34 / 71
那須隼人4
火の玉男
しおりを挟む
目を疑ったが、それが錯覚などではないことも分かっていた。
――これが、高梨の言っていた……
心臓を鷲掴みにされるような恐怖に囚われた反面、どこかで予感していた光景でもあった。
男の頭部は薪に火が灯ったように、赤々と燃え上がっている。ぱちぱちという音は、皮下脂肪が焼けて弾ける音だ。そのたびに皮膚が焦げ落ち、下の肉が露わになっていく。
男は両腕をだらりと垂らし、身体を斜めに傾けたまま立っていた。部屋着だったらしいスウェットは、ところどころ焼け焦げ、穴が空いている。そこから覗く皮膚は、悪夢が凝縮してこびりついたような、深く沈んだ黒色をしていた。もとからそうであったのか、焼け爛れたのかは判別できない。
瞼を失ったその目は、どこを見ているのか分かりづらい。けれど、そのぎょろりとした眼球が、確かに隼人を見据えていることだけははっきりと分かった。
火は激しく燃え、隼人の頬をオレンジ色に染めている。だが、部屋は熱くない。焦げた臭いもしない。ただ、燃えている。それだけだった。
ふと、その背後に複数の人影が見えることに気がついた。
一人、二人ではない。燃える男の後ろには、十人以上の人影がうすぼんやりと浮かんでいる。
喉元まで出かかった声は、恐怖とは裏腹に凍りつき、悲鳴となって外に出ることはなかった。
燃える男の後ろの人々は皆、蝋人形のように真っ白な肌をしていた。目を伏せ、口元だけが小さく動いている。まるで風に揺れる茂みの葉擦れのように、ぼそぼそと何かを呟いている。
たん、もれ……たん、もれ……
何を言っているのかは分からない。
燃える男がこちらへ一歩踏み出すと、後ろに立つ者たちもそれに倣うかのように歩を進める。
隼人のことを認識しているのは間違いないが、害意を持っているのかどうかは分からない。
人影は火球男を先頭にして、列を作っているようだ。
隼人は無意識のうちに後ずさり、水たまりを踏んだ。靴に入り込んだ冷たい水に一瞬意識が戻る。
そしてそのとき、いつの間にか自分も「あめたんもれ、あめたんもれ」と口にしていたことに気がついた。
――逃げないと
この風景に取り込まれつつある自分に気づき、隼人の全身に冷や汗が噴き出す。
消息を絶ったYouTuberは、きっとこの光景に遭遇し、あちら側へ連れて行かれたのだ。
先頭の男が、ぐるりと頭を回らせる。続いて上半身を大きく左右に揺らす。
炎が赤い軌跡を描き、白い煙が盛大に立ち昇る。それはまるで、赤々と燃える松明を振り回しているかのようだった。
逃げなければ。この部屋から、この家から、今すぐにでも出なければならない。
そう思うのに、足が動かない。全身が石になったかのように、ぴくりとも反応しない。
燃える男が、手を伸ばせば届くほどの距離に迫っていた。
またしても「雨たんもれ、雨たんもれ」と呟いていることに気づくが、自分の意志では止められない。
この人々に取り込まれても、美月には会えないだろう。その確信が胸を突き刺し、隼人は深い絶望に沈んだ。
「お兄さん、不法侵入はあかんで」
突然、背後から声がした。
――これが、高梨の言っていた……
心臓を鷲掴みにされるような恐怖に囚われた反面、どこかで予感していた光景でもあった。
男の頭部は薪に火が灯ったように、赤々と燃え上がっている。ぱちぱちという音は、皮下脂肪が焼けて弾ける音だ。そのたびに皮膚が焦げ落ち、下の肉が露わになっていく。
男は両腕をだらりと垂らし、身体を斜めに傾けたまま立っていた。部屋着だったらしいスウェットは、ところどころ焼け焦げ、穴が空いている。そこから覗く皮膚は、悪夢が凝縮してこびりついたような、深く沈んだ黒色をしていた。もとからそうであったのか、焼け爛れたのかは判別できない。
瞼を失ったその目は、どこを見ているのか分かりづらい。けれど、そのぎょろりとした眼球が、確かに隼人を見据えていることだけははっきりと分かった。
火は激しく燃え、隼人の頬をオレンジ色に染めている。だが、部屋は熱くない。焦げた臭いもしない。ただ、燃えている。それだけだった。
ふと、その背後に複数の人影が見えることに気がついた。
一人、二人ではない。燃える男の後ろには、十人以上の人影がうすぼんやりと浮かんでいる。
喉元まで出かかった声は、恐怖とは裏腹に凍りつき、悲鳴となって外に出ることはなかった。
燃える男の後ろの人々は皆、蝋人形のように真っ白な肌をしていた。目を伏せ、口元だけが小さく動いている。まるで風に揺れる茂みの葉擦れのように、ぼそぼそと何かを呟いている。
たん、もれ……たん、もれ……
何を言っているのかは分からない。
燃える男がこちらへ一歩踏み出すと、後ろに立つ者たちもそれに倣うかのように歩を進める。
隼人のことを認識しているのは間違いないが、害意を持っているのかどうかは分からない。
人影は火球男を先頭にして、列を作っているようだ。
隼人は無意識のうちに後ずさり、水たまりを踏んだ。靴に入り込んだ冷たい水に一瞬意識が戻る。
そしてそのとき、いつの間にか自分も「あめたんもれ、あめたんもれ」と口にしていたことに気がついた。
――逃げないと
この風景に取り込まれつつある自分に気づき、隼人の全身に冷や汗が噴き出す。
消息を絶ったYouTuberは、きっとこの光景に遭遇し、あちら側へ連れて行かれたのだ。
先頭の男が、ぐるりと頭を回らせる。続いて上半身を大きく左右に揺らす。
炎が赤い軌跡を描き、白い煙が盛大に立ち昇る。それはまるで、赤々と燃える松明を振り回しているかのようだった。
逃げなければ。この部屋から、この家から、今すぐにでも出なければならない。
そう思うのに、足が動かない。全身が石になったかのように、ぴくりとも反応しない。
燃える男が、手を伸ばせば届くほどの距離に迫っていた。
またしても「雨たんもれ、雨たんもれ」と呟いていることに気づくが、自分の意志では止められない。
この人々に取り込まれても、美月には会えないだろう。その確信が胸を突き刺し、隼人は深い絶望に沈んだ。
「お兄さん、不法侵入はあかんで」
突然、背後から声がした。
30
あなたにおすすめの小説
お客様が不在の為お荷物を持ち帰りました。
鞠目
ホラー
「変な配達員さんがいるんです……」
運送会社・さくら配達に、奇妙な問い合わせが相次いだ。その配達員はインターフォンを三回、ノックを三回、そして「さくら配達です」と三回呼びかけるのだという。まるで嫌がらせのようなその行為を受けた人間に共通するのは、配達の指定時間に荷物を受け取れず、不在票を入れられていたという事実。実害はないが、どうにも気味が悪い……そんな中、時間指定をしておきながら、わざと不在にして配達員に荷物を持ち帰らせるというイタズラを繰り返す男のもとに、不気味な配達員が姿を現し――。
不可解な怪異によって日常が歪んでいく、生活浸食系ホラー小説!!
アルファポリス 第8回ホラー・ミステリー小説大賞 大賞受賞作
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
旅の紀行記怪談
Eisei 5
ホラー
車での、自由な一人旅が好きな私が、旅した先で出会い・感じた”僅かな怪異たち ”。
心霊現象も怪奇現象も、何も出てはきませんが、一応ホラーのつもりです …。
ほぼ、旅の旅行記の、『旅の紀行記怪談』です。
宜しかったら、どうぞ …。
★この作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」、「エブリスタ」、「ノベルアップ+」でも公開しております。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/2/24:『ぬかるみ』の章を追加。2026/3/3の朝頃より公開開始予定。
2026/2/23:『かぜ』の章を追加。2026/3/2の朝頃より公開開始予定。
2026/2/22:『まどのそと』の章を追加。2026/3/1の朝頃より公開開始予定。
2026/2/21:『おとどけもの』の章を追加。2026/2/28の朝頃より公開開始予定。
2026/2/20:『くりかえし』の章を追加。2026/2/27の朝頃より公開開始予定。
2026/2/19:『おとしもの』の章を追加。2026/2/26の朝頃より公開開始予定。
2026/2/18:『ひざ』の章を追加。2026/2/25の朝頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
これはあくまでフィクションですが、私がみた夢の話を誰かきいてくれませんか?
芝 稍重
ホラー
私は子供の頃の夢日記を書いています。
この話には続きがありますが、ここでは書きません。この話でピンときた人は、コメント欄で知らせてほしいです。
(※このあらすじは、本文にでてくる「夢日記」投稿当時のものを復刻した内容です)
洒落にならない怖い話【短編集】
鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。
意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。
隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。
怪異の忘れ物
木全伸治
ホラー
千近くあったショートショートを下記の理由により、ツギクル、ノベルアップ+、カクヨムなどに分散させました。
さて、Webコンテンツより出版申請いただいた
「怪異の忘れ物」につきまして、
審議にお時間をいただいてしまい、申し訳ありませんでした。
ご返信が遅くなりましたことをお詫びいたします。
さて、御著につきまして編集部にて出版化を検討してまいりましたが、
出版化は難しいという結論に至りました。
私どもはこのような結論となりましたが、
当然、出版社により見解は異なります。
是非、他の出版社などに挑戦され、
「怪異の忘れ物」の出版化を
実現されることをお祈りしております。
以上ご連絡申し上げます。
アルファポリス編集部
というお返事をいただいたので、本作品は、一気に全削除はしませんが、ある程度別の投稿サイトに移行しました。
www.youtube.com/@sinzikimata
私、俺、どこかの誰かが体験する怪奇なお話。バットエンド多め。少し不思議な物語もあり。ショートショート集。
いつか、茶風林さんが、主催されていた「大人が楽しむ朗読会」の怪し会みたいに、自分の作品を声優さんに朗読してもらうのが夢。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる