【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

文字の大きさ
13 / 23

12

しおりを挟む










幼い頃から王太子として常に完璧を求められた。
期待される事は嬉しかったし、それに応えられる様に過ごす毎日。
そして気付いた。
父上も母上もみんなみんな僕ではなく、王太子を求めているんだと。
いつしか、本当の自分ではなく周りが求める自分を演じ様とする事に疲れていたんだ。





「誰か僕を見て・・・・」





ふと漏れるか細い悲鳴。
誰も気づく事はない。
そんな時だ。
空が目が霞む程の眩い光で包まれる。
思わず左手で光を遮りながらも、その先を確かめずにはいられない。やがて光は城中で1ヶ所に集まり柱となる。

そこには父上も母上も宰相も城の者達が原因を確かめる為に集まっていた。
皆が見守る中徐々に細まる柱から現れたのは、珍しい黒髪に可愛らしい顔立ちの不思議な格好をした少女だった。
彼女は周りを見渡すと怯える様に目を揺らし、何かに縋る様に自分を抱きしめながら僕を見た。
僕を見た彼女は何故か安堵した様な色を浮かべるとそのまま意識を失ってしまったのだ。

それから大人達は、彼女を伝説の聖女と認め手厚く保護した。確かに、あの光景を見れば聖なる少女なのは間違いないだろう。
この国で聖女の伝説を知らない者はいない。
だからと言って何百年も昔の真実かもわからない物語を僕は全くと言って信じてはいなかったのだ。
それが、まさかこの瞳で会えるとは。

常に不安そうな彼女は、歳が近いからか他の者程僕に警戒することはなかった。
それから僕は彼女に毎日会いにいった。
僕を見つけると安堵するのが、僕だけを必要としてくれるようで嬉しくて。
彼女の話にも興味があった。彼女は僕等とは全く違う世界で生きていて、気がつけば光に包まれていたらしい。
最初はあまり自分の事は話さなかったが、徐々に話してくれた内容に僕は驚いた。
彼女は幼い頃に親に捨てられて生きていたらしい。その後は施設で生活していたが、そこもあまりいい暮らしでは無かった様だ。
僕が想像していた、聖なる方へ仕えている少女とは全然違っていた。

そんな彼女には僕が今まで抱え溜め込んでいた悩みをぽつり、ぽつりと話事ができた。

彼女は僕の話を最期まで聞くと、そっと「頑張ったね」と頭をぽんぽんと撫でてくれた。
何故だか僕はその一言で初めて人前で泣いてしまったんだ。



それから僕と彼女はおとして、2人きりの時はとして共支え合ってきたんだ。

でもそれは長くは続かなかった。

マイカの後継人を務める侯爵が不正をしたのだ。
侯爵が判決の際に漏らした、「聖女様を眼にして欲にも眼がくらんでしまった」という一言が良くなかった。
マイカは何も悪くないのに、まるで聖女が助長させたかの様に言葉が徐々に広がりはじめたのだ。
元々聖女マイカの事を面白く思っていない派閥がこの事を利用したのだろう。

彼女は僕の婚約者となって、この国に少しでも慣れようと頑張っていた。民の為に、自分と同じような子供を減らしたいと初めて言った我儘は「孤児院に行きたい!」だった。そんな彼女が悪く言われるのは許せなかった。
なんとしても彼女との婚約を守る為に色々と動いたが、民まで広まった噂を変える事はなかなかに難しい。

徐々に「聖女とは名ばかりな」「彼女が現れたからって何も変わってない。いや?1人の貴族が惑わされたのだったな!」等悪意ある言葉も出てきた。
聖女という名が偉大すぎるあまり、人はそれに見合った結果を勝手求め、勝手に失望していく。
彼女が僕の隣にいる限り、注目を集めこの連鎖はとまらない。徐々にマイカの顔にも翳りが見え始める。
このままではいけないと僕はマイカと話し合った。

そして決断したのだ。
マイカとの婚約を解消し、王太子として国の為に新しい婚約を結ぶと。

それでも一つだけ、譲れない条件があった。
聖女を寵姫として認めるだ。
僕も彼女も婚約という形に縛られなくとも、これからも共にいると誓ったのだ。
僕も相手にとって受け入れがたい条件だとは分かっている。それでも譲れない。譲れないんだマイカだけは。

新しい婚約者選びは慎重に行った。マイカを受け入れると見せつつ、害そうとするかもしれない。
マイカに害はなくとも、王太子妃として相応しい資質も必要だ。
そんな中白羽の矢がたったのは、サブリナ彼女だ。

どこの派閥にも属さず中立を貫き、辺境という過酷な地で多くの領民にも慕われている辺境伯の末娘。
彼女は僕とマイカを1人の臣下として慕ってくれている様で、僕等と協力してこの国を支えていきたいとこの立場を受け入れてくれた。

そんな彼女に、僕もマイカも感謝し、僕も彼女へ少しでもこれから過ごす人生を良いものにしてもらえるよう努めると誓った。











しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

彼はヒロインを選んだ——けれど最後に“愛した”のは私だった

みゅー
恋愛
前世の記憶を思い出した瞬間、悟った。 この世界では、彼は“ヒロイン”を選ぶ――わたくしではない。 けれど、運命になんて屈しない。 “選ばれなかった令嬢”として終わるくらいなら、強く生きてみせる。 ……そう決めたのに。 彼が初めて追いかけてきた——「行かないでくれ!」 涙で結ばれる、運命を越えた恋の物語。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

処理中です...