会長にコーヒーを☕

シナモン

文字の大きさ
63 / 153
3話 はじめての課題

23

しおりを挟む
「遠いなあ……」

山口を中心とした道路図を改めて見上げてため息が出た。
何が遠いかというと目的地と空港の距離だ。
こんなに離れてたんだ。
よくもしゃあしゃあと迎えに来させたな、私。
しかも全部高速だ。
空港~広島市に入ったところで一旦市街地へ降りて昼食。再び高速へ……そしてさらに山口~宇部。そこで高速を降り私を下ろしてまたまた高速……目的地の長門湯本温泉へ。
全然『ついで』じゃないじゃん。高速降りたりのったり……走行距離何キロになるんだろう。わー迷惑かけちゃった……。
「あともう少しやな」
彼氏がやって来た。
ランチ後山陽自動車道をひたすら下り、下松サービスエリアでちょっとひといき中の私たちである。あきえはメイク直しに行っている。
「どうもありがとうございました。わざわざ迎えに来ていだいて」
今更ながら再度感謝の意を述べる。彼氏は全然気にしてない様子だ。むしろかしこまってお礼を言われたことにちょっとびっくりしてる感じ。走り屋の彼氏の時はこんなじゃなかった。車でどこまでも行きたい男についてくのみ。車を走らせるのが目的だった。お礼も何もない。
「遠いなあって思って」
「え、何が」
何もかも。こうして地図見ると自分がありんこ程度の存在だってのがよくわかる。私は車を保有するどころか免許すら持ってないのだ。会長のように金持ちでもないし。あーあ、現実……。
「明日は実家に帰ろうと思ってたんだけど……バス出てたかな」
「バス? 松江まで? バスはないやろ」
やっぱそうか。ぼんやりバスで帰ろうなんて思っていたけど、東京に戻ったほうが無難かな。
「なに、帰るん? バス乗り継ぐんやったらJRのが断然早いやろ。特急が走っとったはずや。スーパーおきやったかな」
スーパーおき! なんてローカルな響きなんだ。
「そんなのありましたかね」
「あるで。鳥取行きか、米子止まりか。明日遅いん?」
「うーーん、3時くらいかなあ」
「夕方新山口発がなかったかな。2、3便あったと思うで。そんなかからんはずや。4時間切るで」
……それは確かに早いな。しかしそれでも4時間弱。笑っちゃうわ。おーい何が『キミにとっては庭だろう』なの。会長…。
「夕日見れるんちゃう? 日本海の。益田~松江……ぎりぎり見えへんやろか。山口線が時間かかるねん」
「夕日かあ」
そういえばそんなもん見れるんだあ。ずっと海岸沿いだからね。しかし恐ろしいほど何もない沿線だ。
「山陰本線て絶景続きやろ。地元のもんにはそうでもないんか? 俺なんぼでもシャッター切ってしまいそうや」
そうかあ。夕日なんてあんまし見ないなあ。ノリで出雲まで初日の出を見に行くくらいだ。観光ポスターでよく見る『宍道湖に沈む夕陽』あれもじっくり見たことないかも。うち沿岸部じゃないし。
「津和野で時間潰してもええかもな。うまい駅弁あったやろ」
「駅弁?」
「ああ。ちらし寿司のような……炊き込みのな」
へええ。なんか美味しそう。でも……。
「津和野かあ……」
私が大きなため息をつくと彼氏は笑った。
「なんやなんや……つまらんか? 津和野」
「まだ山口の方が時間潰せそう」
そう返すともっとおかしそうに笑われてしまった。「あきも同じ反応やったで」彼氏の目尻にシワが寄る。もちろんおっさんのシワじゃなくて素敵な笑いジワだ。その笑顔チョー素敵だ。
ちなみに私の男のチェックポイントのひとつに髪の色と質感がある。この人みたいな感じだとベスト。深いこっくりした栗のような色で耳のところでぐりっとうねってる。この格好良いカール具合。いいわぁ…。髪の色も真っ黒よりはブラウンだ。今の会長の髪の色から気持ち黄色が増した、美容室でカラーしてもらうときに見せてもらうカラーサンプル一束分くらい明るい感じ。イケメンて髪の色も重要よ。
「なんでや同じ小京都仲間やん」
彼氏はそんな私の品定めなど気づくわけもなく苦笑した。
小京都……ううむ。
「道後に行く前にな『津和野はどうや』きいたんや。そしたら、『何しに行くん?』言われたわ。即答やったで」
そうねえ。それはおそらく…。
「津和野……立派な島根の観光地やろ。女の子好きそうやけどな」
そう。津和野は山口だと思われがちだが、島根県なのである。
「そうなんだけど」
山陰の小京都? SLやまぐち号? それがどうした。悪いが私も同様の返事をするだろう。
山あいの小さな町である。昔ながらの古民家が数多く残っていて、道ばたの水路には鯉が泳いでたりする。
たしかに風情はある。だが実際古民家が実家な私には??なのだ。
正確には古民家なのは実家のおじいちゃんとおばあちゃんの住んでる母屋だが。
いまだに囲炉裏、かまど、井戸健在で、そんな家近所にごろごろある。
つまり松江市の外れもいいところなのですよ。
そういう家に住んでてわざわざ同じようなところに旅行に……同じような宿にお金だして泊まろうなどとは思えないのである。きっと津和野の女の子も同じような理由で松江には興味もたないはずよ!
「二人とも家が松江の奥なんで、古民家にはあんまり惹かれないんじゃないかなあ・・。松江からだと微妙に遠いんですよ。アハハ」行かないのよ、島根県西部って。県西部の人間も東部にはめったに来ないだろう。何キロ離れてると思ってて?
「ははっ、そうなんや」
おじいちゃんち…さすがに最近はかまどは封印してるが。
代わりに電子レンジなる文明の利器が登場し、それと囲炉裏で暖房も料理もこと足るという。
まあついつい自虐的になってしまうが中々捨てたもんではないのだ。
滅多にないけど断水時とか停電のときとか威力を発揮。同じ敷地の我が家族も助かるのである。
囲炉裏に食材を突き刺しておけば30分後には炭火焼ができてるしね。
天井すすだらけだが害虫寄けにもなってるし。
真冬でも囲炉裏に火を起こしておけば家全体があったかい。
がらんと広いのでごろごろするにはうってつけである。

『またこんなところで寝とる。ねこみたいなやっちゃ』

なんてよく足で蹴っ飛ばされそうになったもんだ。
私のニャンコロ属性はそんなところから来ているのかもしれない。
タクシーで会長によしよしされてる自分の姿を思い浮かべてそう思った。
だがしかし。

「お寿司……美味しそう」
「そやろ? 食べるだけでも寄ってみたら。きっと気に入る思うで、津和野もな」

ふ、ふうん? たまにはJRの旅もいいかも……なんて思えてきたりして。
上手いことすすめるじゃん! この人仕事何してるのか聞いてなかったけど、JRの回し者?
会長もこんな風に言ってくれればいいのに。

『津和野に美味しい駅弁があるだろう? それを食べながら夕日を見ていれば3時間少々の旅なんてあっというまだよ。益田からずっと綺麗な海岸線が続くんだ。停車中にシャッターを押すと旅の記録にもなるだろう。カメラは断然一眼レフだね』

なあんてね。
ナイナイ。
そもそもスーパーおきなんてローカル中のローカルな列車知りもしないだろう。

◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇

津和野はとっても素敵な場所です。上記の駅弁はなくなってしまいました😢
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...