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輝きの影に潜むもの 前半③
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軽く挨拶がてら雑談をしていたら、端の方が盛り上がった。何事かと見たら一人の男性がたくさんの人を伴い現れる。
深い赤髪を高い位置で結い、黒衣の正装に身を包む若い人。彼がホールの中央まで来ると、さらに人々が囲む。
ぼんやり見ていたらフェルに手を取られた。
「彼は、エリック家のエルスト卿だよ。挨拶に向かうが構わないかい?」
「ええ、行きましょう」
彼に伴い中央を目指す。その間際、ふとフェルの横顔を見る。合わせたように胸がトクンと震えた。
「……」
相変わらず整った顔立ち。でも、鼓動が高鳴ってしまうのはそのせいじゃない。こうした彼の気遣いを感じれば感じるほど胸がうるさくなる。
二人きりで話すことはまだ出来ていない。だけど食事も一緒にとるようになったし、顔を合わせることだって度々あった。
その時々で優しさを感じる。
それは感情の機微に疎い私ですら、大切にされているのかな、なんて錯覚するほどに。
感謝はあるものの、戸惑いがないわけじゃない。
一度は彼を拒んだのに、この優しさを向けられる資格なんてない。
思い返せばいつだって、彼は優しかった。それは私だけじゃなく、自分に言い寄ってきた誰に対しても。
そう考えたら、いまさら好意を伝えるは間違いなんだ……って何度も繰り返してるのに、結局かき消すことが出来ない。
……分かってる。もう、どうすることも出来ない。
私は────フェルが好き。
「ルミ」
「っ!」
自覚した途端、話し掛けられて驚いてしまう。焦りながらも心を隠して平静を装いながら返事をした。
「何? フェル」
「こちらがエルスト卿だよ」
示されてハッとする。気づけば、赤髪の男性の前まで着いてしまっていた。
急いで身を正し挨拶をする。
「失礼致しました。私、フェルクス・ロギアスタの婚約者、ルミと申します。本日はお招きいただき有難うございました」
「君がロギアスタ卿の選んだ姫君か。噂はかねがね聞いているよ。なるほど、愛らしい」
「恐縮にございます」
出だしから、貴人を相手に気づかないなんて初歩的なミスをしてしまった。その緊張がなかなか抜けなくて、硬くなりながらも応対する。
エルスト卿は、お父上のエリック公爵の代わりに、今回の夜会を仕切ることになったそうだ。その話の他に二、三言交わしたあと彼はフェルに向き直した。
「君には妹が随分迷惑をかけたね。ソールもだいぶ反省したようだ。許してやって欲しい」
「私にも自省すべき点はありました。彼女だけが悪いわけではありません」
「そう言ってもらえると救われるよ。今宵は舞踏を中心としている。楽しんでいってくれ」
「ええ。では、失礼致します」
頭を下げてその場を後にする。しばらくしてエルスト卿の言った通り、音楽が流れ始めた。
始めはフェルと。あとは何人かのお誘いを受けて踊る。その途中で壁の花ならぬ壁の枝みたいになってるアンバル様を見つけた。
お誘いを受けるのに疲れ始めていたので、アンバル様を口実にその後のダンスをお断りした。
ちなみにフェルは何人かの男性に囲まれていた。
新たに爵位を得た者と交流を深めたい、そんな動機だろうか。
フェルの姿を横目にアンバル様へ近づくと、彼はあからさまに嫌そうな顔をした。
「何しに来た」
「メディはいないのですね」
「ああ。アイツなら……」
ほら、と窓際を見る彼と同じように視線を動かした。すると、両手にグラスを持つメディが歩いて来るところだった。
「あれは、アンバル様の分ですよね?」
「俺はいらないって言ったんだがな」
「それでも何かをしたいと思うほど、貴方をお慕いしてるということですよ。ちゃんと受け取ってくださいね」
「…………」
私の言葉に心底うんざりしたような顔をして……でも、メディに視線を向けた後は「分かってる」と答えた。
少しして彼女が現れると「あら」と、頭を傾けた。
「ルーもいたのね。フェルクス様は?」
「まだ挨拶周りの最中。人に埋もれてたわ」
「そう。ならルーの分も貰ってくれば良かったわね」
「ううん、大丈夫。さっきもらったから。有難う、メディ」
「ならいいけど。必要ならまた持ってくるから。あ、これはアンバル様に」
差し出されたグラス。彼は静かに受け取った。
「悪いな」
「いいえ。他にも何かあれば仰ってくださいね」
ふわりと笑う彼女はずいぶん嬉しそうだ。なんとなくフェルが気になって人混みを探す。
今度は別の一団に捕まっていた。
ふとその中で、もう一つ疑問が浮かんだ。
「そういえば、ノア様はいらっしゃらないんですね」
「アイツは病欠だ」
「病に? 大丈夫なんでしょうか……」
「平気だろ。仮病だからな」
「え?」
目を瞬いたらアンバル様が僅かに瞳を細めた。
「俺たち騎士団連中は仕方なくこの場にいるだけだ。それがこの国の……貴族ってやつの仕来りだからな。だが交流を深めたいわけでも、探したい相手がいるわけでもない。ノアの行動の方が俺たちからすれば正しい」
「そう…なんですね」
前にフェルが言ってた通り、もともと国に属する騎士の人たちは、こういう貴族の催しに参加する必要はなかった。
だけど爵位を与えられた以上、そちらに干渉せざるを得ない。
それに疑問を持ちながらも国のためにと動いているのね。騎士の皆さまは。
こんなところに来るこのアンバル様までも。
口が悪いだけかと思ってたけど、しっかり考えてるんだなと思ったら良い人に見えてきた。
勝手なイメージだけど。
その時、会場内がざわめき始める。
「何かしら?」
「ソール様がいらしたみたい」
私の疑問にメディが答える。彼女の視線を辿ると人々が、ワッと声をあげた。
深い赤髪を高い位置で結い、黒衣の正装に身を包む若い人。彼がホールの中央まで来ると、さらに人々が囲む。
ぼんやり見ていたらフェルに手を取られた。
「彼は、エリック家のエルスト卿だよ。挨拶に向かうが構わないかい?」
「ええ、行きましょう」
彼に伴い中央を目指す。その間際、ふとフェルの横顔を見る。合わせたように胸がトクンと震えた。
「……」
相変わらず整った顔立ち。でも、鼓動が高鳴ってしまうのはそのせいじゃない。こうした彼の気遣いを感じれば感じるほど胸がうるさくなる。
二人きりで話すことはまだ出来ていない。だけど食事も一緒にとるようになったし、顔を合わせることだって度々あった。
その時々で優しさを感じる。
それは感情の機微に疎い私ですら、大切にされているのかな、なんて錯覚するほどに。
感謝はあるものの、戸惑いがないわけじゃない。
一度は彼を拒んだのに、この優しさを向けられる資格なんてない。
思い返せばいつだって、彼は優しかった。それは私だけじゃなく、自分に言い寄ってきた誰に対しても。
そう考えたら、いまさら好意を伝えるは間違いなんだ……って何度も繰り返してるのに、結局かき消すことが出来ない。
……分かってる。もう、どうすることも出来ない。
私は────フェルが好き。
「ルミ」
「っ!」
自覚した途端、話し掛けられて驚いてしまう。焦りながらも心を隠して平静を装いながら返事をした。
「何? フェル」
「こちらがエルスト卿だよ」
示されてハッとする。気づけば、赤髪の男性の前まで着いてしまっていた。
急いで身を正し挨拶をする。
「失礼致しました。私、フェルクス・ロギアスタの婚約者、ルミと申します。本日はお招きいただき有難うございました」
「君がロギアスタ卿の選んだ姫君か。噂はかねがね聞いているよ。なるほど、愛らしい」
「恐縮にございます」
出だしから、貴人を相手に気づかないなんて初歩的なミスをしてしまった。その緊張がなかなか抜けなくて、硬くなりながらも応対する。
エルスト卿は、お父上のエリック公爵の代わりに、今回の夜会を仕切ることになったそうだ。その話の他に二、三言交わしたあと彼はフェルに向き直した。
「君には妹が随分迷惑をかけたね。ソールもだいぶ反省したようだ。許してやって欲しい」
「私にも自省すべき点はありました。彼女だけが悪いわけではありません」
「そう言ってもらえると救われるよ。今宵は舞踏を中心としている。楽しんでいってくれ」
「ええ。では、失礼致します」
頭を下げてその場を後にする。しばらくしてエルスト卿の言った通り、音楽が流れ始めた。
始めはフェルと。あとは何人かのお誘いを受けて踊る。その途中で壁の花ならぬ壁の枝みたいになってるアンバル様を見つけた。
お誘いを受けるのに疲れ始めていたので、アンバル様を口実にその後のダンスをお断りした。
ちなみにフェルは何人かの男性に囲まれていた。
新たに爵位を得た者と交流を深めたい、そんな動機だろうか。
フェルの姿を横目にアンバル様へ近づくと、彼はあからさまに嫌そうな顔をした。
「何しに来た」
「メディはいないのですね」
「ああ。アイツなら……」
ほら、と窓際を見る彼と同じように視線を動かした。すると、両手にグラスを持つメディが歩いて来るところだった。
「あれは、アンバル様の分ですよね?」
「俺はいらないって言ったんだがな」
「それでも何かをしたいと思うほど、貴方をお慕いしてるということですよ。ちゃんと受け取ってくださいね」
「…………」
私の言葉に心底うんざりしたような顔をして……でも、メディに視線を向けた後は「分かってる」と答えた。
少しして彼女が現れると「あら」と、頭を傾けた。
「ルーもいたのね。フェルクス様は?」
「まだ挨拶周りの最中。人に埋もれてたわ」
「そう。ならルーの分も貰ってくれば良かったわね」
「ううん、大丈夫。さっきもらったから。有難う、メディ」
「ならいいけど。必要ならまた持ってくるから。あ、これはアンバル様に」
差し出されたグラス。彼は静かに受け取った。
「悪いな」
「いいえ。他にも何かあれば仰ってくださいね」
ふわりと笑う彼女はずいぶん嬉しそうだ。なんとなくフェルが気になって人混みを探す。
今度は別の一団に捕まっていた。
ふとその中で、もう一つ疑問が浮かんだ。
「そういえば、ノア様はいらっしゃらないんですね」
「アイツは病欠だ」
「病に? 大丈夫なんでしょうか……」
「平気だろ。仮病だからな」
「え?」
目を瞬いたらアンバル様が僅かに瞳を細めた。
「俺たち騎士団連中は仕方なくこの場にいるだけだ。それがこの国の……貴族ってやつの仕来りだからな。だが交流を深めたいわけでも、探したい相手がいるわけでもない。ノアの行動の方が俺たちからすれば正しい」
「そう…なんですね」
前にフェルが言ってた通り、もともと国に属する騎士の人たちは、こういう貴族の催しに参加する必要はなかった。
だけど爵位を与えられた以上、そちらに干渉せざるを得ない。
それに疑問を持ちながらも国のためにと動いているのね。騎士の皆さまは。
こんなところに来るこのアンバル様までも。
口が悪いだけかと思ってたけど、しっかり考えてるんだなと思ったら良い人に見えてきた。
勝手なイメージだけど。
その時、会場内がざわめき始める。
「何かしら?」
「ソール様がいらしたみたい」
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