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3話 はじめての課題
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あきえが戻ってくると 彼氏は何か買ってくると言って建物の方に向かった。私たちはテラスに座ってそれを見ていた。
「めっちゃいい人じゃん。いいなあ、あっき」
「えへへ、でしょ。いつもあんな感じ。この人怒ったことないんじゃないかってくらい穏やかなんだ」
「へぇー」
なんて唸っちゃうよね。そんな人いるんだ。
「車で遠出してもさ、見る景色が違って見えるんだよね。あれ、こここんなだったっけ? こんな店あった?とかさ。ゆったりしていられるの」
うーん。それは、前彼との比較かな。前彼はチャキチャキしてて面白い人ではあったが、ツーといえばカー、つまらんボケは許さへん、て感じだったわ。関西人じゃないけど。
一方現彼氏は遠くでお馴染みのものを買ってくれてるようだ。
「頭の中流れる音楽が変わった。悲しい曲がどこかへ消えて思い出せなくなったの」
「ふうん?」
彼氏が戻ってきた。
「リクエストなんでもいい、言うてもやっぱこれやろ。な、ハイ」
「わーい、ありがと」
みかんのソフトクリームだ。
「きゃー安定の美味しさ」
「久しぶりだわー」
ドライブでだれた体にはコレでしょ。ご当地ソフト。甘ったるくなくてシャキッとする。
「しまなみでも食べたよねー、みっくん。ジュースも美味しかったなー」
ハイハイ‥‥。みかんソフトを食べているにもかかわらず手を握って。ラブなひとたちだよ。何なのサ‥‥。
西の果て下関の手前、高速出口が近づいてきた。
「うわ、なつかし」
「よく遊んだよね~この辺。あと、秋吉台とかさ」
つい私が呟くとあきえが振り返った。山口のこの辺りはかつて私たちの『庭』だった。
「なつかしーねー、あのころ‥‥若かったわあ。うちらも年取ったなあ」
「なんや、年寄りみたいに。ほんの 5、6年前やろ」
彼氏が笑いながら言った。
「ちがーう、私、高校出てすぐ免許とったもん。やから、10年近く前。練習にって高速使わせてもらいました」
そう。帰省すると地元友とドライブ。私は乗せてもらった口だ。
「おなじみ宍道湖一周もね」
「そうっ、そうそう。初ドライブはそれだよねー、うちら山陰の民は」
「あはっ、そうなんや。俺らで言う琵琶湖一周みたいなんがあるんやな」
あきえの初車。それは小さな中古の軽だった。おっかなびっくり(ヤンチャ系)女子旅に出ることもしばしば。ヤンチャな男子にちょっかい出されたこともあったな。それが今はこんな素敵な彼氏の運転で。感慨深いわ。
「俺の初ドライブは九州やったわ。虹の松原もええで。ほんま車あると誰もじっとしとらんねん。思い立って小倉に飯食いに行ったり、訳もなく阿蘇の蕎麦街道抜けたりな。なかなかおもろいで。景色が違うねん。今度連れてったるわ」
「わーい」
この彼氏。何がいいって独特のこのイントネーションが心地いい。神戸と福岡と広島のいいとこ取りしたような、柔らかい関西弁なのだよ。間違っても任侠系じゃおまへんで! その当時上京したての私にはド田舎としか映らなかった風景の筈なのに‥‥のどかで優しい‥‥何だかおとぎ話の世界にいるようだ。
「えー、ここ?」
ナビの案内通りに到着した場所は‥‥海と川の混じるだだっ広い空き地というか草っ原というか‥‥コンクリートの門構えらしきものの前に車は止まった。
ここでしょうね。奥にビルが見えるわ。ああ、現実。
「どうもありがとうございました。あっき、わざわざ寄ってもらってありがとー。またメールする」
「うん。こっちこそ。久々会えて楽しかった」
「じゃあ、彼氏さんとごゆっくり」
と、ニコリ。行こうとした私の腕をあきえが引っ張った。
「かーな、東京のカレ、今度紹介してよっ」
えっ‥‥。
「じゃあねえ、バイバイ」
るんっと振り返り、あきえは車に戻った。
違うんだって。
反論する隙もない。
荒地の向こうから人々が現れた。
「遠路はるばるようこそ! お待ちしておりました」
中年のおじさんたちが、にこにこ手を合わせてやってきた。
途端に空気が変わった。
荷物を置いて古ぼけたビルの向こうに広がる敷地を案内してもらう。コンクリのブロック塀がちょこちょこ連なり何かの跡地のようだ。
「今はこんなですが、昔は立派な計画もあったんですよ。遊園地になる予定でした」
「はあ‥‥」
そういえばそんなこと書いてあったな?
顔に出さないように記憶を辿る私。
おじさんたち四人。長い昔話が続いた。
「‥‥それはもう私どもの悲願でして。会長様にお声をかけていただいて生き返った気持ちです」
ちょっと会長、こんな小娘に重すぎやしませんか。私は 精一杯口角を上げ頷いた。
「あのう、すみません。これ‥‥目を通しておいてもらえますか」
「はい」
「事業計画書というか、要望書なんですが」
と資料を渡された。
「明日の視察まで是非お目通しを」
視察‥‥。息を吐き、受け取ったオレンジの表紙に視線を落とした。
なんだこれ。
『(仮)オエビランド 開発事業実施計画書』って書いてあるぞ。
「めっちゃいい人じゃん。いいなあ、あっき」
「えへへ、でしょ。いつもあんな感じ。この人怒ったことないんじゃないかってくらい穏やかなんだ」
「へぇー」
なんて唸っちゃうよね。そんな人いるんだ。
「車で遠出してもさ、見る景色が違って見えるんだよね。あれ、こここんなだったっけ? こんな店あった?とかさ。ゆったりしていられるの」
うーん。それは、前彼との比較かな。前彼はチャキチャキしてて面白い人ではあったが、ツーといえばカー、つまらんボケは許さへん、て感じだったわ。関西人じゃないけど。
一方現彼氏は遠くでお馴染みのものを買ってくれてるようだ。
「頭の中流れる音楽が変わった。悲しい曲がどこかへ消えて思い出せなくなったの」
「ふうん?」
彼氏が戻ってきた。
「リクエストなんでもいい、言うてもやっぱこれやろ。な、ハイ」
「わーい、ありがと」
みかんのソフトクリームだ。
「きゃー安定の美味しさ」
「久しぶりだわー」
ドライブでだれた体にはコレでしょ。ご当地ソフト。甘ったるくなくてシャキッとする。
「しまなみでも食べたよねー、みっくん。ジュースも美味しかったなー」
ハイハイ‥‥。みかんソフトを食べているにもかかわらず手を握って。ラブなひとたちだよ。何なのサ‥‥。
西の果て下関の手前、高速出口が近づいてきた。
「うわ、なつかし」
「よく遊んだよね~この辺。あと、秋吉台とかさ」
つい私が呟くとあきえが振り返った。山口のこの辺りはかつて私たちの『庭』だった。
「なつかしーねー、あのころ‥‥若かったわあ。うちらも年取ったなあ」
「なんや、年寄りみたいに。ほんの 5、6年前やろ」
彼氏が笑いながら言った。
「ちがーう、私、高校出てすぐ免許とったもん。やから、10年近く前。練習にって高速使わせてもらいました」
そう。帰省すると地元友とドライブ。私は乗せてもらった口だ。
「おなじみ宍道湖一周もね」
「そうっ、そうそう。初ドライブはそれだよねー、うちら山陰の民は」
「あはっ、そうなんや。俺らで言う琵琶湖一周みたいなんがあるんやな」
あきえの初車。それは小さな中古の軽だった。おっかなびっくり(ヤンチャ系)女子旅に出ることもしばしば。ヤンチャな男子にちょっかい出されたこともあったな。それが今はこんな素敵な彼氏の運転で。感慨深いわ。
「俺の初ドライブは九州やったわ。虹の松原もええで。ほんま車あると誰もじっとしとらんねん。思い立って小倉に飯食いに行ったり、訳もなく阿蘇の蕎麦街道抜けたりな。なかなかおもろいで。景色が違うねん。今度連れてったるわ」
「わーい」
この彼氏。何がいいって独特のこのイントネーションが心地いい。神戸と福岡と広島のいいとこ取りしたような、柔らかい関西弁なのだよ。間違っても任侠系じゃおまへんで! その当時上京したての私にはド田舎としか映らなかった風景の筈なのに‥‥のどかで優しい‥‥何だかおとぎ話の世界にいるようだ。
「えー、ここ?」
ナビの案内通りに到着した場所は‥‥海と川の混じるだだっ広い空き地というか草っ原というか‥‥コンクリートの門構えらしきものの前に車は止まった。
ここでしょうね。奥にビルが見えるわ。ああ、現実。
「どうもありがとうございました。あっき、わざわざ寄ってもらってありがとー。またメールする」
「うん。こっちこそ。久々会えて楽しかった」
「じゃあ、彼氏さんとごゆっくり」
と、ニコリ。行こうとした私の腕をあきえが引っ張った。
「かーな、東京のカレ、今度紹介してよっ」
えっ‥‥。
「じゃあねえ、バイバイ」
るんっと振り返り、あきえは車に戻った。
違うんだって。
反論する隙もない。
荒地の向こうから人々が現れた。
「遠路はるばるようこそ! お待ちしておりました」
中年のおじさんたちが、にこにこ手を合わせてやってきた。
途端に空気が変わった。
荷物を置いて古ぼけたビルの向こうに広がる敷地を案内してもらう。コンクリのブロック塀がちょこちょこ連なり何かの跡地のようだ。
「今はこんなですが、昔は立派な計画もあったんですよ。遊園地になる予定でした」
「はあ‥‥」
そういえばそんなこと書いてあったな?
顔に出さないように記憶を辿る私。
おじさんたち四人。長い昔話が続いた。
「‥‥それはもう私どもの悲願でして。会長様にお声をかけていただいて生き返った気持ちです」
ちょっと会長、こんな小娘に重すぎやしませんか。私は 精一杯口角を上げ頷いた。
「あのう、すみません。これ‥‥目を通しておいてもらえますか」
「はい」
「事業計画書というか、要望書なんですが」
と資料を渡された。
「明日の視察まで是非お目通しを」
視察‥‥。息を吐き、受け取ったオレンジの表紙に視線を落とした。
なんだこれ。
『(仮)オエビランド 開発事業実施計画書』って書いてあるぞ。
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