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7話 シドニーの休日
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ああ、しまった。
目覚めると、知らない部屋のベッドにいた。バーで飲んでいたのは記憶にあるが…、
「おはよう、ミスター」テラスから声がした。まばゆい光に満ち溢れる部屋。アナ嬢が静かに歩み寄る。それにすんなり答えてよいものか迷っていると、彼女は笑ってベッドに腰かけた。
「おほほ、素敵な夜でしたわ」
…こんなことは今まで何度もあった。だが、意識を失ったのは初めてだ。もしかして何か盛られたのか…。
「何か着ていただけるとありがたい」
気のきいたセリフでも何でもないが、これも既視感がある。どういうわけか、今まで夜を共にしたアメリカ人をはじめとする女性はすべて、よほど自分のプロポーションに自信があるのだろう、その肢体をひけらかしてきた。人種は問わず、アメリカナイズドされた女性、というべきか、そして、一人残らず俺の事後の態度に説教をくらわした。
「素敵でしたわ、ミスター、今度は日本語でお願いしたいわ」
はて、俺は、何を喋ったのだろう。こんなことになるのは初めてだ。急いでざっと服を着る。
彼女はガウンを羽織り、本題に入った。
「私、毎日建設現場を眺めては、あふれ出すアイディアと戦っていますの。ある日、この鉄工所跡をもっと有効利用できないかとひらめきまして、……ロケ地にしたらどうかしら」
「ロケ地?」
「ええ。日本では『ゴードン』の新幹線が走ることになったそうですね」
「ゴードン?」こんな時にその名が出てきて成明は驚いた。
「何故、それを…」
成明は思わず口にしていた。
ゴードン——あの、くず鉄を燃料にして戦う(という設定の)着ぐるみ戦士。
いにしえの特撮ドラマ。
自分が関わりたくないと思っていたものが、今、外交の場で語られている。
「私、新幹線も大好きなの」
アナスタシアは言った。
「アニメやかわいいキャラクター柄など。おもちゃ箱のようでステキです」
成明は言葉を失った。
彼女は、ゴードンがラッピング新幹線のキャラクターに選ばれたことを、すでに知っていた。
自分たちが聞いたばかりの情報を、彼女はもう“提案”に変えていた。
「映画化の折には、是非我が国をロケ地にしていただきたいわ」
その一言に、ただ、まばゆい光の中で立ち尽くすしかなかった。
はあーーー。
シャワーの音が、記憶を洗い流してくれるわけではなかった。
『ゴードン?そんな、どうでもいいものがなぜ…』
思い出すのは、宇部市の古い養殖場。
長い間事業は凍結したまま。あの出張は香苗に飛行機慣れしてもらうための配慮だった。
結果は、事故。
甲殻類アレルギーの発症。
今も彼女は、エビの匂いにすら怯える。
フライト恐怖症も、治っていない。
あれ以来、香苗はエビの着ぐるみさえ拒むようになった。
その場所は、最新の会議で「ゴードンランド」あるいは「モールにしてはどうか」と議論された。
だが、誰も本気ではなかった。
現地民だけが盛り上がる、ご当地レベル。モールなんてとても——それが大方の認識だった。
まあ、それは後回しにしよう…。シャワーを終え、身支度を整える。少し伸びた髪をセットしかけて、思い出した。『会長、伸びかけのもみあげを隠すのは耳のところで分けて自然に流されたらいいですよ』香苗の言葉を思い出し、鏡の前でそれに従う。
香水で仕上げをし、ドアを開けると、しばらく廊下を進んで、呼び止める声がした。
目覚めると、知らない部屋のベッドにいた。バーで飲んでいたのは記憶にあるが…、
「おはよう、ミスター」テラスから声がした。まばゆい光に満ち溢れる部屋。アナ嬢が静かに歩み寄る。それにすんなり答えてよいものか迷っていると、彼女は笑ってベッドに腰かけた。
「おほほ、素敵な夜でしたわ」
…こんなことは今まで何度もあった。だが、意識を失ったのは初めてだ。もしかして何か盛られたのか…。
「何か着ていただけるとありがたい」
気のきいたセリフでも何でもないが、これも既視感がある。どういうわけか、今まで夜を共にしたアメリカ人をはじめとする女性はすべて、よほど自分のプロポーションに自信があるのだろう、その肢体をひけらかしてきた。人種は問わず、アメリカナイズドされた女性、というべきか、そして、一人残らず俺の事後の態度に説教をくらわした。
「素敵でしたわ、ミスター、今度は日本語でお願いしたいわ」
はて、俺は、何を喋ったのだろう。こんなことになるのは初めてだ。急いでざっと服を着る。
彼女はガウンを羽織り、本題に入った。
「私、毎日建設現場を眺めては、あふれ出すアイディアと戦っていますの。ある日、この鉄工所跡をもっと有効利用できないかとひらめきまして、……ロケ地にしたらどうかしら」
「ロケ地?」
「ええ。日本では『ゴードン』の新幹線が走ることになったそうですね」
「ゴードン?」こんな時にその名が出てきて成明は驚いた。
「何故、それを…」
成明は思わず口にしていた。
ゴードン——あの、くず鉄を燃料にして戦う(という設定の)着ぐるみ戦士。
いにしえの特撮ドラマ。
自分が関わりたくないと思っていたものが、今、外交の場で語られている。
「私、新幹線も大好きなの」
アナスタシアは言った。
「アニメやかわいいキャラクター柄など。おもちゃ箱のようでステキです」
成明は言葉を失った。
彼女は、ゴードンがラッピング新幹線のキャラクターに選ばれたことを、すでに知っていた。
自分たちが聞いたばかりの情報を、彼女はもう“提案”に変えていた。
「映画化の折には、是非我が国をロケ地にしていただきたいわ」
その一言に、ただ、まばゆい光の中で立ち尽くすしかなかった。
はあーーー。
シャワーの音が、記憶を洗い流してくれるわけではなかった。
『ゴードン?そんな、どうでもいいものがなぜ…』
思い出すのは、宇部市の古い養殖場。
長い間事業は凍結したまま。あの出張は香苗に飛行機慣れしてもらうための配慮だった。
結果は、事故。
甲殻類アレルギーの発症。
今も彼女は、エビの匂いにすら怯える。
フライト恐怖症も、治っていない。
あれ以来、香苗はエビの着ぐるみさえ拒むようになった。
その場所は、最新の会議で「ゴードンランド」あるいは「モールにしてはどうか」と議論された。
だが、誰も本気ではなかった。
現地民だけが盛り上がる、ご当地レベル。モールなんてとても——それが大方の認識だった。
まあ、それは後回しにしよう…。シャワーを終え、身支度を整える。少し伸びた髪をセットしかけて、思い出した。『会長、伸びかけのもみあげを隠すのは耳のところで分けて自然に流されたらいいですよ』香苗の言葉を思い出し、鏡の前でそれに従う。
香水で仕上げをし、ドアを開けると、しばらく廊下を進んで、呼び止める声がした。
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