14 / 29
エピローグ
しおりを挟む
”聖女”が”戦死”して1カ月。遺体は冷たい城の地下に安置されていた。
亡くなって1カ月経つのにその亡骸は生きてた頃と変わらぬままで、花と衣装で隠された傷がみえなければ生きているかと見紛うほど。
だが、呼吸はしていない。その胸が鼓動を打つことは二度とない。
ツキナの遺体に真っ白なドレスを着せ、棺に納め、花で埋めつくしたクレイルは毎日花を持参しては枯れ始めた花とみずみずしい花とを入れ替え、毎日棺に語りかけた。
ーーそして、その後は棺の周りに一心に何かを描いていた。一日も欠かさず。
「今日は魔法で脳にあの召喚術を記憶させた神官を消してきた。……俺に出来るのはここまでだ、すまない。思いつく限り潰してまわってきたが、君には全く及ばない」
クレイルは苦笑する。自分の身などどうでもいいという態度も、危なかっしい戦い方も。
全部終わらせるためーー自分の生命力が尽きるまでにやり切ろうとした。
「何故、言ってくれなかった?」
言ってくれ。いつもの様に。
“あなた、馬鹿なの?“
と。
「ーー全く奴らには呆れる。君の遺体が朽ちないと知って今度は”聖遺体”として利用しようとしている。そんな事はさせない。君の体だけでも必ずあちらに戻してみせる」
そう、クレイルが描いてるのはこちらから一方的に人を異界に送る魔方陣。聖女の分銅がなくとも送り返せる魔法は本当にあったのだ。
「君がこちらに残ってくれた時、実はホッとしてもいたんだ。これで君と別れなくて済むのだと。酷い奴だろう?その上で君を責めたてた。何故もっと早く名乗ってくれなかったのかとーーこれは、その罰なのか。君は知っていたのか?」
と棺の傍らに目をやる。
眠るツキナの右手側にはこちらに来た時ツキナが手にしていたバッグが置かれている。
他の候補達も来た時と同じ服装、荷物もそのままにあちらに帰された。
だが彼女の体の損傷具合では元の服は着せられず、ドレス姿のままだ。
そして左手の手元の先には、ツキナの遺体よりあの時のクレイルを吠えさせたものが白くて柔らかい布に包まれ、寄り添う様に横たえられている。
「この子が君の胎内にいた事を」
それはまだ形を成して間もない、胎児の遺体だった。
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
「知る訳ないでしょ」
だって、誰が考えつくのよ?そんな事。
生理は元々不規則だったし日本にいた頃は重かった。こちらにきて魔法を使える様になってからは、痛くなったらすぐに回復魔法で通常の状態に戻せていたから気にした事がなかった。
しかもあの一回で妊娠なんて少女漫画みたいな事、自分に起きると思ってなかったわよ?
まあ、聞こえてないだろうけど。
「だって私今、幽霊だし?」
そう、確かに私はあの時死んだ。封印の完了と共に命が尽きるのを感じた。
なのに、気がついたら棺に入れられた自分の遺体の傍にいた。
私は肉体を離れたあと、彷徨いーーここ1カ月の出来事を俯瞰していた。
そして思う。
「もしかして、私を好きだとか、結婚したいとか、本気だったの?」
と。
それが生きてる頃わかったなら動悸が激しくなったりしたのだろうか?
体のない私には今更わからないけど、わかってたら何か変わったのだろうか?ーーいや、変わらない。
結果は多分一緒だったと思う。私がクレイルを受け入れて、恋人同士になって、全てを話して助けてと縋ったとしてもーー結果はきっと変わらなかったと思う。
だって、変えようがない。
私が聖女として生命力を削るのを止める事も、この世界を諦める事も出来ず嘆く事しか出来なかったろう。
そんなのただの傷の舐め合いだ。そんなもの、欲しくはない。
だから、考えても仕方ない。
それに何故、私はあちらに戻されないーー?
こちらの世界出身の聖女の遺体は残るが、異界の聖女の遺体は残らない。だがその身そのものを封印にする必要があるのかといえばそれも違う。だとすれば、死ねば元の世界に強制的に戻されるのでは?
推測でしかないがこれまでの推測は大体当たっていたし、遺体としてなのか体は途中で霧散して魂だけなのかはわからないが、戻されるものと信じて疑っていなかった。
だからこそ、「遺体の回収は必要ない、どうせ何も残らない」とわざわざ言い残したのだ。
この状況は完全に予想外だ。
資料とか魔方陣、全部破棄した反動なのだろうか?それくらいしか思い浮かばない。
目の前のクレイルは話し終えて魔方陣を一心に描いている。
「ーーほんと、直情バカなんだから」
そう呟いた途端、全身が金色の光に包まれ、何も見えなくなった。
*・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*
「…え…?」
気付くと自分の両手を見つめていた。
(体に、戻った?しかも生きてる)
だって自分の足で立っている。
「なんで……?」
着ている物は遺体が着せられていたドレス、手には召喚された時に手にしていたバッグ。
そしてここはーー、
「やばっ!」
周りの雑踏が目に入った途端、私は走り出す。だってこの場所でこの格好はマズい。
うっかり撮影されてネットにでも流されたら洒落にならない。
いくらここが年中コスプレ天国といわれる街でも、ハロウィンでもないのにこの格好は不味い!
ーーだって周りを見れば明らかに今はまだ夏だ。
どうしてこんな形で戻ってこれたのか、今はそんな事どうでもいい。後で考えれば済む事だ。
走りながらカンナちゃんは無事だろうか、私の事を覚えていてくれるだろうか?
(いや、どちらでもいい)
約束が守れなくとも、再び会うことが叶わなくても、互いが生きてこちら側にいるのならそのうちすれ違う事もあるだろうーーそれでいい。
私は知らない、あの時自分の中に宿っていた命が私の生命が終わると同時に弾けてその子の生命力が自分の中に逆流してこの体を生かした事を。
私がその場を走り去った後、中世の騎士の姿をしたイケメンが現れたなんてニュースでやってたとしても、この後日本にも魔物が跋扈し未曾有の危機に曝され、その対策本部に金髪金眼のイケメンがいたとしても。
私は、何も知らない。ーー 一生、知らないままでいい。
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
ここまでお読みくださりありがとうございます。
日本を舞台にした第二章、すぐに始まりますm(_ _)m
亡くなって1カ月経つのにその亡骸は生きてた頃と変わらぬままで、花と衣装で隠された傷がみえなければ生きているかと見紛うほど。
だが、呼吸はしていない。その胸が鼓動を打つことは二度とない。
ツキナの遺体に真っ白なドレスを着せ、棺に納め、花で埋めつくしたクレイルは毎日花を持参しては枯れ始めた花とみずみずしい花とを入れ替え、毎日棺に語りかけた。
ーーそして、その後は棺の周りに一心に何かを描いていた。一日も欠かさず。
「今日は魔法で脳にあの召喚術を記憶させた神官を消してきた。……俺に出来るのはここまでだ、すまない。思いつく限り潰してまわってきたが、君には全く及ばない」
クレイルは苦笑する。自分の身などどうでもいいという態度も、危なかっしい戦い方も。
全部終わらせるためーー自分の生命力が尽きるまでにやり切ろうとした。
「何故、言ってくれなかった?」
言ってくれ。いつもの様に。
“あなた、馬鹿なの?“
と。
「ーー全く奴らには呆れる。君の遺体が朽ちないと知って今度は”聖遺体”として利用しようとしている。そんな事はさせない。君の体だけでも必ずあちらに戻してみせる」
そう、クレイルが描いてるのはこちらから一方的に人を異界に送る魔方陣。聖女の分銅がなくとも送り返せる魔法は本当にあったのだ。
「君がこちらに残ってくれた時、実はホッとしてもいたんだ。これで君と別れなくて済むのだと。酷い奴だろう?その上で君を責めたてた。何故もっと早く名乗ってくれなかったのかとーーこれは、その罰なのか。君は知っていたのか?」
と棺の傍らに目をやる。
眠るツキナの右手側にはこちらに来た時ツキナが手にしていたバッグが置かれている。
他の候補達も来た時と同じ服装、荷物もそのままにあちらに帰された。
だが彼女の体の損傷具合では元の服は着せられず、ドレス姿のままだ。
そして左手の手元の先には、ツキナの遺体よりあの時のクレイルを吠えさせたものが白くて柔らかい布に包まれ、寄り添う様に横たえられている。
「この子が君の胎内にいた事を」
それはまだ形を成して間もない、胎児の遺体だった。
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
「知る訳ないでしょ」
だって、誰が考えつくのよ?そんな事。
生理は元々不規則だったし日本にいた頃は重かった。こちらにきて魔法を使える様になってからは、痛くなったらすぐに回復魔法で通常の状態に戻せていたから気にした事がなかった。
しかもあの一回で妊娠なんて少女漫画みたいな事、自分に起きると思ってなかったわよ?
まあ、聞こえてないだろうけど。
「だって私今、幽霊だし?」
そう、確かに私はあの時死んだ。封印の完了と共に命が尽きるのを感じた。
なのに、気がついたら棺に入れられた自分の遺体の傍にいた。
私は肉体を離れたあと、彷徨いーーここ1カ月の出来事を俯瞰していた。
そして思う。
「もしかして、私を好きだとか、結婚したいとか、本気だったの?」
と。
それが生きてる頃わかったなら動悸が激しくなったりしたのだろうか?
体のない私には今更わからないけど、わかってたら何か変わったのだろうか?ーーいや、変わらない。
結果は多分一緒だったと思う。私がクレイルを受け入れて、恋人同士になって、全てを話して助けてと縋ったとしてもーー結果はきっと変わらなかったと思う。
だって、変えようがない。
私が聖女として生命力を削るのを止める事も、この世界を諦める事も出来ず嘆く事しか出来なかったろう。
そんなのただの傷の舐め合いだ。そんなもの、欲しくはない。
だから、考えても仕方ない。
それに何故、私はあちらに戻されないーー?
こちらの世界出身の聖女の遺体は残るが、異界の聖女の遺体は残らない。だがその身そのものを封印にする必要があるのかといえばそれも違う。だとすれば、死ねば元の世界に強制的に戻されるのでは?
推測でしかないがこれまでの推測は大体当たっていたし、遺体としてなのか体は途中で霧散して魂だけなのかはわからないが、戻されるものと信じて疑っていなかった。
だからこそ、「遺体の回収は必要ない、どうせ何も残らない」とわざわざ言い残したのだ。
この状況は完全に予想外だ。
資料とか魔方陣、全部破棄した反動なのだろうか?それくらいしか思い浮かばない。
目の前のクレイルは話し終えて魔方陣を一心に描いている。
「ーーほんと、直情バカなんだから」
そう呟いた途端、全身が金色の光に包まれ、何も見えなくなった。
*・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*
「…え…?」
気付くと自分の両手を見つめていた。
(体に、戻った?しかも生きてる)
だって自分の足で立っている。
「なんで……?」
着ている物は遺体が着せられていたドレス、手には召喚された時に手にしていたバッグ。
そしてここはーー、
「やばっ!」
周りの雑踏が目に入った途端、私は走り出す。だってこの場所でこの格好はマズい。
うっかり撮影されてネットにでも流されたら洒落にならない。
いくらここが年中コスプレ天国といわれる街でも、ハロウィンでもないのにこの格好は不味い!
ーーだって周りを見れば明らかに今はまだ夏だ。
どうしてこんな形で戻ってこれたのか、今はそんな事どうでもいい。後で考えれば済む事だ。
走りながらカンナちゃんは無事だろうか、私の事を覚えていてくれるだろうか?
(いや、どちらでもいい)
約束が守れなくとも、再び会うことが叶わなくても、互いが生きてこちら側にいるのならそのうちすれ違う事もあるだろうーーそれでいい。
私は知らない、あの時自分の中に宿っていた命が私の生命が終わると同時に弾けてその子の生命力が自分の中に逆流してこの体を生かした事を。
私がその場を走り去った後、中世の騎士の姿をしたイケメンが現れたなんてニュースでやってたとしても、この後日本にも魔物が跋扈し未曾有の危機に曝され、その対策本部に金髪金眼のイケメンがいたとしても。
私は、何も知らない。ーー 一生、知らないままでいい。
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
ここまでお読みくださりありがとうございます。
日本を舞台にした第二章、すぐに始まりますm(_ _)m
234
あなたにおすすめの小説
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
異世界追放《完結》
アーエル
ファンタジー
召喚された少女は世界の役に立つ。
この世界に残すことで自分たちの役に立つ。
だったら元の世界に戻れないようにすればいい。
神が邪魔をしようと本人が望まなかろうと。
操ってしまえば良い。
……そんな世界がありました。
他社でも公開
魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす
三谷朱花
恋愛
ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。
ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。
伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。
そして、告げられた両親の死の真相。
家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。
絶望しかなかった。
涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。
雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。
そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。
ルーナは死を待つしか他になかった。
途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。
そして、ルーナがその温もりを感じた日。
ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる