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デートではありません④
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「見てみようか」
隣を歩くフェルがそう言う。最近手芸が趣味になりつつある私。知らず知らずのうちに目で追ってたみたい。
彼の言葉に頷いてワゴンに近づく。
木製のワゴンには畳まれた布がぎっしり入っている。様々な色や模様の布地に、細かなデザインのレースなんかもあった。
それを一つ一つ視線だけで眺めていく。お屋敷を飾るなにかがまた作れないかな、なんて考えながら。
でも買うつもりはなくて、またセルトンに似たものを用意してもらおうと思っていた。
そんなとき、ふと藍色の布が目に入る。銀糸が織り込まれていて品が良くて、フェルが身につけたら……と、一瞬かすめた思いと重なる声。
「綺麗な色合いだね」
「そうですよね。この藍色の布なんて細い銀糸が織り込まれていて、絶対フェルに似合うんじゃないかなって……」
言いかけてハッとする。本当の恋人でもないのに出過ぎた真似をした気がして、慌てて別のレースを取った。
「こ、これとかフェルの家紋に似てて……あっ……」
口を滑らせて戸惑う。これじゃあフェルのことばかり考えてるみたいじゃない。一気に恥ずかしくなって顔が熱くなる。誤魔化しきれずに、そっとレースを戻した。
おずおずと無言の彼を見上げたら、相手も動揺した様子でなぜか布を購入し始めた。
「…っ! いや、その。……す、すまないがこの藍色の布と、あとその辺りのも纏めて全てロギアスタ邸に運んでくれないか」
「え!?」
「これはこれは、どうも。後程運ばせていただきますね」
お店のおばあちゃんは嬉しそうにニコニコしながら布を裏へと分けておく。おまけにその辺りと示されたのをいいことに、付近の売り物をごっそり薄い布の上に集めた。
困惑しつつ今さら断るわけにもいかなくて、こっそり背伸びして彼の耳元に出来るだけ小さく訴える。
「フェル。買いすぎじゃないですか?」
「…んん゙っ、こ…れくらいなんともないから」
不自然にぎこちなくなる彼は「それより」と近くにあったリボンを手に取る。
「他に気になるものはないかい? このリボンやそこのレースもいいんじゃないかな」
って言ったあとも変に指差すから、おばあちゃんは意気揚々とレースを集め始めてしまう。
下手に口を開くと商品が追加されるみたいだから、「もう十分です」と告げていったん黙ることにした。彼は少し残念そうにしていたけど、とりあえず布を運んだ後に代金を受け取れるようおばあちゃんと話していた。
少しして傍に来るフェルは当然のように私の手を取った。あれ、と思いつつ先ほどの感謝を伝える。
「たくさん買ってもらっちゃってすみません。でも嬉しい。ありがとうございます」
次はなに作ろうかな、と考える。そういえば花瓶の下に敷くのもお屋敷全体で合わせたらいいかも。
隣で彼がいや、と言った。
「礼を言うのはこっちだよ。最近いろいろと動いてくれてるらしいね。邸内の雰囲気も変わって過ごしやすい」
「それなら良かったです。勝手に変えて大丈夫かなって心配だったので」
「もっと変えてくれて構わないよ。ずいぶんと殺風景だったろう?」
「たしか盗まれるからその対策として物を置かないようにしていたんですよね、ガルシアさんから聞きました」
「ああ。でも、今はそれもなくなったし、君のおかげで邸も明るくなった気がする。使用人たちも生き生きしてるように感じるんだ。こんな風に穏やかに過ごせてるのは久しぶりだな」
ひとまず契約の効果が出てるみたい。それは私も嬉しいし仕事の成果が見えると、俄然やる気が出るよね。
早速戻ったら花瓶の下敷き作るぞっと意気込んでいたらフェルが続ける。
「だから、君も何かあったら遠慮なく言って欲しい」
その優しい声に「了解です」と返す。
「なにか他の案が出てきたらお知らせしますね」
「いや、君自身でなにか欲しいものは…ないかなって……」
言いながら声を震わせて笑い始める。
「思ったのに…そんな返しが…ふっ…来るとは…くく…思わないから」
「わ、笑うとこじゃないです!」
ちょっと赤くなって言い返したら「ごめんごめん」と軽くあしらわれる。でもすぐに、ふふっと声を洩らしてた。
不満だったけどとりあえず「もういいです」と諦める。そんなやり取りをしながら道を歩いてたら、すれ違いざまのヒソヒソ話が耳に入った。掠めたのは、本当に婚約者なのね、とかそういうの。
それで、ふと気がついた。
いま婚約の証っていうチョーカーがしっかり目立っていることに。
もしかして今日は、この宣伝も兼ねているのかも。髪もアップだったしね。
そういうことだったのね、と納得するのと同時に残念な気持ちも浮かぶ。なんとなく遠くを見ていたらギュッと繋いだ手に力がこもった。
「ルミ?」
「!」
びっくりして足を止める。話、全然聞いてなかった。慌てて返事をする。
「ごめんなさい、考え事してて」
「考え事?」
「あ、たいしたことじゃないんです。それよりなにか言いました?」
「これから劇場に向かうけどいいかい?って訊いただけだよ」
「劇場ですか?」
「そう。今、街で評判の劇がやってるらしいんだ」
劇って、演劇ってことだよね? そんなの今までにも数える程度しか行ったことがない。社会人になってからは忙しすぎて皆無だった。
演目はどんなものかな、とか、演出や音楽を想像すると自然と笑みが浮かぶ。
「それは楽しみです」
「なら良かった。それほど遠くないけど疲れたら言って? 馬車を手配するから」
と言われたものの距離的には近かったので、結局馬車など使うことなく私たちは劇場へ着くことが出来た。
隣を歩くフェルがそう言う。最近手芸が趣味になりつつある私。知らず知らずのうちに目で追ってたみたい。
彼の言葉に頷いてワゴンに近づく。
木製のワゴンには畳まれた布がぎっしり入っている。様々な色や模様の布地に、細かなデザインのレースなんかもあった。
それを一つ一つ視線だけで眺めていく。お屋敷を飾るなにかがまた作れないかな、なんて考えながら。
でも買うつもりはなくて、またセルトンに似たものを用意してもらおうと思っていた。
そんなとき、ふと藍色の布が目に入る。銀糸が織り込まれていて品が良くて、フェルが身につけたら……と、一瞬かすめた思いと重なる声。
「綺麗な色合いだね」
「そうですよね。この藍色の布なんて細い銀糸が織り込まれていて、絶対フェルに似合うんじゃないかなって……」
言いかけてハッとする。本当の恋人でもないのに出過ぎた真似をした気がして、慌てて別のレースを取った。
「こ、これとかフェルの家紋に似てて……あっ……」
口を滑らせて戸惑う。これじゃあフェルのことばかり考えてるみたいじゃない。一気に恥ずかしくなって顔が熱くなる。誤魔化しきれずに、そっとレースを戻した。
おずおずと無言の彼を見上げたら、相手も動揺した様子でなぜか布を購入し始めた。
「…っ! いや、その。……す、すまないがこの藍色の布と、あとその辺りのも纏めて全てロギアスタ邸に運んでくれないか」
「え!?」
「これはこれは、どうも。後程運ばせていただきますね」
お店のおばあちゃんは嬉しそうにニコニコしながら布を裏へと分けておく。おまけにその辺りと示されたのをいいことに、付近の売り物をごっそり薄い布の上に集めた。
困惑しつつ今さら断るわけにもいかなくて、こっそり背伸びして彼の耳元に出来るだけ小さく訴える。
「フェル。買いすぎじゃないですか?」
「…んん゙っ、こ…れくらいなんともないから」
不自然にぎこちなくなる彼は「それより」と近くにあったリボンを手に取る。
「他に気になるものはないかい? このリボンやそこのレースもいいんじゃないかな」
って言ったあとも変に指差すから、おばあちゃんは意気揚々とレースを集め始めてしまう。
下手に口を開くと商品が追加されるみたいだから、「もう十分です」と告げていったん黙ることにした。彼は少し残念そうにしていたけど、とりあえず布を運んだ後に代金を受け取れるようおばあちゃんと話していた。
少しして傍に来るフェルは当然のように私の手を取った。あれ、と思いつつ先ほどの感謝を伝える。
「たくさん買ってもらっちゃってすみません。でも嬉しい。ありがとうございます」
次はなに作ろうかな、と考える。そういえば花瓶の下に敷くのもお屋敷全体で合わせたらいいかも。
隣で彼がいや、と言った。
「礼を言うのはこっちだよ。最近いろいろと動いてくれてるらしいね。邸内の雰囲気も変わって過ごしやすい」
「それなら良かったです。勝手に変えて大丈夫かなって心配だったので」
「もっと変えてくれて構わないよ。ずいぶんと殺風景だったろう?」
「たしか盗まれるからその対策として物を置かないようにしていたんですよね、ガルシアさんから聞きました」
「ああ。でも、今はそれもなくなったし、君のおかげで邸も明るくなった気がする。使用人たちも生き生きしてるように感じるんだ。こんな風に穏やかに過ごせてるのは久しぶりだな」
ひとまず契約の効果が出てるみたい。それは私も嬉しいし仕事の成果が見えると、俄然やる気が出るよね。
早速戻ったら花瓶の下敷き作るぞっと意気込んでいたらフェルが続ける。
「だから、君も何かあったら遠慮なく言って欲しい」
その優しい声に「了解です」と返す。
「なにか他の案が出てきたらお知らせしますね」
「いや、君自身でなにか欲しいものは…ないかなって……」
言いながら声を震わせて笑い始める。
「思ったのに…そんな返しが…ふっ…来るとは…くく…思わないから」
「わ、笑うとこじゃないです!」
ちょっと赤くなって言い返したら「ごめんごめん」と軽くあしらわれる。でもすぐに、ふふっと声を洩らしてた。
不満だったけどとりあえず「もういいです」と諦める。そんなやり取りをしながら道を歩いてたら、すれ違いざまのヒソヒソ話が耳に入った。掠めたのは、本当に婚約者なのね、とかそういうの。
それで、ふと気がついた。
いま婚約の証っていうチョーカーがしっかり目立っていることに。
もしかして今日は、この宣伝も兼ねているのかも。髪もアップだったしね。
そういうことだったのね、と納得するのと同時に残念な気持ちも浮かぶ。なんとなく遠くを見ていたらギュッと繋いだ手に力がこもった。
「ルミ?」
「!」
びっくりして足を止める。話、全然聞いてなかった。慌てて返事をする。
「ごめんなさい、考え事してて」
「考え事?」
「あ、たいしたことじゃないんです。それよりなにか言いました?」
「これから劇場に向かうけどいいかい?って訊いただけだよ」
「劇場ですか?」
「そう。今、街で評判の劇がやってるらしいんだ」
劇って、演劇ってことだよね? そんなの今までにも数える程度しか行ったことがない。社会人になってからは忙しすぎて皆無だった。
演目はどんなものかな、とか、演出や音楽を想像すると自然と笑みが浮かぶ。
「それは楽しみです」
「なら良かった。それほど遠くないけど疲れたら言って? 馬車を手配するから」
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