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第14話 雪解け
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「ありがとうございます、魔女さま」
額に滲んだ汗を拭い、リュネは老婆に微笑みかけた。手渡されたカップの温かさに、感覚の無くなりかけていた手がじんわりとほどける。
「薬どころか、雪かきまでやってくださって……」
「いいのよ。それより、膝の調子が良くなったなら何よりだわ」
ここしばらく、この辺りにしては、珍しいほどの大雪だった。じきに、春と呼ばれる季節が来るのに、だ。 リュネは、温まった指でハーブティーを包み込む。
(なにか、おかしな事が起きなければいいけれど)
と、
「ばあちゃん! あっ、魔女さま!」
扉が開いて、小さな体が転がり込んできた。この家の少年だ。老婆は顔を真っ赤にさせた孫を見て、驚きながらも水を取りに行く。
「こんにちは。すごい汗だくじゃない」
「今ね、カイルに剣を教わってたの。あいつ、すごいんだよ!」
「これ、ヨア! なんて言い方なんだい」
老婆の注意も何のその。注がれたハーブ水をいっぺんに飲み干すと、少年は頬を紅潮させたまま、また外に出て行った。春の嵐みたいなその快活さに、リュネと老婆は顔を見合せて目を細める。
「わんぱくな孫で申し訳ないです」
「お気になさらず。それにしても、カイルが剣を教えていたなんて」
「最近はよく来ていますよ。近所の子どもたちが集まって、遊んだり剣に見立てた棒を振ったり」
「……そうだったんですね」
魔女さま。
老婆は窓の向こう、広場ではしゃぐ子どもたちに向けられている。その中心には、カイルの姿があった。
「カイルさんは、随分明るくなりましたね」
「……そうねえ」
「ここに来た時は怪我もしていたし、ずっと怒っているみたいで……まるで悪魔のようで」
「ふふっ」
リュネもまた、開け放たれた窓の外を見やる。はたはたと雪解けの水がこぼれ落ち、土の路面をきらきらと反射させている。幼い子どもたちが、カイルの足元にまとわりつき、きゃらきゃらと楽しげな声を上げている。
黒髪の彼の顔は、ここからでは遠くて見えない。けれど、きっと——。
「彼はきっと、そういう人だったんですよ。わたしたちが皆知らなかっただけで、最初から」
「……あっ、おい魔女」
リュネが老婆の家を後にした後、カイルはそれを目ざとく見つけてこちらに向かってきた。
「終わったのか」
「ええ。でも、あといくつか回るから、まだ時間はあるわよ」
「いやもう限界。そっちについていく」
途端、足元でええーっと声が沸き立った。
「カイル行っちゃうのー?」
「まだ教えてよお」
「ねえカイルー!」
「うるせー。今日は終わり! おら、とっとと帰れ帰れ」
きゃあ、と歓声を上げて、子どもたちは駆け出す。またね。また明日ね。無邪気な声に、カイルの横顔は何だか優しく、だのにひどく寂しく見えた。
(てっきり、もっと笑顔なのかと思ってたけど……)
まるで、笑うことを避けている、ような。
ちびっ子たちがいなくなるまで見送り、リュネたちは次の目的地へ。いつものむすっと顔に戻ったカイルに、リュネは思い出すように言葉を転がす。
「人気者ねえ」
「俺の剣なんざ学んでも、自己流だから意味ねえのに」
「無いことはないでしょ。教えてるの、とっても上手だったわよ。先生とか向いてるんじゃない?」
「俺が?」
へっ、とカイルがどこか呆れた様子で口角を上げる。それを、リュネは無視して続けた。
「自己防衛のために、剣技を学びたい村人はいるわ。あとは、領主さまの家の衛兵になりたい子ども、とかね。あなたの教え方はとても実践的だったし、お手本を見せるやり方もいいと思う」
「……俺の技は、誰かから教わって得たんじゃないのに」
「なら、あなたの教えが上手いのは天性の技術ね。わたしは剣に詳しくは無いけど、聞いていて分かりやすいと思ったわよ」
彼がその言葉をどう受けとったのか。リュネの知る手立ては無い。されど、カイルはその言葉を噛み締めるみたいに、どこか遠くを見ていた。
「リュネ」
「あら、こんにちは」
いくつかの家を回った後、リュネはパン屋でトマに出会った。彼は少し恥ずかしそうに顔を赤らめると、ぽりぽりと髪をかいて口を開く。
「あの……色々ありがとう」
「上手く話せた?」
彼の素朴な顔が頷く。その表情は、重荷を下ろした時の旅人のようで。リュネは改めて胸を撫で下ろした。
「冷静になって考えたんだ。やっぱり親父と一緒に暮らすのは無理だったけど……あの人も後悔してることは分かったし。なんかもう、恨むのも嫌だなって」
「……そうね」
その選択に、迷いは無いようだった。落ち着いた雰囲気を放つトマに、リュネはにっこりと、勇気づけるように顔をほころばせる。
「あなたの選択が、より素敵なものになるよう、わたしも全力で手助けするわよ」
「ははっ、ありがとう。親父も、春祭りまではこっちにいるらしいから。僕の作ったパンを食べてもらいたい、かな」
「そうね。トマのパンはとっても美味しいから……お父さまもきっと喜ぶわね」
じゃあ、また。
別れて店を出ると、カイルはパン屋から離れたところで突っ立っていた。ぶすっとした顔は変わらずなので、今更動じることは無いが……ちらちらとリュネの方を窺っている。
「……あいつ、知り合いなの?」
「そりゃそうよ。この村で育ってるんだから」
トマに限らず——自分を育てた老婆の影響もあって、リュネにとっては、ほとんどの村人が家族のようなものだ。何を今更、とカイルの方をちらりと見上げるも、彼の不満顔はほどけない。
「……なあ、リュネ」
目が、またたく。息が、ほんの少し吸ったぶんで止まる。
リュネは足を止めて、それからゆっくり振り返った。音を立てて、カイルの琥珀色をしたまなこと視線がすれ違った、気がした。ふい、とそれが避けられて——ああ、なんか、顔が暑い。
「なあに」
「その……えっと、だな」
カイルの、抜けるように白い耳たぶが、じわりと赤くなる。リュネはくちびるを噛んで堪えた。高鳴る心臓が、今にも口から飛び出してきそうで。
「は、春祭り、って。その、俺もなんかやらないといけないのか」
「……やりたくなければ、無理強いはしないけれど」
「そうじゃなくて。俺は何も作れねえし、何も持ってない。でも、なんか……なんかさ」
なんか、手伝いたい。
(ああ……)
カイルの小さな、けれど確かなつぶやきに、リュネは自分の顔がとびきり嬉しい顔になっているのがわかってしまった。困ったような、戸惑いの中にいるような彼の手を握り、感情のままに表情を変える。
「あなたがそう言ってくれたのが嬉しいわ。力仕事の方がいいかしら。もう怪我も良くなっているし、魔女としても問題なし、よ」
「いいのか」
「もちろん! 人手はいくらあってもいいからね。早速、建設本部の方に向かいましょう」
手を引いて走る。驚いたように目を丸くしたカイルは、少しだけ幼く見えた。
「ああっ魔女さま!」
「助けてくれえ……」
本部のある建物に飛び込んできたリュネとカイルに、男たちがわあっと泣きつく。驚くふたりを他所に、春祭りのための屋台や物流、晩餐会などのイベントを管理する役目の男たちは、困り果てた様子で口々に話し始めた。
「ど、どうしたの……?」
「この指示書が意味不明なんだ。領主さまから届いたんだけど」
「なんか大事そうなんだが、俺たちにはさっぱりだ!」
渡された書面は、いかにも高級な手触りの紙で。リュネは数行読んでぴんときた。
「……貴族文書っぽいわね。言い回しに癖がある」
「貴族? ……あ、あれか? 来賓で来る貴族さまのことかね」
「なんか偉いお方が来るんだよな……?」
男たちは顔を見合せている。ざっと上から下まで見たが、細かい礼儀や作法を指示しているらしい。よほど高位な貴族なのだろう。
とりあえず。
「皆さまには、お助け要員としてカイルを連れてきたわ。どうぞよろしくね」
「おお、にいちゃん!」
「若い人手があるのは助かるな」
「早速だけど、こっち来てくれるか」
男たちに連れられて、カイルは本部の中に足を進める。リュネは渡された書面を読みながら、その後ろ姿を見送った。
吹く風には、ほんの少しだけ春の香りが混ざり始めているようだった。
☆☆☆
ガラス窓の向こうでは、凍てつく風が吹きすさんでいるのだろう。
一点の曇りの無い調度品に囲まれた、豪奢な室内。ビロードのソファに腰掛けて、男は外を眺めていた。
アルノの領地は美しいが、冬の寒さが長いことは唯一の欠点だ。もっとも、十分に温められた室内にいることの出来る自分には、何ら関係の無い話だが。
「——さまからの手紙です。春祭りの件だとか……」
「春祭り? なんだそれは」
従者の、手紙読み上げの声に、男は眉をぴくりと上げる。春祭り? そんな下らない催し事が、なぜ自分の耳に届くのか。
不快感をあらわにした男に、従者の男は表情を硬くさせる。
「南部の村で行われるものですね。処分しましょうか」
「……いや」
春祭り。南部の村。その単語のみで、男の頭の中にはどの話だったのかが、すぐに思い浮かぶ。あの、無能そうな貴族の領地だ。
それに確か、あの村には——奇妙な噂話もあった。
「あの領主には恩を売っておきたい。謹んで参加すると返しておけ」
「承知致しました」
冷たい声が、続きを読み上げる。男は、未だ荒れる吹雪の外を、凍りつくような視線で見下ろしていた。
額に滲んだ汗を拭い、リュネは老婆に微笑みかけた。手渡されたカップの温かさに、感覚の無くなりかけていた手がじんわりとほどける。
「薬どころか、雪かきまでやってくださって……」
「いいのよ。それより、膝の調子が良くなったなら何よりだわ」
ここしばらく、この辺りにしては、珍しいほどの大雪だった。じきに、春と呼ばれる季節が来るのに、だ。 リュネは、温まった指でハーブティーを包み込む。
(なにか、おかしな事が起きなければいいけれど)
と、
「ばあちゃん! あっ、魔女さま!」
扉が開いて、小さな体が転がり込んできた。この家の少年だ。老婆は顔を真っ赤にさせた孫を見て、驚きながらも水を取りに行く。
「こんにちは。すごい汗だくじゃない」
「今ね、カイルに剣を教わってたの。あいつ、すごいんだよ!」
「これ、ヨア! なんて言い方なんだい」
老婆の注意も何のその。注がれたハーブ水をいっぺんに飲み干すと、少年は頬を紅潮させたまま、また外に出て行った。春の嵐みたいなその快活さに、リュネと老婆は顔を見合せて目を細める。
「わんぱくな孫で申し訳ないです」
「お気になさらず。それにしても、カイルが剣を教えていたなんて」
「最近はよく来ていますよ。近所の子どもたちが集まって、遊んだり剣に見立てた棒を振ったり」
「……そうだったんですね」
魔女さま。
老婆は窓の向こう、広場ではしゃぐ子どもたちに向けられている。その中心には、カイルの姿があった。
「カイルさんは、随分明るくなりましたね」
「……そうねえ」
「ここに来た時は怪我もしていたし、ずっと怒っているみたいで……まるで悪魔のようで」
「ふふっ」
リュネもまた、開け放たれた窓の外を見やる。はたはたと雪解けの水がこぼれ落ち、土の路面をきらきらと反射させている。幼い子どもたちが、カイルの足元にまとわりつき、きゃらきゃらと楽しげな声を上げている。
黒髪の彼の顔は、ここからでは遠くて見えない。けれど、きっと——。
「彼はきっと、そういう人だったんですよ。わたしたちが皆知らなかっただけで、最初から」
「……あっ、おい魔女」
リュネが老婆の家を後にした後、カイルはそれを目ざとく見つけてこちらに向かってきた。
「終わったのか」
「ええ。でも、あといくつか回るから、まだ時間はあるわよ」
「いやもう限界。そっちについていく」
途端、足元でええーっと声が沸き立った。
「カイル行っちゃうのー?」
「まだ教えてよお」
「ねえカイルー!」
「うるせー。今日は終わり! おら、とっとと帰れ帰れ」
きゃあ、と歓声を上げて、子どもたちは駆け出す。またね。また明日ね。無邪気な声に、カイルの横顔は何だか優しく、だのにひどく寂しく見えた。
(てっきり、もっと笑顔なのかと思ってたけど……)
まるで、笑うことを避けている、ような。
ちびっ子たちがいなくなるまで見送り、リュネたちは次の目的地へ。いつものむすっと顔に戻ったカイルに、リュネは思い出すように言葉を転がす。
「人気者ねえ」
「俺の剣なんざ学んでも、自己流だから意味ねえのに」
「無いことはないでしょ。教えてるの、とっても上手だったわよ。先生とか向いてるんじゃない?」
「俺が?」
へっ、とカイルがどこか呆れた様子で口角を上げる。それを、リュネは無視して続けた。
「自己防衛のために、剣技を学びたい村人はいるわ。あとは、領主さまの家の衛兵になりたい子ども、とかね。あなたの教え方はとても実践的だったし、お手本を見せるやり方もいいと思う」
「……俺の技は、誰かから教わって得たんじゃないのに」
「なら、あなたの教えが上手いのは天性の技術ね。わたしは剣に詳しくは無いけど、聞いていて分かりやすいと思ったわよ」
彼がその言葉をどう受けとったのか。リュネの知る手立ては無い。されど、カイルはその言葉を噛み締めるみたいに、どこか遠くを見ていた。
「リュネ」
「あら、こんにちは」
いくつかの家を回った後、リュネはパン屋でトマに出会った。彼は少し恥ずかしそうに顔を赤らめると、ぽりぽりと髪をかいて口を開く。
「あの……色々ありがとう」
「上手く話せた?」
彼の素朴な顔が頷く。その表情は、重荷を下ろした時の旅人のようで。リュネは改めて胸を撫で下ろした。
「冷静になって考えたんだ。やっぱり親父と一緒に暮らすのは無理だったけど……あの人も後悔してることは分かったし。なんかもう、恨むのも嫌だなって」
「……そうね」
その選択に、迷いは無いようだった。落ち着いた雰囲気を放つトマに、リュネはにっこりと、勇気づけるように顔をほころばせる。
「あなたの選択が、より素敵なものになるよう、わたしも全力で手助けするわよ」
「ははっ、ありがとう。親父も、春祭りまではこっちにいるらしいから。僕の作ったパンを食べてもらいたい、かな」
「そうね。トマのパンはとっても美味しいから……お父さまもきっと喜ぶわね」
じゃあ、また。
別れて店を出ると、カイルはパン屋から離れたところで突っ立っていた。ぶすっとした顔は変わらずなので、今更動じることは無いが……ちらちらとリュネの方を窺っている。
「……あいつ、知り合いなの?」
「そりゃそうよ。この村で育ってるんだから」
トマに限らず——自分を育てた老婆の影響もあって、リュネにとっては、ほとんどの村人が家族のようなものだ。何を今更、とカイルの方をちらりと見上げるも、彼の不満顔はほどけない。
「……なあ、リュネ」
目が、またたく。息が、ほんの少し吸ったぶんで止まる。
リュネは足を止めて、それからゆっくり振り返った。音を立てて、カイルの琥珀色をしたまなこと視線がすれ違った、気がした。ふい、とそれが避けられて——ああ、なんか、顔が暑い。
「なあに」
「その……えっと、だな」
カイルの、抜けるように白い耳たぶが、じわりと赤くなる。リュネはくちびるを噛んで堪えた。高鳴る心臓が、今にも口から飛び出してきそうで。
「は、春祭り、って。その、俺もなんかやらないといけないのか」
「……やりたくなければ、無理強いはしないけれど」
「そうじゃなくて。俺は何も作れねえし、何も持ってない。でも、なんか……なんかさ」
なんか、手伝いたい。
(ああ……)
カイルの小さな、けれど確かなつぶやきに、リュネは自分の顔がとびきり嬉しい顔になっているのがわかってしまった。困ったような、戸惑いの中にいるような彼の手を握り、感情のままに表情を変える。
「あなたがそう言ってくれたのが嬉しいわ。力仕事の方がいいかしら。もう怪我も良くなっているし、魔女としても問題なし、よ」
「いいのか」
「もちろん! 人手はいくらあってもいいからね。早速、建設本部の方に向かいましょう」
手を引いて走る。驚いたように目を丸くしたカイルは、少しだけ幼く見えた。
「ああっ魔女さま!」
「助けてくれえ……」
本部のある建物に飛び込んできたリュネとカイルに、男たちがわあっと泣きつく。驚くふたりを他所に、春祭りのための屋台や物流、晩餐会などのイベントを管理する役目の男たちは、困り果てた様子で口々に話し始めた。
「ど、どうしたの……?」
「この指示書が意味不明なんだ。領主さまから届いたんだけど」
「なんか大事そうなんだが、俺たちにはさっぱりだ!」
渡された書面は、いかにも高級な手触りの紙で。リュネは数行読んでぴんときた。
「……貴族文書っぽいわね。言い回しに癖がある」
「貴族? ……あ、あれか? 来賓で来る貴族さまのことかね」
「なんか偉いお方が来るんだよな……?」
男たちは顔を見合せている。ざっと上から下まで見たが、細かい礼儀や作法を指示しているらしい。よほど高位な貴族なのだろう。
とりあえず。
「皆さまには、お助け要員としてカイルを連れてきたわ。どうぞよろしくね」
「おお、にいちゃん!」
「若い人手があるのは助かるな」
「早速だけど、こっち来てくれるか」
男たちに連れられて、カイルは本部の中に足を進める。リュネは渡された書面を読みながら、その後ろ姿を見送った。
吹く風には、ほんの少しだけ春の香りが混ざり始めているようだった。
☆☆☆
ガラス窓の向こうでは、凍てつく風が吹きすさんでいるのだろう。
一点の曇りの無い調度品に囲まれた、豪奢な室内。ビロードのソファに腰掛けて、男は外を眺めていた。
アルノの領地は美しいが、冬の寒さが長いことは唯一の欠点だ。もっとも、十分に温められた室内にいることの出来る自分には、何ら関係の無い話だが。
「——さまからの手紙です。春祭りの件だとか……」
「春祭り? なんだそれは」
従者の、手紙読み上げの声に、男は眉をぴくりと上げる。春祭り? そんな下らない催し事が、なぜ自分の耳に届くのか。
不快感をあらわにした男に、従者の男は表情を硬くさせる。
「南部の村で行われるものですね。処分しましょうか」
「……いや」
春祭り。南部の村。その単語のみで、男の頭の中にはどの話だったのかが、すぐに思い浮かぶ。あの、無能そうな貴族の領地だ。
それに確か、あの村には——奇妙な噂話もあった。
「あの領主には恩を売っておきたい。謹んで参加すると返しておけ」
「承知致しました」
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