会長にコーヒーを☕

シナモン

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5話 天敵とモール

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私リクエストのそこは今話題のレストラン。
会社から徒歩圏内、とくれば行かないわけにいかないわ。

私は予定を聞いてすぐに予約を入れた。
きっとご褒美のディナーがあるはずだからと。


レストラン「ロビンソン」。


新宿に期間限定でオープンした気まぐれレストラン。
創作料理、特に童話や物語にインスパイヤーされた料理に力を入れてるという。

会社を出て歩いて店に向かう間、私は会長に手を握られていた。

西新宿、会社のすぐ近くなのに会長は堂々としてる。

思えば最初からそうだったような?
なぜか……。

周りを気にしてキョロキョロしてしまうって。
誰かに見つかったら……。

ああ、こういう時私は思うの。
顔面レベルアップしたいって。
芸能人は無理でも会長と並んでぼちぼち見れるくらいにはなりたいな。
それならこんなに周りの視線を気にしなくていいのに…。


「会長、今日は付き合ってくださってありがとうございます。どんな料理が出てきても驚かないでくださいね。最近の流行りです」

店に到着するなり一応断りを入れておいた。
メニューはシェフお任せコースのみ。もう女子のことしか考えてない、メルヘン全開の店なのだ。

つくりも御伽の国仕様。広い店内に天幕がいくつも張られ、モンゴルのパオのおしゃれバージョンといった趣のそれぞれ個室みたいになってる。

「きみの好きそうな店だ」
「ええ、どうも」

早速言われてしまった。私がこの店を選んだのにはもう一つ訳がある。


すっかり私のお仕事になってしまった会食のメニューの参考にするのだ。
流行りのコンセプト料理にチャレンジするのよ。

「いらっしゃいませ~」

ターバンを巻いたラッパーっぽいお兄さんに案内され席に着く。
幕を下ろしてるので席は見えないけど歩いてるのカップルと女子ばかりだ。

会長は無言。ちょっと乙女チックすぎたかな。
キャンドルを模した間接照明で薄暗い中白い天幕にチラチラ光が流れ、既に妖しさマックスよ。

テーマパークみたいな演出が始まる。じゃーん、テーブルにプロジェクションマッピングの映像が走る。前菜が映像に重なって、テリーヌやチキンのロール巻きをエンブレムのように飾り立ててる。
カシャ…。
私は最新スマホかざしひたすら写メる。

「………きみ、そのくらいにしておいたらどうだ」

コホンとたしなめられた。

「す、すみません」

仕方なく引っ込めたけど、よそのお客の声や音が漏れる。きっとみんな写メって盛り上がってるんだろうに。

「はい、ヘルメスの金の斧です」

イソップ童話「金の斧銀の斧」モチーフのスープ、切り株をイメージした肉の塊。トリュフやフォアグラ他キノコ、芽キャベツ……その上に映像を被して、お皿の上は小さな森みたい。
またまたパシャ…。

「こら。また載せる気だな」
「違います~。ネットに上げるんじゃないです」

……最近SNS始めたのバレてるようだ。毎日出す料理を載せてるのだけど。
無粋なこと言うもんじゃないって。
こんなモロ撮られること意識した料理、撮らなきゃかわいそうでしょ。
私は「次の会食の参考にしたいんですっ」と言って押し切った。
「やれやれ……」

こういうの付き合わせて悪かったかな。
ちょっと反省したけどもうどうしようもない。
メニューは続く。

「ビーナス誕生」のコキーユ。→かわいいビーナスの人形(もちろんCG)が貝殻の上で踊ってる。
「チルチルミチルの青い鳥」ソーダ…。→水色のシャンパンの上で鳥(CG)がピヨピヨさえずっている。

会長、口を動かすだけで既に言葉はなく。

「白い教会のヘンゼルとグレーテルです」

ラスト、ターバン姿のお兄さんが持ってきた。

「通常はお菓子の家なんですけど、カップルの方にはこちらをお出ししております」


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