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【08】手っ取り早く、騎士団長にヤバイ白い粉を盛ってみた
しおりを挟むモイラは以前と同じく祖母の伝手で国王と面会し「王太子の身に危険が迫っている」と伝え――危険を除去する案を提出した。
「これは」
「ですが、試してみる価値はあります。実際、殿下は最近少々……」
書類に目を通した国王と侍従長は驚くも、心当たりもあったようで、言葉を濁す。
――わたしにまで話が及んだのは、陛下とソロモンの話し合いが上手くいかないから……だったんだろうな
面会が叶ったその日は、排除案の実行許可は出なかったが、二日後には協力を依頼したいと名を挙げておいた、ジェイクの養子先の騎士団長が自ら、モイラの実家へとやってきて、国王から「是」と出たと伝えた――計画を遂行する許可が下りた。
騎士団長は国王から命を受けたが、詳しいことはモイラに聞くよう指示されており――
「あまり自覚したことはないのだが」
モイラが書いた書類に目を通した騎士団長は、国王の命ゆえ従うが、内心では信じていないのが、はっきりと見て取れた。
「それは閣下がしっかりと体を動かしているからです。殿下と同じ食事を取っているジェイクですが、あれはよく体を動かしますので」
「たしかにジェイクはよく動くな」
ジェイクは朝起きて素振りして水浴びし、朝食を取って乗馬して、昼食後には素振りをして、夕食前に馬を走らせ、夕食後には素振りする――モイラに言わせると「あたまが、控え目に言ってもよろしくないのに、まったく勉強しない」だが。
「殿下も卒業を控え、そろそろ公務も任されるようになったとか。以前のように、気軽に遠出することもできなくなり、体を動かす機会が減ったところに、この増量です」
モイラは知り合いの政務官から見せてもらった帳簿を、騎士団長に見せる。
その数字の増え具合に、
「本当にそれほど増えているのだろうか? と、疑いたくなるような増量だ」
「水増しなどがないか? を確認してもらいましたが、それはないようです。相手業者はレディ・ダドリーが経営している商会でして、簡単に調査することができました」
「そうか……」
騎士団長は軽く首を振り、出された紅茶を一口飲み――体を硬直させる。
モイラは”にやり”と笑い――
「その紅茶に入っている砂糖は、ティースプーン一杯です。閣下も随分と、甘みに鈍感になられたのでは?」
騎士団長はカップをソーサーに置き、モイラは部屋に控えているメイドにシュガーポットを持ってくるよう指示を出す。
メイドは言われていた通り、満杯のシュガーポットを騎士団長の前に置き、蓋をはずす。
騎士団長は手の平に砂糖を乗せ、甘みを確認してから、
「間違いなく砂糖だ」
「はい。どうぞ、いつもの甘みになるまで、お試しください」
一杯ずつ紅茶に砂糖を入れてては口をつけ――
「四匙か……以前は一匙だったはずなのだが」
騎士団長は自分も甘みに鈍感になっていることを自覚し、天を仰ぐ。
「美味しいものですので、どうしても欲しくなるのでしょう」
「……非礼を承知で申し上げるが、この紅茶は下げてもらってもいいだろうか?」
「もちろんです」
騎士団長はモイラの計画を実行に移すことを確約した――近頃ソロモンが精彩を欠いていたのは、多量の砂糖を摂取したせいだと思われると、モイラは国王に報告を上げ、その対処方法として隔離を申し出た。
「適量を摂取する分には問題ないはずです」
オリアーナが破滅回避の為に作った商会が取り扱う品の一つに、砂糖があった。
オリアーナの商会で取り扱う砂糖は、販売価格は今まで流通していたものの半額で、他の業者よりも精製度が高かった。
その結果、三年で砂糖の流通量が十倍以上増え、さまざまな場面で使われるように――それが顕著だったのが料理。
悪役令嬢というのは、記憶が戻ると破滅回避とともに、料理を美味しくすることにも余念がない。オリアーナもご多分に漏れず、料理の改良を行った。
たしかにステーキソースに砂糖を入れるとコクが増し、パンに砂糖を多く入れると長持ちする――味の追求とともに、食料が長持ちするということで、何にでも砂糖が使われるようになった。
体を動かすことの多い庶民は問題にならないが、日常生活のほとんどを召使いに委ねている王侯貴族は、砂糖の摂取量と運動量がかみ合わず、ソロモンは思考がやや緩慢になり、父親である国王とじっくりと話し合うことができず――
国王はジェイクがモイラに話を持ちかけたと知ったとき、一縷の望みをかけ――すぐに原因を突き止め、対処案を提示してきたモイラの行動力と知力に驚いた。
「適量か」
「その適量も、体質や運動量によって変わると推測しておりますので、明確な数値は出すことはできません。ですが、王太子殿下の体質と生活には、やや過剰なようです」
「なるほど。だから食事を簡素に……か」
モイラはソロモンを騎士団の合宿に参加させる……という名目で、シンプルな食事――ステーキは控え目の塩と胡椒だけなど、砂糖を「ある程度」控えさせたいと国王に進言し、受け入れられた。
「かなり運動量は減っていると、ジェイクも言っておりました」
モイラが騎士団長に語ったとおり、学園の卒業が見えてくるようになり、公務も増え――体を動かす機会が格段に減った。
――変わらずに動いている弟がどうか……弟は書類仕事なんかは、ほとんど任せられないから、変わらないか
「分かった」
モイラとの会談を終えた騎士団長は邸をあとにし――王太子はしばらくの間、学園を休むことになった。
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