迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?

翠月 瑠々奈

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水月の典 後半①

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 静かになったところでノア様の元に駆け寄る。

「危ないところをありがとうございました。あの、重ねて申し訳ないのですが……」

 彼は聞こえていないのか、おもむろに指笛を吹いた。高い音の後、遥かに高い空へ一羽の梟が一瞬姿を掠めた。けどすぐに見えなくなる。

 仕事でこの場にいるのだと、さっき言っていた。だから邪魔しないように待つ。頃合いを見計らって、もう一度声をかけたら瞳を瞬かれた。

「あれ、まだいたの? ていうかフェルは?」
「はぐれてしまって……すみません。道が分からないので、噴水広場までの道のりを教えていただけませんか?」
「ふぅん、迷子だったんだ。いいよ、教えてあげる。で、君は対価に何を払う?」
「はい?」
「道、教えて欲しいんだよね? まさかタダで教えてもらえると思ってないよね?」

 確かに労力には見合う報酬を、とは言うけれど……今はめぼしい物を何一つ持っていなかった。仕方がないので彼の希望を聞いて後日用意する、という形にシフトする。

「では何を望まれますか? それを後でお持ちします」
「あとで、ね。う~ん…何にしよう」
「決まらなければ後日でも」
「いや、うん…そうだな…」

 そう言いながら見渡した先に木彫りの人形が並ぶ屋台がある。ノア様が「人形か……」と呟いた。

 なんだか嫌な予感がする。彼は一拍置いて「決めた」と言った。

「小間使いとかどう?」
「私が?」
「うん、そう。フェルの婚約者が、あっちこっち走り回ったら愉しそうだよね」
「それは対価が過ぎません?」

 すかさず答えたら、「まあ、たしかに」と返す。そのあとは興味を無くしたように気の抜けた表情へと変えた。

「今特に欲しいものとかないし、貸しってことにしとくよ」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ行くよ」

 そう短く言って彼が歩き始める。慌てて後を追いかけたら、続けて口を開いた。

「ていうかさ、迷ってここに来るとか凄いね」
「そういえば、ここはどこなんです? 街からずいぶん離れてるみたいですが」

 ノア様は、私を一瞥して答える。

「一応まだ城下だけど…貧民街に近い」
「貧民街?」
「そう。この先の外れに向かって行くと、貧しい浮浪の民が多くなるんだ」
「そう、なんですね……」

 どこの世界でも貧富の差は多かれ少なかれあるはず。だけど実際見ると違ってくる。周囲を見渡していたら、私を見るノア様が眉根を寄せた。

「君さ。本当に無神経だよね」
「え?」
「君に何かあったら、フェルに迷惑がかかるって分かってる? もう少し慎重に行動したら?」
「…………」

 ノア様の言葉が頭の中で反芻する。改めて気づかされたことに自然と声が出た。

「……そうですね。すみません」

 彼のいうことはもっともだ。あのまま連れていかれて私がフェルの婚約者だと知られたら、私をダシに彼が脅される可能性もあるのだ。

 それだけじゃない。これから先も共にいるなら誤った選択一つで、彼に影響が出る。それを自覚もせず、婚約者だなんてと反省した。

 するとノア様が意外そうな声を出す。 

「思ったより素直なんだ」
「素直…かどうかは分かりませんが、言われたことは間違ってませんから当然かと」
「ふぅん……そう」

 良く分からないけど納得してくれたのかな。と思った矢先、また余計な一言が飛んでくる。

「君ってさ、つまらないよね」
「……」

 助けてもらった手前、あんまり言いたくないけど…失礼な人。でも言い返すこと場もないから「そうですね」と肯定して口を噤む。

 彼もその後はしばらく口を開かず、ただお互い黙々と歩いていた。

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