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9 決戦の時
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槍兵の戦列が目の前に広がる。
穂先が揃ったその軍勢は、マルーン候が誇る重装戦列歩兵だ。
皇帝派の、マルーン候の作戦は単純なものだ。
戦列歩兵をゆっくり前に前進させて、全て押しつぶすつもりなのだろう。
そして、戦列歩兵の弱点である側面を、重装騎兵で固めている。
防御力が高い彼らが守っている限り、横からの襲撃は難しいだろう。
無難で、単純で、だからこそ強い。
そんな王道の戦術を相手は取っていた。
対してこちらは、柵を組み、空堀を掘って、防御の態勢を取っていた。
マルーン候にしてみれば以外だろう。
私の旗下の近衛騎兵たちは軽装弓騎兵であり、高い機動力と長い射程が特徴だ。
イストリア公の兵はたいていが長弓軽歩兵であり、やはり長い射程と、歩兵にしては高い機動力が特徴である。
両者を組み合わせた場合、弓を射ながらの機動戦が得意戦術になる。
マルーン候もそれを警戒し、防御力の高い陣形を取っていたのだろう。
だが、ふたを開けてみれば、柵まで立てて防御の姿勢である。
機動戦を想定していたマルーン候は、その機動力を完全に捨てたかのような状況に戸惑い、しかし前進を始めた。
最初の堀に差し掛かると、大量の矢の雨が皇帝派軍に降り注いだ。
通常、重装歩兵はその胴鎧と左手の盾、それに揃った長槍で矢を打ち落とすことで、矢に対して強い防御力を持つ。
だが、堀のせいで隊列は乱れ、槍が揃わず、盾も掲げるのが難しいタイミングが続出した。
だが、それでも仲間同士のカバーにより、大きな損害を出さずに重装歩兵たちは進んでいく。
木の柵を超え、二つ目の堀に差し掛かったところで、私たちの軍は全力で後退を始める。
重装で、障害物を超えながら前進する皇帝派軍では、弓だけの軽装な私たちには追いつけない。
だが、マルーン候は焦っていないだろう。
今のところ一方的に攻撃で来ているが、重装歩兵たちの損害はそう多くはない。
そして弓という武器はそう多く攻撃できるものではない。
矢は尽きていくという問題もあるが、何よりも射手の体力の問題がある。
鍛えられた兵士は数射でへばるほど弱くはない。しかしそれが十を超えて、数十になり、百を超えるようになればどうか。
徐々に威力は下がり、射程も短くなる。
さらにこちらは引く必要がある。その分の運動量もある。
このまま繰り返しても、皇帝派軍が致命的な損害を受ける前に、こちらが精魂尽き果てるだろうというマルーン候の読みなのだろう。
ある程度正しい判断だが、しかし、彼には一つだけ見落としていることがあった。
「ランドルフ公の重騎兵が壊乱し、敗走しました!!」
「なんだと!?」
皆が皆、同じ練度と士気をしているわけではないという事である。
障害物を設置し引きながら攻撃するのは、もちろん相手の突撃を妨害するためだが、それは重装歩兵以上に、重騎兵対策だった。
馬は人ほど器用ではない。
堀ならまだ飛び越えられるが、丈夫に組んだ柵は、飛び越えられなければどうしようもないのだ。
そのため、重騎兵の最大の売りである衝撃力を生かせない状況だった。
そしてそこに、一方的に撃たれ続ける状況である。
重騎兵は防御力が高いと言うが、重装歩兵ほどではない。盾は持てないし、並んだ槍で矢を弾くこともできない。
鎧は着こんでいるが、隙間があり、何よりも馬の部分に隙間が多い。
ダメージは重装歩兵よりも大きかった。
重装歩兵たちが敵を追い詰めている。
弱点の側面を守り続ければ勝てる。
それは正しいのだが、そこまで命を張ってでも頑張るには、練度と、士気と、騎士としてのプライドが必要だった。
そして、今のランドルフ公軍には、そのどれもが存在しなかった。
薄っぺらい偽りのプライドしかもたず、能力もないアルバートが指揮官であり、
その側近らも、アルバートに諫言できるほどの能力も、信念もない連中ばかりだ。
そしてその下の騎士たちは、遊牧民らに襲撃され、領民を守るために相手と交渉すれば粛清され、かといって公からの援軍もろくに得られない領主や代官たちである。
マルーン候を信頼し、ある種狂信しているマルーン候軍とは士気も練度も何もかもが違い過ぎた。
そうして右翼を守る重騎兵たちが壊乱し、空いた穴に、こちらの軽騎兵たちがなだれ込んだのだ。
こうなればもう相手はどうすることもできない。
重装歩兵は、正面に対しては絶対的な強さを持つが、側面から入り込まれたら防御力も何も存在しない無力な存在だ。
密集陣形故、お互いが邪魔で個別に横を向くこともできず、ただ案山子のように前を向くしかできないのだ。
左翼の重騎兵たちが慌ててフォローしようと右翼に向かったが、既に乱戦になってしまっており手出しもできない。
こうなってしまえばいかに精強な軍務卿の子飼いの兵でも戦うことはできなかった。
すぐに壊乱をはじめ、その壊乱に重騎兵たちも巻き込まれる。
相手は軍の様相を呈さなくなり、ただの烏合の衆と化かした。
こうなればもう戦いどころではない。
私たちの勝利であった。
穂先が揃ったその軍勢は、マルーン候が誇る重装戦列歩兵だ。
皇帝派の、マルーン候の作戦は単純なものだ。
戦列歩兵をゆっくり前に前進させて、全て押しつぶすつもりなのだろう。
そして、戦列歩兵の弱点である側面を、重装騎兵で固めている。
防御力が高い彼らが守っている限り、横からの襲撃は難しいだろう。
無難で、単純で、だからこそ強い。
そんな王道の戦術を相手は取っていた。
対してこちらは、柵を組み、空堀を掘って、防御の態勢を取っていた。
マルーン候にしてみれば以外だろう。
私の旗下の近衛騎兵たちは軽装弓騎兵であり、高い機動力と長い射程が特徴だ。
イストリア公の兵はたいていが長弓軽歩兵であり、やはり長い射程と、歩兵にしては高い機動力が特徴である。
両者を組み合わせた場合、弓を射ながらの機動戦が得意戦術になる。
マルーン候もそれを警戒し、防御力の高い陣形を取っていたのだろう。
だが、ふたを開けてみれば、柵まで立てて防御の姿勢である。
機動戦を想定していたマルーン候は、その機動力を完全に捨てたかのような状況に戸惑い、しかし前進を始めた。
最初の堀に差し掛かると、大量の矢の雨が皇帝派軍に降り注いだ。
通常、重装歩兵はその胴鎧と左手の盾、それに揃った長槍で矢を打ち落とすことで、矢に対して強い防御力を持つ。
だが、堀のせいで隊列は乱れ、槍が揃わず、盾も掲げるのが難しいタイミングが続出した。
だが、それでも仲間同士のカバーにより、大きな損害を出さずに重装歩兵たちは進んでいく。
木の柵を超え、二つ目の堀に差し掛かったところで、私たちの軍は全力で後退を始める。
重装で、障害物を超えながら前進する皇帝派軍では、弓だけの軽装な私たちには追いつけない。
だが、マルーン候は焦っていないだろう。
今のところ一方的に攻撃で来ているが、重装歩兵たちの損害はそう多くはない。
そして弓という武器はそう多く攻撃できるものではない。
矢は尽きていくという問題もあるが、何よりも射手の体力の問題がある。
鍛えられた兵士は数射でへばるほど弱くはない。しかしそれが十を超えて、数十になり、百を超えるようになればどうか。
徐々に威力は下がり、射程も短くなる。
さらにこちらは引く必要がある。その分の運動量もある。
このまま繰り返しても、皇帝派軍が致命的な損害を受ける前に、こちらが精魂尽き果てるだろうというマルーン候の読みなのだろう。
ある程度正しい判断だが、しかし、彼には一つだけ見落としていることがあった。
「ランドルフ公の重騎兵が壊乱し、敗走しました!!」
「なんだと!?」
皆が皆、同じ練度と士気をしているわけではないという事である。
障害物を設置し引きながら攻撃するのは、もちろん相手の突撃を妨害するためだが、それは重装歩兵以上に、重騎兵対策だった。
馬は人ほど器用ではない。
堀ならまだ飛び越えられるが、丈夫に組んだ柵は、飛び越えられなければどうしようもないのだ。
そのため、重騎兵の最大の売りである衝撃力を生かせない状況だった。
そしてそこに、一方的に撃たれ続ける状況である。
重騎兵は防御力が高いと言うが、重装歩兵ほどではない。盾は持てないし、並んだ槍で矢を弾くこともできない。
鎧は着こんでいるが、隙間があり、何よりも馬の部分に隙間が多い。
ダメージは重装歩兵よりも大きかった。
重装歩兵たちが敵を追い詰めている。
弱点の側面を守り続ければ勝てる。
それは正しいのだが、そこまで命を張ってでも頑張るには、練度と、士気と、騎士としてのプライドが必要だった。
そして、今のランドルフ公軍には、そのどれもが存在しなかった。
薄っぺらい偽りのプライドしかもたず、能力もないアルバートが指揮官であり、
その側近らも、アルバートに諫言できるほどの能力も、信念もない連中ばかりだ。
そしてその下の騎士たちは、遊牧民らに襲撃され、領民を守るために相手と交渉すれば粛清され、かといって公からの援軍もろくに得られない領主や代官たちである。
マルーン候を信頼し、ある種狂信しているマルーン候軍とは士気も練度も何もかもが違い過ぎた。
そうして右翼を守る重騎兵たちが壊乱し、空いた穴に、こちらの軽騎兵たちがなだれ込んだのだ。
こうなればもう相手はどうすることもできない。
重装歩兵は、正面に対しては絶対的な強さを持つが、側面から入り込まれたら防御力も何も存在しない無力な存在だ。
密集陣形故、お互いが邪魔で個別に横を向くこともできず、ただ案山子のように前を向くしかできないのだ。
左翼の重騎兵たちが慌ててフォローしようと右翼に向かったが、既に乱戦になってしまっており手出しもできない。
こうなってしまえばいかに精強な軍務卿の子飼いの兵でも戦うことはできなかった。
すぐに壊乱をはじめ、その壊乱に重騎兵たちも巻き込まれる。
相手は軍の様相を呈さなくなり、ただの烏合の衆と化かした。
こうなればもう戦いどころではない。
私たちの勝利であった。
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