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3話 はじめての課題
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「遠いなあ……」
山口を中心とした道路図を改めて見上げてため息が出た。
何が遠いかというと目的地と空港の距離だ。
こんなに離れてたんだ。
よくもしゃあしゃあと迎えに来させたな、私。
しかも全部高速だ。
空港~広島市に入ったところで一旦市街地へ降りて昼食。再び高速へ……そしてさらに山口~宇部。そこで高速を降り私を下ろしてまたまた高速……目的地の長門湯本温泉へ。
全然『ついで』じゃないじゃん。高速降りたりのったり……走行距離何キロになるんだろう。わー迷惑かけちゃった……。
「あともう少しやな」
彼氏がやって来た。
ランチ後山陽自動車道をひたすら下り、下松サービスエリアでちょっとひといき中の私たちである。あきえはメイク直しに行っている。
「どうもありがとうございました。わざわざ迎えに来ていだいて」
今更ながら再度感謝の意を述べる。彼氏は全然気にしてない様子だ。むしろかしこまってお礼を言われたことにちょっとびっくりしてる感じ。走り屋の彼氏の時はこんなじゃなかった。車でどこまでも行きたい男についてくのみ。車を走らせるのが目的だった。お礼も何もない。
「遠いなあって思って」
「え、何が」
何もかも。こうして地図見ると自分がありんこ程度の存在だってのがよくわかる。私は車を保有するどころか免許すら持ってないのだ。会長のように金持ちでもないし。あーあ、現実……。
「明日は実家に帰ろうと思ってたんだけど……バス出てたかな」
「バス? 松江まで? バスはないやろ」
やっぱそうか。ぼんやりバスで帰ろうなんて思っていたけど、東京に戻ったほうが無難かな。
「なに、帰るん? バス乗り継ぐんやったらJRのが断然早いやろ。特急が走っとったはずや。スーパーおきやったかな」
スーパーおき! なんてローカルな響きなんだ。
「そんなのありましたかね」
「あるで。鳥取行きか、米子止まりか。明日遅いん?」
「うーーん、3時くらいかなあ」
「夕方新山口発がなかったかな。2、3便あったと思うで。そんなかからんはずや。4時間切るで」
……それは確かに早いな。しかしそれでも4時間弱。笑っちゃうわ。おーい何が『キミにとっては庭だろう』なの。会長…。
「夕日見れるんちゃう? 日本海の。益田~松江……ぎりぎり見えへんやろか。山口線が時間かかるねん」
「夕日かあ」
そういえばそんなもん見れるんだあ。ずっと海岸沿いだからね。しかし恐ろしいほど何もない沿線だ。
「山陰本線て絶景続きやろ。地元のもんにはそうでもないんか? 俺なんぼでもシャッター切ってしまいそうや」
そうかあ。夕日なんてあんまし見ないなあ。ノリで出雲まで初日の出を見に行くくらいだ。観光ポスターでよく見る『宍道湖に沈む夕陽』あれもじっくり見たことないかも。うち沿岸部じゃないし。
「津和野で時間潰してもええかもな。うまい駅弁あったやろ」
「駅弁?」
「ああ。ちらし寿司のような……炊き込みのな」
へええ。なんか美味しそう。でも……。
「津和野かあ……」
私が大きなため息をつくと彼氏は笑った。
「なんやなんや……つまらんか? 津和野」
「まだ山口の方が時間潰せそう」
そう返すともっとおかしそうに笑われてしまった。「あきも同じ反応やったで」彼氏の目尻にシワが寄る。もちろんおっさんのシワじゃなくて素敵な笑いジワだ。その笑顔チョー素敵だ。
ちなみに私の男のチェックポイントのひとつに髪の色と質感がある。この人みたいな感じだとベスト。深いこっくりした栗のような色で耳のところでぐりっとうねってる。この格好良いカール具合。いいわぁ…。髪の色も真っ黒よりはブラウンだ。今の会長の髪の色から気持ち黄色が増した、美容室でカラーしてもらうときに見せてもらうカラーサンプル一束分くらい明るい感じ。イケメンて髪の色も重要よ。
「なんでや同じ小京都仲間やん」
彼氏はそんな私の品定めなど気づくわけもなく苦笑した。
小京都……ううむ。
「道後に行く前にな『津和野はどうや』きいたんや。そしたら、『何しに行くん?』言われたわ。即答やったで」
そうねえ。それはおそらく…。
「津和野……立派な島根の観光地やろ。女の子好きそうやけどな」
そう。津和野は山口だと思われがちだが、島根県なのである。
「そうなんだけど」
山陰の小京都? SLやまぐち号? それがどうした。悪いが私も同様の返事をするだろう。
山あいの小さな町である。昔ながらの古民家が数多く残っていて、道ばたの水路には鯉が泳いでたりする。
たしかに風情はある。だが実際古民家が実家な私には??なのだ。
正確には古民家なのは実家のおじいちゃんとおばあちゃんの住んでる母屋だが。
いまだに囲炉裏、かまど、井戸健在で、そんな家近所にごろごろある。
つまり松江市の外れもいいところなのですよ。
そういう家に住んでてわざわざ同じようなところに旅行に……同じような宿にお金だして泊まろうなどとは思えないのである。きっと津和野の女の子も同じような理由で松江には興味もたないはずよ!
「二人とも家が松江の奥なんで、古民家にはあんまり惹かれないんじゃないかなあ・・。松江からだと微妙に遠いんですよ。アハハ」行かないのよ、島根県西部って。県西部の人間も東部にはめったに来ないだろう。何キロ離れてると思ってて?
「ははっ、そうなんや」
おじいちゃんち…さすがに最近はかまどは封印してるが。
代わりに電子レンジなる文明の利器が登場し、それと囲炉裏で暖房も料理もこと足るという。
まあついつい自虐的になってしまうが中々捨てたもんではないのだ。
滅多にないけど断水時とか停電のときとか威力を発揮。同じ敷地の我が家族も助かるのである。
囲炉裏に食材を突き刺しておけば30分後には炭火焼ができてるしね。
天井すすだらけだが害虫寄けにもなってるし。
真冬でも囲炉裏に火を起こしておけば家全体があったかい。
がらんと広いのでごろごろするにはうってつけである。
『またこんなところで寝とる。ねこみたいなやっちゃ』
なんてよく足で蹴っ飛ばされそうになったもんだ。
私のニャンコロ属性はそんなところから来ているのかもしれない。
タクシーで会長によしよしされてる自分の姿を思い浮かべてそう思った。
だがしかし。
「お寿司……美味しそう」
「そやろ? 食べるだけでも寄ってみたら。きっと気に入る思うで、津和野もな」
ふ、ふうん? たまにはJRの旅もいいかも……なんて思えてきたりして。
上手いことすすめるじゃん! この人仕事何してるのか聞いてなかったけど、JRの回し者?
会長もこんな風に言ってくれればいいのに。
『津和野に美味しい駅弁があるだろう? それを食べながら夕日を見ていれば3時間少々の旅なんてあっというまだよ。益田からずっと綺麗な海岸線が続くんだ。停車中にシャッターを押すと旅の記録にもなるだろう。カメラは断然一眼レフだね』
なあんてね。
ナイナイ。
そもそもスーパーおきなんてローカル中のローカルな列車知りもしないだろう。
◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇
津和野はとっても素敵な場所です。上記の駅弁はなくなってしまいました😢
山口を中心とした道路図を改めて見上げてため息が出た。
何が遠いかというと目的地と空港の距離だ。
こんなに離れてたんだ。
よくもしゃあしゃあと迎えに来させたな、私。
しかも全部高速だ。
空港~広島市に入ったところで一旦市街地へ降りて昼食。再び高速へ……そしてさらに山口~宇部。そこで高速を降り私を下ろしてまたまた高速……目的地の長門湯本温泉へ。
全然『ついで』じゃないじゃん。高速降りたりのったり……走行距離何キロになるんだろう。わー迷惑かけちゃった……。
「あともう少しやな」
彼氏がやって来た。
ランチ後山陽自動車道をひたすら下り、下松サービスエリアでちょっとひといき中の私たちである。あきえはメイク直しに行っている。
「どうもありがとうございました。わざわざ迎えに来ていだいて」
今更ながら再度感謝の意を述べる。彼氏は全然気にしてない様子だ。むしろかしこまってお礼を言われたことにちょっとびっくりしてる感じ。走り屋の彼氏の時はこんなじゃなかった。車でどこまでも行きたい男についてくのみ。車を走らせるのが目的だった。お礼も何もない。
「遠いなあって思って」
「え、何が」
何もかも。こうして地図見ると自分がありんこ程度の存在だってのがよくわかる。私は車を保有するどころか免許すら持ってないのだ。会長のように金持ちでもないし。あーあ、現実……。
「明日は実家に帰ろうと思ってたんだけど……バス出てたかな」
「バス? 松江まで? バスはないやろ」
やっぱそうか。ぼんやりバスで帰ろうなんて思っていたけど、東京に戻ったほうが無難かな。
「なに、帰るん? バス乗り継ぐんやったらJRのが断然早いやろ。特急が走っとったはずや。スーパーおきやったかな」
スーパーおき! なんてローカルな響きなんだ。
「そんなのありましたかね」
「あるで。鳥取行きか、米子止まりか。明日遅いん?」
「うーーん、3時くらいかなあ」
「夕方新山口発がなかったかな。2、3便あったと思うで。そんなかからんはずや。4時間切るで」
……それは確かに早いな。しかしそれでも4時間弱。笑っちゃうわ。おーい何が『キミにとっては庭だろう』なの。会長…。
「夕日見れるんちゃう? 日本海の。益田~松江……ぎりぎり見えへんやろか。山口線が時間かかるねん」
「夕日かあ」
そういえばそんなもん見れるんだあ。ずっと海岸沿いだからね。しかし恐ろしいほど何もない沿線だ。
「山陰本線て絶景続きやろ。地元のもんにはそうでもないんか? 俺なんぼでもシャッター切ってしまいそうや」
そうかあ。夕日なんてあんまし見ないなあ。ノリで出雲まで初日の出を見に行くくらいだ。観光ポスターでよく見る『宍道湖に沈む夕陽』あれもじっくり見たことないかも。うち沿岸部じゃないし。
「津和野で時間潰してもええかもな。うまい駅弁あったやろ」
「駅弁?」
「ああ。ちらし寿司のような……炊き込みのな」
へええ。なんか美味しそう。でも……。
「津和野かあ……」
私が大きなため息をつくと彼氏は笑った。
「なんやなんや……つまらんか? 津和野」
「まだ山口の方が時間潰せそう」
そう返すともっとおかしそうに笑われてしまった。「あきも同じ反応やったで」彼氏の目尻にシワが寄る。もちろんおっさんのシワじゃなくて素敵な笑いジワだ。その笑顔チョー素敵だ。
ちなみに私の男のチェックポイントのひとつに髪の色と質感がある。この人みたいな感じだとベスト。深いこっくりした栗のような色で耳のところでぐりっとうねってる。この格好良いカール具合。いいわぁ…。髪の色も真っ黒よりはブラウンだ。今の会長の髪の色から気持ち黄色が増した、美容室でカラーしてもらうときに見せてもらうカラーサンプル一束分くらい明るい感じ。イケメンて髪の色も重要よ。
「なんでや同じ小京都仲間やん」
彼氏はそんな私の品定めなど気づくわけもなく苦笑した。
小京都……ううむ。
「道後に行く前にな『津和野はどうや』きいたんや。そしたら、『何しに行くん?』言われたわ。即答やったで」
そうねえ。それはおそらく…。
「津和野……立派な島根の観光地やろ。女の子好きそうやけどな」
そう。津和野は山口だと思われがちだが、島根県なのである。
「そうなんだけど」
山陰の小京都? SLやまぐち号? それがどうした。悪いが私も同様の返事をするだろう。
山あいの小さな町である。昔ながらの古民家が数多く残っていて、道ばたの水路には鯉が泳いでたりする。
たしかに風情はある。だが実際古民家が実家な私には??なのだ。
正確には古民家なのは実家のおじいちゃんとおばあちゃんの住んでる母屋だが。
いまだに囲炉裏、かまど、井戸健在で、そんな家近所にごろごろある。
つまり松江市の外れもいいところなのですよ。
そういう家に住んでてわざわざ同じようなところに旅行に……同じような宿にお金だして泊まろうなどとは思えないのである。きっと津和野の女の子も同じような理由で松江には興味もたないはずよ!
「二人とも家が松江の奥なんで、古民家にはあんまり惹かれないんじゃないかなあ・・。松江からだと微妙に遠いんですよ。アハハ」行かないのよ、島根県西部って。県西部の人間も東部にはめったに来ないだろう。何キロ離れてると思ってて?
「ははっ、そうなんや」
おじいちゃんち…さすがに最近はかまどは封印してるが。
代わりに電子レンジなる文明の利器が登場し、それと囲炉裏で暖房も料理もこと足るという。
まあついつい自虐的になってしまうが中々捨てたもんではないのだ。
滅多にないけど断水時とか停電のときとか威力を発揮。同じ敷地の我が家族も助かるのである。
囲炉裏に食材を突き刺しておけば30分後には炭火焼ができてるしね。
天井すすだらけだが害虫寄けにもなってるし。
真冬でも囲炉裏に火を起こしておけば家全体があったかい。
がらんと広いのでごろごろするにはうってつけである。
『またこんなところで寝とる。ねこみたいなやっちゃ』
なんてよく足で蹴っ飛ばされそうになったもんだ。
私のニャンコロ属性はそんなところから来ているのかもしれない。
タクシーで会長によしよしされてる自分の姿を思い浮かべてそう思った。
だがしかし。
「お寿司……美味しそう」
「そやろ? 食べるだけでも寄ってみたら。きっと気に入る思うで、津和野もな」
ふ、ふうん? たまにはJRの旅もいいかも……なんて思えてきたりして。
上手いことすすめるじゃん! この人仕事何してるのか聞いてなかったけど、JRの回し者?
会長もこんな風に言ってくれればいいのに。
『津和野に美味しい駅弁があるだろう? それを食べながら夕日を見ていれば3時間少々の旅なんてあっというまだよ。益田からずっと綺麗な海岸線が続くんだ。停車中にシャッターを押すと旅の記録にもなるだろう。カメラは断然一眼レフだね』
なあんてね。
ナイナイ。
そもそもスーパーおきなんてローカル中のローカルな列車知りもしないだろう。
◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇
津和野はとっても素敵な場所です。上記の駅弁はなくなってしまいました😢
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