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6話 甘い言葉にご用心
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上京したての私にとって、某デパートの化粧品売り場は圧巻だった。当時珍しかった(島根になかった)NARSの売り場のお姉さんが、『うちはカナダのブランドなので、ナーズ読みでもナール読みでもいいんですよ~』と教えてくれて、何となく響きの可愛いナールで覚えていたのだけど、雑誌じゃナーズで統一され、『こちらの色味の方が合いますよ』とすすめられたカラーパレットは結局買わずじまいだった。
そのナーズ売り場でじっと悩んでる吉永さん。既に一通り目を通し、毎度おなじみ高島屋の化粧品売り場に来てる。
「吉永さん、迷ってるの?」室長が尋ねた。
「ええ」
ナーズのイメージはとにかく『大人っぽい』『洗練』アーティスト系だけどそんな感じ。私はというと相変わらずローラメルシエとポール&ジョー。パケがかわいくて色味も無難だからずっと変えてない。大抵のデパートでこの二つは売り場が近く、それも助かっている。
「フェイスパウダー?」
「はい。秋用にどうかなと思ってて」
「割と持ってる人多いよね」
パケが映えますよね。迷った末、吉永さんは試してみることに。
「わあ、きれいねえ」
仕上がりはさすが、だった。
BAさんのテクもあるだろうけど、このすごいデパートの照明の下で陶器肌に変身、キラキラは超控えめ。いいんじゃない?
ひとしきり調達して、イタリアンのお店に寄った。
「うーーん、問題は社長室でどう見えるかよ」吉永さんは購入した商品を手にしてまだ思い悩む。
「そうね、気を遣うよね、ご来客も多いし」
そうなの! それは私も実感。ずっと会長室にいるため、身だしなみには常に気を遣う。会長ともなると、客人もそれなりの方々がいらっしゃるわけで、カジュアルに、とはいかない。
私の場合はおもてなし時に腰を低くすることもあるため、シャツのボタンはきちんと閉じ、髪の毛もフケや寝ぐせなど絶対ご法度。シャンプートリートメントは毎日、ドライヤーも30分以上かけてる。当たり前か。
肝心なのは会長視線でどうかというところだ。何せ潔癖であらせられるから。
会長の身長から見て、化粧のノリ具合はどうかとか、3Dチェックは欠かせない。
リップの落ち具合もね。
この辺りはスティラのグロスや口紅を複数遣いしていたんだけど、日本から完全撤退しちゃった…。
思わぬところで同士発見! 吉永さんもなんだぁ~。嬉しいな。
「市川さんって、本当に肌綺麗よねえ」いきなりふられてサラダに伸びたフォークを止めた。
「そうですか?」
「ファンデが全然崩れないじゃない」
塗ってないんですよ…とはいえず、「パ、パウダーだし、とれちゃってるかもしれませんね」あははとごまかす。要するに会長から見てベストであればいいのだ。このところ早めに帰社してるしね。
「へえ。日焼け止めとファンデなし?」
「一応塗ってますけど」べったりじゃなく汗をかきそうなところは避けてる。
「いいわねえ、若いって。私、もうRMKやめようかな」
「ええ、なんでですか、室長」
「もうRMKって年でもないしね。さっきだって、若い子の方が多かったし」
「そんな気になりますかあ?」吉永さんは首を傾げ、室長は軽く頷く。
「通販でもいいんだけど、おなじみの店員さんもいるし、帰りにふらっと寄って買いたいときもあるし。」
「ですよ。気にしなくても…」
室長、真剣にお悩み中。実は、白本室長、会長より一つか二つ年上なのだ。驚き。
「…そうそう、偽真鍋さん、捕まったんですってね」
「ああ、女真鍋さんね、うちの採用試験落ちて、逆恨みだとかなんとか」
ひえっ、そうだったんだ。人事から漏れたのかな。会長は言ってなかったぞ。
「怖いよねえ、逆恨み丸出し」
「お金に困ってたんですかね」
「どこに危険が潜んでいるかわかりませんね」
「それって社員に無差別に復讐…って意味よね」
「社員に被害がなかったのは不幸中の幸いですね…誰かを傷つけるより詐欺に加担した方がお金にはなりますよね」
こわ~~。真鍋さんの名刺も女性がらみだったな、そういえば。
私的にはそんなに簡単に闇サイトとつながることが怖いわ。
「で、どんな基礎使ってるの?」化粧品話に戻った。
「私ですか? 基礎はあんまり…」
メイクに比べるとそんなにこだわってないかも。
「ニキビ肌じゃないよね。絶対」
「ええ、まあ…」
言えないわ、普段は親が使ってるへちま水だの、ただのミネラルウォーターをシューレベルなのに。(笑)
でも、今使ってるのは…。
「先日試供品で頂いた化粧水です…」
伊集院社長から頂いたものを使ってる。
地元松江の玉造温泉水配合で、思いのほかなじみがよく、肌にしみこませてもべたべたしない。先日の酷暑の中の列車紀行で宿の適当な使い捨て石鹸で洗顔しても大丈夫だった。これは本物でしょう。ちなみに可愛い瓶入りでリュディアというらしい。
「ああ、そういうパターンね。役得よね」
「じゃあ、発売前の商品かな」
「ええ、ですかね」
何故か申し訳なく下を向く私。
「手土産いいよねえ。…ってこんなこと言ってると、横森さんみたいになったりして」
「また……よしなさいよ、吉永さん、あなただって頂いてるでしょ」
ピク。横森さん?
「…羨ましいんだって。他にも食事のおもてなしで会長に気に入られたり」
「吉永さんったら」
「で、私、言っちゃったの。…それって立派な能力でしょ? 実際機能してるし、ケータリング業者呼べばもっと経費かかるよ、って」
「やめなさいって」
「こういう時でしか喋れないじゃないですか。万が一市川さんに刃が向かないようにある程度知ってた方がいいと思いまーす」
「「 お待たせしました――― 」」
そこでタイミングよく、ボロネーゼ、ブッラータがやってきた。ボロネーゼの上にでっかい生チーズがのっかってる奴。ここのは本物の水牛のチーズで2000円というコスパの良さ。エビも蟹もなしで合格。
「いただきまーす」
とりあえず中断して、食す。こういうのお店に限るわ。室長、細いのに麺を1,5倍マシとな。
ブッラータにナイフをスーッと入れるととろーり全体にドーム状に広がって夢の悪魔飯に変身。
オムライスの卵とろーりとはまた違うビジュアルで映えること、おいしそーー!
「…何でもかんでも羨ましいのよ。今はドバイに行きたいんだって」しばらくして話が再開したようだ。「そんなに憧れるかなあ? ドバイなんて」
ドバイ?…また話が飛ぶなあ。
「総合職の募集の話でしょ」
ドバイでは例のアレのせいで人員が足りてないって聞いたことはあるけど。
ドバイの話は会長室では聞かないなあ。
…私、関係あります?
「だから―、事務から試験なしで許可貰いたいのよ、副社長に愚痴ってちゃだめでしょ。あーあ、本当にお気の毒、副社長」
「それはあなたの想像でしょ。直接聞いたわけじゃないし」
「でもドバイの話してたのは事実ですよね」
「お子さんのアトピーがらみでね。環境を変えたら治るかもって誰かが言って…」
「治るわけないでしょ、余計悪化しませんかぁ? ドバイなんて50度平気で超えるって言うじゃないですか」
「日本の湿度よりましって言う人もいるけどね」
「とにかくお金が欲しいわけよ。今、山梨の病院通ってるんだって」
「それは…大変ですね」えええ、車で? ご主人も大変だな。
「だから―、市川さんみたいな美肌を見ると余計に羨ましいんじゃないの? 自分と合わない会長とうまくいってるし、待遇もよくなるし、自己中なのよ! とにかく」
「よ、吉永さん…」
「お母さんがあんなにせかせかしてるのも原因なんじゃないですかあ? お子さんかわいそう」
うん、私もそう思う。精神的なストレス。
ですが…ほんのちょっと私もとばっちり受けてるような。
秘書室ぎすぎすの核心はこれ?
ナル様、これは、報告案件…でしょうか?? ガクブル。
そのナーズ売り場でじっと悩んでる吉永さん。既に一通り目を通し、毎度おなじみ高島屋の化粧品売り場に来てる。
「吉永さん、迷ってるの?」室長が尋ねた。
「ええ」
ナーズのイメージはとにかく『大人っぽい』『洗練』アーティスト系だけどそんな感じ。私はというと相変わらずローラメルシエとポール&ジョー。パケがかわいくて色味も無難だからずっと変えてない。大抵のデパートでこの二つは売り場が近く、それも助かっている。
「フェイスパウダー?」
「はい。秋用にどうかなと思ってて」
「割と持ってる人多いよね」
パケが映えますよね。迷った末、吉永さんは試してみることに。
「わあ、きれいねえ」
仕上がりはさすが、だった。
BAさんのテクもあるだろうけど、このすごいデパートの照明の下で陶器肌に変身、キラキラは超控えめ。いいんじゃない?
ひとしきり調達して、イタリアンのお店に寄った。
「うーーん、問題は社長室でどう見えるかよ」吉永さんは購入した商品を手にしてまだ思い悩む。
「そうね、気を遣うよね、ご来客も多いし」
そうなの! それは私も実感。ずっと会長室にいるため、身だしなみには常に気を遣う。会長ともなると、客人もそれなりの方々がいらっしゃるわけで、カジュアルに、とはいかない。
私の場合はおもてなし時に腰を低くすることもあるため、シャツのボタンはきちんと閉じ、髪の毛もフケや寝ぐせなど絶対ご法度。シャンプートリートメントは毎日、ドライヤーも30分以上かけてる。当たり前か。
肝心なのは会長視線でどうかというところだ。何せ潔癖であらせられるから。
会長の身長から見て、化粧のノリ具合はどうかとか、3Dチェックは欠かせない。
リップの落ち具合もね。
この辺りはスティラのグロスや口紅を複数遣いしていたんだけど、日本から完全撤退しちゃった…。
思わぬところで同士発見! 吉永さんもなんだぁ~。嬉しいな。
「市川さんって、本当に肌綺麗よねえ」いきなりふられてサラダに伸びたフォークを止めた。
「そうですか?」
「ファンデが全然崩れないじゃない」
塗ってないんですよ…とはいえず、「パ、パウダーだし、とれちゃってるかもしれませんね」あははとごまかす。要するに会長から見てベストであればいいのだ。このところ早めに帰社してるしね。
「へえ。日焼け止めとファンデなし?」
「一応塗ってますけど」べったりじゃなく汗をかきそうなところは避けてる。
「いいわねえ、若いって。私、もうRMKやめようかな」
「ええ、なんでですか、室長」
「もうRMKって年でもないしね。さっきだって、若い子の方が多かったし」
「そんな気になりますかあ?」吉永さんは首を傾げ、室長は軽く頷く。
「通販でもいいんだけど、おなじみの店員さんもいるし、帰りにふらっと寄って買いたいときもあるし。」
「ですよ。気にしなくても…」
室長、真剣にお悩み中。実は、白本室長、会長より一つか二つ年上なのだ。驚き。
「…そうそう、偽真鍋さん、捕まったんですってね」
「ああ、女真鍋さんね、うちの採用試験落ちて、逆恨みだとかなんとか」
ひえっ、そうだったんだ。人事から漏れたのかな。会長は言ってなかったぞ。
「怖いよねえ、逆恨み丸出し」
「お金に困ってたんですかね」
「どこに危険が潜んでいるかわかりませんね」
「それって社員に無差別に復讐…って意味よね」
「社員に被害がなかったのは不幸中の幸いですね…誰かを傷つけるより詐欺に加担した方がお金にはなりますよね」
こわ~~。真鍋さんの名刺も女性がらみだったな、そういえば。
私的にはそんなに簡単に闇サイトとつながることが怖いわ。
「で、どんな基礎使ってるの?」化粧品話に戻った。
「私ですか? 基礎はあんまり…」
メイクに比べるとそんなにこだわってないかも。
「ニキビ肌じゃないよね。絶対」
「ええ、まあ…」
言えないわ、普段は親が使ってるへちま水だの、ただのミネラルウォーターをシューレベルなのに。(笑)
でも、今使ってるのは…。
「先日試供品で頂いた化粧水です…」
伊集院社長から頂いたものを使ってる。
地元松江の玉造温泉水配合で、思いのほかなじみがよく、肌にしみこませてもべたべたしない。先日の酷暑の中の列車紀行で宿の適当な使い捨て石鹸で洗顔しても大丈夫だった。これは本物でしょう。ちなみに可愛い瓶入りでリュディアというらしい。
「ああ、そういうパターンね。役得よね」
「じゃあ、発売前の商品かな」
「ええ、ですかね」
何故か申し訳なく下を向く私。
「手土産いいよねえ。…ってこんなこと言ってると、横森さんみたいになったりして」
「また……よしなさいよ、吉永さん、あなただって頂いてるでしょ」
ピク。横森さん?
「…羨ましいんだって。他にも食事のおもてなしで会長に気に入られたり」
「吉永さんったら」
「で、私、言っちゃったの。…それって立派な能力でしょ? 実際機能してるし、ケータリング業者呼べばもっと経費かかるよ、って」
「やめなさいって」
「こういう時でしか喋れないじゃないですか。万が一市川さんに刃が向かないようにある程度知ってた方がいいと思いまーす」
「「 お待たせしました――― 」」
そこでタイミングよく、ボロネーゼ、ブッラータがやってきた。ボロネーゼの上にでっかい生チーズがのっかってる奴。ここのは本物の水牛のチーズで2000円というコスパの良さ。エビも蟹もなしで合格。
「いただきまーす」
とりあえず中断して、食す。こういうのお店に限るわ。室長、細いのに麺を1,5倍マシとな。
ブッラータにナイフをスーッと入れるととろーり全体にドーム状に広がって夢の悪魔飯に変身。
オムライスの卵とろーりとはまた違うビジュアルで映えること、おいしそーー!
「…何でもかんでも羨ましいのよ。今はドバイに行きたいんだって」しばらくして話が再開したようだ。「そんなに憧れるかなあ? ドバイなんて」
ドバイ?…また話が飛ぶなあ。
「総合職の募集の話でしょ」
ドバイでは例のアレのせいで人員が足りてないって聞いたことはあるけど。
ドバイの話は会長室では聞かないなあ。
…私、関係あります?
「だから―、事務から試験なしで許可貰いたいのよ、副社長に愚痴ってちゃだめでしょ。あーあ、本当にお気の毒、副社長」
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「とにかくお金が欲しいわけよ。今、山梨の病院通ってるんだって」
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「だから―、市川さんみたいな美肌を見ると余計に羨ましいんじゃないの? 自分と合わない会長とうまくいってるし、待遇もよくなるし、自己中なのよ! とにかく」
「よ、吉永さん…」
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