迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?

翠月 瑠々奈

文字の大きさ
52 / 134

白夜の記憶③ ※過去編

しおりを挟む
「俺たちの事業に投資しないか?」

 儲け話があると連れてきて、開口一番アンバーはそう言った。フェルクスが怪訝に顔をしかめると「まあ、まだ信用できないよな」と言いながら、親しげに肩へ手を回して奥へと促した。

「けどな、こりゃチャンスなんだ」
「チャンス?」
「ああ。この話は誰にでもしてるわけじゃない。君だから話しているのさ。とにかく細かく聞いて判断してくれ。悪い話じゃないんだから」

 部屋の奥にはソファ席がある。そこに座ってアンバーは話し始めた。いきなりのことだったが、彼の話はシンプルだった。自分が手掛けている事業に金を出してほしい。出してくれるならまだ新参の社交界でフェルクスの後ろ楯になると彼は言った。

 それだけなら、フェルクスにとっても悪くない話だった。当主になったばかりで忙しく、社交に気の回らない今、後ろ楯があるのは助かる。一令息の事業に投資するくらいロギアスタ家ではなんてこともなかった。

 だが、事業の内容を聞いて彼は言葉を失う。なんとか断りの言葉を絞り出した。

「承諾……いたしかねます」

 アンバーが意気揚々と説明したのは自分たちよりも若い令息たちや、一部の商会に勤めるような富んだ平民を食いものにする賭け事の場所──いわば賭博場だった。

 裏で調整するから破綻するまではやらせない。ギリギリまで搾り取るだけだ、お遊びなんだからいいだろう。などと都合の良いことを並べる。

 しかし賭博場を作るには国の許可が必要となる。そういう隠匿された場所では反政の集まりもされやすい。だからこそ管理が必要となる。

 だがアンバーは、賭け事がメインではない、子どもたちや平民が金銭のやり取りを学べる学びの場でもあると言い張る。

「ロギアスタ卿、あんたも頭が硬いな。子どもたちは居場所が必要なんだよ。平民だって息抜きできりゃあ嬉しいだろ? 俺たちの儲けなんざ大したことないんだ。これはあれだよ、慈善事業ってやつだ」

 いつの間にか横柄な態度に変わっている。始めからこれが目的だったのか、と気づいたときには遅かった。

 アンバーが話し始めて、周囲の気配が変わる。外の賑わいはほとんど聞こえずシンと静まり返っている。恐らく同じ階の利用者は帰されているのだろう。

 それを裏付けるように個室の扉は、いつの間にか半分ほど開いていた。

 きっとこのまま断れば仲間が飛び込んでくるはず。たかがカフェと油断した。

 それでもフェルクスは出来るだけ穏便に済ませようと答える。

「ならば時間をいただくことは出来ませんか? ここで即決するには突飛な話かと」
「悪いがここを出るには返事をもらうしかないんだ。どっかに話を漏らされるわけにいかないんでね」
「……」

 ぐっと掌を握り締め、口を真一文字に結ぶ。もう話し合いは出来そうにない。フェルクスは覚悟を決める。

 帯剣していなかったのが悔やまれるが、ここから出る分には容易い。ただこれで社交界での居場所はなくなるだろう。

 今後のことを考えながら、それでも騎士としての道に反する話を聞いた以上黙ってはいられない。彼は真っ直ぐアンバーを見据えて言った。

「であれば、回答は変わりません。この話は断らせていただく」
「……へえ。こんな状況で断るとは勇ましいことだな。おい!」

 思った通りガタガタと令息たちが入ってくる。始めから示し合わされていたのか、あっと言う間に囲まれた。その中の幾人かは木剣に似たものすら持っている。

 フェルクスはちらりと出入口を見た。扉は固く閉まっている。目ざとく見ていたアンバーが笑う。

「出られると思ってるのか? 無理だと思うぜ」

 そしてニヤリと口角を上げた。

「おこぼれでもらった爵位なんか引っさげてるから悪いんだよ。なあ? お前ら。教えてやらねぇといけないよな、社交界での挨拶ってやつをさ」

 「おうよ」と返事をした男を筆頭にバタバタとフェルクスに飛びかかる。だがさっと避けられ、背後から襲う男も軽くいなされる。次の男が振り上げた棒も掴まれ投げ飛ばされる。さらに彼は椅子を使って応戦し始めた。

 何度繰り返したところでフェルクスに膝をつかせることすらできない。周りで伸びてる仲間にアンバーは苛立ちを募らせた。

「てめぇら遊んでんのか!?」
「いや、あいつ……」

 言葉を遮るように外からドタドタ足音がする。バンッと扉が開いた。

「アンバー! あいつらが来る! 急げ!」
「チッ」
「っ……!」

 その隙にフェルクスが渾身の力を込めて、知らせに来た男へ体当たりする。

「ぐぁっ」
「っ! おい!」

 そのまま外に飛び出し、素早く駆け出す。背後からアンバーの「覚えとけよ」と声だけが残った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

処理中です...