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12 魔法
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肉球でロッドの頬をペシペシしていれば、そっと床におろされてしまった。なぜ。
でも自由になれたのは嬉しい。いえーい! と駆けまわれば、聖女がすかさず追いかけてくる。やめろ。おまえはじっとしててくれ。
「可愛いぃ。やっぱり私が飼う!」
ふざけるな。そんなの嫌に決まっているだろう。必死に逃げる俺は、ロッドとフロイドの間を駆け抜ける。俺より足の遅い聖女は「もう!」と苛立ったようにわたわたしている。
へへっと得意に笑っていれば、ひょいと抱き上げられた。む! フロイドめ。余計なことをしやがって、と顔を上に向けるが、視界に入ってきたのはロッドであった。
「どうぞ、聖女様」
「わーい!」
この野郎。やっぱりロッドは俺の敵である。余計なことをしやがって。
俺を聖女へ渡したロッドを睨みつけてやるが、本人は涼しい顔。
精一杯暴れてやれば、聖女ソフィアが「こら! おとなしくしなさい」と抱きしめてくる。ちょっと苦しい。
「今日はおとなしいね。なんで黙ってんの?」
目を瞬くソフィアは、俺を抱きしめたままソファーに腰掛ける。遠慮を知らない十三歳は、俺をソファーに置くと上に倒れてきた。そのまま押し潰される俺。可哀想。
「あの、聖女様」
そんな中、果敢に声を発するフロイドは表情を引き締めて聖女へ頭を下げる。おそらく謝罪して俺を元に戻してもらおうと考えている。殿下と兄上にそうするよう言われたのかもしれない。
けれどもフロイドが謝罪の言葉を口にする前に、ソフィアが「だめだめ!」と首を横に振った。
「条件を達成しないと魔法は解けません。ま、解けなかったら私のペットにしてあげるから安心して」
「なにも安心できません」
眉尻を下げるフロイドは、「そこをどうにか」と食い下がる。
「ディック様も心を痛めておりまして」
「えー、そんなこと言われても。そもそも人の婚約者に手を出すウィルがどうかしてるわけだし」
「それはそうですが」
出してないけどね? いや出そうとはしたけど。正式に手を出したわけではない。未遂である。
なんとかソフィアの下から抜け出して、素早く避難する。「あー、逃げた!」と指を突き付けてくるソフィアは、再び俺を捕まえろと我儘言い始める。
「それに! なんでフロイドが謝るの? 謝罪ならウィルが直接私に言いなさいよ!」
ビシッと強く言われて、俺は顔をしかめる。なんで俺が。というかなんで聖女に謝罪しないといけないんだよ。殿下への謝罪はわかるよ? 未遂とはいえ手を出そうと宿に連れ込んだのは事実だし。でも聖女への謝罪は本気で意味不明。
だからふいとそっぽを向いてやれば、ソフィアが「なにその可愛くない態度」と頬を膨らませる。
『俺に謝ってほしければ、俺をこの姿にしたことを俺に謝罪しろ』
「意味不明なんだけど」
なんで私が謝んないといけないの! と声を荒げるソフィアに、もふもふの尻尾を振ってみせる。
『謝ったら触らせてやらないこともない』
「卑怯だよ!」
本気で悔しがるソフィアは、拳を握って葛藤している。どうだ。可愛い俺に触りたいだろう。調子に乗ってソフィアの足元をうろうろすれば、ソフィアが手を伸ばしてきたので慌てて逃げる。
突然の事態に、フロイドが訳わからないという顔で立ち尽くしている。だろうな。俺もちょっとわかんない。勢いで言ってみたのだが、意外とソフィアは素直に受け取った。さすが十三歳。人生経験乏しいお子様なんて俺の相手じゃない。
ついには「ごめんねぇ」と本当に謝ってきたソフィアに、フロイドが頬を引き攣らせている。
『許してやらないこともない』
「ふわふわだぁ!」
『人の話を聞け』
俺を捕まえて好き放題に撫でまわすソフィアは、「でも戻すのは無理」と真顔で言い放った。
『……無理なの?』
「だって条件を達成しないと戻らないもん。これはそういう魔法だから。私にも解除は無理だよ」
『なんでそんな妙な魔法をかけるんだよ』
「だからごめんってぇ。ついカッとなって。ダリス殿下が可哀想だったから」
『むぅ』
難しい顔で考え込む俺であるが、実を言うとそんなに悩んではいない。だって犬生活は快適である。座ってにこにこしていれば可愛いと褒められるし。勉強や仕事をしろとうるさく言われないし。
へらっと笑えば、フロイドが「なにを笑っているんですか」と苦い声を出す。
「一生このままだったらどうするおつもりですか!? もっと真剣に考えてくださいよ!」
『考えてるよ』
俺を責めるフロイドは、盛大に頭を抱えてしまう。いざとなれば聖女に頼んで元に戻してもらえばいいと楽観的に考えていたのだが、あてが外れて右往左往している。
その様子を面白おかしく眺めていれば、ソフィアが立ち上がって部屋の奥へと駆けていく。無言で戸棚を開け放った彼女は、ガサゴソと中をあさっている。
振り返ったソフィアは、ニヤリと悪い笑みを浮かべていた。
「ウィル! いいものあげる!」
『いらない』
「遠慮しないでぇ」
うきうきと寄ってくるソフィアから逃れようとフロイドの足にアタックする。はよ抱っこしろと催促するが、フロイドは動かない。役立たずめ。
でも自由になれたのは嬉しい。いえーい! と駆けまわれば、聖女がすかさず追いかけてくる。やめろ。おまえはじっとしててくれ。
「可愛いぃ。やっぱり私が飼う!」
ふざけるな。そんなの嫌に決まっているだろう。必死に逃げる俺は、ロッドとフロイドの間を駆け抜ける。俺より足の遅い聖女は「もう!」と苛立ったようにわたわたしている。
へへっと得意に笑っていれば、ひょいと抱き上げられた。む! フロイドめ。余計なことをしやがって、と顔を上に向けるが、視界に入ってきたのはロッドであった。
「どうぞ、聖女様」
「わーい!」
この野郎。やっぱりロッドは俺の敵である。余計なことをしやがって。
俺を聖女へ渡したロッドを睨みつけてやるが、本人は涼しい顔。
精一杯暴れてやれば、聖女ソフィアが「こら! おとなしくしなさい」と抱きしめてくる。ちょっと苦しい。
「今日はおとなしいね。なんで黙ってんの?」
目を瞬くソフィアは、俺を抱きしめたままソファーに腰掛ける。遠慮を知らない十三歳は、俺をソファーに置くと上に倒れてきた。そのまま押し潰される俺。可哀想。
「あの、聖女様」
そんな中、果敢に声を発するフロイドは表情を引き締めて聖女へ頭を下げる。おそらく謝罪して俺を元に戻してもらおうと考えている。殿下と兄上にそうするよう言われたのかもしれない。
けれどもフロイドが謝罪の言葉を口にする前に、ソフィアが「だめだめ!」と首を横に振った。
「条件を達成しないと魔法は解けません。ま、解けなかったら私のペットにしてあげるから安心して」
「なにも安心できません」
眉尻を下げるフロイドは、「そこをどうにか」と食い下がる。
「ディック様も心を痛めておりまして」
「えー、そんなこと言われても。そもそも人の婚約者に手を出すウィルがどうかしてるわけだし」
「それはそうですが」
出してないけどね? いや出そうとはしたけど。正式に手を出したわけではない。未遂である。
なんとかソフィアの下から抜け出して、素早く避難する。「あー、逃げた!」と指を突き付けてくるソフィアは、再び俺を捕まえろと我儘言い始める。
「それに! なんでフロイドが謝るの? 謝罪ならウィルが直接私に言いなさいよ!」
ビシッと強く言われて、俺は顔をしかめる。なんで俺が。というかなんで聖女に謝罪しないといけないんだよ。殿下への謝罪はわかるよ? 未遂とはいえ手を出そうと宿に連れ込んだのは事実だし。でも聖女への謝罪は本気で意味不明。
だからふいとそっぽを向いてやれば、ソフィアが「なにその可愛くない態度」と頬を膨らませる。
『俺に謝ってほしければ、俺をこの姿にしたことを俺に謝罪しろ』
「意味不明なんだけど」
なんで私が謝んないといけないの! と声を荒げるソフィアに、もふもふの尻尾を振ってみせる。
『謝ったら触らせてやらないこともない』
「卑怯だよ!」
本気で悔しがるソフィアは、拳を握って葛藤している。どうだ。可愛い俺に触りたいだろう。調子に乗ってソフィアの足元をうろうろすれば、ソフィアが手を伸ばしてきたので慌てて逃げる。
突然の事態に、フロイドが訳わからないという顔で立ち尽くしている。だろうな。俺もちょっとわかんない。勢いで言ってみたのだが、意外とソフィアは素直に受け取った。さすが十三歳。人生経験乏しいお子様なんて俺の相手じゃない。
ついには「ごめんねぇ」と本当に謝ってきたソフィアに、フロイドが頬を引き攣らせている。
『許してやらないこともない』
「ふわふわだぁ!」
『人の話を聞け』
俺を捕まえて好き放題に撫でまわすソフィアは、「でも戻すのは無理」と真顔で言い放った。
『……無理なの?』
「だって条件を達成しないと戻らないもん。これはそういう魔法だから。私にも解除は無理だよ」
『なんでそんな妙な魔法をかけるんだよ』
「だからごめんってぇ。ついカッとなって。ダリス殿下が可哀想だったから」
『むぅ』
難しい顔で考え込む俺であるが、実を言うとそんなに悩んではいない。だって犬生活は快適である。座ってにこにこしていれば可愛いと褒められるし。勉強や仕事をしろとうるさく言われないし。
へらっと笑えば、フロイドが「なにを笑っているんですか」と苦い声を出す。
「一生このままだったらどうするおつもりですか!? もっと真剣に考えてくださいよ!」
『考えてるよ』
俺を責めるフロイドは、盛大に頭を抱えてしまう。いざとなれば聖女に頼んで元に戻してもらえばいいと楽観的に考えていたのだが、あてが外れて右往左往している。
その様子を面白おかしく眺めていれば、ソフィアが立ち上がって部屋の奥へと駆けていく。無言で戸棚を開け放った彼女は、ガサゴソと中をあさっている。
振り返ったソフィアは、ニヤリと悪い笑みを浮かべていた。
「ウィル! いいものあげる!」
『いらない』
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