つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲

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さぁ、はじめようか

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「んーっうまい!買い食い最高♪」

 因縁の牛串を口いっぱいに頬張る。

「リディア様、お口が…」

 イザークがソースが付いた口元を拭う。
 オーレリーの事件以来、教団側の勢力は弱まった。
 そのお陰で教会側ではなくジークヴァルトの城に住まう。
 聖女として利用はされて忙しくはあるが、あの再会した時、本音の「ぐーたら生活がしたい」と聞いたからだろうか。パーティーだ、謁見だぁ、教会の祭典だぁと忙しい事は忙しいが、必要以上に聖女として利用しようとしないお陰でこうしてたまにではあるが暇もでき、のんびりする時間もある。その時間は読書などにあてていたがそれも飽き、イザークとリオをそそのかして街へお忍びでやって来た。

「ほら、リオ」
「はふっ、美味しい!」

 あの欲張りな義家族の元から抜け出し、ジークヴァルトやサディアスと会い、その時に食べた牛串を頬張る。
 リオは美味しそうに食べると肌色を隠すように直ぐに深くローブを被った。

「やっぱ、屋台といえどこの肉は上質よね、ほら、イザークも」
「わ、私は…」
「いいから」
「は、はい」

 頬を染めながらもローブから少し顔を出し、櫛に刺さった肉を一つ頬張る。

「んっ‥確かに中々美味にございます」
「でしょう?」

 そう言うと、紅い眼を隠すようにすぐにローブを深く被るイザーク。

「いつも言っているけど、そんなに警戒しなくても大丈夫よ?」

 愚民の肌色や紅い眼を気にして外にいる時はいつも深くローブを被る二人をやれやれと見る。

「リディア様が堂々とし過ぎです」
「堂々としていた方が逆にバレないって、それに皆聖女の顔なんて見た事ないから解らないわよ、それにウィッグ付けてるし大丈夫」
「だけどっ」
「出るときだって黒魔法で幻術使ってるし、敵も気づいてないわよ、黒魔法の幻術なんて敵も知らないだろうし」
「それはそうですが‥‥」

 心配そうに見る二人。

「大丈夫だって、ほら誰一人、私を気に掛けていないでしょう?」

 リディアが軽く腕を広げる。
 確かに皆普通にこちらを見るでもなく通り過ぎていく。

「だから、そんな心配しないで大丈夫」

 そう言ったリディアの背後で馬車が止まった。

「?」

 こんな何もない所で馬車が止まるなんてと振り返る。
 イザークとリオがザッとリディアを庇う様に前に立つ。
 その馬車の扉が開き出てきた者の顔を見て驚く。

「やっぱり!リディアだわ!」

 二度と顔を見たくなかった義理家族が次々と馬車から姿を現す。
 降りてきた馬車をチラリと見る。
 そこには綺麗に包装された箱が積まれていた。

(街に買い物に来ていたのね…、最悪…なぜ今日なのよっ!しかも家族勢ぞろいで買い物来てるのよっっ)

 こんな時に限ってである。
 やれやれと心の中でため息を付く。

(はぁ~面倒くさい事になる前に)

「さて、帰ろう」

 踵を返すリディアにぺルグラン男爵夫人が大きな声を上げた。




「この子ですわ!育ててもらった恩も忘れ聖女になった!聖女リディアはこの娘です!!」




 皆が一斉に振り返る。

「!」

(ああもぉっ、面倒くさい事になった…)

 イザークとリオが身構える。

「さっさと逃げるわよ」

 そんな二人に小声で囁くとイザークがぐいっとリディアの身体を抱き寄せた。

「逃げる気よ!捕まえて!!」

 義理姉妹が叫ぶ。
 それに反応して民衆がリディア達に立ち塞がる。

(え…?)

 民衆が殺気を持ち立ち塞がる行為にリディアは驚く。
 一応、伝説の聖女だ。
 その伝説の聖女よりあの義理家族の言葉を聞くとは思っていなかった。

(これはマズいわね…)

 あっという間に人だかりが出来、身動きが出来なくなる。

「姉さま、僕が」
「いえ、リオの能力をここで披露するわけにはいかないわ」

 民衆が見ている前で愚民の肌色であるリオが能力を使うと、後々厄介になるのではないかと危惧する。

(いや、逆に見せた方がいいのかしら?)

 悩むリディアの前に更に通り掛かった衛兵がやってくる。

「何事だ!…これは」

 リディア達を見、そしてぺルグラン男爵を見るとその目が厭らしく笑った。

(あちゃぁ~、元アナベル派か…、これじゃやっぱりリオを動かすわけにはいかないわ)

 リオやイザークの力を使えば、それを逆手に取られまた更にややこしい事になる。


「この娘が大事に大事に育ててあげたのに、陛下に取り入り私達を捨て自分だけが聖女へと上り詰めたのですっ!」
「ああ、リディア、そんなに男爵という爵位が恥ずかしいというの?あんなにあなたを大切に育てた家族を捨てる程に、こんなにも大切に思っている家族よりも‥‥」


 わざとらしくおよよと泣く義母。

(はぁ~あほらし…)

 それはあなたでしょうと言いたい所だが、皆の目はその言葉を信じ切りリディアを責める眼差しを向けていた。

(嘘でしょ?このド下手な演技でみんな騙されちゃうの??マジか…)

 噂はリディアが思っている以上に街に浸透していた事に驚く。

(悪い噂とかこういう噂って皆好きだものね、全く搾取的正義感ってのは鬱陶しいわ)

 取り囲む民衆を見渡す。

(はぁ~、これで反論しても無駄ね)

 相手は多勢、それにアナベル派の衛兵がこの義理家族の言葉に後押しすれば余計に何も知らない一般人は信じ込む。ここは下手に喋っては揚げ足を取られ更に状況は悪化してしまうだろう。

「ねぇお願いよ、リディア、あなたが謝り私達を受け入れてくれれば許してあげるわ」
「ああ、お前が受け入れるだけでいいんだ、我が家族は今もお前を大事な家族と思っている」
「リディア、私達は怒ってないわ、ただ悲しいだけよ」
「私たちの元へ帰ってきて、お願い」
「今も私たち家族はあなたを思っているのよ」
「あなたが心配なの!リディア」

 大袈裟に悲痛な表情をし慈悲深い言葉を並べ立てる。

「ああ何て良い家族なんだ」
「戦争孤児の聖女様を引き取ったって聞いたわ、優しい家族だからこうされても可哀そうに思っているんだろ…」
「もう放っておけばいいのに」
「兄の子供なんだろ?それが死んで、家族は自分達だけだからと陛下に利用される前に取り返したいって聞いたぜ」
「そういや、家族を裏切って陛下の元へ行かれて、今では陛下にいい様に使われているって噂があったな」
「裏切られてもここまで思っているなんて…」
「私なら怒って怒鳴りつけているわ」
「なんて慈悲深い、優しい家族なんだ」

 その義理家族の演技に皆が涙する。

「は?何言ってるの?あいつら―――」
「リオ」

 黙ってと言うように名を呼ぶ。

「っ…」

 不服そうにリオが口を噤む。
 そんなリディア達に民衆の目が向けられた。

「受け入れてやれ!」
「可哀そうだろう」
「聖女様なんだから!慈悲を向けろよ!」

 皆が義理家族の後押しをするように声を上げ、それを見て義理家族の目元が少しニヤリと笑う。

「リディア様…」

 イザークとリオが心配そうにリディアを見る。

「なんとか言え!」
「聖女様なら受け入れろよ!」
「黙ってないで答えろよ!」

 ヤジはどんどんと高まる。
 そんな民衆やニヤける義理家族を見てリディアは心の中ではぁ~っと大きなため息を吐いた。

(はぁ……仕方ない、答えなければ収まりそうにないか‥‥)

「リディア!お願いよっ」

 また義理家族のお涙頂戴演技が始まる。

「私達はあなたを恨んでないわ、本当よ」
「さぁ、受け入れると言ってくれ」
「あなたが心配なのっ」

 義理家族がまた大袈裟に言募る。

「どこが…」

 ボソッとリオが口にする。
 そんなリオの声をかき消すように、更に大きくなるヤジ。
 やんやと騒ぎ立てる声が街中に響き渡る。
 皆の怒りの熱は、このままでは暴動が起きそうなぐらい凄まじい熱気となっていく。

「はぁ…仕方ないわね…」

(ったく、煩いなぁもうっ)

 やれやれとリディアは庇うイザークとリオを制し前に出た。

「リディア!解ってくれたのね!」

 うるさかったヤジが静まる。
 答えを聞くために皆の注目がリディアに集まる。
 心配そうに見るイザークとリオ。
 そんな中、リディアはハッキリと口にした。




「断る」




「?!」

 皆が息を飲み込む。
 てっきり受け入れるだろうと思っていた義理家族や民衆が聞き間違いかと耳を疑う。

「な、何を言っているの?受け入れてくれるのよね?」
「謹んでお断りします」
「リディア!」

 義母の表情が怒りの表情へと変わる。
 民衆も怒りに満ちる。

「なんて酷い!」
「それでも聖女か!」
「伝説の聖女がこんな女だったなんてっ」
「噂は本当だったのか…」

 一斉に罵声が飛び交う。
 非難の荒しと化したその場にリオとイザークが戸惑い反撃できない事にギュッと拳を握りしめる。

「では、失礼するわ」
「待ちなさい!」

 踵を返そうとした所で義理妹1号が声を上げる。

「もう怒ったわ!全部ばらしてやる!!あなたは偽物の聖女のくせに!王を謀り、国を謀り、民を謀り、最低よ!」

 その言葉に民衆がざわめく。

「偽物?!」
「そういやそういう噂もあった…」
「確かにあんな力、普通の人間が出せる筈もない」
「やっぱりでっち上げだったのね」

 それに乗じるようにぺルグラン男爵が叫ぶ。

「娘を思い黙っていました!だがもう心に決めた!この娘リディアは聖女でも何でもない!ただの卑しい娘なのです!」
「なんと!」
「偽物?!」

 義理姉妹がギロリとリディアを睨みつける。
 その瞳が逃さないと、お前だけいい思いは絶対させないと言っていた。

「私達をずっとずっと虐めて、それだけじゃ足りないの? こんな仕打ちまでして酷い、酷いわ!」
「そう言えば義理家族の子供達をいじめていたって噂があったわね」
「本当だったのね‥なんて酷い」
「こんな女は聖女じゃない!」
「慈悲も愛もない女が聖女なんて笑えるわ!」
「そうです、ええ、そうだわ!」

「皆のためにも、リディアから聖女の廃位を求めます!」

 義理姉妹が大声で叫ぶ。
 それに皆が賛同する。

「そこの衛兵!陛下にこの女を引きずり落とすように言ってやれ!」
「そうだそうだ!」
「このビッチ女を引きずり降ろせ!」

 怒りに満ちた異様な熱気と共に民衆が叫ぶ。
 元アナベル派の兵達は民を止めようともせず突っ立つ。
 その様を見て勝ち誇ったように義理家族がリディアを見る。
 そこで義母が胸に手を当て口にする。

「待って下さい、私にとっては兄の忘れ形見」

 皆が憐れみの目で見守る。



「リディア!最後にもう一度聞いてあげるわ、受け入れるといいなさい!」



 義母が最終通告の様に声を張り上げる。

「まぁ、まだ許すというの?なんて優しい」
「もう引きずり落としゃいいのに」
「そりゃ兄の忘れ形見なのだから、こうされてもまだ思いがあるのだろう」
「シッ、聖女の答えが聞きたい」

 皆がまた静まり返る。
 そこにいるものすべての瞳が否定は許さないという圧を発していた。
 そんな異様な空気の中、リディアの声が響き渡る。





「断じて断る」






 皆の目がカッと見開く。
 そこにいた人全てが怒りの形相と化す。


「それでも聖女か!ああ、やっぱり偽物か!」
「リディア!こんなに言っても解らないの?!」
「この売女!」
「少しは反省しろ!」
「受け入れるぐらい簡単だろ!!」
「ほら、皆も言っているでしょう!貴方は間違っているわ!皆の声を聞きなさい!リディア!」

「言いたいことはそれだけ?では私は行くわ」

 リディアが踵を返す。

「待ちなさい!」

 逃がさないと言う様に民衆が前に立ちはだかる。

(これじゃ帰れないじゃん、うー、仕方ないからリオ使おうかしら?)

「もう頭にきた!」

 義妹が叫ぶ。

「あなたなんて聖女でなければただのクズよ!」
「あんたは聖女に仕立てられていい気になってるかもしんないけど、あんたなんかに何の価値もないんだからね!」
「ええ、ええ、その通りっ、リディアは偽聖女、偽聖女に価値などありませんことよ!」

 義母がそこで煽るようにぼそりと付け足す。

「だけど、偽聖女でも今は聖女…」

 その言葉に民衆の心に、一気に怒りが込み上げた。
 こんな聖女をこれから崇めないといけないのかと、税金がこの聖女の贅沢に使われるのかと思うと許せないという強い思いに皆が駆られる。 

「その価値も捥ぎ取り握りつぶしてやればいい!」
「そうだそうだ!こんなクズ女など握りつぶせ!」
「聖女なんかに居座らせてたまるか!こんな女!」
「この偽物!!」

 ドッと沸き起こるヤジを背に義妹が勝ち誇ったようにリディアを睨み見た。

「ひとりだけいい思いしようたってそうはいかないわ!リディア!」
「偽聖女のリディアに何の価値もないんだから!」

 民衆が怒りに満ち罵倒し、義理家族も煽るように声を上げた。

「まずいですね…」
「姉さま、掴まって、逃げよう」

 イザークとリオの背に冷や汗が流れ落ちる。
 このままでは民衆がリディアを襲いかねない。
 前も後ろも周り全てを取り囲まれた完全アウェイ状態の中、リディアがぼそりと呟く。

「価値、ねぇ…」

 その呟きにイザークがちらりとリディアを見る。

(リディア様?)

「偽者が!いい気になっているのも今のうちよ!」
「謝れ!謝罪しろ!!」
「この女を聖女から引きずり降ろそうぜ!」
「ああ、こんな女、聖女に相応しくない!!」
「ねぇ聞こえてる、聞こえてるわよね、リディア!これだけの民衆が貴方を認めていない、お前は聖女に相応しくないと!」
「いい思い何てさせてなんてやらない!全部、奪ってやるわ!」

 ふふんと義理家族の瞳が嘲笑う。
 そんな義理家族を見、ため息交じりに頭を擡げる。

「リディア様?」
「奪うとか、…はぁ、馬鹿馬鹿しい…」
「え?」

 これだけ罵倒され、これで参ったかと思いきや、馬鹿馬鹿しいというリディアの反応に義家族が戸惑い見る。
 そんな義理家族にリディアがやれやれと髪をかき上げた。





「言っとくけど、私から奪えるもんなんて一つもないわよ?」






「な、何を言っているの?聖女の座を――――っ」
「聖女の座?はんっ、そんなものどうだっていいわよ」
「え?」

 皆が目を瞬かせる。




「聖女何て私には何の価値もないわ、だからあんた達が何を言おうが何をしようが、私は傷つかないし、奪われるものなど一つもない」

「何を言って…」

「悪いけど、私の価値は私が決める、他人が決めた価値など私には価値がない、意味がないモノよ」





 リディアの言葉にシーンと辺りが静まり返る。

「つ、強がっても無駄よ!」

 義理姉が理解不能なリディアの言葉に詰まりながら言い返す。

「聖女の座を奪われてもそんな事言えるのかしらね!」
「そうだそうだ!嘘をつくな!」
「本当は欲しいんだろ?聖女の座を陛下を謀って得たんだから!」

 民衆の後押しに義理姉妹がまた強気を取り戻す。

「今の内、強がっていればいいわ!」
「聖女の地位が無くなれば貴方なんて何の価値もないもの!絶望に陥り私達にこんな態度を取ったことを死ぬほど後悔なさい!」

 罵る義理家族にリディアは冷めた目を向ける。

「だからそれは貴方達の価値でしょう?」
「はぁ?何を言っているの?意味わかんないだけど!」
「私には価値がないと言っているの、聖女とかなんてそんな表面上の薄っぺらいもの興味もないわ」
「う、薄っぺら‥‥」
「聖女の座を薄っぺらいと?!」
「なんという暴言!」
「やはり聖女など相応しくない!」



「だからそれ!どうでもいいって言ってんでしょ!」



 いきなり大声を張り上げギロリと睨み見るリディア。
 その迫力に皆が気圧され口を閉じる。

「もう言いたいことはないみたいね、では失礼するわ」

 リディアが背を向ける。
 そんなリディアにわなわなと怒りに震えた義理姉妹が負け惜しみのように声を上げた。

「あんたなんか死ねばいいのに!」
「いいえ、死刑にしてやるわ!」

 義理家族の叫びに頭だけ横を向き振り返る。




「悪いけど、死んでも失わないんだわ」




 リディアがニヤリと口を引くと胸を親指で指す。




「私の価値は魂とくっついてっから」




 自分の胸を指した親指でトントンと叩く。

「っ―――」

 全く傷ついてもいない様子のリディアに義理家族が悔しそうに唇を噛みしめた。

「さ、行くわよ」

 イザークとリオに声を掛ける。
 そんなリディアを義母が睨む。

「‥‥絶対、お前を幸せになどさせるものか!この女を捕まえるのよ!」

 義母が叫ぶ。
 その言葉に民衆が飛び掛かってきた。




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