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那須隼人3
女の顔
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隼人は、唐揚げに箸を伸ばしていた手を止め、背筋を伸ばした。
「動画はけっこうな長さだったけど、前振りにかなり尺を取ってて、実際に家に入ってからはせいぜい十分ってところだった。良い撮影機材を使ってるのか、手ブレもほとんどなかったし、照明もしっかりしてた。火事で焼けた家の様子がよくわかったよ。配信者は二人組で、掛け合いのテンポも軽快だった。……で、途中で明らかにおかしなものが映ってた」
「お前が見たのと同じ火の玉が?」
「そうなんだけど、それだけじゃなかった」
高梨は一呼吸おいてから、静かに言葉を続けた。
「火の玉というか、あれはもう“人”だった」
「人……?」
「動画に映ってたそれは、人の形をしてた。しかも、上半身が炎に包まれてた。燃えてるのに、苦しんでるようには見えなかった。ただ、まっすぐカメラの方を向いて、じっと立ってたんだ」
隼人の背筋に、ぞわりと冷たいものが走った。高梨の目は、汗の浮かんだジョッキを見つめていたが、その視線の奥には、その動画がよみがえっているようだった。
「そして動いた。首だけが、ガクッと。それから体全体を斜めに傾けて、壊れた機械みたいな、ぎこちない動きでゆっくりと近づいてきた。
配信者の片方は突然笑い出して、もう片方は泣きながら『ごめんなさい』『すいません』って繰り返してた。
カメラは、燃える男の皮膚が溶けて、赤黒い肉が露出する様子まで映してた。まぶたがなくなって、ぎょろっとした眼球だけが……なぜか笑ってるように見えた」
「本当に、そんなものが映ってたのか……?」
「燃える人影は演出で、配信者が狂ったのも演技だっていうのが、世間の見方だよ」
「でもお前は、そうは思ってないんだな」
「ああ。オレには、あれがやらせだとはどうしても思えなかった」
「本物の幽霊だったってことか?」
「分からない。さっきも言ったけど、あの場所で起こった出来事が、何かの形で再現されてるように思えた。一般的に言えば、それを霊って呼ぶのかもしれないけど」
「その再現されてるっていうのが、よく分からないな」
「言ってるオレにも、正直よく分からないよ」
高梨は苦笑して、ようやくジョッキに口をつけた。一口飲んで息を吐くと、また口を開いた。
「……実は、それだけじゃない。燃える人影の奥に、一瞬だけ別の人の顔が映ってたんだ」
「人の?」
「正確には、窓ガラスに映った顔のようなものだ。気になって同じところを何度も再生したんだ。そしたら画面の端、フレームのぎりぎりのところに、かすかに女の顔らしきものが写ってた」
「ちょっと待てよ。あの家には、もう窓ガラスは残ってなかったんだろ?」
「ああ、そうだ。だからおかしいんだ。あるはずのない窓ガラスに、顔が映ってるように見えたんだよ。しかも、燃える人影とYouTuberたち、両方を見守ってるような、そんな風に」
隼人は喉が鳴るのを感じた。高梨は、もうひと口ビールを飲んで、ゆっくりと目を伏せた。
「血色のまったく感じられない肌は、白というよりも土気色だった。なのに目だけがやけに黒く濡れててさ……とにかく普通の人間には見えなかった。だけど幽霊とか、そういうありふれた怪異でもない。もっと別の何かに思えたんだ」
「YouTuberは、その女には気づいてたのか?」
「いや、それどころじゃなかったと思う。急に画面が乱れて、真っ黒になった。たぶん、撮影に使ってたスマホかカメラかを落としたんだろう。狂ったような笑い声と、ひたすら謝る声だけがしばらく続いて、それから音声も途切れた――それで動画は終わったよ」
「で、そのあと、そいつらは行方不明になったってわけか」
隼人が言うと、高梨は曖昧に頷いた。
二人とも続ける言葉を見つけられず、それぞれ黙ってジョッキを傾けた。
「……まさかとは思うけど」
ビールを飲み干して、ジョッキをテーブルに戻すと、隼人はためらいがちに、囁くような声で言った。
「その顔、美月じゃなかったよな?」
高梨がぽかんとした表情で隼人の顔を見返した。訊かれている内容が、すぐには理解できないようだった。
「……いや、分からないな。でも、どこかで見覚えがある気もした。言われてみれば、藤原に似ていたかもしれない。
だけど……あれが人間だったとは、オレにはどうしても思えないよ」
しばしの沈黙の後、絞り出すように高梨は言った。
「そうか」とだけつぶやいた隼人の耳には、他のテーブルの喧騒が、どこか遠くから聞こえてくる音楽のように届いていた。
「動画はけっこうな長さだったけど、前振りにかなり尺を取ってて、実際に家に入ってからはせいぜい十分ってところだった。良い撮影機材を使ってるのか、手ブレもほとんどなかったし、照明もしっかりしてた。火事で焼けた家の様子がよくわかったよ。配信者は二人組で、掛け合いのテンポも軽快だった。……で、途中で明らかにおかしなものが映ってた」
「お前が見たのと同じ火の玉が?」
「そうなんだけど、それだけじゃなかった」
高梨は一呼吸おいてから、静かに言葉を続けた。
「火の玉というか、あれはもう“人”だった」
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「人の?」
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