つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲

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さぁ、はじめようか

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 服を脱ぎ普段着に着替えたリディアはソファに寝そべる。

「はぁ~疲れた~」

 あの後、義理家族を見掛けたが、これと言って何か仕掛けてくる風でもなく助かった。

「‥‥」

 やれやれと目線をイザークに向けると神妙な面持ちをしていた。

「どうしたの?」
「いえ、あの後の会場の雰囲気が少々気になりまして」
「ああ…、そうね、サディアス達も気にしていたわね」

 会場に戻れば、微妙に会場の空気が違っていた。
 全体がではないが、一部、なんとなくな程度だ。

「あいつらが姉さまの悪口を言ってたからだ」

 不意に現れたリオが怒りを露わにリディアの前に立つ。

「それは本当?」

 こくりと頷く。

「殺そうと思ったけど、会場ではじっとしていないと姉さまに迷惑掛かると言われていたから我慢した」
「そうだったんだ、偉かったわね、よく我慢し―――」

(会場では?)

 そこでハタと気づく。
 嫌な予感がする。

「‥‥会場の外では…、殺していないよね?」
「ゲラルトに止められた」
「!」

(ナイスフォロー!ミドルガイ!)

 ホッと胸を撫で下ろす。
 が、すぐにハッとしてリオを見る。

「次からは私が何と言われても殺しちゃだめよ?」
「どうして?」
「どうしても」

 皆殺ししようという発想に至ったリオを思い出し、慌てて釘を刺す。

「…姉さまが言うなら」

 不服そうに頷く。

「…心配ですね、その悪口を真に受ける者も出てくるやもしれません、それにジーク派勝利をよく思っていない貴族も少なからずいます」
「アナベルに美味しい思いをさせてもらっていた貴族は不服だろうね~」
「ええ」
「姉さま、命令してよ、僕すぐに始末してくるよ」
「あなたは大人しくしていて」
「始末しちゃえば早いのに」
「そうですね、噂はあっという間に広がります、早いうちに芽を摘んでおいた方がいいかと…」
「早かれ遅かれ悪い噂なんて出てくるものよ、気にする必要ないわ」
「ですが…、それに乗じて悪巧みする輩も出てきます、リディア様の身が危険になります」
「やっぱり殺しちゃおうよ!」
「大丈夫だって、問題ない」
「リディア様‥‥」

 イザークが心配そうな表情を浮かべる。
 その後ろで大きな体がゆらっと揺れたのに気づき慌てて止める。

「オズワルド!」

(そうだった、今はオズもいたっけ…)

「?」

 動きを止めきょとんとした表情でリディアに振り返る。

(あれ?殺しに行く気ではなかったのか…、てか、話聞いてなかったの?)

 てっきり話の流れで始末しに行くのかと思ったが、きょとんとした表情に思い違いしたのだと思いホッとする。
 止める必要なかったなと思うも、止めてしまったから何か言わないといけない。

「どこに行く気?」
「適当に見回りに」
「そう‥‥」

(…何だろう?この違和感)

 問題ない回答なのに、少し心がさわさわする。
 そんなリディアの前から去ろうとするオズワルドをもう一度止める。

「?」
「‥‥ここにいなさい」
「それは命令か?」
「ええ」
「‥‥、解った」

 オズワルドがまた元の様に壁に凭れかける。

(今の間は何?…もしかして…、やっぱり始末しに行こうとしてたのね)

 ハーゼルゼットやジークヴァルト達はオズワルドを団長のままいさせようと必死に画策しているが、隙あらばリディアの元にやって来てこうして傍に居る。

(まるでリオ状態ね…、ストーカーがもう一人増えたわ)

 腰に抱き着くリオを見下ろし、小さなため息を付いた。
 面倒と思う反面、心強さもある。

(下手に知らない兵に付き纏われるよりはマシか…)

 本来聖女の周りは護衛の兵に囲まれて過ごす。
 だがリディアの場合、リオとオズワルドのお陰で、ガチガチに兵で囲まれてはいない。
 いざとなったらイザークの黒魔法も役に立つため、こうして室内は見知った顔ぶれだけで過ごせる事になった。

(でも、疲れるなぁ~)

 常に誰か彼かが傍に居る状態。
 見知った顔とはいえ、一人になれないのは、なかなかストレスが溜まる。

(皆を望んでしまったのだから、これも受け入れないといけないとは解っているけど…)

 望まなければ、今もあの一人の空間でゆっくり過ごしていただろう。
 だけど無意識の中で望んでしまったから仕方がない。

(だけどやっぱり窮屈だわ、はぁ面倒くさいなぁ~)

 心で呟きため息を零した。






「オズワルド、意見を聞きたい」
「父さんと同意見です」
「オズワルド!」

 会議室がざわめく。

「わしはまだ意見を言っとらんだろうが!」
「俺の意見をこの者達は望んでいないだろ?」
「望んでなくても!お前は団長なのだぞ!」
「それは無理だ、俺はリディアの騎士になったからな、ん?リディアでなく騎士なのだからリディと愛称で呼ぶ方がいいか…」
「お前はまたそんな寝ぼけた事を~~!!!」

 ハーゼルゼットのこめかみに青筋が立つ。

「まぁまぁ、ハーゼルゼット団長補佐、いいじゃないですか」

 部下であるジーモン大佐が宥める。
 その目がオズワルドを見て蔑む。

「その…、聞いて恥をかかせるよりはマシかと…」

 どうせまともな意見など言えるわけがないと皆がクスクス声を殺し嘲笑う。

「まったく、なんであんな奴を団長に?」
「ハーゼルゼット様は素晴らしいが、あれじゃぁな~」
「レティシアに下僕にされてもしかたないよな、あれじゃ」
「なぜアレが団長なんだ?勲章一つない実績もない、もしかして兵法も知らないんじゃないのか?」
「かもな、戦場でも見た事がない」
「どっかで怯えて隠れてたんじゃね?」
「いくら息子だからといって気に掛ける必要ないんじゃないか?あまりに無様で見てられない、意見なんか聞いた日にゃ恥をかかせるだけだし可哀そうだろ」

 皆のヒソヒソ喋る陰口にハーゼルゼットが体をわなわなと震わせる。

「ハーゼルゼット団長補佐、オズワルドがなりたいならいいんじゃないですか?子供の夢を適えるのも親の務めでもありますし」

 完全に子ども扱いの発言をする部下。

「まぁ聖女様が迷惑がるかもしれませんが‥‥」

 そこでまた失笑が起きる。

「その聖女様も、色々噂があるんでしょ?」
「なかなかのタマだと聞きますね、か弱く清楚ななりをして、かなり強欲で性格に問題あるとか」
「引き取ってくれた先の子供に酷いいじめをしていたって噂だぜ」
「自分を養ってくれた義理親を見捨て自分だけいい思いを――――」
「おいっ」
「あ…」

 ハーゼルゼットが養女として迎えた事を思い出し、急いで口を閉じる。

「い、いやぁ、噂です、ただの」
「それは噂かも知れないが、そろそろはっきりさせた方がいいかと思います」

 元々、ハーゼルゼットの後に団長になるだろうと言われていた、次期団長候補と言われるエクムント大佐が立ち上がるとハーゼルゼットをまっすぐに見た。

「このままでは指揮が乱れます、オズワルドを我々は団長と認められない、これは総意です、ハーゼルゼット様がまた団長になる事を我々は望みます」

 他の者達も一斉に立ち上がる。

「オズワルドのような腰抜けの役立たずが団長など認められません!」
「この際ハッキリ言わせていただきますが、彼の価値はハーゼルゼット様の息子というだけしかない、命を預ける相手として認める事はできません!」
「正直、聖女様の騎士も反対です!」
「除名とまで言いません!せめて前の様に邪魔にならない程度の隊長という形に戻してほしいであります」
「それにこのままではハーゼルゼット様の価値を損ないかねません」
「‥‥」

 皆がハーゼルゼット団長補佐とオズワルド団長を見る。

「価値ねぇ…」

 ぽつりと皆に聞こえないぐらいの声でオズワルドが呟く。

「‥‥わしの一存では決められん、もってこの件は保留とする」

 苦し紛れにハーゼルゼットが口にする。

「このままでは会議出来んだろう、よって、ここで解散とする、次回の会議は後でまた報告する」
「はっ」

 皆がその言葉に解散していく。
 去り際、オズワルドを睨み部屋を後にしていく。
 そして最後、異議を申し立てたエクムント大佐がオズワルドの前に立った。

「お前はそのでかい図体なくせに親の庇護に甘え恥ずかしくはないのか?お前の価値はこの場所では皆無だ」

 そう言い捨てると会議室を後にした。





 調査書を置き、サディアスとキャサドラが渋い顔をする。

「まったく、呆れるな」
「呆れるどころか!」

 聖女リディアの悪い噂があっという間に広がり、偽物だと言い出す者まで現れた。
 
「リディアが助けてくれなかったら皆死んでいたというのに、ふざけるなっての!!」

 キャサドラが怒りに心頭して叫ぶ。

「現場を見てないんだ、それに人は悪い噂の方が好物だからな」
「今の政権を不服に思う元アナベル派が悪い噂に拍車を掛けているようですね」

 今や城や街中が聖女リディアの悪い噂で持ち切りだ。

「発端のぺルグラン男爵を陞爵しろという声も上がっています」
「がめつい男め、リディアとリオの財産を奪った上にまだ利用しようと企んでくるとはな」
「チェックを厳重にしていましたが、それをかいくぐりパーティに出席するとか、更にはこうやって私と交渉に持っていくつもりなのでしょう、欲の塊のような男ですよ、まったく」
「どうするの?このままではマズいでしょ?それにリディアが可哀そうだわ」
「ここまで噂が広まってしまったお陰で、ぺルグランの処分が難しくなりましたね」
「かまわん、処分しろ」
「ですが、今度はジーク様に批判が集まります」
「よい、どうせ王殺しで国を奪い取った男と噂されている、一つ二つ噂が増えたところでどうってことはない」
「…折角噂も静まって来てたのに… ああもう、どっちにしても嫌な気分だわ!」

 ジークヴァルトが王を殺しこの国の国王となった当時、それは酷い噂が国中で囁かれていた。
 だが、政権が整い国も安定してきたことで、最近ではその噂も影を潜めてきていた。

「オーレリーがいれば我々が動く前に処分していたでしょうが、今の教団ではあまり期待はできませんしね…、仕方がありません、我々の手で処分致しましょう」
「オーレリー…か、あの男の最後の言葉、あれはどういう意味か…」
「意味深な事を言っていましたね」
「安寧は訪れないとか、後悔するとか言ってたアレ?」
「ええ、あの後、調査に伺い驚きました、『聖女の間』と言われる場所が研究施設になっていたとは」
「そうだったの?」
「キャサドラには話していませんでしたか」

 キャサドラがこくんと頷く。

「あれは思い出しただけでも腸が煮えくり返る…」

 珍しくジークヴァルトが怒りを露わにする。

「陛下がそこまでって…一体何を実験していたの?」
「人体実験です」
「!」

 キャサドラが目を見張る。

「研究施設内には人体実験を繰り返した後があり、そこでリディア嬢も実験されていたのでしょう、リディアの採血された血が並んでいました」
「な…」
「きっとリディアの前にも『伝説の聖女』を実験し、そのデータをオーレリーは持っていたのでしょう」
「だから詳しかったのね」
「ええ、ですが…」

 サディアスも悔しそうに表情を歪ませる。

「どうしたの?」
「そのデータなどを没収しようとしたら全てが消えて無くなってしてしまったのです」
「え?どういう事?」
「オーレリーの奴、もしものために仕掛けていたのだろう、部外者が侵入したら施設をまるごと消すようにな」
「奴なら助かった場合、時間を戻すことができます、それを見越しての策でしょう」
「な‥‥、じゃ、データは1つも‥?」

 無言で頭を振る。

「データもぱあ、オーレリーが言う敵の意味も、さっぱりだ」

 はぁ~っとため息を付き頭をガシガシ掻きむしりながらジークヴァルトが立ち上がった。

「さっさと片付けるぞ」
「ジーク陛下が赴かなくても私が…」
「いい、見せしめにも丁度いいだろう」
「…そうですね」
「噂を止めるには、確かに手っ取り早いけど、そんなことしたらジーク陛下が…」
「行くぞ」
「っ…、はっ」

 ジークヴァルトの後に続き、苦い面持ちでサディアスとキャサドラは城を出た。








「いい加減にしろ!」

 オズワルドがリディアを追って城を出ようとした所で兄達に止められる。

「親父が今どんな状況か解ってんのか?」
「こんな状況で女の尻を追って恥ずかしくないのか、お前は!」
「追ってるのではない、俺は『姫の騎士』だ」
「あ~もう、こっちが聞いていて恥ずかしいっっ」
「恥ずかしい?騎士のどこが恥ずかしいんだ?」
「ああ、もぉ、それは恥ずかしい事だ!恥だ!」
「大の大人が!そんなでかい図体のくせにおとぎ話信じて、何が『姫の騎士』だ!恥ずかしいっ」
「我が家の恥だ!いい加減辞めてくれ!」
「恥?俺は元々姫を探すために騎士になった、そして見つけた、ただそれだけだ」
「そんな幼稚で馬鹿みたいな夢は捨てろ!」
「ったく、くそっ!オズワルド、お前が来てから我が家はぐちゃぐちゃだ!」
「家も裏山も破壊し、挙句にハーゼルゼット家の価値すら破壊する気か!」

 兄達がオズワルドを睨み見る。

「また、価値か…」
「お前は存在自体が邪魔だ!お前など親父も拾ってこなければよかったのに!」
「ああ全くだ!お前は疫病神だ!お前のせいで親父が要らぬ誹謗中傷を受けているんだ!」
「ジークヴァルト陛下もだ!折角平穏を取り戻したのに、お前のせいで謂れのない誹謗中傷を受けている!」
「聖女様だって同じさ!」
「聖女様は優しさからか、それともお前の力のせいで怖くて何も言えないんだろうよ、本当は邪魔だって言えないんだよ、解れよ、空気読めよ!」
「その力のせいでどれだけ人を不幸にしたか解っているのか?」
「聖女様にも、親父にももう近づくな!」
「お前は力があるから勘違いしているかもしれないが、力以外は意味もない、ただのクズだ!お前自身はなんの価値もない人間だっていい加減自覚しろ!」
「い~や、その力も人を不幸にするだけだね、親父の、我がハーゼルゼットという家名だけがお前の価値を作っているのに過ぎん、それを心せよ!オズワルド!!」
「はぁ~、どいつもこいつも価値、価値と煩い」

 苛立たしげにオズワルドが睨み見る。

「何だ?文句あるのか?」

 兄達もオズワルドを睨み見る。

「言ってもお前達には理解できんだろうから言わん」
「なんだと?!」
「解ってないのはお前だ!」
「何度も言うが、大人しくじっとしていろ!」
「親父にも聖女様にもこれ以上迷惑かけるな!いいな!」
「こら!オズワルドを虐めてはダメよ!」

 不意に母シャルリーヌが現れ、驚き振り返る。

「母さん!なんでここに?!」
「リディアさんに会いに来たけれど出掛けていないみたいなの」
「チッ」
「あ、こらっ、ちゃんと謝りなさい!」

 母シャルリーヌの登場に、息子二人がいそいそと退散していく。

「たく、仕方がない子だこと…」

 やれやれと肩を上げる。

「馬鹿馬鹿しい‥‥ここまで愚かになるとは… ‥――とは怖いものだな」
「オズワルド?」

 眉間に皺を寄せ険しい表情をするオズワルドを傾げ見る。

「やはりこの世界はくだらん…うっ…」
「オズワルド!大丈夫?!」

 頭を押え蹲る。

「あっ…」

 心配に手を差し伸べかけた手を避けるように、オズワルドが苦しい表情を浮かべながらその場を立ち去った。
 そんなオズワルドの背をシャルリーヌが心配そうに見つめた。





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