画を見つけたってわけだ」
「……見たのか?」
「見た。まだ削除される前だったからな」
高梨の声は低く少し震えていた。
高梨の言葉に、隼人は思わずそう言った。
六守谷で行方不明となると、否が応でも美月のことが思い浮かぶ。何の変哲もないニュータウンで、たかだか数年のうちに複数の行方不明者が出ているなど、普通ではあり得ない。
実際のところは別としても、騒ぎ立てる者が出てきてもおかしくはなかった。
「勘違いしないでくれ。その動画を上げた後に連絡が取れなくなっただけで、そのYouTuberがむつもりヒルズで行方不明になったと決まったわけじゃないんだ。おそらく、不法侵入で炎上するのが分かってて、ほとぼりが冷めるまで黙ってるんだと思う」
「なるほど」
たしかに、そう考える方が自然だ。
隼人は、ちょうど運ばれてきた唐揚げに箸を伸ばしながら頷いた。
高梨の言うことは筋が通っていた。だが、それでも彼の声のトーンにどこか引っかかるものを感じた。
「……隼人、お前、あの家を見たのか?」
少しの間を置いて、高梨が言った。
隼人は箸を止め、彼の顔を見る。
「養生シートで覆われた家なら見かけたよ。建築中の家とは何か違う雰囲気だったから、印象に残ってた。あの家がそうだったんだな」
「そうだ。解体工事の手続きは進めてるらしいが、着工は来月になるらしい」
高梨はそこでジョッキの残りを一気にあおぎ、店員におかわりを頼んだ。
再び隼人に向き直ると、少しためらうように言葉を続けた。
「……あの家で、何か感じたりは、しなかったか?」
「いや。オレは霊感とかそういうのはないからさ……」
言いながら、隼人は気づいた。
高梨の目は、ただの好奇心ではない、切実なものを湛えていた。
市役所の職員としては、そんな怪談めいた話はむつもりヒルズの開発を妨げる「迷信」でしかないはずだ。
だが、それでも彼個人としては――どうしても無視できない“何か”があるのだ。
「なあ、高梨。あの家には……やっぱり何かあるのか?」
隼人の問いに、高梨は小さくため息を吐いた。
まるで覚悟を決めるようにして、ゆっくりと口を開いた。
「実はオレも、あの家の中で火が飛び回ってるのを見たことがあるんだ」
「……本当か?」
隼人が身を乗り出すと、高梨は頷いた。
「動画が出る前の話だよ。たまたま夜遅くに、あの家の前を通ったんだ。あのときはまだ養生シートはかかってなかった。
一階の窓の奥で、赤い光が揺れていた。最初は信号か何かの光が映り込んでるのかと思った。でも――あの家、もう窓ガラスなんて残ってなかったし、周囲に信号なんてない場所なんだよな」
高梨は、新しく届いたビールを手に取ったが、口をつけることなく話を続けた。
「最初は、ヤンキーでも入り込んで、ランプか何かを振り回してんのかと思ったよ。注意まではできなくても、通報くらいはしようと考えた。なんせ、市役所の人間だからな。
でも、目を凝らして見るほどに、動いていたのは火だった。
火の玉って言うにはでかすぎる、でも本物の火とも違う。まるで……何かが再現されてるみたいだった」
「再現?」
「そうだ。あの家は、一階のリビングで旦那が焼身自殺をして、そこから火事になったって話だ。
どうやら、使ったガソリンが足りなかったらしくて、燃えたのは頭だけだったらしい。
旦那は熱さに耐えきれず暴れまわって、その拍子に家中に火が燃え移ったって話だ。
そのときの場面が、まるで映写機みたいに焼き付いてる――そんなふうに感じたんだ」
隼人は言葉を失った。
「それで……火の玉を見て、お前はどうしたんだ?」
「逃げ出したさ。市の職員でも怖いもんは怖い。
……そんで、あとになって他にも目撃者がいないか調べてたら、さっき話したYouTuberの動画を見つけたってわけだ」
「……見たのか?」
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高梨の声は低く少し震えていた。
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