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私は騎士団の副団長をしている。
上官の騎士団長はクレイル様、並ぶ者のいない騎士だ。聖女様と唯一親しくしている騎士でもある。
そのクレイル様が、ここ数日見たこともないくらい落ち込んでいるーー今までも落ち込んでいた事はあった。
聖女が一向に判明しない時、
聖女がツキナ様ではないかと疑いを持った時、
そしてツキナ様が聖女だと発覚した時。
彼女は聖女となる事を拒否していた。
始めこそクレイル様始め我々も何故早く名乗ってくれなかったのかと非難した。
が、彼女の頑なな態度は溶けず、クレイル様への暴言は日に日に酷くなっていった。
だから進言せずにいられなかった。
「ーー言って差し上げれば良いのでは?」
「何をだ?」
「聖女の顕現を急いだのはツキナ様とカンナ様を無事にあちらに帰す為だったと。聖女の力がなければこの城で彼女達を守りきる事も出来なかったのだと」
「ーー言ったところで、どうにもなるまいよ。自分に照らし合わせてみろ。俺たちがやった事を」
異世界からいきなり彼女を召喚し、そして本人の意思を無視して無理矢理こちらに残り聖女として生きる事を強制した。
「お前だったらどう思う」
「ーーっ!」
考えてみたら当たり前だ。
彼女は元の世界に帰りたかったのだ。
家族や友人、大事な人がいる、本来自分がいた場所に。
クレイル様ですら最初は気付かなかった事実。カリンはじめ他の候補は聖女となる事を名誉と考えていたし、我々も疑っていなかったのだ。
この召喚は聖女本人の意思を捻じ曲げ、無理矢理こちらに留めるものであることを。
自分がそんな風に異世界に呼ばれ、縛りつけられたとしたらーー?
とても耐えられない。
そこに思いあたり、ツキナ様がクレイル様に辛くあたるのも無理はないと思ってはいたが、考えてみたらツキナ様はそもそもクレイル様以外とほとんど会話をしない。
クレイル様だけがツキナ様にとって心許せる相手なのだろうとーーそう、思っていたのだが。
クレイル様の父君が亡くなられて、第二王子がツキナ様に求婚したたきのめされた後、ツキナ様は「いかなる時も私の部屋は一切男性立ち入り禁止。クレイルは半径5メートル以内の接近禁止」令を出された。
お二人の間に、何があったのかーー
♢♢♢
ーーあのバカ、いきなり押し倒してくるなんて……!
何の覚悟もしてないとこにいきなりだ。しかもそのまま気を失うとか、不覚過ぎた。
私はどうやらまたしてもあの騎士を見誤っていたらしい。
聖女である(どんなに言動がそれっぽくなくても)私にあんな真似をする筈がないと思っていた。
いや聖女だってわかる前から好きだったとかほざいてたか?
つまり注視されてたのは疑うより先に、興味を持たれてたからーー?
いや、あの男はモテる。カリンが取り巻きにしようとして失敗したのを城中の女達に歓喜されるほど。
立派で凛々しくてお綺麗で、女性達の憧れの的の騎士様なのだ。
あり得ない。
いや、バレるまで猫被ってたからそのせいか?
どっちでもいい、今度あんな事があった時には誰であれ手加減なしにぶっ飛ばそう。
回復魔法で体の異常はすぐに元に戻せるとはいえ、気持ちのいいものではない。
私は知らなかった。
いつでもどこでも一瞬で現れ、一番でかい魔物に突進して倒してまわる自分を兵士達が「戦いの女神の降臨だ!」と拝んでいたり、目の前で腕を失った人がいたらついでに治してみたり、呼吸が止まりそうになってる子供にちょっとだけ魔力を注いで呼吸できるようにしてやったり、とりあえず目の前にある事で自分に出来そうな事を片っ端からやって歩いた結果”祝福の聖女”だの”異界から降臨した天使”だの恥ずかしい二つ名をつけられまくって流布されている事を。
”聖女”って額に入れられていることは知ってても、そこまで思い至ってはいなかった。
知らなくて幸いだったが、全く知らなかったのも不味かった。後に私は後悔する事になる。
いつでも一番危険な場所に先頭きって斬り込んで行く聖女の姿は戦場にいる騎士や兵士にとって闘志を促す発奮材であり、死地にいる彼らにとっての希望であり、戦う力を持たず傷ついた市民には救いの手を差し出す光だった。
贅沢を好まず民に還元をと王族を叱咤する彼女の噂は尾ひれどころか孔雀の羽根のように盛大に着飾って広まり、国民からの評価はうなぎ上りどころか鯉の滝登り(?)で、城で働く者達だけでなく騎士達にとっても憧れの的となっていた。
幸か不幸か、聖女となってから外見を一切顧みなくなったので自分の姿を鏡で見る事すらしなくなった為、戦闘で無駄な肉が削ぎ落とされ、終わればひたすら眠る生活は日本にいた時よりは健康的(?)なうえ、回復力が高い為に肌の輝きは増していた。
メイド達が念入りに手入れをしたがるので髪は美しく保たれ、結果、元々実年齢より若く見える容姿がここに来た時よりさらに若く洗練された姿になってる自覚はなく、クレイルの杞憂もあながち的はずれではない事ーーに、全く気がついていなかった。
♦︎♦︎♦︎
そしてそれを良く知り、と言うかむしろ誰より早く気付いていたクレイルは。
「俺はーーなんてことを」
当然、一人で落ち込んでいた。
「聖女様を、傷つけてしまった」
押し倒した時まるで反応がなかったので経験があるのかと思ったのだ。
彼女は妙齢で魅力的な女性だ。元の世界に恋人がいたのかもしれない。
そんな誤解を勝手にして、自分も男なんだと軽く知らしめてやるだけのつもりが止まらなくなって。
正気に戻った時には、自分が組み敷いた彼女は気を失っていた。
そこでようやく気が付いたーー彼女は男を知らなかったのだと。
「取り返しのつかない事を……」
求婚を断られ、断罪を待ったが彼女は接近禁止令を出す以外、とくに何も行動を起こさなかった。
ーー希望を、持ってもいいのだろうか。
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
(天の声)持たない方がいいと思う。
上官の騎士団長はクレイル様、並ぶ者のいない騎士だ。聖女様と唯一親しくしている騎士でもある。
そのクレイル様が、ここ数日見たこともないくらい落ち込んでいるーー今までも落ち込んでいた事はあった。
聖女が一向に判明しない時、
聖女がツキナ様ではないかと疑いを持った時、
そしてツキナ様が聖女だと発覚した時。
彼女は聖女となる事を拒否していた。
始めこそクレイル様始め我々も何故早く名乗ってくれなかったのかと非難した。
が、彼女の頑なな態度は溶けず、クレイル様への暴言は日に日に酷くなっていった。
だから進言せずにいられなかった。
「ーー言って差し上げれば良いのでは?」
「何をだ?」
「聖女の顕現を急いだのはツキナ様とカンナ様を無事にあちらに帰す為だったと。聖女の力がなければこの城で彼女達を守りきる事も出来なかったのだと」
「ーー言ったところで、どうにもなるまいよ。自分に照らし合わせてみろ。俺たちがやった事を」
異世界からいきなり彼女を召喚し、そして本人の意思を無視して無理矢理こちらに残り聖女として生きる事を強制した。
「お前だったらどう思う」
「ーーっ!」
考えてみたら当たり前だ。
彼女は元の世界に帰りたかったのだ。
家族や友人、大事な人がいる、本来自分がいた場所に。
クレイル様ですら最初は気付かなかった事実。カリンはじめ他の候補は聖女となる事を名誉と考えていたし、我々も疑っていなかったのだ。
この召喚は聖女本人の意思を捻じ曲げ、無理矢理こちらに留めるものであることを。
自分がそんな風に異世界に呼ばれ、縛りつけられたとしたらーー?
とても耐えられない。
そこに思いあたり、ツキナ様がクレイル様に辛くあたるのも無理はないと思ってはいたが、考えてみたらツキナ様はそもそもクレイル様以外とほとんど会話をしない。
クレイル様だけがツキナ様にとって心許せる相手なのだろうとーーそう、思っていたのだが。
クレイル様の父君が亡くなられて、第二王子がツキナ様に求婚したたきのめされた後、ツキナ様は「いかなる時も私の部屋は一切男性立ち入り禁止。クレイルは半径5メートル以内の接近禁止」令を出された。
お二人の間に、何があったのかーー
♢♢♢
ーーあのバカ、いきなり押し倒してくるなんて……!
何の覚悟もしてないとこにいきなりだ。しかもそのまま気を失うとか、不覚過ぎた。
私はどうやらまたしてもあの騎士を見誤っていたらしい。
聖女である(どんなに言動がそれっぽくなくても)私にあんな真似をする筈がないと思っていた。
いや聖女だってわかる前から好きだったとかほざいてたか?
つまり注視されてたのは疑うより先に、興味を持たれてたからーー?
いや、あの男はモテる。カリンが取り巻きにしようとして失敗したのを城中の女達に歓喜されるほど。
立派で凛々しくてお綺麗で、女性達の憧れの的の騎士様なのだ。
あり得ない。
いや、バレるまで猫被ってたからそのせいか?
どっちでもいい、今度あんな事があった時には誰であれ手加減なしにぶっ飛ばそう。
回復魔法で体の異常はすぐに元に戻せるとはいえ、気持ちのいいものではない。
私は知らなかった。
いつでもどこでも一瞬で現れ、一番でかい魔物に突進して倒してまわる自分を兵士達が「戦いの女神の降臨だ!」と拝んでいたり、目の前で腕を失った人がいたらついでに治してみたり、呼吸が止まりそうになってる子供にちょっとだけ魔力を注いで呼吸できるようにしてやったり、とりあえず目の前にある事で自分に出来そうな事を片っ端からやって歩いた結果”祝福の聖女”だの”異界から降臨した天使”だの恥ずかしい二つ名をつけられまくって流布されている事を。
”聖女”って額に入れられていることは知ってても、そこまで思い至ってはいなかった。
知らなくて幸いだったが、全く知らなかったのも不味かった。後に私は後悔する事になる。
いつでも一番危険な場所に先頭きって斬り込んで行く聖女の姿は戦場にいる騎士や兵士にとって闘志を促す発奮材であり、死地にいる彼らにとっての希望であり、戦う力を持たず傷ついた市民には救いの手を差し出す光だった。
贅沢を好まず民に還元をと王族を叱咤する彼女の噂は尾ひれどころか孔雀の羽根のように盛大に着飾って広まり、国民からの評価はうなぎ上りどころか鯉の滝登り(?)で、城で働く者達だけでなく騎士達にとっても憧れの的となっていた。
幸か不幸か、聖女となってから外見を一切顧みなくなったので自分の姿を鏡で見る事すらしなくなった為、戦闘で無駄な肉が削ぎ落とされ、終わればひたすら眠る生活は日本にいた時よりは健康的(?)なうえ、回復力が高い為に肌の輝きは増していた。
メイド達が念入りに手入れをしたがるので髪は美しく保たれ、結果、元々実年齢より若く見える容姿がここに来た時よりさらに若く洗練された姿になってる自覚はなく、クレイルの杞憂もあながち的はずれではない事ーーに、全く気がついていなかった。
♦︎♦︎♦︎
そしてそれを良く知り、と言うかむしろ誰より早く気付いていたクレイルは。
「俺はーーなんてことを」
当然、一人で落ち込んでいた。
「聖女様を、傷つけてしまった」
押し倒した時まるで反応がなかったので経験があるのかと思ったのだ。
彼女は妙齢で魅力的な女性だ。元の世界に恋人がいたのかもしれない。
そんな誤解を勝手にして、自分も男なんだと軽く知らしめてやるだけのつもりが止まらなくなって。
正気に戻った時には、自分が組み敷いた彼女は気を失っていた。
そこでようやく気が付いたーー彼女は男を知らなかったのだと。
「取り返しのつかない事を……」
求婚を断られ、断罪を待ったが彼女は接近禁止令を出す以外、とくに何も行動を起こさなかった。
ーー希望を、持ってもいいのだろうか。
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
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