<第一章完結>聖女は自分を呼んだ異世界を嘲笑う

詩海猫(8/29書籍発売)

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第二章 プロローグ〜メリークリスマス〜

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「クリスマスか…」
 こちらの世界に来てから季節ごとに随分色々なイベントがあるものだ、と半ば呆れ、もう半分は感心した。
 ツキナとカンナ嬢が話していた”ハロウィン”や”コスプレ”というものも知った。
 「ああ二人はこれに行く約束をしていたのか」とツキナの最後の姿を思い、胸が痛くなる。
 彼女は召喚された時点で知っていたのだ。
 
その約束が、果たされる事はないのだと。

♢♢♢

「おねーさま!あのお店です!急ぎましょう!」
 カンナちゃんの元気な声に足を早める。
 いくら若作りでも小学生のパワーに合わせるのは無理がある。でも、悪い気分ではない。
 我ながら複雑な気分で私はカンナちゃんの後を追って店に入った。

 お店の中は可愛いクリスマスグッズでいっぱいだった。
 1点ものの輸入雑貨からリーズナブルなものまで、幅広い品揃えが売りというこの店の紹介をテレビでみたカンナちゃんがここに行きたい!と言い出し、「良いものから売れてしまうので急ぎましょうおねーさま!」となったカンナちゃんを連れて来た次第である。

あの後、もちろん私はカンナちゃんと接触しようとは思っていなかった。
何故自分が戻ってこられたのか、それは周りに何か影響を及ぼすのか?そして二度と同じ事が起こる可能性はないのかーーわからなかったから。

 幸い、いきなりあんな服で原宿を走って(?)いた私の姿がネットにあがるような事はなかった。
 手持ちの荷物もそのままだったし、時間さえ全く経っていなかったのだ。おそらく、他の候補達が戻された時とタイミングは変わらなかったんだろう。
 普通に家には帰れたし、1人暮らしなので問題はない筈はずーーだったのだが。
 家に着き、鏡を見た途端私は固まった。
「誰だこれ?」
と、ツッコみたくなるレベルで面差しが変わっていたのだ。

 自分の遺体を傍らで見ていた期間があったといっても気分のいいものではないから、あまり顔をまじまじと正視したりはしていなかったので気が付かなかったのだ。
魔物退治行脚のせいで痩せたのは自分でもわかっていたがーー顔つき全体がシャープになっているだけでなく、目つきも何やら鋭くなってるし、髪もあちらにいた分伸びている。肌に至っては回復魔法乱用のせいか若返っているような気がする。
(ここまで知り合いに会わなくて良かった……!)
と鏡とにらめっこしながら猛烈にそのことに感謝した。
髪は切ればいいし、目つきだけならカラコンやメイクで何とかなるが体つきと顔立ちはーーなんかもう全身整形でも疑われそうだ。

結果、あちらの世界からこちらに戻されるまでの間タイムラグはないにも関わらず、私は仕事を1週間病欠せざるを得なかった。
病欠の後ならやつれた、で何とか押し通せるーーいや、通すしかない。そう思って。

私の記憶が全く消されてはいない事(死亡認定されてるんだから当たり前だが)、あの魔方陣発動時カンナちゃんの様子に記憶を改竄された形跡は見られなかった事から、他の候補の記憶も消えてはいないと思ったが、あの時見える範囲に他の候補はいなかったと思うーーというか、いたらこちらがわからなくても向こうが反応したのではないか?
1人だけ、あちらの衣装を着たままこちらに戻された私の姿に。

考えてみたらあの魔方陣は”あの場にいた人間を無差別に召喚する”のではなく、”一定の範囲内にいるを召喚する“もので、こちらからはその範囲がわからない。だから、皆それなりに離れた場所にいたのだと思う。

 それでもあんな経験をしたのだから自分で暴露ーーーという言い方はアレだが、経験談でもフィクションとしてでも語ろうとする人がいるかも?ともちょっと思ったのだが、ネット検索してもそんな書き込みは一切なかった。

 考えてみたら一瞬で元の姿のまま元の位置に立っていたのだ、夢だと思うのが普通かもしれない。
 私だって、あの衣装で戻されたのでなければ思ってたかもしれない。
 なら、私も夢だと思って忘れてしまおう。

 ーーそう思っていたのだけれど。

 一年が経ち、自分の周りはあんな事がある前と変わらず平穏で魔法とか魔物とか都市伝説にすらならない日々が過ぎ、私の感情に変化が訪れた。

(もう、気にしなくていいかもしれない)
私がこちらに戻ってから二度目のハロウィンがやってきたーー私とカンナちゃんは、季節ごとに約束の場所と日時を決めていた。

*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*

 ハロウィンはこのイベントスポット、クリスマスはあの有名ツリーの前、春は某桜の名所ーー等々。
 あの時「下見をしておいてね?」と私は言った。
自分は遅くなるから、なんて気休めと一緒に、酷い事をした。
行けない事を、わかってたくせに。

  胸が痛む。迷いが生じる。

 そもそも私はあちらでは完全に”役目を終えて死んでいる人間”なのだ、そしてこちらにはそれを知っている人間はいない。
 万が一カンナちゃんが私の事を覚えていても、それだけは知りようがない。

 だからただ、そっと覗くだけ、姿を見るだけなら。

 そもそも来てないかも知れない、というかその可能性の方が高い。
 去年は来たかもしれないが、それで待ち惚けをくわされてるのに今年もとか、そんな奇跡みたいな事、ある訳ない。

だが、私のその予想に反してカンナちゃんはそこに立っていた。たった1人で。
 小学生なのに、もちろん危険な場所ではないが、人待ち顔で、通り過ぎる人の中に誰かを探しながら。
 1時間経っても、2時間が過ぎても、そこから動こうとはしなかった。

 「ーーどうして」
 もう帰っていいのに。
 それとも違う誰かと待ち合わせているのだろうか?
 浮かれた街並みは時々僅かに場所を変えながら人待ち顔の子供に今のところ注意を払ってはいないがーーやがて、近くのデパートの警備員がカンナちゃんに向かって歩いて来るのが見えた。
 
私は堪らず走りだした。

 警備員がカンナちゃんに、
「お母さんは?」
 と話し始めたところに、
「すみません!その子の保護者です!」
 と割って入ったら、
「おねーさま!」
 と喜色満面のカンナちゃんがしがみついてきた。
 それを見た警備員さんは安心したのか、
「あぁ」
なんだ、と笑いながら去って行った。

 警備員さんが離れて行くのを見送って、私とカンナちゃんは悪戯が成功した子供のように目を合わせて笑う。
「お帰りなさい、おねーさま」
「ただいま。カンナちゃんーー大きくなったね」
 正直、もう首根っこにしがみつかれると重い。
 けど、幸せな重さだった。

 それから、ハロウィンの街を歩きまわった。
 もちろんカンナちゃんを休ませるのが先だったので「遅れたお詫び」として近くの店でパフェを奢って、
「自分はあちらでの聖女の役目を終えたので帰された」
 とだけ説明した。
 正直物凄くしんどくて辛かったので思い出したくない、というのもつけ加えて。
 端折はしょり過ぎだが嘘ではない。
 カンナちゃんはやはり全くタイムラグなく戻され、すぐにママと合流したとの事。
 近くに他の候補も見かけなかったそうだ。
  (ーーやっぱり、その辺は同じなんだ)

 他の候補とはほとんど交流がなかったし、あの時私と彼女達の間には兵が立ち塞がってほとんど見えなかった筈だ。
 私は観察に徹していた(つもりだった)から大体の顔は覚えいるが、向こうが覚えているとは思えない。
 カンナちゃんだけが子供だったのでそれが目印になりかねない危険はあるが、そんな事を騒いだところで得する事があるとも思えない。

 だから、私は割り切った。

*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*

 カンナちゃんのママには、
「迷子になった時助けてくれたお姉さん」
 として紹介され、時々一緒に出掛けるようになった。
 幸い私は地道な勤め人で見た目も怪しくなければカンナちゃんの保護者としてもおかしくない大人なので、バリキャリで子供と遊べないママさんには歓迎された。
 カンナちゃんは予想通り(?)豪邸に住むお嬢様だったが、海外出張の多いパパはともかくママまで家にいる事が少ないとは思わなかった。
 とはいえご両親公認の遊び相手(?)として認定された私は今年のクリスマスは忙しいご両親に代わりカンナちゃんの家でささやかなホームパーティー兼パジャマパーティーをして過ごす事になった。
 今日はその飾りやお揃いのパジャマを買いに来たのだ。

 満面の笑みのカンナちゃんを見ているとまるであちらの世界での出来事が嘘のようだ。
 紛れもないカンナちゃん自身がその証しであるのに、街中がクリスマスに彩られた光景と相まって「幸せだ」と感じてしまう。
 あの一件以来、私は小さな幸せを感じるのが上手くなったと思う。だって、あそこで終わると思ってたから。
 それは、ほんとに薄情な事かもしれないけれど。

♦︎♦︎♦︎

「あ、あの、ツキノさん」
「なんだ?」
「クリスマス、誰かと約束してますか?もし、空いてたら、、」
「悪いが約束があるんで空きはない」
 にべもない言い様に相手は半泣きで出て行った。
「あ~あ、可哀想に。何人目だっけ?」
「そう思うなら俺に言いに来る前に止めればいいだろう」
「約束なんて誰ともしてないの知ってるのに?」
「している」
「誰と?」
「仕事だ」
「………」
 メガネをかけた飄々とした仕草の同僚は処置なし、と溜息をつく。
「君さあ、わかってないみたいだけどこの省イチの優良物件だって自覚してる?」
「優良物件とは建物の事を言うんじゃないのか?」
「本来はね。が使うのは別の意味。結婚相手としての条件を兼ね備えた男の事を言う」
「………」
 無言でスマホを操作し始める同僚に怪訝な顔で、
「何してんの?」
と訊ねると、
「以前それで騙されたからな。確認をしている」
 どうやら言葉の意味検索をしているらしい。
 苦笑いした同僚は、
「合ってたでしょ?」
「そうらしいな。何が基準かわからんが」
「そりゃあ金髪のイケメンで女性に親切で、その上堅物過ぎて浮気の心配もないとくれば、大概の女性は飛び付くと思うよ?」
「……そういうものか」
「そういうものだよ。少なくともこの部署ここではね」
 ここはとある省庁の秘密部署にあたる。文字通り”秘密裏に処理しなければいけない”事件のうち”超常現象またはそれに類すると思われる不可能犯罪”専門の部署だ。

 こちらに来てすぐは当然厳しく尋問されたが、魔法を使ってみせたら態度が一変した。そして即この世界での身分証と引き換えにこの部署に配属された。
 最初こそ奇異な目で見られたが、慣れれば何て事はなかった。
 この部署の連中は元々魔法ーーこちらの世界では超常現象か。そういったものの研究や研鑽に明け暮れてる連中ばかりだったからだ。

 聞いた話によれば俺のように突然現れたり、逆に突然人が消えたりする例は世界中に沢山あり、中には俺みたいな能力ちからを持った人間も時々いるそうなのだ。

 (そうだろうな)と召喚した側の俺は思う。他の候補はこちらに送り返したので問題になっていないはずだが、ツキナだけは行方不明のままの筈だ。
 調べてみたがそれらしい女性の遺体が発見されたというニュースも見つからなかった。
(やはり、失敗したのだろうか)

♢♢♢

急に首筋がちりちりした感触に襲われ、全身がぶわっと総毛立った。
 この感触は覚えがある。向こうでに遭遇した時に良く似ている。振り向くのが躊躇われる。
 が、感じた時と同様唐突にその感覚は消え去る。急いで振り向くと、そこには先程と全く変わらない街並と人が行き交う姿のみ。
 (気のせいーーだよね?)
 だって、今の自分には魔法は全く使えない。そんなの感じる方がおかしいのだ。
 魔法とか、魔物とか。こっちにある筈がない。

♦︎♦︎♦︎

 こちらでも魔物の仕業としか思えない事件ーーこちらでは怪奇現象などと呼ばれているらしいがーーもたまにある。
 ここは一般には知られていないがその手の事件対応のエキスパートを集めた部署だそうだ。
 今の境遇に不満はない。
 衣食住は保証されているし、理解のある友人ーー周りには変人と呼ばれているがーー似たような能力を持ち、こうやって(時々騙されるが)わからない部分をフォローしてくれる同僚もいる。
 自分がそういった事件を解決する事がこの世界の安全を守る事に繋がるのなら否やはない。

「また”聖女様”の事でも考えてる?」
「……ああ」
 身分証を作る際、日系の苗字を付けるが希望はあるかと訊かれた時ツキナという名前はこの国で一般的な名前なのかと聞いたら、「それは女性のファーストネームで苗字に使われている事はまずない」と言われた。
 だから似た発音で苗字にしてもおかしくない言葉を教えてもらい、その名を名乗る事にした。
 クレイル・ツキノ
 それが今の自分の名前。
 我ながら未練がましいと思う。
 だが、クリスマスの夜は聖なる夜で、奇跡が起きるという。
  
ーーならば、願ってもいいだろうか。

♢♢♢

クリスマスツリーに願いごとを吊るす人達を見て平和だなあ、と思うのと同時に直情バカ、としか言い様がない騎士の事を思い出す。
 なんでこうして戻れたのかわからないけど、あの男だけが最後の最後まで私をこちらに帰そうとしていた。

 (ーーあちらにクリスマスやそれに似た行事があるかは知らないし、彼の願い事なんて私にはさっぱりわからないけど)
私は紙には“世界平和“と無難に記し、ツリーに吊るす。
(私をここに返そうとしてくれたのは確かだから、今夜くらいは祈ってもいいかもしれない。

 ♦︎♦︎♦︎ーーー願わずにいられない。どうか君とあの子に安らかな眠りと、君が戻りたいと願ったこの世界の人々に、

 ♢♢♢ーー最後まで私に対して誠実であろうとした不器用な騎士ナイトに。

「「どうか幸せな結末が訪れますように」」
   


*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*




季節感まる無視ですみません!最初書いた時クリスマスだったんです💦
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