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最終章
エピローグ2
しおりを挟む「めでたしめでたし、かしら?」
学校での昼休み。既にご飯を食べ終わった私と赤松さんは、近況報告で盛り上がっていました。
「お互い、色々解決したみたいだね。赤松さんは家族の人達に、作家になりたいって伝えたんでしょ?」
「ええ、意を決してね」
「どうだった?」
「困った顔をされるかと思ったら……喜んでくれたわ」
赤松さんはデザートとして買った板チョコを一口齧りました。
「姉が死んで、両親も余裕を失くしていたのだわ。悲しみだけではなく、現実的に、将来を……店をどうするか、柔軟な考えが出来なかった」
そしてつい赤松さんひとりに押し付けてしまったのです。しかし赤松さんは両親を責めませんでした。
「話し合うって凄く大事な事なのね。私の気持ちを伝えたら、親に気を遣わなくて良いんだよ、お前の子供らしいところが見れて嬉しいって、笑ってくれた」
「そっか。赤松さんが大人っぽいって思っていたの、私だけじゃなかったんだね」
「お子様でいられない環境だった、というだけよ。だけど、これからは夢をふたつ追うという若者らしい無謀な挑戦もしてみる」
「出来るよ、赤松さんなら。叶わなくても良い経験になって何か学べると思う」
「そうだと良いわ。人生って楽しいわね」
爽やかな風が吹き、空も微笑んでくれたような気がしました。
「それで? あなたの方は?」
赤松さんが聞いて来ました。私は既に近況報告を終えています。
「もう話したじゃん。ロケットを見つけた事、母が錯乱した事、叔父が全て認めた事、付喪神が大集合した事、私の自由が保証された事」
赤松さんには包み隠さず全て話したのです。
「ひとつ、忘れているわ。話したくないのだったら、ごめんなさい。あなたの本当のお父さんの居場所は? 教えてもらったのでしょ」
ああ、その事ですか。
私は地面に視線を落としました。
「手紙を書いて、送った。それだけ」
「直接会わないの?」
「うん。決めたの。自分からは会いに行かない。向こうが会いたかったら来ても良いけど。まあ、鴫野宮の家には近付きたくもないんじゃないかな」
「何故……会いに行かないの?」
「冷静に考えて、やっぱ今更一緒に暮らすなんて無理だよ。10年も経っているんだよ? その間に、きっと色々あったと思う。他に好きな人が出来たり、集中して頑張りたい仕事が出来たり。せっかく新しい生活を始めたのに、縁を切ったはずの人間が突然現れたら迷惑だよ」
他にも理由はあります。私は続けました。
「それに、いくら親子でも、いきなりよく知らないオジサンと同居ってのは難しいかな……って考えた。血が繋がっていても、こっちは16歳の女の子で、向こうは40歳以上の中年男性。お互い、心を開くのは簡単じゃない。共同生活は気まずい。だからさ、このまま会わないままの方が良いかな、って」
「一緒に暮らさず、会うぐらい良いじゃない」
「ううん。駄目。余計な悩みが増えちゃう。お父さんが真面目な人なら、どうして自分が守ってやれないのだろう、とか。私も、どうして本当のお父さんと別々に住んでいるんだろう、とか。人間だから、大事な事はつい悩んじゃうよ」
「……そういう生き物だから仕方ないわ。開き直って、思い切り悩めば良いのに。けれど、あなたの決心は揺らがないのね」
「そう。付喪神達と離れるのは寂しいし」
結局、決め手はそれでした。
「私は付喪神が好きだし、彼らに愛されたいから、大事にされるほど良い人間になりたい。今は、それが私の夢」
「大切な夢ね。実行してちょうだい」
「赤松さんも夢を追っていたら、また筆丸に会えるかもよ?」
「会えても会えなくても、いいの。側にいるのは分かっているから」
私達の周りには、目で見えなくても、大切なものがあふれているのです。
聞こえなくても、囁いているのです。
誰かの幸せを願う気持ち。溢れるほどの尊い感情。
この秋の高い空の果てまで、そういう想いが積み重なっているのかと感じました。
どこまでも、どこまでも青い、澄み切った空でした。
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