コーヒーとCEOの秘密🔥他

シナモン

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コーヒーとCEOの秘密 (完)

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 このホテルの入る新宿パークタワーと同じく大型複合ビルだ。高級デパート、カフェ、ショップ、劇場、そして上階はホテルと居住区。
 毎日真下にセントラルパークを見下ろして暮らすなんて夢のある話だ。

「…一部空中庭園のような形をしているが、トップがハリウッドの製作会社のCEOと仲が良かったんだよ。ちょうど大作の撮影準備期間と重なったんだ」
「お話を伺うだけでわくわくしますね」
 話のスケールがね。
「一介の社員だがね。…おかげで免許はとれたが」
 だけど同じ弁護士の中でも上級職。
「近所の店で休んでいると、役員秘書が上司の悪口を言い合っていたな。‥‥私もそうなんだろう、空恐ろしいな」
 それは……。
「新体制ということでみんな身構えますわ。アメリカからご帰国となるとなおさら」
「それは私も同じだ。…同じことをやっているのになぜこんなに違うんだろうな」
 反応が?
「申し訳ありません、気づけなくて」
 なんだかこちらが悪いような気さえしてきた。さすが法曹出身、と思うべきか。
「まあ、それはどうしようもない。…一杯やってくか」

 お開きではなく同じフロアのバーコーナーへ席を変えた。
 やはり満点の夜景の特等席、

「いよいよ最後…。うまくやっていけるでしょうか」
「えらく感慨にふけるね。キミらしくないように思うが、どうなんだい」
「そうですね」らしくないわ。あんなことがあったからだろうか。
「…なんだか中途半端に出ていくようで心苦しいです。この先どうなるのか」
 冗談だろう、という表情をされた。
「キミの希望だろう? もしかしてあまりうれしくないのか」
「あんまり急だったもので…」
 彼はふっと微笑んで空気のかたまりをほどいた。
「キミはすごいな、どこの部署に行っても話が通じる。円山代議士の席でも君がいなかったら違う話になっていただろうな」
「え? どういう意味ですか」
「言われていただろう?ーー容姿がキミのようだったらこの道に進んでない、と」
「……よくあるご謙遜です。政治家ならなおさら…」
「そうなのだろうが、もしも真意だったら?」
「?……何も変わりませんわ」
 あの時は先生のトークダウンにがっかりしたけれど。
「政治家の討論なんてへりくだりのオンパレードでむしろそれを楽しんでいるように見えます」
「……言葉の言い回しも難しいね、謙譲語なんてないからね。目上に対する丁寧な言葉やフレーズはあっても、自分を下げて相手をもち上げる言い回しはない」
 向かい合った席に座り、スコッチのアイスがグラスと秘かな音を奏でる。
「だが内容は一緒だから、腹の探り合いになる。慣れてないと疲れるね。なじんだ頃に任期が終わってしまいそうだ」
 なじもうとしてないのではなくて、本当に苦心しているの?
「余計な一言で相手の腹の虫を起こしてしまわないか、ハラハラする。……腹の虫って何だろうな」
 また微笑んだ。軽いジョークのつもりか。
「文化の違いも…不安です」
「キミが望んでいるのだとばかり思っていたがね」
「私、何も知らなくて。野球部の件、先走ってしまいました」
「いや、参考になったよ。ドーム建設に野球部を絡めたのは最近だからね。事業化といえばそうだよな」
「そうですか」
「…元々は村上本部長だったらしいな、野球部を売り込んだの」
「え?」
 モヒートのグラスを持つ手が止まる。
「交流自体は前からあったらしいが、熱心に吹き込んだのは彼だそうだ。それが上に伝わり、メジャーやNPBはちょっと無理だが、従業員扱いの社会人野球はどうかという流れを作ったらしい。根回しが上手いんだろうね」
「それは…しりませんでした」
 遠征は行ったことがあるが、前会長からも詳しいいきさつは聞いてない。
「そりゃ部署が違うんだから、知らなくて当然だよ」
 とグラスを掲げた。
「独立リーグというのもあって日本のプロ野球と密接に絡んで、ほぼ下部組織化してるそうだ。内向きで助かったね」
「部長は…このことを見越して?」
「さあ、それはまだ聞いてない。向こうじゃ彼のことを悪くいう人間はいないそうだね。人望はあったんだな」
「え」 
「中東に10年いて、魔が差したのかね。いずれ帰国すれば重役の椅子が待っていただろうに」
「そんな…それじゃ」

『そんなつもりじゃなかったんだ』

 村上のあの言葉は嘘じゃなかった…?
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