婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん

文字の大きさ
11 / 27

ローズサイド

しおりを挟む
「おかえりなさい」
 ローズが食事を作って待っているとレオンが仕事から戻ってきた。
 しかし、レオンは返事をせずに自室に戻ってしまった。
「お父さん、最近どうしたの? 怒ってるの?」
 息子のマリユスが悲しそうにレオンの部屋の方を見る。
「そうね、お仕事が大変なのよ。そっとしておいてあげましょう」
 ローズはマリユスを慰めながら、口角を上げる。

 レオンが婚約者と別れた。思ってもない僥倖だった。
 いずれレオンの婚約者を追い詰めて別れさせようと思っていたが、勝手に別れてくれたのだ。
 今は別れのショックと、原因となったローズへの八つ当たりでこんな態度をとっているけど、もともとは馬鹿が付くくらい優しくお人好しな男。
 現に、出ていくよう言われてもとどまっているローズを力づくで追い出すこともできない。
 このまま居座って、殊勝な態度でいれば子供にほだされてまたこれまで通り一緒に暮らしていけるはず。
 そうローズは確信して、元夫に怯えながら、健気で尽くす女を演じ続けている。
 暴力を振るう夫なんて本当はいやしないのにね。
 そう言って泣けば手を差し伸べてくれる者のなんと多いことか。とローズは胸の内で嘲笑う。

 レオンもそのうちまた酔わせて体で慰めてやればいい、婚約者と別れて傷ついている今ならあっという間に落とせるだろう。念のためまた薬でも手に入れておくのもいいわね。
 数年前、貴族の坊ちゃんに取り入ることができたのにうっかりミスで台無しにしてしまった。せっかく薬で前後不覚にし、事後のように見せつけて別れるように仕向けたのに。
 二人はしばらく距離を置いたものの別れる気配はなかったから、彼の婚約者に妊娠をにおわせて身を引かせようとした。
 ただそのつもりだったのに、貴族として生まれて周りからポヤポヤと甘やかされてきた純粋そうな彼の婚約者に思わず苛立って突き飛ばしてしまった。自分はどれだけ苦労して生きてきたと思っているんだと自分のみじめな生活と比べて瞬間に怒りがわいたのだ。
 まさか突き飛ばしたくらいで死ぬなんて思わなかった。

 誰にも見られなかったはずだけど、あの貴族の坊ちゃんと死んだ婚約者の親が死因を調査するだろう。疑われることを恐れてすぐに離れ、流れ流れてこの土地にたどり着いた。
 その間もいろんな男に取り入ってきたが、いい加減渡り歩くのにも疲れた、ここらでもう安住の地を定めたい。
 そのためにはこのお人好しの男を手放すわけにはいかない。

 父親が誰かわからないこの子のためにも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

長年の恋に終止符を

mahiro
BL
あの人が大の女好きであることは有名です。 そんな人に恋をしてしまった私は何と哀れなことでしょうか。 男性など眼中になく、女性がいればすぐにでも口説く。 それがあの人のモットーというやつでしょう。 どれだけあの人を思っても、無駄だと分かっていながらなかなか終止符を打てない私についにチャンスがやってきました。 これで終らせることが出来る、そう思っていました。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

愛などもう求めない

一寸光陰
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 2025.4.28 ムーンライトノベルに投稿しました。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

処理中です...