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1話 会長にコーヒーを
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名前だけは聞いていた。ていうか契約書に書いてあった。
九条成明――くじょうなるあき。
……ありえるの、そんな名前って。
「では、会長、わたくしはこれで」
「ご苦労」
さっさと出て行くし秘書室長。
――オイオイ、前ふりなし?
「――市川くん」
「は、はい」
低い声。
見つめられて心音が速くなる。
眼鏡かけてるけど……。
よくわかる。すごくシュッとした顔。
整ってるけど濃くなくって。
神経質そうでもあり……気品漂う。
なんか。
名前からして、やんごとなきお方って言うか。
……それが第一印象。
「君の任務は聞いてるな?」
「はい。あの、お茶をお出しするようにって」
「そう。それと整理整頓。そこのデスクのPCと給湯室、予備室は好きに使っていいが、それ以外は私が言ったものだけを触るように。あとでPCを起動させて君のメールアドレスを確認しておきなさい。――早速だが一杯いれてもらえるか? 給湯設備は左側のドアの向うにある」
「はい」
――心得ってこれだけ?
……みたいなのでいきなりコーヒーをいれる。
すっと指された向うのドアを開けると圧巻――。
ちょっとしたカフェの厨房だよ。まるで。
「……豆の挽き方。わかるかな」
「はい」
――すげ、さすが金持ちは違う。
呟きながら、私はバイトの要領を思い出してコーヒーをいれる。
この豆。焙煎したての真空パックだ。しかもブルマじゃん。
確かにコーヒー豆ってのは香りがすぐに飛んじゃうけど、カフェのお客さんでも本当にこだわってる人はそんなにいなかったな。
「お待たせしました。どうぞ」
「ん」
いい匂い。
この部屋。すごく広くて、書棚がぐるっと囲んでて。
全体的にカフェの雰囲気あるかも。
「ん……。美味いな」
さらっと言われる。
「……ありがとうございます」
御礼言うのも変だけど黙ってるのも失礼なのでそう答える。
カフェのお客さんに出してるみたいだな。
2、3歩後ずさりして、見て。
だって……カッコいいから。
ゆっくり、会長はカップを傾けて。
私は下がって、デスクに着席。
ノートPCだけが置いてある。
起動してメールボックス開いて、時間をやり過ごして。
飲み終えたらしい。
「もう一杯いれて」
「はい」
また近づいて。
何故か私はそこで腰をかがめた。
カフェでオーダー取るときみたいに……。
「次は薄めがよろしいですか?」
緊張してたのかどうなのか。でも、わざとじゃなくて。
この人、この部屋の雰囲気のせいかもしれない。
「……何だ? 何の真似だ」
会長はこっちを向き、表情を少しだけ崩した。
「あ、すみません。以前お店でこうしてたので。つい」
「……店? 面白いことをするな、君は。――いいよ。濃い目で。昨夜の酒が残っているんだ。すっきりさせたい」
「はい」
――面白いことって。
カフェでオーダーするとき店員がよくやってるじゃない。
こんな堅い反応されたの初めてよ?
プッと吹いてノッてくれれば、
『あ、ついくせで。やだ。――いかがいたしましょうか? お客様』
なんておどけられるんだけど。職場でもふざけてやってたし。
もしかして。
この人カフェに行ったことないの? コーヒー好きなのに。
この、下の職場が嘘のようなしーんとした静けさ。
ちょっと気まずくなって二杯目を入れる。
お出しして、今度は離れて見ていた。
見れば見るほどいい男だ。
――潔癖症か。まさにそんな感じ。
飲み終えて片付けるとき、尋ねてみる。
「あの、私はこの部屋にいていいんでしょうか」
「どうぞ。ここでも予備室でもご自由に。飲みたくなったら呼ぶから」
そう言われる。
――何だ、楽勝じゃん。
コーヒーいれてこぎれいにしてればいいんでしょ?
30万のためだ。頑張るぞ。
「どうだった? 会長」
定時を過ぎて秘書室に戻ると室長が近寄ってきた。
「はい。飲んでいただけました」
「――何もおっしゃってなかった?」
「?……はい」
特には。ちょっとびっくりされたのは別にセーフ、だよね? 言わなくても。
「本当にあれだけでいいんでしょうか。あの、他に書類の整理とかしなくても」
「それは……。秘書の者がやってるから。報告もPCを通してね。会長は人の出入りを嫌がるの」
「そうなんですか」
マジあれだけ? 楽勝じゃん。あんなカッコイイ人で。お昼までご一緒させてもらったし。
「本当に何も言われなかったの?」
「はい」
「お昼ご飯は」
「あ、ご馳走していただきました」
「えっ」
――会長さんに連れて行ってもらって。かなり高そうな店。
「……」
驚いた後、彼女は私の目をじっと見つめた。
だから何。その沈黙。
――別に普通だったけど?
あの人はずっとPCとにらめっこしてて。
私はカフェコーナー(と呼ばせてもらおう)のチェックをしたりして過ごしていた。
エスプレッソマシンまでマジカフェ並みに揃っていて、はりきっちゃって。
どこに何があるか覚えて、呼ばれりゃコーヒーいれて。全然守備範囲だ。
「……あの、ひとつ聞いていいですか」
「え、ええ」
「会長って、おいくつなんですか」
「……33歳よ」
――へー。そうなのか。
見た目は年相応って感じだけど、会長としてはかなり若くない?
「――そう。一緒にランチを。お咎めがなかったのならよかったわ。これからも頑張ってね」
「はい」
お咎め?
何か引っかかるけど。
(祝)正社員一日目は、そんなところだった。
九条成明――くじょうなるあき。
……ありえるの、そんな名前って。
「では、会長、わたくしはこれで」
「ご苦労」
さっさと出て行くし秘書室長。
――オイオイ、前ふりなし?
「――市川くん」
「は、はい」
低い声。
見つめられて心音が速くなる。
眼鏡かけてるけど……。
よくわかる。すごくシュッとした顔。
整ってるけど濃くなくって。
神経質そうでもあり……気品漂う。
なんか。
名前からして、やんごとなきお方って言うか。
……それが第一印象。
「君の任務は聞いてるな?」
「はい。あの、お茶をお出しするようにって」
「そう。それと整理整頓。そこのデスクのPCと給湯室、予備室は好きに使っていいが、それ以外は私が言ったものだけを触るように。あとでPCを起動させて君のメールアドレスを確認しておきなさい。――早速だが一杯いれてもらえるか? 給湯設備は左側のドアの向うにある」
「はい」
――心得ってこれだけ?
……みたいなのでいきなりコーヒーをいれる。
すっと指された向うのドアを開けると圧巻――。
ちょっとしたカフェの厨房だよ。まるで。
「……豆の挽き方。わかるかな」
「はい」
――すげ、さすが金持ちは違う。
呟きながら、私はバイトの要領を思い出してコーヒーをいれる。
この豆。焙煎したての真空パックだ。しかもブルマじゃん。
確かにコーヒー豆ってのは香りがすぐに飛んじゃうけど、カフェのお客さんでも本当にこだわってる人はそんなにいなかったな。
「お待たせしました。どうぞ」
「ん」
いい匂い。
この部屋。すごく広くて、書棚がぐるっと囲んでて。
全体的にカフェの雰囲気あるかも。
「ん……。美味いな」
さらっと言われる。
「……ありがとうございます」
御礼言うのも変だけど黙ってるのも失礼なのでそう答える。
カフェのお客さんに出してるみたいだな。
2、3歩後ずさりして、見て。
だって……カッコいいから。
ゆっくり、会長はカップを傾けて。
私は下がって、デスクに着席。
ノートPCだけが置いてある。
起動してメールボックス開いて、時間をやり過ごして。
飲み終えたらしい。
「もう一杯いれて」
「はい」
また近づいて。
何故か私はそこで腰をかがめた。
カフェでオーダー取るときみたいに……。
「次は薄めがよろしいですか?」
緊張してたのかどうなのか。でも、わざとじゃなくて。
この人、この部屋の雰囲気のせいかもしれない。
「……何だ? 何の真似だ」
会長はこっちを向き、表情を少しだけ崩した。
「あ、すみません。以前お店でこうしてたので。つい」
「……店? 面白いことをするな、君は。――いいよ。濃い目で。昨夜の酒が残っているんだ。すっきりさせたい」
「はい」
――面白いことって。
カフェでオーダーするとき店員がよくやってるじゃない。
こんな堅い反応されたの初めてよ?
プッと吹いてノッてくれれば、
『あ、ついくせで。やだ。――いかがいたしましょうか? お客様』
なんておどけられるんだけど。職場でもふざけてやってたし。
もしかして。
この人カフェに行ったことないの? コーヒー好きなのに。
この、下の職場が嘘のようなしーんとした静けさ。
ちょっと気まずくなって二杯目を入れる。
お出しして、今度は離れて見ていた。
見れば見るほどいい男だ。
――潔癖症か。まさにそんな感じ。
飲み終えて片付けるとき、尋ねてみる。
「あの、私はこの部屋にいていいんでしょうか」
「どうぞ。ここでも予備室でもご自由に。飲みたくなったら呼ぶから」
そう言われる。
――何だ、楽勝じゃん。
コーヒーいれてこぎれいにしてればいいんでしょ?
30万のためだ。頑張るぞ。
「どうだった? 会長」
定時を過ぎて秘書室に戻ると室長が近寄ってきた。
「はい。飲んでいただけました」
「――何もおっしゃってなかった?」
「?……はい」
特には。ちょっとびっくりされたのは別にセーフ、だよね? 言わなくても。
「本当にあれだけでいいんでしょうか。あの、他に書類の整理とかしなくても」
「それは……。秘書の者がやってるから。報告もPCを通してね。会長は人の出入りを嫌がるの」
「そうなんですか」
マジあれだけ? 楽勝じゃん。あんなカッコイイ人で。お昼までご一緒させてもらったし。
「本当に何も言われなかったの?」
「はい」
「お昼ご飯は」
「あ、ご馳走していただきました」
「えっ」
――会長さんに連れて行ってもらって。かなり高そうな店。
「……」
驚いた後、彼女は私の目をじっと見つめた。
だから何。その沈黙。
――別に普通だったけど?
あの人はずっとPCとにらめっこしてて。
私はカフェコーナー(と呼ばせてもらおう)のチェックをしたりして過ごしていた。
エスプレッソマシンまでマジカフェ並みに揃っていて、はりきっちゃって。
どこに何があるか覚えて、呼ばれりゃコーヒーいれて。全然守備範囲だ。
「……あの、ひとつ聞いていいですか」
「え、ええ」
「会長って、おいくつなんですか」
「……33歳よ」
――へー。そうなのか。
見た目は年相応って感じだけど、会長としてはかなり若くない?
「――そう。一緒にランチを。お咎めがなかったのならよかったわ。これからも頑張ってね」
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何か引っかかるけど。
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