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「彼女は聖女ではない。候補の1人ではあったが」
「そっか、聖女候補って大勢いたんだっけ」
「……ああ」
「それに、聖女になった子は亡くなってるんだよね?」
「そうだ。彼女だけはこちらへ帰せなかったが、他の候補者たちは全員こちらに返したはずだ。記憶の消去などは特に行っていないから嘘をついているわけではないが」
彼女は〝聖女になりたかった〟のだろうーーおそらく、今でも。
聖女の術は、生命を燃やす事なのだと知らないから。
(知っていれば)
あの時、ツキナが頑なに自分を聖女だと認めない理由を、もっと考えていたのならーー少しは彼女の心に寄り添えたろうか。
苦い想いがこみ上げる。
「まあ、ならここには近づかない方がいいね」
「ああ、そうだな」
あの調子では、自分を見たら騒ぎ出すかもしれない。それは不味い。
この世界に〝聖女を探す〟なんて真似をさせてはいけない。
万が一、それにカンナ嬢を巻き込む事になればツキナに合わせる顔がないではないか。
「ま、なら一応軽く監視するだけでいいかな。流石に”私は聖女だ“って新興宗教の教祖にでもなられちゃ困るけど」
「……流石にそれはないと思うが。」
「だよねぇ」
そんな軽口をたたきながら、
「お前、この騒ぎをどう思う?」
「どうって?いつも通り対処するだけだけど?」
「いつも通り、か」
ウィルのその言葉にクレイルは少し安心する。
少なくともこの世界にも形は違えどこういった事へ当たり前に対処する機関があってちゃんと機能しているうえ、魔法など空想の産物だと思ってる世界で”聖女を召喚“などという事由は今のところあり得ない。
「……早く原因を突き止めねばな」
だが、そんな思いを嘲笑うように犠牲者は増えていき、また殺し方が派手、というかバラエティに富んでいてどう見ても単独ではなく複数犯の仕業。
狂信団体でもいるのではないか?
いや、どこぞの国が暗殺のスペシャリストチームを送り込んだに違いない。
いや、今まで潜んでいた忍者集団が表に出てきたんだ。
勝手に専門家を名乗る輩がネットのあちこちに出没し、冗談みたいな説も飛び交う中、テレビはじめマスコミも不必要に煽り、二人は各々、違う場所で呟く。
「ーーやめろ」
「やめてよ……」
騒ぎが大きくなるほど犯人は図に乗る。そんなの定石だ。
「煽りまくるんじゃないわよ……!」
私は家のパソコンを前に一人ごちた。
お陰でカンナちゃんには会えないし、何故かクレイルと接点できちゃうし。
(ーーやっぱり、早く転職しよう)
そう思って、ネットサーフィンをやめて求人サイトにアクセスした。
しかし数日後の昼、やっぱり何故かクレイルとウィリアムとお昼をとっている。
(なんでお昼わざわざここに取りに来るの?防衛庁のが確実に良いモノ食えるでしょうに)
「今回の騒ぎ、ミス・サキサカはどう思う?」
「いえ、私は専門家ではないので、全く」
「見当がつかない?」
「はい」
「うーーんまぁ、そうか……」
「ウィル?」
「いや、一般市民の意見も聞いとこうと思って」
「食事時の話題には向かないと思うが」
「あぁごめん、クレイルとはいつもこんな感じだからさ~?」
(だからなんでそこに私を加えるのよ?)と心中ツッコミしつつ、
「では、私はこれで」
と席を外そうとする私を、
「あぁごめん君を空気扱いしたわけじゃなくって、君なら安心ていうか、」
「ーーは?」
「お詫びに明日の昼食は豪華なものご馳走するよ」
「結構です」
断ったのも虚しく、翌日私は書類を届けに行ったところを捕獲(?)され、そのまま彼等が普段使っている部屋でこれでもか!と並べられた豪華なケータリングの数々を前に座らされていた。
「…………」
「さ、どうぞ?大丈夫変な薬とか入ってないから」
「……すまないミス・サキサカ、こいつはこんなでも悪気はないんだ」
(あってたまるか)
しかもなんでこいつにフォローされてるんだ、食べれば終わるならとっとと食べて退出しよう、そうしよう。
「……いただきます」
食事自体はそこそこ穏やかに進んだが、二人の会話には出来るだけ加わらないでおいた。
食後のコーヒーに差し掛かった頃、室内電話が鳴り、近くにいたウィルが受話器を取ると
「クレイル、特課が君に今すぐ来て欲しいって、Cー27室」
「!そうか、すまないミス・サキサカ、少し失礼する」
「いえ、私も もう職場に戻りますので。ご馳走さまでした。」
「片付けは僕がやっとくから~」
ひらひらとウィルが手を振りクレイルを見送ると私もひと呼吸おいて辞去を告げる。
頷いてドアノブを回して送り出しながら背中に、
「うん。今日はごめんね?」
と声が掛かる。
その声音に言葉以上の意味を感じてぞわりと全身が総毛立ち、振り向こうとしたがその意思に体は反応せず、私は意識を失った。
倒れた体をを軽々と抱き留めたウィリアムは、
「ごめんね?出来ればもうちょっと放っといてあげたかったんだけど、時間がないんだ。本物に登場してもらわないとーーね」
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
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万が一、それにカンナ嬢を巻き込む事になればツキナに合わせる顔がないではないか。
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「……流石にそれはないと思うが。」
「だよねぇ」
そんな軽口をたたきながら、
「お前、この騒ぎをどう思う?」
「どうって?いつも通り対処するだけだけど?」
「いつも通り、か」
ウィルのその言葉にクレイルは少し安心する。
少なくともこの世界にも形は違えどこういった事へ当たり前に対処する機関があってちゃんと機能しているうえ、魔法など空想の産物だと思ってる世界で”聖女を召喚“などという事由は今のところあり得ない。
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「はい」
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「ウィル?」
「いや、一般市民の意見も聞いとこうと思って」
「食事時の話題には向かないと思うが」
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「では、私はこれで」
と席を外そうとする私を、
「あぁごめん君を空気扱いしたわけじゃなくって、君なら安心ていうか、」
「ーーは?」
「お詫びに明日の昼食は豪華なものご馳走するよ」
「結構です」
断ったのも虚しく、翌日私は書類を届けに行ったところを捕獲(?)され、そのまま彼等が普段使っている部屋でこれでもか!と並べられた豪華なケータリングの数々を前に座らされていた。
「…………」
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しかもなんでこいつにフォローされてるんだ、食べれば終わるならとっとと食べて退出しよう、そうしよう。
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食事自体はそこそこ穏やかに進んだが、二人の会話には出来るだけ加わらないでおいた。
食後のコーヒーに差し掛かった頃、室内電話が鳴り、近くにいたウィルが受話器を取ると
「クレイル、特課が君に今すぐ来て欲しいって、Cー27室」
「!そうか、すまないミス・サキサカ、少し失礼する」
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