しずめ

山程ある

文字の大きさ
47 / 71
那須隼人5

偶然

しおりを挟む
──そもそも、オレにできることはあるのか?

 森や「しずめ」といった霊的存在とどう向き合えばいいのか。
 隼人には、その知識も、頼れる人脈もない。

──霊能者やお祓いを頼るべきか……?

 煮詰まりかけた思考を中断させたのは、カウンター内の人影の動きだった。
 料理が出てくるのかと思い、顔を上げると、葵は新たな客に向かって声をかけていた。

「いらっしゃいませ」

 ふと、テーブル席が埋まっていることを思い出す。
 カウンター席を詰めるべきかと隼人が振り返る――そこで、思わず声が漏れた。

「あ……」

 扉のところに立っていたのは、高梨だった。

 スーツ姿だが、ノーネクタイで少しラフな印象。昼休憩にしては遅い時間帯だ。移動の途中だろうか。

「お、なんだ隼人か」

 高梨は驚いたように眉を上げ、そのままカウンター席の隣に腰を下ろした。

「まさか、こんなとこで会うとはな」

「昼飯か? それとも……葵さん目当てか?」

 高梨のからかうような調子に、隼人は苦笑する。

「メシに決まってるだろ」

「そうよ、バカなこと言わないでよ、高梨くん」

 葵も笑いながら、メニューを手渡した。

「隼人は何にしたんだ?」

「KUUKIランチ、ご飯で」

「じゃあオレも同じやつでお願い」

 そう言ってメニューを返しながら、高梨はちらりと隼人に視線を向けた。

「撮影は終わったんじゃなかったか? こないだファイルは送ってくれてたよな。まだ確認できてないんだけど」

 高梨の問いに、隼人は少しだけ言葉を選びながら答えた。

「いや、資料館でちょっと調べ物をしてたんだ」

「……あの資料館か? あそこ、面白いもんなんてないだろ」

 高梨は肩を竦めた。

 どう説明しようかと、隼人は少しの間逡巡した。
 その沈黙に真剣なものを感じたのか、高梨は真っすぐ隼人の目を見て言葉を待っていた。

「……実は、お前と飲んだ次の日、廃墟に行ったんだ」

「廃墟? あの火の玉の廃墟か?」

 高梨の表情が、一瞬固まる。

「そうだ。そしたら見たんだよ、オレも」

「火の玉か?」

 高梨の声がわずかに低くなる。
 それと同時に、その目がごく僅かに輝きを強めたように隼人には見えた。

「火の玉だけじゃない。頭を燃やす男、その後ろで列を作る人々、あるはずのない森──それから、白い服の女がいた。何が何だかわからなかった。でもあれらは確かにあそこにいた」

 言葉にして口に出すたびに、あの夜の記憶が蘇る。
 だが、人に話したことで、わずかに胸のつかえが下りた気もした。

 高梨はしばらく無言で聞き入っていたが、やがて肩を落として息を吐いた。

「……マジか」

 意外なほど動揺した様子だった。
 だがその表情は、恐怖というよりも、困惑しているように隼人には見えた。

「それで、白い服の女ってのは……その」

 言い淀んだ高梨の言葉を汲み取って、隼人は続ける。

「ああ、正直なところは分からない。オレはどうしても美月の影を、あの女に重ねてしまうんだけど、それが正しいのかどうかは自分では分からないんだ」

 その時、カウンター越しに料理が出された。

「お待たせいたしました。KUUKIランチ、ご飯で。高梨くんのはもうちょっと待ってね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お客様が不在の為お荷物を持ち帰りました。

鞠目
ホラー
「変な配達員さんがいるんです……」 運送会社・さくら配達に、奇妙な問い合わせが相次いだ。その配達員はインターフォンを三回、ノックを三回、そして「さくら配達です」と三回呼びかけるのだという。まるで嫌がらせのようなその行為を受けた人間に共通するのは、配達の指定時間に荷物を受け取れず、不在票を入れられていたという事実。実害はないが、どうにも気味が悪い……そんな中、時間指定をしておきながら、わざと不在にして配達員に荷物を持ち帰らせるというイタズラを繰り返す男のもとに、不気味な配達員が姿を現し――。 不可解な怪異によって日常が歪んでいく、生活浸食系ホラー小説!! アルファポリス 第8回ホラー・ミステリー小説大賞 大賞受賞作

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/2/24:『ぬかるみ』の章を追加。2026/3/3の朝頃より公開開始予定。 2026/2/23:『かぜ』の章を追加。2026/3/2の朝頃より公開開始予定。 2026/2/22:『まどのそと』の章を追加。2026/3/1の朝頃より公開開始予定。 2026/2/21:『おとどけもの』の章を追加。2026/2/28の朝頃より公開開始予定。 2026/2/20:『くりかえし』の章を追加。2026/2/27の朝頃より公開開始予定。 2026/2/19:『おとしもの』の章を追加。2026/2/26の朝頃より公開開始予定。 2026/2/18:『ひざ』の章を追加。2026/2/25の朝頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

これはあくまでフィクションですが、私がみた夢の話を誰かきいてくれませんか?

芝 稍重
ホラー
私は子供の頃の夢日記を書いています。 この話には続きがありますが、ここでは書きません。この話でピンときた人は、コメント欄で知らせてほしいです。 (※このあらすじは、本文にでてくる「夢日記」投稿当時のものを復刻した内容です)

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

処理中です...