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ヴァルハラ編
8 友との別れ
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side ノア=オーガスト
リオンとの出会いはオレたち兄弟にとって最高の出来事だった。なぜなら人生で初めての友達を得ることができたのだから。
「はぁ、リオンといると楽しいなー。な、シン」
「ん。リオンなら一緒にいても嫌じゃない」
「……そう言ってもらえると、嬉しい。ありがとう」
リオンともっとずっといられたらいいのにな……ん?あっ、そうだ!
「あのさ、リオン!オレたちと一緒に旅してみないか?」
一瞬キョトンとしたリオンだが、すぐに顔を綻ばせながら答える。
「旅……旅か……。いいね、それ。ノアとシンが一緒なら絶対に楽しい」
「だろ?」
「お待ちください、リオン様。あなたはこの国の第二王子であらせられます。叡王様のお許し無しには勝手なことはできませんよ」
ギルハルトさんの諫言に、オレはてっきりリオンが残念そうにすると思ったけど(なんならオレがそれを聞いて悲しくなった)、リオンは決意を固めた表情でギルハルトさんに言い放った。
「ギルハルト。ぼくは……ぼくはようやく自分という存在に希望を見出すことができたんだ。これを簡単に手放すことは絶対にしないよ。ぼくをずっと見守ってくれてた父様や母様、それに兄様には感謝が尽きない。もちろんギルハルトもね。……だけど、ぼくは、ぼくの決めた道を誰にも邪魔されずに進みたいんだ。……だからギルハルト。ぼくに力を貸してはくれないか」
リオンの熱い想いに気圧されたのか、ギルハルトさんはすぐに言葉を紡げずにいる。そして、片膝をつき頭を下げた。
「…………私はこれまで、何年も苦しむリオン様に何もしてあげることができませんでした。従者としてあるまじき愚行です。申し訳ございません。……ですが、もし、リオン様がこの愚かな私を許してくださると言うのであれば、僭越ながらこのギルハルト=クリムゾンが、今度こそ全身全霊を持ってお支えすると約束します」
「ああ。これからも、よろしく頼むよ」
「はっ!」
きっとこれならリオンの未来は明るいな……。
「「ノア!シン!」」
二人の輝かしい未来を願っていたら、突然後方から聞き覚えのある声が鳴り響く。
見つけるの早すぎるよ……。
「あーあ、もう終わりか。まだまだ冒険したりないのに」
「仕方ない。秀と湊は異常なまでに心配性だから」
シンの的確な指摘に思わず笑いが溢れる。
「ははっ。たしかに」
『ドン』
怖い顔をした秀がオレたちに抱きついてくる。
「……っこの馬鹿どもが。お前らが急にいなくなって心臓が止まるかと思ったんだぞ。心配させんな、クソったれ」
いつもより口調が雑だけど、本気で心配させてしまったことは伝わってきた。ちょっと声震えてるし。
……ていうか力強すぎ。いたい……!
「秀、落ち着け。そんなに強く抱きしめたら痛いだろ」
「あ、ああ。わりぃ」
「ノア、シン。帰ったら……後で説教だ」
…湊のあんなに低くて怖い声、初めて聞いた。無表情で言うからさらに怖い。
「わ、わかった」
「……」
「シン、返事」
「……はい」
圧が半端ない湊の声に、流石のシンも耐えられなかったみたいだな。ははは。
あーあ、オレたちの今後が危ういなー……。
「あ、あの。ノアとシンを責めないでください。たしかに、二人は心配をかけてしまったけど、それは家出するぐらい嫌なことされたからで。だ、だから許してあげてください」
リオン……。この重々しい空気の中発言できるなんてすごすぎるぞ。
その優しさは心に沁みるけど、すっごく申し訳ない……。
「家出?一体何をーーー」
「俺たちは、俺たちの主には酷いことはできないから安心しろ」
秀の質問を遮るように湊がリオンへと答える。
「……それなら、良かったです。あの、あなたたちはーーー」
「リオン様、お下がりください!」
ギルハルトの叫びに呼応して、護衛隊がオレたちに対し、刃を向けた。
「な、なにをしてるんだ、ギルハルト!」
「申し訳ありません、リオン様。ですが、こいつらは危険です。……お前ら、何があってもリオン様を死ぬ気で守れ」
「「「「「ハッ」」」」」
こいつら……秀と湊のことか。危険なんて、そんなこと……。
「おいおい。なんだってんだ急によぉ。こちとら感涙の再会だったんだぞ。それに釘を刺すとはいい度胸だなぁ、おい」
ちょっ、秀はなんでそんなに怒ってんだよ。リオンたちは敵じゃないって。
「敵意を向けた覚えはないが、お前たちがこちらに危害を加えるならば……容赦はしない」
湊まで何言ってんだよ。このままじゃ本当に戦いが始まっちまう……。
二人を止めようと、オレは必死に手を伸ばした。
「ちょ、ちょっと待ーーー」
「そこまでです!双方、武器を納めてください」
こ、この声は……!
声が聞こえた方を見れば、そこには想像通りの人物がいた。
「秀君、湊君。主を守ることはもちろん大切なことですが、その主の意思を蔑ろにするのは良くありませんよ」
やっぱり、クロードだ。クロードも来てたのか。
クロードに諭された秀と湊がオレたちを見る。すると、なぜか悲しげな目をしながらオレに謝ってきた。
「わりぃ。そんな顔させるつもりじゃなかったんだ」
「すまない。俺たちが悪かった。……だから、泣かないでくれ」
秀や湊の優しくもどこか悲しげな言葉にオレは驚く。
……え。泣く?オ、オレ泣いてなんか……。
オレの気持ちとは裏腹に、何かがポツリと地面へ落ちていた。
「あ、あれ?な、なんで、オレ、涙なんか……」
手で何度拭き取ってもポロポロと流れ落ちる涙。みんなびっくりしてるけど、オレが一番驚いてるよ。
「兄さん、リオンが死ぬかもしれないと思ったから無意識に涙が出たんだ。俺もリオンがいなくなるのは嫌だって思ったから」
オレはシンのその言葉に、ストンと腑に落ちてしまった。
そうだよ。この涙はリオンと二度と会えなくなってしまうんじゃないかっていう恐怖からの涙だったんだ。
オレはリオンが死んでしまうのが心底恐ろしくて、すごく怖かったんだ……。
side ギルハルト=クリムゾン
リオン様へさらなる忠義を決意したのも束の間、二人の若い男が現れた。私とそう歳は変わらないだろう。
だが、そんな二人から発せられるオーラは常人のものではなかった。下手をすればこの世界に数えるほどしかいない、Sランク冒険者並の実力を持っているかもしれない……。
「申し訳ありませんリオン様。ですが、こいつらは危険です。……お前ら、何があってもリオン様を死ぬ気で守れ」
「「「「「ハッ」」」」」
これは私が全力を出しても勝てる見込みは……ほぼゼロに近いだろうな。
だが、だからといってみすみす倒されるわけにはいかない。
なんとしてもリオン様をお守りするっ!
「そこまでです!双方、武器を納めてください」
そこに現れたのは黒髪の見知らぬ若い男だった。だが、不思議と敵だと感じはしなかった。
その男は、あの二人に何かを伝えた後こちらに近づいてきた。
「私はクロードと申します。うちの者たちがご迷惑をかけてすみませんでした。彼らはあなた方と同じように、自身の主人を守るために武器を構えたのです」
あの二人はノアとシンの従者だったのか。相手をよく知らずに敵意を向けるとは……早計だった。
私は警戒を解き、構えていた武器をしまう。
「それから……これは余計なお世話かもしれませんが、もう少しご自分の主を尊重なさった方がよろしいと思いますよ」
クロード殿に指摘され、リオン様に目を向けると不満そうな顔をされていた。
なんでぼくの話を聞いてくれなかったのか、と。
「では、私はこれで失礼しますね」
side ノア=オーガスト
クロードの鶴の一声で誰の血も流れることがなく、一触即発の危機にあったこの場はおさまってくれた。本当によかった。
「ノア君、シン君。君たちがいなくなって私たちはとっても心配したんです。その反省はしっかりしてもらいますよ」
リオンたちの方に行っていたクロードは戻ってきて早々オレたちを叱った。
「うぅ。ごめんなさい」
「さ、二人とも無事に見つかったことですし、早く帰りましょう。ヴォルガが一人寂しく待っていることですしね」
あっ……帰る前に、最後にリオンと話したい!
「オレ、まだリオンにお別れしてない。だから、ちょっとだけ待ってて!シン、行こう」
俺はシンの手を引き、リオンのもとへと走り出した。
「リオン!迎えが来ちゃったからそろそろ行かなきゃいけないんだ。だから……お別れだ」
「……そ、そうだよね。……うん」
別れたくない。そんな気持ちを見せないように俯くリオン。……ごめんな。だけど……。
「でも、いつか必ず会いに行くよ。そんでその時は一緒に世界を見て回ろう。約束だ!」
オレは笑顔を向けつつ右の拳を正面に突き出す。そしてオレと同じようにシンも左の拳を突き出した。
「うん。絶対だよ」
大粒の涙を左目から一粒流しながら、リオンは温かな笑顔で左の拳を突き出した。
三つの小さな拳がつながり、中心には三角形の空洞ができる。
この誓いはオレたちの友情の証だ。
必ず、必ずリオンに会いに行くよ。
side リオン=アストラル
「二人が大変お世話になりました。代表して私からお礼を申し上げます」
クロードさんと名乗った方が、ノアとシンの後ろにやってきた。
「いえいえ。こちらが助けられたくらいです。本当に良い子たちですよ」
クロードさんに丁寧に対応したギルハルト。
「そう言っていただけるのはありがたいです。……そろそろ私たちはお暇しますね。行きましょう」
ノアとシンを連れていくクロードさん。……やっぱり二人と離れるのは寂しいな。
「じゃーなー、リオーン」
「またな」
手を大きく振るノアと手をちょこっとだけ上げるシン。
「またねー、ノアー、シンー」
こうして二人は森の奥へと姿を消した。いつもは暖かく感じる夕日も今日はヤケに冷たく感じた。
「行ってしまわれましたね」
「うん。……すごく寂しいけど絶対にまた会える。だから、再会したときにがっかりされないような立派な男にならないとね」
「そうですね。微力ながら私も手伝いますよ」
あの不思議で奇跡的な出会いから数日後。
まずは家族ときちんと話し合いをしてみることにした。ギルハルトになぜ家族がぼくを見守っていたことを話さなかったのかと問いただしたところ、どうやら口止めされていたらしい。
優しいリオンのことだから、自分たちがリオンのために何かしてあげられないかと悩んだり心配したりしていることを知ったら、きっと自分を責めてさらに心に傷を負うかもしれない。だからぼくには決して話すなと言われていたようだ。
ぼくの頼みをすぐに父様は了承してくれて、第一回家族会議が開催された。その内容を簡潔に言うなら、全員が自分を自分で非難する会……かな。
全部自分が悪かったんだ、といったようなことを永遠に言い合う謎の話し合いだったけど、家族の仲はかなり深まったと、ぼくはそう感じたんだ。
直接相手と向き合わないとわからないことがあるって知ることもできたしね。
それと、学校にも通うようになった。前と同じところだ。
また例のごとく気持ち悪いだなんだと言われたけど、全然平気だった。だってぼくの胸には二人とのかけがえのない思い出が、しっかりと刻まれているんだから。
ノアとシン。彼らのおかげでぼくは変わることができたんだ。
またいつか会える日を楽しみにしてるよ。
ふと、窓の外を眺める。三羽の白い小鳥が広大な青空へと、その小さな翼を力強く羽ばたかせて飛び立った。
リオンとの出会いはオレたち兄弟にとって最高の出来事だった。なぜなら人生で初めての友達を得ることができたのだから。
「はぁ、リオンといると楽しいなー。な、シン」
「ん。リオンなら一緒にいても嫌じゃない」
「……そう言ってもらえると、嬉しい。ありがとう」
リオンともっとずっといられたらいいのにな……ん?あっ、そうだ!
「あのさ、リオン!オレたちと一緒に旅してみないか?」
一瞬キョトンとしたリオンだが、すぐに顔を綻ばせながら答える。
「旅……旅か……。いいね、それ。ノアとシンが一緒なら絶対に楽しい」
「だろ?」
「お待ちください、リオン様。あなたはこの国の第二王子であらせられます。叡王様のお許し無しには勝手なことはできませんよ」
ギルハルトさんの諫言に、オレはてっきりリオンが残念そうにすると思ったけど(なんならオレがそれを聞いて悲しくなった)、リオンは決意を固めた表情でギルハルトさんに言い放った。
「ギルハルト。ぼくは……ぼくはようやく自分という存在に希望を見出すことができたんだ。これを簡単に手放すことは絶対にしないよ。ぼくをずっと見守ってくれてた父様や母様、それに兄様には感謝が尽きない。もちろんギルハルトもね。……だけど、ぼくは、ぼくの決めた道を誰にも邪魔されずに進みたいんだ。……だからギルハルト。ぼくに力を貸してはくれないか」
リオンの熱い想いに気圧されたのか、ギルハルトさんはすぐに言葉を紡げずにいる。そして、片膝をつき頭を下げた。
「…………私はこれまで、何年も苦しむリオン様に何もしてあげることができませんでした。従者としてあるまじき愚行です。申し訳ございません。……ですが、もし、リオン様がこの愚かな私を許してくださると言うのであれば、僭越ながらこのギルハルト=クリムゾンが、今度こそ全身全霊を持ってお支えすると約束します」
「ああ。これからも、よろしく頼むよ」
「はっ!」
きっとこれならリオンの未来は明るいな……。
「「ノア!シン!」」
二人の輝かしい未来を願っていたら、突然後方から聞き覚えのある声が鳴り響く。
見つけるの早すぎるよ……。
「あーあ、もう終わりか。まだまだ冒険したりないのに」
「仕方ない。秀と湊は異常なまでに心配性だから」
シンの的確な指摘に思わず笑いが溢れる。
「ははっ。たしかに」
『ドン』
怖い顔をした秀がオレたちに抱きついてくる。
「……っこの馬鹿どもが。お前らが急にいなくなって心臓が止まるかと思ったんだぞ。心配させんな、クソったれ」
いつもより口調が雑だけど、本気で心配させてしまったことは伝わってきた。ちょっと声震えてるし。
……ていうか力強すぎ。いたい……!
「秀、落ち着け。そんなに強く抱きしめたら痛いだろ」
「あ、ああ。わりぃ」
「ノア、シン。帰ったら……後で説教だ」
…湊のあんなに低くて怖い声、初めて聞いた。無表情で言うからさらに怖い。
「わ、わかった」
「……」
「シン、返事」
「……はい」
圧が半端ない湊の声に、流石のシンも耐えられなかったみたいだな。ははは。
あーあ、オレたちの今後が危ういなー……。
「あ、あの。ノアとシンを責めないでください。たしかに、二人は心配をかけてしまったけど、それは家出するぐらい嫌なことされたからで。だ、だから許してあげてください」
リオン……。この重々しい空気の中発言できるなんてすごすぎるぞ。
その優しさは心に沁みるけど、すっごく申し訳ない……。
「家出?一体何をーーー」
「俺たちは、俺たちの主には酷いことはできないから安心しろ」
秀の質問を遮るように湊がリオンへと答える。
「……それなら、良かったです。あの、あなたたちはーーー」
「リオン様、お下がりください!」
ギルハルトの叫びに呼応して、護衛隊がオレたちに対し、刃を向けた。
「な、なにをしてるんだ、ギルハルト!」
「申し訳ありません、リオン様。ですが、こいつらは危険です。……お前ら、何があってもリオン様を死ぬ気で守れ」
「「「「「ハッ」」」」」
こいつら……秀と湊のことか。危険なんて、そんなこと……。
「おいおい。なんだってんだ急によぉ。こちとら感涙の再会だったんだぞ。それに釘を刺すとはいい度胸だなぁ、おい」
ちょっ、秀はなんでそんなに怒ってんだよ。リオンたちは敵じゃないって。
「敵意を向けた覚えはないが、お前たちがこちらに危害を加えるならば……容赦はしない」
湊まで何言ってんだよ。このままじゃ本当に戦いが始まっちまう……。
二人を止めようと、オレは必死に手を伸ばした。
「ちょ、ちょっと待ーーー」
「そこまでです!双方、武器を納めてください」
こ、この声は……!
声が聞こえた方を見れば、そこには想像通りの人物がいた。
「秀君、湊君。主を守ることはもちろん大切なことですが、その主の意思を蔑ろにするのは良くありませんよ」
やっぱり、クロードだ。クロードも来てたのか。
クロードに諭された秀と湊がオレたちを見る。すると、なぜか悲しげな目をしながらオレに謝ってきた。
「わりぃ。そんな顔させるつもりじゃなかったんだ」
「すまない。俺たちが悪かった。……だから、泣かないでくれ」
秀や湊の優しくもどこか悲しげな言葉にオレは驚く。
……え。泣く?オ、オレ泣いてなんか……。
オレの気持ちとは裏腹に、何かがポツリと地面へ落ちていた。
「あ、あれ?な、なんで、オレ、涙なんか……」
手で何度拭き取ってもポロポロと流れ落ちる涙。みんなびっくりしてるけど、オレが一番驚いてるよ。
「兄さん、リオンが死ぬかもしれないと思ったから無意識に涙が出たんだ。俺もリオンがいなくなるのは嫌だって思ったから」
オレはシンのその言葉に、ストンと腑に落ちてしまった。
そうだよ。この涙はリオンと二度と会えなくなってしまうんじゃないかっていう恐怖からの涙だったんだ。
オレはリオンが死んでしまうのが心底恐ろしくて、すごく怖かったんだ……。
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リオン様へさらなる忠義を決意したのも束の間、二人の若い男が現れた。私とそう歳は変わらないだろう。
だが、そんな二人から発せられるオーラは常人のものではなかった。下手をすればこの世界に数えるほどしかいない、Sランク冒険者並の実力を持っているかもしれない……。
「申し訳ありませんリオン様。ですが、こいつらは危険です。……お前ら、何があってもリオン様を死ぬ気で守れ」
「「「「「ハッ」」」」」
これは私が全力を出しても勝てる見込みは……ほぼゼロに近いだろうな。
だが、だからといってみすみす倒されるわけにはいかない。
なんとしてもリオン様をお守りするっ!
「そこまでです!双方、武器を納めてください」
そこに現れたのは黒髪の見知らぬ若い男だった。だが、不思議と敵だと感じはしなかった。
その男は、あの二人に何かを伝えた後こちらに近づいてきた。
「私はクロードと申します。うちの者たちがご迷惑をかけてすみませんでした。彼らはあなた方と同じように、自身の主人を守るために武器を構えたのです」
あの二人はノアとシンの従者だったのか。相手をよく知らずに敵意を向けるとは……早計だった。
私は警戒を解き、構えていた武器をしまう。
「それから……これは余計なお世話かもしれませんが、もう少しご自分の主を尊重なさった方がよろしいと思いますよ」
クロード殿に指摘され、リオン様に目を向けると不満そうな顔をされていた。
なんでぼくの話を聞いてくれなかったのか、と。
「では、私はこれで失礼しますね」
side ノア=オーガスト
クロードの鶴の一声で誰の血も流れることがなく、一触即発の危機にあったこの場はおさまってくれた。本当によかった。
「ノア君、シン君。君たちがいなくなって私たちはとっても心配したんです。その反省はしっかりしてもらいますよ」
リオンたちの方に行っていたクロードは戻ってきて早々オレたちを叱った。
「うぅ。ごめんなさい」
「さ、二人とも無事に見つかったことですし、早く帰りましょう。ヴォルガが一人寂しく待っていることですしね」
あっ……帰る前に、最後にリオンと話したい!
「オレ、まだリオンにお別れしてない。だから、ちょっとだけ待ってて!シン、行こう」
俺はシンの手を引き、リオンのもとへと走り出した。
「リオン!迎えが来ちゃったからそろそろ行かなきゃいけないんだ。だから……お別れだ」
「……そ、そうだよね。……うん」
別れたくない。そんな気持ちを見せないように俯くリオン。……ごめんな。だけど……。
「でも、いつか必ず会いに行くよ。そんでその時は一緒に世界を見て回ろう。約束だ!」
オレは笑顔を向けつつ右の拳を正面に突き出す。そしてオレと同じようにシンも左の拳を突き出した。
「うん。絶対だよ」
大粒の涙を左目から一粒流しながら、リオンは温かな笑顔で左の拳を突き出した。
三つの小さな拳がつながり、中心には三角形の空洞ができる。
この誓いはオレたちの友情の証だ。
必ず、必ずリオンに会いに行くよ。
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クロードさんと名乗った方が、ノアとシンの後ろにやってきた。
「いえいえ。こちらが助けられたくらいです。本当に良い子たちですよ」
クロードさんに丁寧に対応したギルハルト。
「そう言っていただけるのはありがたいです。……そろそろ私たちはお暇しますね。行きましょう」
ノアとシンを連れていくクロードさん。……やっぱり二人と離れるのは寂しいな。
「じゃーなー、リオーン」
「またな」
手を大きく振るノアと手をちょこっとだけ上げるシン。
「またねー、ノアー、シンー」
こうして二人は森の奥へと姿を消した。いつもは暖かく感じる夕日も今日はヤケに冷たく感じた。
「行ってしまわれましたね」
「うん。……すごく寂しいけど絶対にまた会える。だから、再会したときにがっかりされないような立派な男にならないとね」
「そうですね。微力ながら私も手伝いますよ」
あの不思議で奇跡的な出会いから数日後。
まずは家族ときちんと話し合いをしてみることにした。ギルハルトになぜ家族がぼくを見守っていたことを話さなかったのかと問いただしたところ、どうやら口止めされていたらしい。
優しいリオンのことだから、自分たちがリオンのために何かしてあげられないかと悩んだり心配したりしていることを知ったら、きっと自分を責めてさらに心に傷を負うかもしれない。だからぼくには決して話すなと言われていたようだ。
ぼくの頼みをすぐに父様は了承してくれて、第一回家族会議が開催された。その内容を簡潔に言うなら、全員が自分を自分で非難する会……かな。
全部自分が悪かったんだ、といったようなことを永遠に言い合う謎の話し合いだったけど、家族の仲はかなり深まったと、ぼくはそう感じたんだ。
直接相手と向き合わないとわからないことがあるって知ることもできたしね。
それと、学校にも通うようになった。前と同じところだ。
また例のごとく気持ち悪いだなんだと言われたけど、全然平気だった。だってぼくの胸には二人とのかけがえのない思い出が、しっかりと刻まれているんだから。
ノアとシン。彼らのおかげでぼくは変わることができたんだ。
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