<第一章完結>聖女は自分を呼んだ異世界を嘲笑う

詩海猫(8/29書籍発売)

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エピローグ

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 ”聖女”が”戦死”して1カ月。遺体は冷たい城の地下に安置されていた。
 亡くなって1カ月経つのにその亡骸は生きてた頃と変わらぬままで、花と衣装で隠された傷がみえなければ生きているかと見紛うほど。
 だが、呼吸はしていない。その胸が鼓動を打つことは二度とない。

ツキナの遺体に真っ白なドレスを着せ、棺に納め、花で埋めつくしたクレイルは毎日花を持参しては枯れ始めた花とみずみずしい花とを入れ替え、毎日棺に語りかけた。

 ーーそして、その後は棺の周りに一心に何かを描いていた。一日も欠かさず。

「今日は魔法で脳にあの召喚術を記憶させた神官を消してきた。……俺に出来るのはここまでだ、すまない。思いつく限り潰してまわってきたが、君には全く及ばない」
 クレイルは苦笑する。自分の身などどうでもいいという態度も、危なかっしい戦い方も。
全部終わらせるためーー自分の生命力が尽きるまでにやり切ろうとした。
「何故、言ってくれなかった?」
 言ってくれ。いつもの様に。
 “あなた、馬鹿なの?“
 と。
「ーー全く奴らには呆れる。君の遺体が朽ちないと知って今度は”聖遺体”として利用しようとしている。そんな事はさせない。君の体だけでも必ずあちらに戻してみせる」
 そう、クレイルが描いてるのはこちらから一方的に人を異界に送る魔方陣。聖女の分銅がなくとも送り返せる魔法は本当にあったのだ。

「君がこちらに残ってくれた時、実はホッとしてもいたんだ。これで君と別れなくて済むのだと。酷い奴だろう?その上で君を責めたてた。何故もっと早く名乗ってくれなかったのかとーーこれは、その罰なのか。君は知っていたのか?」
と棺の傍らに目をやる。
 眠るツキナの右手側にはこちらに来た時ツキナが手にしていたバッグが置かれている。
他の候補達も来た時と同じ服装、荷物もそのままにあちらに帰された。
だが彼女の体の損傷具合では元の服は着せられず、ドレス姿のままだ。
そして左手の手元の先には、ツキナの遺体よりあの時のクレイルを吠えさせたものが白くて柔らかい布に包まれ、寄り添う様に横たえられている。
「この子が君の胎内なかにいた事を」

それはまだ形を成して間もない、胎児の遺体だった。



*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*


 「知る訳ないでしょ」
 だって、誰が考えつくのよ?そんな事。
 生理は元々不規則だったし日本にいた頃は重かった。こちらにきて魔法を使える様になってからは、痛くなったらすぐに回復魔法で通常の状態に戻せていたから気にした事がなかった。
 しかもあの一回で妊娠なんて少女漫画みたいな事、自分に起きると思ってなかったわよ?
 まあ、聞こえてないだろうけど。
 「だって私今、幽霊だし?」

 そう、確かに私は。封印の完了と共に命が尽きるのを感じた。

 なのに、気がついたら棺に入れられた自分の遺体の傍にいた。
私は肉体を離れたあと、彷徨いーーここ1カ月の出来事を俯瞰していた。
そして思う。
 「もしかして、私を好きだとか、結婚したいとか、本気だったの?」
と。

 それが生きてる頃わかったなら動悸が激しくなったりしたのだろうか?
体のない私には今更わからないけど、わかってたら何か変わったのだろうか?ーーいや、変わらない。
結果は多分一緒だったと思う。私がクレイルを受け入れて、恋人同士になって、全てを話して助けてと縋ったとしてもーー結果はきっと変わらなかったと思う。
だって、変えようがない。
私が聖女として生命力を削るのを止める事も、この世界を諦める事も出来ず嘆く事しか出来なかったろう。
そんなのただの傷の舐め合いだ。そんなもの、欲しくはない。

だから、考えても仕方ない。

 それに何故、私はあちらに戻されないーー?
 こちらの世界出身の聖女の遺体は残るが、異界の聖女の遺体は残らない。だがその身そのものを封印にする必要があるのかといえばそれも違う。だとすれば、死ねば元の世界に強制的に戻されるのでは?
 推測でしかないがこれまでの推測は大体当たっていたし、遺体としてなのか体は途中で霧散して魂だけなのかはわからないが、戻されるものと信じて疑っていなかった。
だからこそ、「遺体の回収は必要ない、どうせ何も残らない」とわざわざ言い残したのだ。
 この状況は完全に予想外だ。
 資料とか魔方陣、全部破棄した反動なのだろうか?それくらいしか思い浮かばない。
 目の前のクレイルは話し終えて魔方陣を一心に描いている。
「ーーほんと、直情バカなんだから」
そう呟いた途端、全身が金色の光に包まれ、何も見えなくなった。


*・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*



「…え…?」
 気付くと自分の両手を見つめていた。
(体に、戻った?しかも生きてる)
 だって自分の足で立っている。
「なんで……?」
 着ている物は遺体が着せられていたドレス、手には召喚された時に手にしていたバッグ。
そしてここはーー、
「やばっ!」
周りの雑踏が目に入った途端、私は走り出す。だってこの場所でこの格好はマズい。
うっかり撮影されてネットにでも流されたら洒落にならない。
いくらここが年中コスプレ天国といわれる街でも、ハロウィンでもないのにこの格好は不味い!

ーーだって周りを見れば明らかに今はまだ夏だ。

 どうしてこんな形で戻ってこれたのか、今はそんな事どうでもいい。後で考えれば済む事だ。
 走りながらカンナちゃんは無事だろうか、私の事を覚えていてくれるだろうか?
 (いや、どちらでもいい)
約束が守れなくとも、再び会うことが叶わなくても、互いが生きてこちら側にいるのならそのうちすれ違う事もあるだろうーーそれでいい。


 




私は知らない、あの時自分の中に宿っていた命が私の生命が終わると同時に弾けてその子の生命力が自分の中に逆流してこの体を生かした事を。
 私がその場を走り去った後、中世の騎士の姿をしたイケメンが現れたなんてニュースでやってたとしても、この後日本にも魔物が跋扈し未曾有の危機に曝され、その対策本部に金髪金眼のイケメンがいたとしても。

私は、何も知らない。ーー 一生、知らないままでいい。






*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*



ここまでお読みくださりありがとうございます。
日本を舞台にした第二章、すぐに始まりますm(_ _)m
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