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6話 甘い言葉にご用心
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見るからに字面の強い『別格』名字ってあるじゃないですか、日本には。
九条高広くんは生まれながらにそのような高貴な氏をお持ちなのですよ。
世が世なら、
『この紋所が目に入らぬか…(略)…控えおろう!』
『ははー…。』ってやつ。
事情聴取? 何言ってんの、下々のものが軽々しく口をきくでない、頭が高いわ!
「申し訳ありません。こちらの手違いでした」
おわかりになればよろしいのですよ? 土下座して謝れ、などと申しませんわ。
「ご協力感謝します」
とはいえ現実はちょっと違う。めちゃ暑い屋外から簡易な寄り合い所のような建物に通され、確認に待たされ、結局東京行き最終の新幹線には間に合わず、飛行機ははなから×。
と、いうわけで高広くんと私は翌日あさイチののぞみで東京を目指したのだった。
「高広、警察の世話になったそうだな」
ひえっ。
会長室に入るなり、厳しい言葉でお出迎え。新幹線で4時間半かかるので、到着したのはほぼお昼だ。
「お前…何をしていたんだ。詐欺集団が捕まったと言うからその報告かと思えば…。いや、それより」ちろんと私の方へ視線を滑らせ、
「 何故 君が一緒にいるんだ 💢 」
「あ、ははい…」私は震えながら、何と答えてよいかわからなかった。えーん、松江までやってきてですね、コイツがぁ…。
会長の目怖い…。言ってもダメだ。『なぜついて行った?』と返されて終わりだ。
知りませんよっ、問い詰めるなら弟くんにしてくださいよ。私は一応帰ろうと努力はした。
「お前、警察に情報を流して暮らしていたのか」いきさつはほぼ正確に伝えられているようだ。
「そうじゃないけど…申し訳ありませんでした」高広くんは素直に謝る。
「匿名で犯人の素性を知らせたそうだな。明確な裏も取って。相変わらずスキルは素晴らしいな。是非我が社に欲しいものだ」
私もね、まさかあんな形で津和野を訪れることになろうとは思いもしませんでしたよ。鉄オタ紀行が…最後は警察なんて。
「ふっ、高広、よく戻ってきてくれたな」不意に会長の表情が緩む。
「兄さん」
弟の肩に手を置いて。
何はともあれ、待ちに待った感動のご対面だ。
うるっときた。
「こんな再会でもな」
会長、どんどん優しい顔になってく。
よかった―、高広くんたら、正直にホテルの前とか会社とかで会えばいいのに、鉄オタごっこなんて、私まで巻き込んで。さっさとお兄さんを安心させてあげてよね、素直になりなさい、気ままなお坊ちゃまくん。
「ちょっと手伝ってもらったんだよ。兄さんのそばに女性の社員がついていることは知っていたから。ちょうど松江にいるっていうし。話が早いだろ?」
だが詐欺仲間と勘違いされたのがショックだったのか、私が彼の名前を出したのが気に食わないのか、高広くんは朝からずっとテンション低めだ。
「? そうか」
高広くんがやっとお兄さんの前に現われて、これ以上めでたいことはないのに。
「父さんにはまだだろう? 会って来い。喜ぶぞ」
「ああ」
それでも抑えられない兄弟愛が伝わり、ムネアツ。あの、会長の誕生日あたりで偶然見つけてから、もう半年近くたつんだ。なんだかんだ長かったー。長い長い任務を終えたような、そんな安ど感でいっぱい。
わーい、やったー…。
「ご迷惑おかけしました―――…」
間髪入れず、法務部長とともに真鍋さんと父親が部屋に現れた。すぐさま膝をつき神にひれ伏すかごとく上体をしならせ会長にスーパー土下座。
何度も自宅に警察がきて、事情を聞かされ、不安になって部長と連絡を取ったそうだ。そして休み明けの本日、犯人確保の連絡を受けいてもたってもいられなくなり、東京まで来られたと。
「まさかあいつが、…ああ、こんなことになるなんて」
「息子の名刺がこんなことに使われて…なんと申し上げたらいいのか」
土下座なんてやめてくださいよ…この方々こそ被害者よ。
「どうぞお気になさらないで下さい。とりあえず解決したようです。」会長がなだめた。
「いえいえ。息子の名を語った人物が許せません。」
しかしお父さんはなかなか頭をあげようとしなかった。
「まだまだ余罪がありそうですが、逐一報告するよう手配しています。どうぞ顔をお上げください」その言葉で二人はやっと腰を上げた。
「俺の名刺をネットで売るなんて」
真鍋さんの元彼女さんが、手元にあった真鍋さんの名刺を闇サイトに結構な値で売り、それが詐欺に利用された、というのが真相だった。高性能コピーで増刷、「振られて腹立たしいからヤバいサイトに売りつけてやった、だなんて。警察が状況を説明しても全然悪びれてないんですよ、あの女」真鍋さんは真っ青で半泣き状態。
こわ。恐ろしきは女の私怨。というわけですか。
名刺を悪用し詐欺を働いた人物が住所不定の流れ者であること。
普段は鉄オタとして堂々と動画を配信していること。
この盆休みに推し列車の写真を撮るため、運転区間である山口~鳥取の某所に姿を現わすこと。それを高広くんが突き止め、動画のコメントその他から綿密に日時を割り出したあの場所で一気に取り押さえたと。
現地にて犯行グループの別のメンバーと落ち合うという情報もあり、しかし現れなかった。
私たちと勘違いされたらしい。
その際の連絡がね。そりゃ情報提供者がそこにいるなんて誰も思いませんわ。
撮り鉄旅行に付き合わされたあげく警察署に連れていかれそうになった私は一体何だったの?
ペットのように連れまわされただけのような気が…。
「それで何故君が一緒にいたのかな?」
ギクギク。真鍋さんが退室後、再び会長に詰め寄られた。
「松江から津和野。容易く移動できる距離ではないよな。何キロあるんだ?」
馬鹿にしないでくださいよー。特急で3時間くらいよ。
「一日で回るにはきつそうだ。昨夜は仕方ないとしてもどこかで泊まりをいれないと……」
「もっ、もうしわけありませんでしたっ」さっさと頭を下げるしかない。
別に若者の戯れの延長だし、罪悪感を感じることはない。ただ、相手が会長の弟で、警察が即解放してくれたのは会長の口利きのおかげだ。
「ま、まあいいじゃん、一人で行動して怪しまれたらやだなーと思って。地元の人間がいたらなじみやすいだろ?」
「その口ぶりだと、以前から顔見知りだったように思えるのだが」
ギク―。ベ、別に悪いことじゃないですよ? ずいぶん前、高広くんを見たと話したけど、信じてくれなかったのはあなたですよ、会長!
「そういえばそんなこと言ってたような…。昨日連絡を受けたときは一瞬焦ったが。ともあれ二人とも無事でよかったよ」
警察から連絡なんてね。会長には東京の警察本部からの一報と、現地警察は身元確認の電話、どのような経路で会長スマホにたどり着いたのか。発信者名に『○○警察』と表示されたのかな。スマホを手に取る会長の姿が浮かんで冷や汗が出た。中々直通でつながる人がいないレアな会長スマホ。困りごとをお願いすれば一発で解決する。ただし女性関係は×。
おっさん刑事たち、やっと会長スマホにつながって、会長はどう対応したのだろうか。
ああ、本当に!
実の弟が風来坊の首突っ込みたがり屋なんて、浅見光彦かい。こんな弟の面倒ずっと任されて、つくづく会長がお気の毒。
「警察に任せておけないと思っての行動か。それとも好奇心か。お前らしいと言えばそうだよな」
「そうだけど、あいつらが崇める『構図』ってのがどんなものか実際見てみたかったんだよ」
「…構図?」
「わざわざ撮りに行くんだぜ。あんなへき地の山奥まで。すごい情熱だろ。カメラマン並みに構図にこだわってんだ」
「それを知りたかった??? お前が?」
もうその辺でやめときなさいよ。鉄オタさんの撮影への強いこだわりを会長に説明するには小一時間かかるわ…ハア。
鉄オタの悲しき執念。
ずっと撮りに行けなくて心残りだった推し列車の姿をどうしても画像におさめたかった。
ローカル、マイナーゆえにいずれ廃…、無くなってしまうかもしれないと不安だった。
というのも、この運転区間の半分ほどは東京から最も到達困難な地域であるのだ。そして例の、もう一つの限界鉄道、木次線周辺も。
うちの県、どんだけ田舎なのよ!
そんなへき地へと意を決していざ、撮り鉄の旅へ出かけたが最後、鉄オタさん…。やられてしまいましたね。
お坊ちゃまが鉄オタに扮して鉄オタ逮捕を見に行くという風変わりな捕り物劇に。
そもそもこの会社の名刺に手を出したのが運のつき。
異常な鉄オタ熱が仇となってしまった。
説明されてもよくわからなかった今回の事件。
高広くんは松江に来た時点で犯人がわかっていた。
大人しく警察に任せて私を巻き込むんじゃない。秘密結社でも目指してるの?
いっそのこと警察の中の人に転職したら。もしくはお兄様の補佐。違うか…。
九条高広くんは生まれながらにそのような高貴な氏をお持ちなのですよ。
世が世なら、
『この紋所が目に入らぬか…(略)…控えおろう!』
『ははー…。』ってやつ。
事情聴取? 何言ってんの、下々のものが軽々しく口をきくでない、頭が高いわ!
「申し訳ありません。こちらの手違いでした」
おわかりになればよろしいのですよ? 土下座して謝れ、などと申しませんわ。
「ご協力感謝します」
とはいえ現実はちょっと違う。めちゃ暑い屋外から簡易な寄り合い所のような建物に通され、確認に待たされ、結局東京行き最終の新幹線には間に合わず、飛行機ははなから×。
と、いうわけで高広くんと私は翌日あさイチののぞみで東京を目指したのだった。
「高広、警察の世話になったそうだな」
ひえっ。
会長室に入るなり、厳しい言葉でお出迎え。新幹線で4時間半かかるので、到着したのはほぼお昼だ。
「お前…何をしていたんだ。詐欺集団が捕まったと言うからその報告かと思えば…。いや、それより」ちろんと私の方へ視線を滑らせ、
「 何故 君が一緒にいるんだ 💢 」
「あ、ははい…」私は震えながら、何と答えてよいかわからなかった。えーん、松江までやってきてですね、コイツがぁ…。
会長の目怖い…。言ってもダメだ。『なぜついて行った?』と返されて終わりだ。
知りませんよっ、問い詰めるなら弟くんにしてくださいよ。私は一応帰ろうと努力はした。
「お前、警察に情報を流して暮らしていたのか」いきさつはほぼ正確に伝えられているようだ。
「そうじゃないけど…申し訳ありませんでした」高広くんは素直に謝る。
「匿名で犯人の素性を知らせたそうだな。明確な裏も取って。相変わらずスキルは素晴らしいな。是非我が社に欲しいものだ」
私もね、まさかあんな形で津和野を訪れることになろうとは思いもしませんでしたよ。鉄オタ紀行が…最後は警察なんて。
「ふっ、高広、よく戻ってきてくれたな」不意に会長の表情が緩む。
「兄さん」
弟の肩に手を置いて。
何はともあれ、待ちに待った感動のご対面だ。
うるっときた。
「こんな再会でもな」
会長、どんどん優しい顔になってく。
よかった―、高広くんたら、正直にホテルの前とか会社とかで会えばいいのに、鉄オタごっこなんて、私まで巻き込んで。さっさとお兄さんを安心させてあげてよね、素直になりなさい、気ままなお坊ちゃまくん。
「ちょっと手伝ってもらったんだよ。兄さんのそばに女性の社員がついていることは知っていたから。ちょうど松江にいるっていうし。話が早いだろ?」
だが詐欺仲間と勘違いされたのがショックだったのか、私が彼の名前を出したのが気に食わないのか、高広くんは朝からずっとテンション低めだ。
「? そうか」
高広くんがやっとお兄さんの前に現われて、これ以上めでたいことはないのに。
「父さんにはまだだろう? 会って来い。喜ぶぞ」
「ああ」
それでも抑えられない兄弟愛が伝わり、ムネアツ。あの、会長の誕生日あたりで偶然見つけてから、もう半年近くたつんだ。なんだかんだ長かったー。長い長い任務を終えたような、そんな安ど感でいっぱい。
わーい、やったー…。
「ご迷惑おかけしました―――…」
間髪入れず、法務部長とともに真鍋さんと父親が部屋に現れた。すぐさま膝をつき神にひれ伏すかごとく上体をしならせ会長にスーパー土下座。
何度も自宅に警察がきて、事情を聞かされ、不安になって部長と連絡を取ったそうだ。そして休み明けの本日、犯人確保の連絡を受けいてもたってもいられなくなり、東京まで来られたと。
「まさかあいつが、…ああ、こんなことになるなんて」
「息子の名刺がこんなことに使われて…なんと申し上げたらいいのか」
土下座なんてやめてくださいよ…この方々こそ被害者よ。
「どうぞお気になさらないで下さい。とりあえず解決したようです。」会長がなだめた。
「いえいえ。息子の名を語った人物が許せません。」
しかしお父さんはなかなか頭をあげようとしなかった。
「まだまだ余罪がありそうですが、逐一報告するよう手配しています。どうぞ顔をお上げください」その言葉で二人はやっと腰を上げた。
「俺の名刺をネットで売るなんて」
真鍋さんの元彼女さんが、手元にあった真鍋さんの名刺を闇サイトに結構な値で売り、それが詐欺に利用された、というのが真相だった。高性能コピーで増刷、「振られて腹立たしいからヤバいサイトに売りつけてやった、だなんて。警察が状況を説明しても全然悪びれてないんですよ、あの女」真鍋さんは真っ青で半泣き状態。
こわ。恐ろしきは女の私怨。というわけですか。
名刺を悪用し詐欺を働いた人物が住所不定の流れ者であること。
普段は鉄オタとして堂々と動画を配信していること。
この盆休みに推し列車の写真を撮るため、運転区間である山口~鳥取の某所に姿を現わすこと。それを高広くんが突き止め、動画のコメントその他から綿密に日時を割り出したあの場所で一気に取り押さえたと。
現地にて犯行グループの別のメンバーと落ち合うという情報もあり、しかし現れなかった。
私たちと勘違いされたらしい。
その際の連絡がね。そりゃ情報提供者がそこにいるなんて誰も思いませんわ。
撮り鉄旅行に付き合わされたあげく警察署に連れていかれそうになった私は一体何だったの?
ペットのように連れまわされただけのような気が…。
「それで何故君が一緒にいたのかな?」
ギクギク。真鍋さんが退室後、再び会長に詰め寄られた。
「松江から津和野。容易く移動できる距離ではないよな。何キロあるんだ?」
馬鹿にしないでくださいよー。特急で3時間くらいよ。
「一日で回るにはきつそうだ。昨夜は仕方ないとしてもどこかで泊まりをいれないと……」
「もっ、もうしわけありませんでしたっ」さっさと頭を下げるしかない。
別に若者の戯れの延長だし、罪悪感を感じることはない。ただ、相手が会長の弟で、警察が即解放してくれたのは会長の口利きのおかげだ。
「ま、まあいいじゃん、一人で行動して怪しまれたらやだなーと思って。地元の人間がいたらなじみやすいだろ?」
「その口ぶりだと、以前から顔見知りだったように思えるのだが」
ギク―。ベ、別に悪いことじゃないですよ? ずいぶん前、高広くんを見たと話したけど、信じてくれなかったのはあなたですよ、会長!
「そういえばそんなこと言ってたような…。昨日連絡を受けたときは一瞬焦ったが。ともあれ二人とも無事でよかったよ」
警察から連絡なんてね。会長には東京の警察本部からの一報と、現地警察は身元確認の電話、どのような経路で会長スマホにたどり着いたのか。発信者名に『○○警察』と表示されたのかな。スマホを手に取る会長の姿が浮かんで冷や汗が出た。中々直通でつながる人がいないレアな会長スマホ。困りごとをお願いすれば一発で解決する。ただし女性関係は×。
おっさん刑事たち、やっと会長スマホにつながって、会長はどう対応したのだろうか。
ああ、本当に!
実の弟が風来坊の首突っ込みたがり屋なんて、浅見光彦かい。こんな弟の面倒ずっと任されて、つくづく会長がお気の毒。
「警察に任せておけないと思っての行動か。それとも好奇心か。お前らしいと言えばそうだよな」
「そうだけど、あいつらが崇める『構図』ってのがどんなものか実際見てみたかったんだよ」
「…構図?」
「わざわざ撮りに行くんだぜ。あんなへき地の山奥まで。すごい情熱だろ。カメラマン並みに構図にこだわってんだ」
「それを知りたかった??? お前が?」
もうその辺でやめときなさいよ。鉄オタさんの撮影への強いこだわりを会長に説明するには小一時間かかるわ…ハア。
鉄オタの悲しき執念。
ずっと撮りに行けなくて心残りだった推し列車の姿をどうしても画像におさめたかった。
ローカル、マイナーゆえにいずれ廃…、無くなってしまうかもしれないと不安だった。
というのも、この運転区間の半分ほどは東京から最も到達困難な地域であるのだ。そして例の、もう一つの限界鉄道、木次線周辺も。
うちの県、どんだけ田舎なのよ!
そんなへき地へと意を決していざ、撮り鉄の旅へ出かけたが最後、鉄オタさん…。やられてしまいましたね。
お坊ちゃまが鉄オタに扮して鉄オタ逮捕を見に行くという風変わりな捕り物劇に。
そもそもこの会社の名刺に手を出したのが運のつき。
異常な鉄オタ熱が仇となってしまった。
説明されてもよくわからなかった今回の事件。
高広くんは松江に来た時点で犯人がわかっていた。
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