氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依

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第1章 レアスキルは偉大

23話 奴隷がまた一人増えた

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 ショウが、ギルドマスターの部屋から出てきたのは、それから30分が経つ頃だった。

「それでは今後もよろしく」

 ショウは笑顔でギルドマスターの部屋から出た。そして、カウンターで薬草採取の依頼書【薬草10本3セット】を薬草と一緒に出し依頼を終えた。報酬は45ゴルドだった。

「この材料費で1本500ゴルドを取る方がぼったくりなんだよ。何も考えず言いなりになるギルドがどうかしてる」

 ショウはブチブチ文句を言いながら冒険者ギルドを出て、その足で商人ギルドに向かった。
 商人ギルドの門をくぐったショウは、ギルドのホールを見渡すと受付嬢が声を掛けてくる。

「今日はどのようなご要件でしょうか?」
「あ~俺はショウという者なんだが・・・」

 名乗ると受付嬢が一瞬止まり、ショウの顔を覗き込みハッとした表情になる。

「ま、まさか、魔導士様ですか?」
「その魔導士のショウだが、数日待っても出直してこないからね。こちらから出向きましたよ」
「えっ・・・」
「えっ・・・って何?商人ギルドでは解決した事になっているのかな?」
「あ、あの・・・先日、ギルド部長のベラと元受付嬢のアリサが謝罪に行き、魔導士様には許していただいたと聞いておりますが・・・」
「ほう?それは初耳なんですが?」
「そ、それに元受付嬢のアリサの奴隷落ちでやっと承諾してもらったと聞いておりますが・・・違うのですか?」

 ショウはその話を聞いて頭に血がのぼった。そして、ショウはベラを出せと大声を出したが、対応をした受付嬢からはベラは今回の騒動を収めた功績で違う支部に移ったとの事だった。

「そうか・・・それが商人ギルドのやり方なんだな?」
「いえ・・・私も聞いただけの事で詳しくは・・・」
「そうか・・・悪かったな。それでアリサはどうなったんだ?」
「いえ・・・私も知らないんです。ただ、今回はアリサの不祥事でギルドに迷惑をかけ損害賠償をされたと聞いてます」
「その損害賠償を払えないから奴隷落ちになったというわけだな?」
「はい・・・ギルドはアリサの不祥事をまた起こさないように、徹底的に職員に教育指導をされました。それで今回の騒動の決着がついたものとばかり・・・」

 ショウは、組織の悪を目の当たりにした。もし、日本でこんな事があったらすぐ拡散して会社は叩かれ倒産してしまうだろうと思った。しかし、ここは異世界で社員の保護なんてなく、力がなければ泣き寝入りしかないと思い知らされたのだった。そして、怖い顔をするショウに商人ギルドの受付嬢は腰を抜かしその場に崩れ落ちるのだった。
 ショウは受付嬢を抱き上げ、他の受付嬢に引き渡し、ギルドを出る。

「ご主人様・・・」
「ちょっと寄り道をするからな」
「は、はい・・・」

 ショウは奴隷商会に出向くと、カウンターに並ぶ綺麗な受付嬢を見渡す。すると、受付嬢達は静かに会釈をする。

「ちょっと聞きたいんだがいいかな?」
「はい。なんでも聞いてください。答えれる事ならよろしいのですが、そのエルフ奴隷をお売りになられるとかですか」

 それを聞いたシスティナは、ショウの腕に抱きつく。

「違います。システィナも離れろ」
「あら、そうなの?でもいいご主人様なのですね。奴隷がそんなに懐いているだなんて。うふふ」

 ショウはこの受付嬢は他のギルドと違い困惑しながらも質問をした。

「この数日でアリサという女性が売られてこなかったか?」
「あ~あの・・・綺麗な女性ですね。確かに売られてきましたよ」
「その女性を購入したい」
「ご主人様!?どうしてあの女を!」
「当たり前だ。まさか商人ギルドがここまでやるとは思わなかった」
「えーっとお知り合いの方ですか?」
「そうだな。知り合いと言えば知り合いだ。アリサの購入を望む」
「ご主人様。同情で購入するのは止めた方がよろしいかと思います」
「何を言ってんだよ。じゃあシスティナお前の購入も止めた方が良かったのか?俺はお前の時も最初は同情だったぞ」
「うっ・・・しかし、あの女はご主人様を馬鹿にして」
「事情はシスティナも理解してるよな?」
「はい・・・」
「それに主である俺に反抗するのはどうかと思うか、システィナはどう・・・」
「ご、ごめんなさい!調子に乗りました。ご主人様に従います!」

 システィナは土下座する勢いで謝罪する。そして、奴隷商の受付嬢は奴隷商人とアリサを連れてくる。

「あ、あんたは!」
「よう。久しぶりだな」
「あ、あんたのせいであたしは!」
「だから、アリサお前を購入するつもりだ」
「はぁあ?あんたなんかに買われるなんて絶対拒否します」

 アリサは商人の前で泣き崩れた。その様子を見て奴隷商人も困惑する。そして、ショウは奴隷商人に二人で話し合いをさせてほしいとお願いする。

「アリサさん、あんたは奴隷だ。儂は客が購入したいと言われれば売るしかないから、あの人と何があったかわからんがよく話したほうがいい」
「購入の拒否は駄目なんですか?」
「アリサさんは損害賠償として売られた借金奴隷だ。借金を返せるあてがあるならそれも可能だがな」
「うっ・・・ううっ・・・」

 そう言って、奴隷商人は部屋を出ていく。そして、ショウがアリサに話しかけてもアリサはそっぽを向くだけだ。

「ちょっとこっちを向いてくれるか」
「・・・・・・」
「俺は商人ギルドのトップを引き摺り降ろそうと思ってる」
「そんな事出来るわけがないでしょ」
「お前は本当に今のままで納得できるのか?」
「出来るわけがないでしょ!だけど・・・」
「なら、商人ギルドが落ちぶれる様を見せてやるよ」
「はぁあ!?商人ギルドが落ちぶれる?あの金の亡者を?」
「そういう事は内部を知っているって事だな」
「ええ。知っているわ。だけどあんたになんか教えるつもりはないわ」
「そんなもん聞くつもりはないね」
「はっ!どうだかね」
「それに、商人ギルドを困らせる事ももう開始しているからな」
「そんな事言って騙されないわよ」
「じゃシスティナに聞いてみな。システィナに嘘偽りは話せさせないから」
「本当に?」

 システィナは奴隷なのは知っている。ショウが嘘偽りを言うなと命令すれば、システィナは嘘を言えなくなるのは常識だ。

「ええ。私は貴女には言いたくありませんが、ご主人様の指示には従います。そして、ご主人様の計画が実行されれば、必ず商人ギルドは傾き、そしてあのベラという女は責任を取らされ、今の貴女より不幸になります」
「嘘よ!そんな事が・・・」
「ご主人様は魔導士という事を貴女も知っているはずです」

 アリサはショウの顔を見る。そしてショウはアリサに語るのだった。

「まさか!そんなポーションを?」
「本当だ。これが上手くいけば商人ギルドは大打撃になるのはお前もわかるだろ?」
「はい・・・」

 アリサの説得に成功したショウは奴隷商人を呼びに行く。

「アリサさんこれからも色んな事があるかもしれんが、気をしっかり持って生きて下さい。私にはそんな事しか言えなくて申し訳ないんだが・・・」
「はい・・・」

 アリサの隷属の首輪にショウの血液をつけ、奴隷商人がカースの魔法を使い契約は終了するのだった。

「アリサ、君はこれから俺の土地の家で洗濯や掃除をしてもらうからよろしく頼む」
「承知しました」

 ショウ達がアリサを購入して奴隷商会を出ると、奴隷商人はなんともやるせない気持ちでショウ達を見送るのだった。

「商人ギルドか・・・問題が山積みのようだな。あまりにも上層部が腐っているみたいだ・・・」
「主様、アリサは幸せになれるでしょうか?」
「それは何とも言えんな。あのショウ様は巷で噂の魔導士様だが、何ともクセが強いお方だからな」
「みたいですね。私達奴隷は主様次第なところがありますからね・・・」

 奴隷商人とカウンターにいた受付嬢は遠い目をする。奴隷商会の受付嬢は見た目麗しい高額奴隷だったみたいだ。

「まぁ、魔導士様にはお前達の見た目に惑わされなかったのは少し驚いたがな」
「ちょっと主様言わないで下さいよ。みんな凄く気にしているんですからね」
「悪かった悪かった。それにしてもあの魔導士様がなぜこの町に住み着いたのか・・・この町にどんな風を起こしてくれるのか楽しみでもあるな」

 奴隷商人は意味深な事を呟き窓から、ショウ達を見て笑っていた。それから数日が経ち、商人ギルドでは慌ただしくなる。

「一体どうなっておるのだ!」
「それが冒険者ギルドではポーションが高すぎると言われ、買い取りを拒否されました」
「そんな馬鹿な事があるのか?冒険者の回復はポーションがなくてはならないアイテムだろ?」
「それがなんでも、回復量が多いポーションが開発されたようで従来のポーションは高すぎると・・・」
「値を落とせと言う事か・・・誰だ!そのポーションをギルドに売り込んだ錬成師は!」
「ただいま、生産ギルドと話し合いの最中でもうじきその錬成師が判明するかと・・・」

 しかし、生産ギルドでもまったく知らないと言われてはね返されたのだった。
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