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6話 甘い言葉にご用心
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「現地の希望は、『メタル戦士ゴードン』パーク、そしてショッピングモール…」
司会進行役の言葉で、明らかに空気が変わった。
メタル戦士って。
本日の議題は
おエビランドその後
オーストラリアの事業
T不動産含めた重役、ゴールドコースト組がずらっと並ぶ中、会長はスクリーン真正面に鎮座され、両脇に補佐役を従え、厳しい視線を外さない。
いつものすみっ子でお茶くみ待機の私には格好のウォチングタイム。こういう会議、嫌いじゃない。
突っ立ってるだけで、眺めはいいし、こんな高層階の会議なんてそうそう拝めるものじゃない。
特に会長は、いつも同じ部屋にいるとはいえ、ジロジロ見つめるわけにいかないじゃないですか。
秘書室には例のティラミスにサーティワンのラブポーションを模したソフトクッキーを追加して届けた。コーヒーはあえて深煎りヨーロピアンブレンド。激甘スイーツとエスプレッソ並みの芳醇な香りで皆様の心が癒されますように…。
部屋には30人くらいいて、ずっと会長室に入りびたりの私とは違って色んな人が出たり入ったりしている。
電算室のような区画に10人ほどと、秘書さんたちはずらっと並んだデスクに着いてPCとにらめっこ…。
だけどそこにいたのはいつもの10人ほどで、
「わーい、やったー」まずは歓迎してくれた。いつもと同じ。
「クッキーを崩して、ぐちゃぐちゃ混ぜて食べてもよろしいですよ」
本家はラズベリーとホワイトチョコだけど、ラズベリーを先日の謎旅行で買った桑の実ジャムに変えてみた。柿の木村という可愛い名前の村産だ。
「おお、ぐちゃぐちゃね、美味しそう」春日さんが笑った。「うまい具合に混ざればとってもきれいですよ」「やってみよっと」
「残りは冷蔵庫に入れておきますので、皆さまでどうぞ」
「ありがとう、市川さん」
室長に言づけた。
「ね、市川さん、今日帰りに秋コスメ巡りに行くんだけど、行かない?」
と誘われ、吉永さんと室長とデパコスを見に行く約束をして退室した。
普通に、平和ないつもの秘書室に見えたけども。さて。
大スクリーンに投影される平面予想図。
ゴードンパーク? 何だろう、特撮ヒーローがらみの遊園地?
えらく素朴なフロアガイドで、現地発案なのかな。
会長は右側の若い男の人に何か耳打ちし、さらに厳しい目になる。
「どうしたものかねえ…」
腕組みし、足を組み、ゆったり背面にもたれる。う―――んて感じ。
何か意見が出るのを待ってるような時が流れる。
「このゴードンは、新幹線のラッピングが決まったそうですね。早ければ来年春に登場する」その声は専務の一人からだった。
「現地との温度差を感じますねえ」
「本当に流行っているのか」と卒直すぎる返し。否定的なのがわかりますね。ナル様…。
「いわゆるご当地キャラというやつでしょう。もちろん、かつて大ヒットした特撮ドラマであり、コアなファンはいるでしょうが」
「映画化も検討中だとか。キャンペーンにかなりの予算が組まれるのでしょうね」
特撮って荒れ地で化け物みたいな敵と派手な殺陣をするあれでしょう? イケメンライダーは流行ってるけど、これはどうなの。
フロアガイドだけなので想像力を働かせないとイメージしにくい。
そこから立体画像が浮き上がって、全然違う建屋が姿を現した。
おお…。
既にデザイナーの修正済みみたい。
かっこいい高級ディーラーのような低層ビルが海岸沿いの土地に重ねられた。
会長は両脇の男の人としきりに話し込んでる。
彼らが示すiPadでどこかの部署に確認をとるのか、すでに指令を出しているのか、わからない。
監修はもちろん御堂さんで、壇上に立った。
「こちらの透明部分がスーパーLCP、最新の、太陽光熱発電を兼ねるポリマーで現在各国で建設中のogb改めスクリューミルの別仕様です。もしもゴードンの線で進めるなら、ここをスクリューミルに変更すればスクラップを動力源とするゴードンのコンセプトに沿うのではないでしょうか。」
あれ? じゃあ、これもゴミ処理なのかな。
透明で丈夫だから用途が無限に広がるスーパーポリマーは既に世界中でいろんな用途で使われている。
「だが建屋自体の用途がはっきりしない…」
「箱もの事業は自治体のお約束のようなものですよ」
「モールにするにしても商圏がねえ」
「同市内はもとより、隣の山陽小野田市、防府市ともすでにモールが存在しますし、今更でしょう」
「新山口は言わずもがな。新幹線停車駅ですよ。山口市は県庁所在地で店舗数も多く、今は観光業に力を入れている…。観光も商業施設も分が悪い」
「新山口=小郡。古戦場か」会長呟く。
「それは九州の小郡ではありませんか」
「似たようなものだろう、壇之浦が近い」
「ああ、なるほど」
「空港も近いな」
「『戦い』の場にふさわしい、という意味でしょうか?」
「ほう、そう考えれば…テレビドラマの作品であっても戦闘物には変わらないですよね」
「そうなんです!」御堂さんが流れを止めた。 一斉に視線が集中する。「……すみません、つい。……実はこれ以上整地せず、ある程度粗野な部分も残してはどうかと思ってまして」
このお部屋で紅一点(私を除く)、相変わらずびしっとパンツスーツを決めて、インナーは涼し気なブラウス、Ⅴのあきが深く、ヒールも高い。
「それは…なぜですか」
「はい。ゴードンの線で進めると現地の希望ですし、予算もしぼれるのではありませんか。土地活用ですが例えば特撮の撮影現場にしてみてはいかがでしょう」
声なく、静まり返った。
『 あら、ダメ? 』御堂さんの心の声が聞こえた気がする。
「空き地のまま?」
皆さんの微妙な反応。
「せめてクリスタルドームの許可が降りれば」
「透明ドーム球場を売りにした新パークで話題になりそうですが」
「それも近隣にすでにありますね。多目的ドーム」
「そこへ新型ドーム。かえって反感を買いそうだ」
「東京の空にそぐわない、一蹴ですからね。…今後、意地でも通さないでしょう」
都会に住む人から見た田舎の用地ってこんな扱いなんだな。
すべてが上から目線、そこにいる人は商圏や流動人口で表される。
田舎人にとって、モールなどの大型商業施設は神的な存在で、出雲や米子郊外に大型モールができたときはそれは話題になったものだった。
松江のイオンは古いけどそれでも機能してる。ジジババ、放課後の学生の憩いの場。
「遺跡の残骸のような石柱を転がせば、映えますよ」御堂さんは持論を展開する。
「遺跡?」
「わざわざ運ぶのですか」
「いえ、各地の不要になったモニュメントの残骸でもよくないですか。海外で、映画のセットの一部がモールへ再利用されてる例があります。ゴードンの趣旨にふさわしいのではありませんか。何より、使い古しのごみであってもスクリューミルで処分できますよね?」
またまたシーン…。
「それは…自治体によっては条例内で設置できるかもしれませんが、基本は認可が下りてないですからね」
面白そうな案は大抵こうなのですよ。計画の初期にありがちな夢の未来予想図で終わる。
う~~~~~ん……。
(ダメだこりゃ。)
「興味深い提案だが、まだ何とも言えない。現地と合わせて進めていこう」
会長の一言がそれを語っていた。
冷静に見えるけど、会長、本音はどこかに丸投げしたいんだろうな。でも社の方針としてそんなことできないし。
『特撮か…。着ぐるみのどこが面白いのかわからん。あれを陳列して人が集まるのか?』
…とでも思ってそう。
おい、どうした、しっかりしろ、おエビランド! どうせならエビつながりでバルタン星人公園にでもした方がよかったんじゃないの? 私は絶対行かないけど。
頑張ってほしいなあ…。
ゴードンに続いては、会長の出張先、ゴールドコーストでのプロモーションのリハーサルだ。
プラント技師の柚木さんが英語でデモを始めた。ここからは幾分カジュアルな、コーヒーミーティング。スイーツをつまみながら皆さん耳を傾ける。
ごみ処理槽→OGB→スクリューミルと名を変えいよいよ最終バージョンが登場。
内容はわからないけどこの分野、外国の大きな事業はほぼこの会社の独占なのだという。
見た目美しく、耐久性がどこよりも優れているとなればそうなりますわ。
ごみの処分プラントを美しくしてどうするんだ、って思いますよね? 普通そんなところにお金かけない。
だけど、環境問題に取り組む姿勢をアピ―ルして注目を高め、結果利益につながるという試算もあるらしい、暑い砂漠の国ですでに数百基の建設が始まっている。
それに対してゴミバケツもドーム球場も、スーパーLCPからなるクリスタルドームもスクリューミルも国内では販売できない。
どうやらゴードンランド(仮)は運動公園に特撮キャラを絡めたお子様向きの遊園地となりそう。
遊園地かあ…。
「よし、柚木君、それで十分だ。当日もその調子でいってくれ」
「はい」
ところでこの出張で会長は5日間不在となる。
私もそれに合わせて休みをとったけど、もしかして、秘書室潜入捜査の方がよかったかな?
司会進行役の言葉で、明らかに空気が変わった。
メタル戦士って。
本日の議題は
おエビランドその後
オーストラリアの事業
T不動産含めた重役、ゴールドコースト組がずらっと並ぶ中、会長はスクリーン真正面に鎮座され、両脇に補佐役を従え、厳しい視線を外さない。
いつものすみっ子でお茶くみ待機の私には格好のウォチングタイム。こういう会議、嫌いじゃない。
突っ立ってるだけで、眺めはいいし、こんな高層階の会議なんてそうそう拝めるものじゃない。
特に会長は、いつも同じ部屋にいるとはいえ、ジロジロ見つめるわけにいかないじゃないですか。
秘書室には例のティラミスにサーティワンのラブポーションを模したソフトクッキーを追加して届けた。コーヒーはあえて深煎りヨーロピアンブレンド。激甘スイーツとエスプレッソ並みの芳醇な香りで皆様の心が癒されますように…。
部屋には30人くらいいて、ずっと会長室に入りびたりの私とは違って色んな人が出たり入ったりしている。
電算室のような区画に10人ほどと、秘書さんたちはずらっと並んだデスクに着いてPCとにらめっこ…。
だけどそこにいたのはいつもの10人ほどで、
「わーい、やったー」まずは歓迎してくれた。いつもと同じ。
「クッキーを崩して、ぐちゃぐちゃ混ぜて食べてもよろしいですよ」
本家はラズベリーとホワイトチョコだけど、ラズベリーを先日の謎旅行で買った桑の実ジャムに変えてみた。柿の木村という可愛い名前の村産だ。
「おお、ぐちゃぐちゃね、美味しそう」春日さんが笑った。「うまい具合に混ざればとってもきれいですよ」「やってみよっと」
「残りは冷蔵庫に入れておきますので、皆さまでどうぞ」
「ありがとう、市川さん」
室長に言づけた。
「ね、市川さん、今日帰りに秋コスメ巡りに行くんだけど、行かない?」
と誘われ、吉永さんと室長とデパコスを見に行く約束をして退室した。
普通に、平和ないつもの秘書室に見えたけども。さて。
大スクリーンに投影される平面予想図。
ゴードンパーク? 何だろう、特撮ヒーローがらみの遊園地?
えらく素朴なフロアガイドで、現地発案なのかな。
会長は右側の若い男の人に何か耳打ちし、さらに厳しい目になる。
「どうしたものかねえ…」
腕組みし、足を組み、ゆったり背面にもたれる。う―――んて感じ。
何か意見が出るのを待ってるような時が流れる。
「このゴードンは、新幹線のラッピングが決まったそうですね。早ければ来年春に登場する」その声は専務の一人からだった。
「現地との温度差を感じますねえ」
「本当に流行っているのか」と卒直すぎる返し。否定的なのがわかりますね。ナル様…。
「いわゆるご当地キャラというやつでしょう。もちろん、かつて大ヒットした特撮ドラマであり、コアなファンはいるでしょうが」
「映画化も検討中だとか。キャンペーンにかなりの予算が組まれるのでしょうね」
特撮って荒れ地で化け物みたいな敵と派手な殺陣をするあれでしょう? イケメンライダーは流行ってるけど、これはどうなの。
フロアガイドだけなので想像力を働かせないとイメージしにくい。
そこから立体画像が浮き上がって、全然違う建屋が姿を現した。
おお…。
既にデザイナーの修正済みみたい。
かっこいい高級ディーラーのような低層ビルが海岸沿いの土地に重ねられた。
会長は両脇の男の人としきりに話し込んでる。
彼らが示すiPadでどこかの部署に確認をとるのか、すでに指令を出しているのか、わからない。
監修はもちろん御堂さんで、壇上に立った。
「こちらの透明部分がスーパーLCP、最新の、太陽光熱発電を兼ねるポリマーで現在各国で建設中のogb改めスクリューミルの別仕様です。もしもゴードンの線で進めるなら、ここをスクリューミルに変更すればスクラップを動力源とするゴードンのコンセプトに沿うのではないでしょうか。」
あれ? じゃあ、これもゴミ処理なのかな。
透明で丈夫だから用途が無限に広がるスーパーポリマーは既に世界中でいろんな用途で使われている。
「だが建屋自体の用途がはっきりしない…」
「箱もの事業は自治体のお約束のようなものですよ」
「モールにするにしても商圏がねえ」
「同市内はもとより、隣の山陽小野田市、防府市ともすでにモールが存在しますし、今更でしょう」
「新山口は言わずもがな。新幹線停車駅ですよ。山口市は県庁所在地で店舗数も多く、今は観光業に力を入れている…。観光も商業施設も分が悪い」
「新山口=小郡。古戦場か」会長呟く。
「それは九州の小郡ではありませんか」
「似たようなものだろう、壇之浦が近い」
「ああ、なるほど」
「空港も近いな」
「『戦い』の場にふさわしい、という意味でしょうか?」
「ほう、そう考えれば…テレビドラマの作品であっても戦闘物には変わらないですよね」
「そうなんです!」御堂さんが流れを止めた。 一斉に視線が集中する。「……すみません、つい。……実はこれ以上整地せず、ある程度粗野な部分も残してはどうかと思ってまして」
このお部屋で紅一点(私を除く)、相変わらずびしっとパンツスーツを決めて、インナーは涼し気なブラウス、Ⅴのあきが深く、ヒールも高い。
「それは…なぜですか」
「はい。ゴードンの線で進めると現地の希望ですし、予算もしぼれるのではありませんか。土地活用ですが例えば特撮の撮影現場にしてみてはいかがでしょう」
声なく、静まり返った。
『 あら、ダメ? 』御堂さんの心の声が聞こえた気がする。
「空き地のまま?」
皆さんの微妙な反応。
「せめてクリスタルドームの許可が降りれば」
「透明ドーム球場を売りにした新パークで話題になりそうですが」
「それも近隣にすでにありますね。多目的ドーム」
「そこへ新型ドーム。かえって反感を買いそうだ」
「東京の空にそぐわない、一蹴ですからね。…今後、意地でも通さないでしょう」
都会に住む人から見た田舎の用地ってこんな扱いなんだな。
すべてが上から目線、そこにいる人は商圏や流動人口で表される。
田舎人にとって、モールなどの大型商業施設は神的な存在で、出雲や米子郊外に大型モールができたときはそれは話題になったものだった。
松江のイオンは古いけどそれでも機能してる。ジジババ、放課後の学生の憩いの場。
「遺跡の残骸のような石柱を転がせば、映えますよ」御堂さんは持論を展開する。
「遺跡?」
「わざわざ運ぶのですか」
「いえ、各地の不要になったモニュメントの残骸でもよくないですか。海外で、映画のセットの一部がモールへ再利用されてる例があります。ゴードンの趣旨にふさわしいのではありませんか。何より、使い古しのごみであってもスクリューミルで処分できますよね?」
またまたシーン…。
「それは…自治体によっては条例内で設置できるかもしれませんが、基本は認可が下りてないですからね」
面白そうな案は大抵こうなのですよ。計画の初期にありがちな夢の未来予想図で終わる。
う~~~~~ん……。
(ダメだこりゃ。)
「興味深い提案だが、まだ何とも言えない。現地と合わせて進めていこう」
会長の一言がそれを語っていた。
冷静に見えるけど、会長、本音はどこかに丸投げしたいんだろうな。でも社の方針としてそんなことできないし。
『特撮か…。着ぐるみのどこが面白いのかわからん。あれを陳列して人が集まるのか?』
…とでも思ってそう。
おい、どうした、しっかりしろ、おエビランド! どうせならエビつながりでバルタン星人公園にでもした方がよかったんじゃないの? 私は絶対行かないけど。
頑張ってほしいなあ…。
ゴードンに続いては、会長の出張先、ゴールドコーストでのプロモーションのリハーサルだ。
プラント技師の柚木さんが英語でデモを始めた。ここからは幾分カジュアルな、コーヒーミーティング。スイーツをつまみながら皆さん耳を傾ける。
ごみ処理槽→OGB→スクリューミルと名を変えいよいよ最終バージョンが登場。
内容はわからないけどこの分野、外国の大きな事業はほぼこの会社の独占なのだという。
見た目美しく、耐久性がどこよりも優れているとなればそうなりますわ。
ごみの処分プラントを美しくしてどうするんだ、って思いますよね? 普通そんなところにお金かけない。
だけど、環境問題に取り組む姿勢をアピ―ルして注目を高め、結果利益につながるという試算もあるらしい、暑い砂漠の国ですでに数百基の建設が始まっている。
それに対してゴミバケツもドーム球場も、スーパーLCPからなるクリスタルドームもスクリューミルも国内では販売できない。
どうやらゴードンランド(仮)は運動公園に特撮キャラを絡めたお子様向きの遊園地となりそう。
遊園地かあ…。
「よし、柚木君、それで十分だ。当日もその調子でいってくれ」
「はい」
ところでこの出張で会長は5日間不在となる。
私もそれに合わせて休みをとったけど、もしかして、秘書室潜入捜査の方がよかったかな?
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