勝ち組の悪役令嬢側に乗り替えることもできるけど「いままでもらった給料分は働くさ」――ざまぁされる系攻略対象の姉、モイラのはなし――

六道イオリ/剣崎月

文字の大きさ
9 / 9

【09】ヒロイン令嬢のパターンを探る! なお悪役令嬢は通常パターンと判断した

しおりを挟む

 王太子の隔離が決まったあと、モイラはナオミ・シーモア男爵令嬢に会って話をすることにした。

――ソロモンが先走っている可能性もあるからな

 ナオミに会って、本心を聞き出たいので協力して欲しいとモイラに頼まれた侍従長は、

「会う意味はないのではないか?」

 最初その必要性を見いだせず、無駄ではないかとモイラに反論する。

「必要があります。なにせ彼女は、当事者なのですから」

 王宮側は王太子の心が、ナオミに向いていることは認めている。
 だが、ナオミはどうだろう――

「男爵令嬢が王太子の誘いを断るのは不可能です。遠回しな断りを、謙遜や好意と解釈している可能性も捨てきれません」

 モイラは記憶を頼りにヒロイン系男爵令嬢のパターンを幾つか想定し――まず、もっとも大事なことを確認しなくてはならない。

「報告を聞く分には、レディ・シーモアも殿下に対して好意を持っているはずだが」
「それはあくまでも報告であり、レディ・シーモアがはっきりと言った……という報告はないのではありませんか?」
「ないな」
「レディ・シーモアの感情を、勝手に推し量る真似はしないほうが宜しいかと。重ねて申し上げますが、男爵家の者が殿下に逆らうなど無理です。殿下が”身分など気にしなくて良い”といったところで、受け入れたかどうかは、レディ・シーモア当人にしか分からないことです」

 侍従長は「殿下が望んでいる」という言葉が出かけたが――それらを飲み込んだ。
 無理矢理連れてくることはできるが、死を選ばれたりでもしたら、困ったことになる。もちろん男爵令嬢一人が自害したところで、王家はなんら痛痒は感じないが、ソロモンはそうではない。
 下手に近づけてそんなことになるくらいならば、最初から遠ざけたほうがよい。

「…………会って、確認してくれるということか?」

 ナオミとそれほど年の離れていない女性で、秘密を守りつつ話すことができるのは、モイラしかいなかった。

「はい。レディ・シーモアに王太子に対する感情について詳しく聞き、婚姻を望んでいた場合、メリット・デメリットについて説明して参ります」
「分かった」
「つきましては、陛下から幾つかの許可を書面でいただきたく」
「許可?」
「王太子の求愛を断っても、迫害を受けない……といった許可証です。わたしや侍従長は、陛下や殿下がそのようなことをなさらないと、明言できますが、レディ・シーモアは知らないはずです」
「了承した」

 モイラはナオミの身の安全を確保し――司法長官の邸に呼び出し、二人きりで話す機会を得た。
 今日のナオミは、淡い緑色のワンピース。
 貴族令嬢らしくマキシ丈で、シンプルなコットンレースが裾や袖口に縫い付けられている、とても可愛らしいデザインのものだった。

「……ということで、あなたがどのような道を選んだとしても、決して罪に問われません」

 モイラは挨拶を終えるとすぐに書類をテーブルに並べ、書類の効力について説明する。

「本物かどうか? 疑われる可能性を考慮し、司法長官閣下のお屋敷で、司法長官閣下に立ち会っていただくことにしました。長官閣下、正式な書類であると宣誓していただきたいのですが」

 つい最近まで庶民だったナオミに、国王の直筆サインが記された書類を見せても、信じてもらえないかも……と考え、モイラは更なる証人を用意した。
 司法長官は書類は正式なものだと宣誓し――

「王太子殿下に思慕を懐いていらっしゃると」

 ナオミに正直な気持ちを尋ねたところ、ソロモンのことを好きだという答えが返ってきた。

「守ってもらっているうちに、徐々に惹かれて……」

 顔を赤らめ、だが嬉しそうに話すナオミと、

「なるほど。そうですか」

 淡々としているモイラの対比……を眺める司法長官。
 司法長官はナオミについて、息子から聞いていた。
 息子がこの男爵令嬢に好意を持っていることも、感じ取っていた――ただし司法長官は、息子とこの庶子の男爵令嬢の婚姻を許可するつもりはなかった。
 だが王家が許可を出す方向で進めていると聞き、自分の見識の浅慮さに自己嫌悪を感じていた。

「では結婚してもよい……ということで、話を進めても宜しいでしょうか?」

 モイラの言葉にナオミはさらに頬を赤らめて頷いた。
 気持ちの確認ができたので、モイラは次々と事情を説明する。

「ここら辺は、わたしたち官僚が補佐しますので」

 難しいことは「このように手を貸します」など、不安を取り除くため丁寧に話した。
 あらかたの説明を終え、菓子とお茶で一息つくと、

「モイラさんて、ほんと、ジェイクのお姉さんらしい」

 ナオミが微笑み小首を傾げながら――

――ええー。あの弟ジェイクに似ていると? それは褒め言葉……なの? なの?

 複雑ながら、褒め言葉として受け取った。


しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

消息不明になった姉の財産を管理しろと言われたけど意味がわかりません

紫楼
ファンタジー
 母に先立たれ、木造アパートで一人暮らして大学生の俺。  なぁんにも良い事ないなってくらいの地味な暮らしをしている。  さて、大学に向かうかって玄関開けたら、秘書って感じのスーツ姿のお姉さんが立っていた。  そこから俺の不思議な日々が始まる。  姉ちゃん・・・、あんた一体何者なんだ。    なんちゃってファンタジー、現実世界の法や常識は無視しちゃってます。  十年くらい前から頭にあったおバカ設定なので昇華させてください。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...