<第一章完結>聖女は自分を呼んだ異世界を嘲笑う

詩海猫(8/29書籍発売)

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 ーーむかつく。
初対面の印象から直情バカなのかと思っていた騎士クレイルが私に疑いを持った。
私への監視を強めたクレイルに嵌められて、聖女だと暴かれてしまった。お茶に誘っていたのは騎士団の情報もあった方がいいと思ったからだったのにーーそのままお茶に来るのが当たり前になっても情報収集の一環になってるから気にしていなかっただけなのに。
まさかあそこまで自分を注視していたとはーーしてやられた、クレイルめ。

 なのでいちいち反発してしまう。こいつはあの日から完全に私の監視役だ。
「君が命知らずな真似ばっかりするからだろう」
 だがこの男は私がどんな暴言を吐いても初対面の態度が嘘のように紳士的な態度を崩さない。
 私が”聖女”だから。
「だから馬鹿だって言うの。こんな役目もん命知らずじゃなきゃ出来るわけないでしょ?」
 心底呆れて言えば黙る。申し訳なさそうな顔で。
「ーーそれからさぁ、どうか罰して下さい、って懇願するみたいな表情かおすんの、やめてくんない?」
イラつくのよ、その偽善者っぷり。

♦︎♦︎♦︎

 罰して欲しい訳じゃない。間違った事はしていない。
 だが、あの日から彼女は変わってしまった。
 聖女として力を顕現した彼女がこちらに出した条件は、

 *パーティーの類には一切出ない
 *政治的に利用するのは許さない
 *戦闘時動きやすい服の要求
 *戦闘方針に口を出さない
 *休んでる間は誰も近付けるなetc.

 以上の事が守られない場合即刻ここを出ていく。魔物を倒すのに必要なのは身一つであるから、必ずしもここにいる必要はない。

 当然王室は難色を示したが、出ていかれては困る。仕方なく条件をのみ何とかご機嫌を取ろうとしたがことごとく失敗している。
 彼女はカリンやハルカとは違ったからだ。

 ドレスを贈れば、
「戦闘にドレスはいらないしいつ着るのよこんなもん!かさばって邪魔!」
 とたたき返され、ではと宝石を贈っても、
「魔物倒すのにこんな物付けないし!てかこんな余裕あんなら被害受けた国民に還元したらっ!?」
 と売り払われた。花も同じく(重篤な人から順に戦いで怪我した人の枕辺にでも配って来い!と言われた)。

 食事も特に贅沢を好む訳でなく、必要な物を必要なだけ摂取しているという感じで、食事を楽しむ事もない。
 かくいう俺も珍しい紅茶を取り寄せて贈ったが受け取ってもらえなかった。
仕方なく側仕えにさりげなく渡して食事と一緒に貰えるように託したが、彼女は「どれ飲んでも違いがわからないから同じ」
と言い放ったそうだ。
 これには驚いた。
 以前の彼女は紅茶の僅かな風味さえ違いに気付いて好みを主張していたのに、今はどれも同じだと言う。
 見た目も日に日に変化していた。
 ふっくらしていた女性らしい部分がなくなり、全体的に細身になってきただけでなく、顔付きも精悍さを増し戦士の顔になった。
真剣な顔で戦うその姿は美しかったが、笑う事は一切なく、ただ淡々と魔物を倒し、部屋に戻って眠る。
それ以外は一切しない。装飾品にも一切興味を示さない。どころか、先日など魔物の血塗れになった長い髪を、手近な刃物でばっさり切ろうとした。

♢♢♢

「落とすの手間でしょ?考えてみたら戦うのには邪魔だし?」
 ーー好きな服着るのに必須だから伸ばしてたけど、もう必要ないしね。

♦︎♦︎♦︎

 周りのメイド達が真っ青になって止めるのが心底不思議だったようで、
「えー…と?この世界では長くしてるのが当たり前かもしれないけど、私のいたとこじゃ好みで凄く短くしてても普通だからさ?候補にもいたでしょ?短いコとか?」
 確かにいた。
ほとんどの候補は長くしていたが、ハルカは肩口で切り揃えていたし、そのハルカより短くしてる女性も。
カリンも長くしていたが、1番長かったのはツキナだ。髪の手入れも手間を惜しまずいつも綺麗にしていた。
外に出る時はひっつめていたが、部屋の中ではおろしている事も多かった。カンナがその方が喜んだからだ。
そのカンナの髪もよくいじっては色々な髪型にしてやっていた。
 今の側仕えはその頃からツキナを慕っていた者ばかりだ。
 余りの変わり様に涙ながらに訴えられ、渋々その場で切り落とすのはやめたが不服そうだったという。
 苦いものが込み上げる。


 ーー頼むから。俺を嫌っていてもいいから。自分を大事にしてくれ。
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