迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?

翠月 瑠々奈

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業務開始は突然に③

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 階段を上り終えて、さっきまでいた部屋が目に入る。そういえば食事をするために部屋を出る間際「そのまま置いておいていいよ」と言われて鞄を置きっぱなしにしたのを思い出した。

 無駄な小物やらポーチやらでそれなりに重量があったからお言葉に甘えたけど、スマホくらいは持っておこうかな、とお邪魔することにする。

 けど、薄暗い部屋に足を踏み入れた瞬間、衝撃を受けた。ドン!っていきなり体当たりされて、誰かが抱きついてきている。なにごとかと驚いてしまう。

「っ!?」
「フェルクス様!」

 慌てて可愛らしい声に視線を下げる。開いた扉から入る光で見えたのは頭半個分くらい小さい女の子だった。ゆるいウェーブがかる髪が揺れてその子が私の方を見上げる。直後、翡翠色の瞳を大きく見開いた。

 かと思えば、バンっ!と押される。危うく尻餅つきそうになったけど、よろめきながらもなんとか踏みとどまった。

「な、なに?」
「それはこっちの台詞よ! アンタ誰?」

 いやいや、それこそこっちの台詞じゃない?!

 唖然としてあんぐり口を開けてしまう。でもすぐに気を取り直す。相手は年下みたい。ここはぐっと我慢しないと。軽く咳払いして答えた。

「私は最近こちらにお世話になって……あの」
「……」

 説明しようとしたけど少女は全く聞いていない。それどころか急に自身の顎へ指を添えて、品定めするように私を上下左右と眺め始めた。そしてすぐ、何かに気付いたようにその指を横へ動かす。

「分かった。新しい使用人でしょ? あなた。ロギアスタ邸にようやく侍女が入ったってことは……うふふ、とうとう誰かを迎える気になったのね。まあ当然アタシよね」

 ランランっと鼻歌でも聞こえてきそうな雰囲気。なにがそんなに楽しいのか分からないけど、とりあえず失礼の無いように振る舞わないと。ついでに早く帰ってくれたら嬉しいな、と思いながらニコッと笑いかけた。

「初めまして。私、藤澤留美と申します。フェルクス・ロギアスタの婚約者としてこちらにお世話になっています。よければ貴女のお名前を…」
「婚約者ですって?!!」

 耳をつんざく声にびっくりして耳を押さえる。なんでみんな叫ぶの? こんなに鼓膜の心配したのは人生で初めて。

 そんな呑気なことを考えてたけど、目を開けたらお嬢さんは眉間に皺を寄せて、突然人が変わったように勢いよく近づいてくる。そのまま胸ぐらを掴んできた。怖い怖い怖い。

「ちょっと! 聞いてないわよ!」
「待って待って、なに?? 聞いてないって言われても困る」
「なんで? いつから? 信じられない……計画が狂うじゃない」

 チッと舌打ちしてパッと服から手を離した彼女は、口元に手を添え「他は……」とか「……残ってないじゃない」などと、ぶつぶつ呟く。

 危うく首がしまるところだったと襟元を整える。そのあと、目の前をうろうろする少女を目で追う。こういうときは話かけない方がいいよね。うっかり刺激すると、昼間の二の舞だ。

 しばらく待っていたら、顔を上げたお嬢さんが私の方を見た。どこか吹っ切れた様子で言う。

「分かったわ。アンバル様に変えてあげる」
「ん?」
「なにボケッとした顔してるの? フェルクス様から手を引いてあげるって言ってるのよ、感謝して」

 これはつまり、昼間みたいに乱闘騒ぎにはならないってことよね。納得は出来なかったけど、とりあえず言われた通りにした

「えー…と……有難うございます」
「うん」

 満足したように頷いたから帰ってくれるかな、って思ったけどそんなことはなく。勝手に部屋の明かりをつけて近くの椅子に腰かけた。

「ねえ、ちょっと話さない?」
「話?」
「感謝してるんでしょ。ほら、早く」

 パタパタと自身の隣の椅子を軽く叩く。あまり気はのらないけど、とりあえず従っておくべきかなと、促された場所に座る。少女はぐいっと体を寄せてくると、再び左右から無遠慮に眺め始めた。

「ふ~ん、フェルクス様ってこういう地味女子が好きだったんだ。見ようによっては綺麗系? 黒髪なんて珍しいものね。しかもこんなに真っ直ぐ整ってるのは確かに羨ましいわね」
「あの、ちょっと」
「わ! すごいサラサラ…なになに? なんで?」

 それは最近、縮毛矯正したからね、とは言えず私の髪をいじって喜ぶ少女に戸惑ってしまう。

 こうしてると年相応の女の子に見える。いくつくらいなのかな、学生かな。なんて。
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