<第一章完結>聖女は自分を呼んだ異世界を嘲笑う

詩海猫(8/29書籍発売)

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交錯 1 〜謹賀新年〜

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「何故わざわざこんな人混みに集まるんだ?」
「俺達もその”人混み”の一部だってこと忘れちゃダメだよ?クレイル」
「何故加わる必要があるんだ?」
「これも社会見学の一環だよ。こんな人混みで異常現象が起きたらどうする?人はパニックを起こすと何をしでかすかわからないーーそんな人々をいかにして安全かつ速やかに避難させるか。君ならどうする?」
 どう見てもこじつけな同僚の言い分にどこまでも真面目な元騎士は
「うむ。そうか…ここにはざっと何人の人が集まるんだ?」
「う~んこの三ヶ日でざっと300万人くらい?」
「………」
 飄々と答える同僚にクレイルは無言でスマホを取り出す。もはや恒例行事である。
「…本当にこんなに人が来るのか」
 画面をみて驚いたように呟くクレイルに
「まあ、有名なとこほどご利益があると思ってるフシがあるからねぇ?」
 相変わらず飄々と告げる同僚は続けて
「ま、どっちかって言うと”来る”って行為自体がイベント化してる部分も否めないけど」と肩を竦めた。

 神頼み、か…彼女ならこう言うだろうな。
 ”死にたくないなら自分の力で何とかしろ”
と。

♢♢♢

 今でもそう思っているし、私が無神論者なのも相変わらずだが、私は神様や宗教は人の心の拠り所として存在するものだと思っている。
 誰しも一人で耐えたり悩んだりは苦しいから、祈ったり、話したり、共感してもらったりする相手が必要なのだ。
 それが神社だったり教祖だったりするだけだ。
 ただ、怪しい新興宗教のように“それがなければ生きてけない、側になければ安心できない。“
 までいってしまうともう中毒だ。
 ただの”祈り”なら共生の一種だが ”中毒”は依存症という病気だと思う。
 そんな私が何で国内で3本指に入るくらい混んでる場所に初詣に来ているかというと、
「おねーさま!おみくじ引きましょう!」
例によって”可愛い妹”のお願いだからである。

 昨今の新春セールは元旦の朝イチだけでなく終夜営業の0時からだったり、さらには前倒しで31日の夜から始めてしまうとこだってある。
 なので31の夜からそれらの店を物色して、0時過ぎに初詣を済ませ、周りに出てる露店で腹ごしらえ兼休憩して福袋ゲットの列に並び、家に帰ってそれらの中身を開けつつ好きなDVDをみながらゴロゴロまったり過ごす。
 というのが私達の予定である。
 私の場合、露店と初詣以外(買い物は1人でするが露店買い食いまでは普段やらない)は毎年こうやって過ごしていたのだが今年はカンナちゃんが
「初詣に行きたい!」
 と言い出したのだ。
 毎年 年末年始は別々の場所(大体海外)を飛び回ってるパパかママについて行って海外で合流し、家族で冬休みを過ごして始業式までに帰国するのが通例だったそうなのだが、パパとにしろママにしろ仕事が終わるまではホテルで待たされるだけなので
「だったら今年は日本で初詣に行ったり買い物したい!」
 と両親に直訴したのだそうだ。
 元々カンナちゃんはショッピング好きなのだがママが忙しいせいで直に店を見てまわる機会自体が少なく、お正月のそういった風景をテレビで見ては一度やってみたかったそうなのだ。
 そこに私の年末年始の過ごし方を聞いたカンナちゃんは
「ならおねーさまには年末年始うちに泊まっていただきましょう!」
 となったのだ。
 ご両親もさすがに難色を示したが”ホテルで1人で待たされる時間が長くて寂しい”という愛娘の言葉には勝てず渋々ながら承諾した。

 まあ、私も人混みは嫌いだが買い物は好きだしあちらの世界にいた時から思ってたのだがカンナちゃんと私の好みは似ている。
 欲しい雑貨の好みなんか大体一緒で服だって違うのはサイズくらい、見たい店も似通ってくるというもの。初詣先と目当ての店が近い事もあって予定はすぐに決められた。

 今は前倒しセール物色後の初詣中である。いつも思うのだがあの後方から豆撒きのように投げられているお賽銭、効果あるのだろうか。こんな混んだ場所では、賽銭箱の目の前に行くまでかなりの時間を要す。
 なので、遠くから賽銭箱に投げてよしとしてしまう人が割と多い。寒いし気持ちはわかるのだが…前にいる人のフードの中とかにinしてたりするので効果はないと思う。前で何か祈ってる人は神様にはなってくれないだろう。

 まあ、単に正月の風物詩として楽しむ分には悪くない。
「わっ!私大吉です!おねーさまっ!」
「…凄いねカンナちゃん。私ただの吉だよ?」
 待ち人、失せ物、学問に対し可もなく不可もない文が並ぶ。
 恋愛…自ら動くべし
 と いうのは気にいらないが。
 ーー相手もいないのに。

♢♦︎♦︎♢

「おぉっ!大吉とはやるじゃないか!今年こそは恋人でも出来るんじゃな~い?」
「…別に求めてはいないが。そっちはどうなんだ?」
「僕も大吉だよ。一緒だね~」
 と持った紙をひらひらさせる同僚の手元に目をやると
「……俺には”大凶”にみえるが気のせいか?」
「な~に、普通は元旦のおみくじには凶や大凶は入れないってのが定説なんだよ?にも関わらず大凶を引き当てるなんて我ながら神業だ。なら僕の運は向かうところ敵なしだ」
「…前向きな考えで何よりだな」
「で?その大吉には何て書いてあるの?」
「良くわからんが…」
 待ち人、学問、恋愛等どれも頑張れば成就するでしょうとしか読めない。
 だが、
「この文はどういう意味だ?」
 失せ物…悪しく探せば無きなり。
「ああ、探してる物が見つからないのは探し方が悪いんだろうって意味だね言い回しがちょっと古いからわかりにくいよねこれは」
 その時
「おねーさま!」
 と叫ぶ子供の声が耳に入る。
「…っ!」
 急いで声のした方に目を向けたものの、声の主は既に人混みの中に融けてしまいみつける事は出来なかった。
「…どうかした?」
「いや、知り合いの、声に…似てる様な気がしたんだが」
 そんな筈はない。あの2人は実際は姉妹ではないし第一、ツキナは既に亡くなっているのだ。
 確かに、今の声はカンナ嬢に良く似てはいたが…もちろん、カンナ嬢には本当にこちらに姉がいたのかもしれないし、そもそも全くの別人だった可能性だってある。
「そっか、探してみる?」
「いや…」
 仮に本人だとしてもどうする。
 ツキナは死ぬまで魔物と戦って死んでいったと、自分は何も出来ずむざむざと死なせたとカンナ嬢に知らせるのか?
「いや、勘違いだろう」
「…そう…?」
 そんな真似が出来るわけがない。
 自分があの2人に出来る事は、もうないのだ。

「良かった、この人混みじゃはぐれたらもうアウトだわ」
「ですね…ごめんなさいおねーさま、初詣先で友達と出喰わすなんて初めてで、つい」
 浮かれてしまったらしい。年齢の割に大人びているカンナちゃんにしては珍しい。
 まあ、小学生らしくていいとも思うけど。
「いいのよ、無事なら。何か食べてく?」
「たこ焼きとイカ焼きとあとさっきみた串焼きの和牛ステーキが気になってます!」
「…それ全部食べるの?」
「全部半分こならイケると思うんです」
「…わかった」
 実は私もどれも嫌いじゃない。むしろ好きだ。それに福袋争奪戦は体力勝負だ。初詣だけでも結構消耗してるしチャージは必要だ。
 体も冷えてきたし、暖かい飲み物を買って私達は露店を廻って食べ歩く。こんな事が出来るのもこの時期だけこのエリアがホコ天になってるからだ。
「おねーさまは、今年何をお願いしたんですか?」

「…この先も、平和が続きますように、かな」
 強いて言えば、だけど。
 正確には
 ーーもう2度とあんな事が起きたり巻き込まれたりしませんように、

「んで?君は何を願ったの?」
「そんな事は決まっている」
「決まってるの?」
「世界平和だ」
「…博愛主義者だねぇ」
「…そんなんじゃない」
 ーーこの世界の人間が2度とあんな事に巻き込まれる事がないように。

*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*

 ♢♢♢ーー誰かを召喚するあんな事が必要ない世界でありますように。未来永劫は無理でも、せめてこの子達が幸せだったと言える時まで、

 ♦︎♦︎♦︎ーー今ここにいる人々が幸せに人生の幕を閉じるまで、

 「「どうか、何事も起こりませんように」」

 それに付け加えるとするならば、ひと言でいい、彼女に伝える機会チャンスが欲しい。
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