<第一章完結>聖女は自分を呼んだ異世界を嘲笑う

詩海猫(8/29書籍発売)

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魔王がいる場所には、クレイルだけが同行した。気配で場所がわかるので、迷う事なく地下迷路を進む。
「……消えるとはどういう意味だ」
「そのまんまだけど?」
 色々な意味で。
「…っ…」
 クレイルの気配が怒気をはらむ。茶化してると思われても、事実だから仕方ない。
 怒鳴られる前に切り込んで教えてあげることにした。
「ねぇ、聖女は、どうして聖女たり得るのか、貴方は知っている?」

♢♦︎♦︎♢

 聖女はね、歴代聖女の戦ってきた記録と魔力を受け継ぐの。本人の意思とは関係なしに。
 そしてその魔力は器とした人間の生命力を使って行使される。だから聖女は短命なの。
 歴代の聖女が何年生きたか、先代の聖女がどうやって命を落としたのか、あなたは知ってる?知らないーーいえ、考えた事もないでしょう?あなた達は自分達に都合のいい記録しか残さないーーそうして一人の命と引き換えにこの世界を維持してきた。
まだ聞きたい?

  ”まだ聞きたい?”ーーそれは、かつて俺が彼女に言った言葉だ。
何だ?何を言っている?彼女が使う魔力は彼女自身の生命力? だとしたらーー、
「嘘だ!!」

今更叫ぶクレイルに寄り添ってあげる気はない。
「別に信じなくてもいいよ?ーーどうせもう手遅れだしね。消えるっていうのはそういう意味。魔王を封印するだけでこの体はもう現界。その後生きる生命力なんてーー」
残るワケないよね?
「やめてくれ!!!」
 この男のこんな切羽詰まった叫びは初めてき聞いた。私は薄く笑う。我ながら歪んでる。
 直情バカのくせに策士で、綺麗な顔して力ずくで想いを遂げて、尚高潔な騎士であり続けるあなたが本当にーーむかつく。

 だから、これは私からの最後の嫌がらせ。

「ねぇ?かつてあなたは他の候補と私自身を天秤にかけさせた。あなたは私が好きだと言った。あなたにとって、この世界と私、どっちが大事?大事な方を残してあげる」
 私はクレイルに手をのばした。
 結果はわかっていたけれど。
 彼は腕どころか視線さえ固まったまま動かない。

 ーー彼女がこちらに手を伸ばした。
 だが、その手を取る事が出来ない。俺が動けないでいると、
「答えは聞くまでもなかったわね?」

 遺体の回収は必要ないわ、どうせ何も残らないから。
 そう微笑んで。彼女は扉の中に消えた。

♢♢♢

ーー上手く笑えただろうか。
そんな事を思いつつ、扉の中で私は魔王と対峙した。

 魔王と対峙して思ったのは、「ーーあれ?なんか想像と違う」だった。
 具体的にどう違うのかと聞かれれば上手く説明出来ないが、なんだか雰囲気が違う。
 魔物は本能的に生き物を襲う生物なのだがーー少なくとも私はそう教わったーーはなんかこっちを凝視している。
力量を見極めてでもいるのだろうか?
この世界にはマップの魔法はあってもステータス表示というものはない。魔王に限り装備してるとか??

 大きさは最初に倒したドラゴンと大差ない。ただゆらゆらした黒い塊で形が定まってない。
 違和感が拭えない。これがーーー魔王?
 まじまじと眺めてるうちにあちらが攻撃体制に入る。
 (あ、ヤバい)
 口から青白い光線が放たれ、それを避けつつ、とりあえず片っ端から攻撃魔法を仕掛けてみる。
 (ーーやっぱり、全種の攻撃跳ね返すか~)
 しかも、さっきの光線を浴びた壁は悲惨な感じに溶けている。
 まともに浴びたら瞬殺だ。
(まあ、勝っても負けてもどっちでも良いんだけどねこっちは)
 魔王は出現がランダムなら仕様も毎回ランダムだ。この形は代々の聖女の記憶にない。
 テンプレなとこは急所を攻撃して一撃で消滅させるか、そこで一気に封印に持ち込むかの二択だ。
 攻撃してみないとどちらが有効かわからないし、長引かせても仕方がない。
 (真ん中にコアみたいなのは見えるーーとりあえず斬ってみるか)
 私は魔王の懐に飛びこんだ。

手応えはあった。確かに核は切れた。けれど致命傷にはなっていない。
そしてこちらも、腹部の肉を削がれた。ついでに色々持ってかれた。
 いわゆるHPとか、MPとかいわれるモノをごっそり奪われた、と思う。
(こいつ、強い)
ステータス表示に例えるなら、普通の人間のHPを100としてこいつ200000くらいありそう。
それで行くと聖女ってどれくらいなんだろ?HPはともかくMPは高いんだよね??
 倒せればいいと思ってたけど、甘かった。
 歴代聖女も”封印”する方パターンが圧倒的に多かったのに納得せざるを得ない。
余程の余力がないと、一撃で倒すなんて芸当は無理だ。

 私は傷を回復魔法で治しながら頭を切り替えた。
(次はもっと深く抉られる覚悟で踏みこまないと)
 迷ってる暇はない。次に回復魔法使う余裕があるとは思えない。
(一撃で決めないと)

 構えた所に背後に気配を感じて振り向くと、小さな魔物がいた。青白い鬼火みたいな色の小鬼?がこっちを見つめている。
「?」
あんなの、入ってきた時にいたっけ?
いなかったよね?
ていうかこの吸収型の近くで吸収されてないってーーとか考えてるうちに、それは速攻で吸収された。
(ん? 今、なんか慌ててた?コイツ)
そう思ってコアじっと見る。
(何だろ、さっきと違う。色が別れてる?)
真っ黒なのに、ちらちら青白い部分が見え隠れする。
(もしかして、さっき吸収されたやつが吸収しきれてない?中で抵抗してるの?いくら小型とはいえあの唐突な現れ方といい、もしかしてーー)
ちょっと切り離してみるかと斬った狙いは当たりでそこを切り離すと魔王の力は弱まった。
私はすかさず封印し、意識はそこで途切れた。



♦︎♦︎♦︎

先程まで禍々しい気配と咆哮がき聞こえた扉の向こうがやがて静かになり、閉ざされていた扉が開く。
 飛びこんだ先で騎士は封印された魔王と傍に横たわる聖女の体を抱き上げる。
腹部の半分が体に息がないのは一目で見てとれた。
 そしてそこから引き攣れる様に繋がった血の先にあったものを目にした途端、騎士は吠えた。
 
魔物の断末魔にも劣らない咆哮を。

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