婚約者の前で奪われる!?王太子が僕の番だった夜

文字の大きさ
39 / 47

約束の刻より前に降りる影

しおりを挟む
「殿下は本日の公務が順調に進んでおられ、予定よりも、少し早い刻にこちらへ参れる見通しとのことです」

 朝の柔らかな光が差し込む中、侍女は丁寧にそう告げた。

 思わず、胸の奥がどきりと跳ねる。

 「……少し、早く?」

 侍女は静かに頷いた。

 「はい。殿下より『待たせる必要はないだろう』と」

 その言葉に、手の甲の印がかすかに熱を帯びる。

 「わかりました……ありがとうございます」

 侍女が退出すると、部屋は再び静寂に包まれた。

 しかし、心は静まらなかった。

 落ち着かない。

 ただ殿下が“早く来る”というだけなのに、視線も息もどこかぎこちない。

 鏡の前に立つと、寝癖が少し残っていたことに気づき、慌てて手ぐしで整える。

 昨日、殿下が髪を耳にかけてくれた感触が、まだ残っている気がした。

 思い出した瞬間、胸が熱くなる。

 “これ以上は、理性が持ちそうにない”

 あの低い声が、耳の奥で蘇る。

 レオンは思わず頬に手を当て、深く息を吐いた。

 「……落ち着け、僕」

 けれど、印はかすかに脈を打ち、落ち着く理由などどこにもなかった。

─────

 期待と緊張を抱えたまま、時間だけがゆっくりと過ぎていく。

 じっと座っていられなくて、気づけば部屋の中を行ったり来たりしていた。

 窓の外を見ては、すぐに離れ。

 ソファに腰を下ろしては、落ち着かずに立ち上がり。

 鏡の前で髪を整えたかと思えば、またベッドの端まで歩いて戻る。

 「……なにをしてるんだ、僕は」

 自分でも呆れるほど、そわそわしていた。

 殿下が早く来る。

 ただそれだけのことなのに、胸の奥が落ち着かない。

 手の甲の印は、さっきからじんわり温かいままだ。

 深呼吸をしようと胸に手を当てた、そのとき。

 コン、コン。

 扉の向こうから、控えめなノック。

 「……レオン」

 その低く柔らかな声を聞いた瞬間、胸が大きく跳ねた。

 反射的に立ち上がっていた。
 どこに立てばいいのかも分からず、思わず足がすくむ。

 「ど、どうぞ……」

 少し震えた声で返すと、扉が静かに開く。

 光の中に立つ殿下は、昨日よりもさらに整った衣服に身を包み、穏やかな微笑を浮かべていた。

 「予定より早く来られたのですね」

 そう言うと、殿下は静かに頷きながら部屋へ入る。

 「公務が思ったより早く済んだ。……それに……」

 言葉をそこで区切り、紫の瞳がこちらを見る。

 「あなたを待たせたくなかった」

 ほんの一瞬の沈黙。

 その一言で、僕は胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。

 「そ、そんな……待っていたわけでは……」

 否定しようとした言葉は、殿下の微笑に遮られた。

 「そうか?」

 軽く覗き込むように視線を向けられ、思わず目をそらす。

 心臓が、さっきから落ち着かない。

 殿下は部屋の中央まで歩くと、向かい合う形で僕へと近づいた。

 「昨日は……すまなかった」

 「え……?」

 「距離を取り損ねた。あなたを困らせたかもしれない」

 言葉は穏やかだが、どこか苦笑を含んでいた。

 レオンは首を横に振る。

 「あの……困ってなど……いません」

 殿下の瞳が驚いたように揺れた。

 そして、小さな息を漏らしながら微笑む。

 「そう言ってくれるのは、嬉しいな」

 距離はまだ慎ましい。

 なのに、十分すぎるほど近く感じた。

 胸の鼓動は速く、印は静かに熱を宿している。

 昨日とは違う。
 けれど昨日と同じくらい、いや、それ以上に胸がざわつく。

 殿下は視線を落とし、柔らかい声で言葉を続けた。

 「……今日は、あなたの話を聞かせてほしい」

 「僕の……?」

 「昨日は俺ばかりが動いてしまったからな。今日はあなたの声を聞きたい」

 胸が温かくなる。

 殿下は距離を詰めすぎず、けれど確かに近くにいる。

 その在り方が、とても優しかった。

 そして僕は気づく。

 殿下が来てくれた。

 それだけで、部屋の空気が満ちていく。


 静かな再会。
 けれど甘さが確かに漂い始めた瞬間だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!

或波夏
BL
「探せ!この靴を作った者を!」 *** 日々、大量注文に追われるガラス職人、リヨ。 疲労の末倒れた彼が目を開くと、そこには見知らぬ世界が広がっていた。 彼が転移した世界は《ガラス》がキーアイテムになる『シンデレラ』の世界! リヨは魔女から童話通りの結末に導くため、ガラスの靴を作ってくれと依頼される。 しかし、王子様はなぜかシンデレラではなく、リヨの作ったガラスの靴に夢中になってしまった?! さらにシンデレラも魔女も何やらリヨに特別な感情を抱いていているようで……? 執着系王子様+訳ありシンデレラ+謎だらけの魔女?×夢に真っ直ぐな職人 ガラス職人リヨによって、童話の歯車が狂い出すーー ※素人調べ、知識のためガラス細工描写は現実とは異なる場合があります。あたたかく見守って頂けると嬉しいです🙇‍♀️ ※受けと女性キャラのカップリングはありません。シンデレラも魔女もワケありです ※執着王子様攻めがメインですが、総受け、愛され要素多分に含みます 隔日更新予定に変更させていただきます。 ♡、お気に入り、しおり、エールありがとうございます!とても励みになっております! 感想も頂けると泣いて喜びます! 第13回BL大賞55位!応援ありがとうございました!

「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜

鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。 そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。 あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。 そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。 「お前がずっと、好きだ」 甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。 ※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています

【完結】逆転シンデレラ〜かわいい「姫」は、俺(王子)を甘やかしたいスパダリだった〜

粗々木くうね
BL
「本当はずっと、お姫様になりたかったんだ……」 周りから「王子様」と持て囃され、知らず知らずのうちにその役割を演じてきた大学二年生の王子 光希(おうじ みつき)。 しかし彼の本当の願いは、誰かを愛す“王子”ではなく、誰かに愛される“お姫様”になることだった。 そんな光希の前に現れたのは、学科のアイドルで「姫」と呼ばれる、かわいらしい同級生・姫川 楓(ひめかわ かえで)。 彼が光希に告げたのは、予想もしない言葉だった──。 「僕に……愛されてみない?」 “姫”の顔をした“王子様”に、心も身体も解きほぐされていく──。 “王子”が“お姫様”になる、逆転シンデレラストーリー。 【登場人物】 姫川 楓(ひめかわ かえで) ・ポジション…攻め ・3月3日生まれ 19歳 ・大学で建築を学ぶ2回生 ・身長170cm ・髪型:ミディアムショートにやわらかミルクティーブラウンカラー。ゆるいパーマをかけている ・目元:たれ目 ・下に2人妹がいる。長男。 ・人懐っこくて愛嬌がある。一見不真面目に見えるが、勉学に対して真面目に取り組んでいて要領もよく優秀。 ・可愛いものが好き。女友達が多いが男友達ともうまくやってる。 ・おしゃれが大好き。ネイルもカラフル。 ・王子とセットで「建築学科の姫」と呼ばれている ・かわいい見た目でペニスが大きい 王子 光希(おうじ みつき) ・ポジション…受け ・5月5日生まれ 20歳 ・大学で建築を学ぶ2回生 ・身長178cm ・髪型:センターパートのラフショート。ダークトーンのアッシュグレー ・目元:切れ長 ・空気が読める。一軍男子。学業もスポーツも割とよくできる。 ・上に姉と兄がいる。末っ子。 ・姫川とセットで「建築学科の王子」と呼ばれている ・「かっこいい・頼れる王子」像を求められるので、自然と演じて生きてきた。本当は甘えたいし愛されたい。家族には甘えられる。

【第二章開始】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する

とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。 「隣国以外でお願いします!」 死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。 彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。 いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。 転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。 小説家になろう様にも掲載しております。  ※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。

俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。 背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。 魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。 魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。 少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。 異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。 今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。 激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...