21 / 41
21 子分
しおりを挟む
『よし。この中から食べられる草を探せ』
「……はぁ」
朝食後、のろのろやってきたロッドを『遅い!』と一喝してから外に出る。待ちに待った散歩である。片付けするというフロイドは付いてこなかったが「くれぐれもウィル様から目を離さないでくださいよ」とロッドに怖い顔で念押ししていた。「任せてください」と心なしか目をきらきらさせるロッドは散歩を楽しみにしていたらしい。フロイドが「本当に任せて大丈夫ですか?」と引き攣った顔をしていた。
『これは多分苦いぞ。食べられる美味しい草を探せ』
「……草を食べるんですか?」
『さぁ?』
細かいことはいいからはやく探せと花壇に頭を突っ込めば、ロッドが不思議そうに隣にやってくる。
シャカシャカ前足を動かして花壇の土を掘り返せば、ロッドが「僕もお手伝いしましょうか」と言いながら一緒に手で花壇を掘り始める。ほほう。フロイドであれば問答無用で止める場面なのに。こいつ、なかなかやるな。さすがは俺の子分。
『おまえ、落とし穴は作れるか?』
「作ったことはないですが、穴を掘るだけであればできると思います」
『ほほう』
ニヤッと笑って、再び花壇を掘り返す。あたりに土が散らばって面白い。へらへら笑いながら遊んでいれば、ロッドが突然「これなら食べられるのでは?」と言い出した。
見れば小さな花を手にしている。
「子どもの頃、よくこうやって蜜を吸いませんでした?」
『んなことしたことない』
「そうですか」
なぜか残念そうに肩を落とすロッドは「公爵家ではそういう遊びしないんですね」と恨めしそうな目を向けてくる。なんだよ。何かダメなのか?
『でも俺、はちみつは好きだぞ』
「はちみつなんて高くて買えません」
『なんでそんな急に貧乏アピールを』
だが確かに。はちみつはそんなに安価なものでもない。実家が貧しかったらしいロッドが食べたことなくても不思議ではない。
『仕方がない。俺が食べさせてやる』
「え、いいんですか!?」
そんな物欲しそうな目をしていれば無視するわけにもいかない。それにロッドは俺の子分である。はちみつくらい分けてやってもいい。
ぶるぶると頭を振って土を落とす。
同じく手の土を払い落とすロッドを引き連れて屋敷に戻る。
『いいか。はちみつは厨房に隠してある』
「厨房に」
『とりに行くぞ』
「でもウィル様、土だらけですよ。毛が白いから汚れが目立ちますね」
『気にするな』
早足に廊下を駆けて厨房に向かう。けれども朝食後で片付けに追われている料理人たちの姿を確認して足を止めた。
『む! 人が多いな』
この中から誰にも見つかることなくはちみつを奪ってくるのは困難だ。おまけに俺は犬姿。そもそもはちみつが保管してある戸棚も開けられないし、瓶も持てない。
尻尾を追いかけてくるくるまわる俺を見下ろして、ロッドが「はちみつはどこですか」と聞いてくる。
『あそこの棚の一番上』
開け放たれた扉から厨房の奥にある戸棚をこっそり覗けば、ロッドが「なるほど」と真面目な顔で頷いた。
「僕、とってこられると思います」
『本当か!?』
「はい」
妙な自信を見せるロッドに尻尾ぶんぶん振っておく。さりげなく尻尾の当たる位置に移動したロッドは変人だ。尻尾で叩かれたいのか?
任せてくださいと胸を叩いたロッドは、俺に静かに待っているよう言い置いて厨房に忍び込む。言われた通りに厨房の扉前でぺたんと伏せて静かにしておく。楽しくって尻尾がぶんぶん動いてしまうが、まぁいいだろう。
テーブルや棚の影を利用して誰にも見つかることなく進むロッドはすごい。あっという間にお目当ての戸棚へと到達してしまう。そのままゆっくりと扉を開けてはちみつの入った瓶を取り出している。
「とってきました」
『褒めてやる! なかなかやるな』
「ありがとうございます」
宣言通り誰にも見つかることなくはちみつを奪ってきたロッド。得意な顔をする彼は「僕、影が薄いってよく言われるんです」と眉尻を下げた。
確かに。必要以上にお喋りしないし、無駄に動くことなく突っ立っていることの多いロッドは存在感があまりない。そのせいで俺が犬にされてしまったことも知ったわけだし。
早速ロッドと共に俺の部屋に戻る。
どこに行ったのかフロイドの姿が見えない。今がチャンスであった。
『クラッカーを出せ!』
「どこですか?」
『クッキー缶の横』
さっとクラッカーの入った缶を持ってくるロッドはうきうきしている。いつもより足取りが軽い。
俺の部屋には日持ちのする菓子類が置かれている。俺が人間だった時に確保していた分だ。フロイドは部屋に菓子類を置くことに反対している。どうやら俺が夜中にこっそり食べていると疑っているらしいのだ。子どもじゃないんだから好きにさせてくれよ。
『これにはちみつをつけて食べるぞ』
「はい!」
ロッドに指示して、クラッカーにはちみつをつけてもらう。甘くて美味しい。
『おまえも食べていいぞ』
「ありがとうございます!」
普段よりも元気になったロッドが早速はちみつクラッカーを頬張っている。珍しくにこにこ顔を綻ばせるロッドに、俺は尻尾を勢いよく振っておいた。
「……はぁ」
朝食後、のろのろやってきたロッドを『遅い!』と一喝してから外に出る。待ちに待った散歩である。片付けするというフロイドは付いてこなかったが「くれぐれもウィル様から目を離さないでくださいよ」とロッドに怖い顔で念押ししていた。「任せてください」と心なしか目をきらきらさせるロッドは散歩を楽しみにしていたらしい。フロイドが「本当に任せて大丈夫ですか?」と引き攣った顔をしていた。
『これは多分苦いぞ。食べられる美味しい草を探せ』
「……草を食べるんですか?」
『さぁ?』
細かいことはいいからはやく探せと花壇に頭を突っ込めば、ロッドが不思議そうに隣にやってくる。
シャカシャカ前足を動かして花壇の土を掘り返せば、ロッドが「僕もお手伝いしましょうか」と言いながら一緒に手で花壇を掘り始める。ほほう。フロイドであれば問答無用で止める場面なのに。こいつ、なかなかやるな。さすがは俺の子分。
『おまえ、落とし穴は作れるか?』
「作ったことはないですが、穴を掘るだけであればできると思います」
『ほほう』
ニヤッと笑って、再び花壇を掘り返す。あたりに土が散らばって面白い。へらへら笑いながら遊んでいれば、ロッドが突然「これなら食べられるのでは?」と言い出した。
見れば小さな花を手にしている。
「子どもの頃、よくこうやって蜜を吸いませんでした?」
『んなことしたことない』
「そうですか」
なぜか残念そうに肩を落とすロッドは「公爵家ではそういう遊びしないんですね」と恨めしそうな目を向けてくる。なんだよ。何かダメなのか?
『でも俺、はちみつは好きだぞ』
「はちみつなんて高くて買えません」
『なんでそんな急に貧乏アピールを』
だが確かに。はちみつはそんなに安価なものでもない。実家が貧しかったらしいロッドが食べたことなくても不思議ではない。
『仕方がない。俺が食べさせてやる』
「え、いいんですか!?」
そんな物欲しそうな目をしていれば無視するわけにもいかない。それにロッドは俺の子分である。はちみつくらい分けてやってもいい。
ぶるぶると頭を振って土を落とす。
同じく手の土を払い落とすロッドを引き連れて屋敷に戻る。
『いいか。はちみつは厨房に隠してある』
「厨房に」
『とりに行くぞ』
「でもウィル様、土だらけですよ。毛が白いから汚れが目立ちますね」
『気にするな』
早足に廊下を駆けて厨房に向かう。けれども朝食後で片付けに追われている料理人たちの姿を確認して足を止めた。
『む! 人が多いな』
この中から誰にも見つかることなくはちみつを奪ってくるのは困難だ。おまけに俺は犬姿。そもそもはちみつが保管してある戸棚も開けられないし、瓶も持てない。
尻尾を追いかけてくるくるまわる俺を見下ろして、ロッドが「はちみつはどこですか」と聞いてくる。
『あそこの棚の一番上』
開け放たれた扉から厨房の奥にある戸棚をこっそり覗けば、ロッドが「なるほど」と真面目な顔で頷いた。
「僕、とってこられると思います」
『本当か!?』
「はい」
妙な自信を見せるロッドに尻尾ぶんぶん振っておく。さりげなく尻尾の当たる位置に移動したロッドは変人だ。尻尾で叩かれたいのか?
任せてくださいと胸を叩いたロッドは、俺に静かに待っているよう言い置いて厨房に忍び込む。言われた通りに厨房の扉前でぺたんと伏せて静かにしておく。楽しくって尻尾がぶんぶん動いてしまうが、まぁいいだろう。
テーブルや棚の影を利用して誰にも見つかることなく進むロッドはすごい。あっという間にお目当ての戸棚へと到達してしまう。そのままゆっくりと扉を開けてはちみつの入った瓶を取り出している。
「とってきました」
『褒めてやる! なかなかやるな』
「ありがとうございます」
宣言通り誰にも見つかることなくはちみつを奪ってきたロッド。得意な顔をする彼は「僕、影が薄いってよく言われるんです」と眉尻を下げた。
確かに。必要以上にお喋りしないし、無駄に動くことなく突っ立っていることの多いロッドは存在感があまりない。そのせいで俺が犬にされてしまったことも知ったわけだし。
早速ロッドと共に俺の部屋に戻る。
どこに行ったのかフロイドの姿が見えない。今がチャンスであった。
『クラッカーを出せ!』
「どこですか?」
『クッキー缶の横』
さっとクラッカーの入った缶を持ってくるロッドはうきうきしている。いつもより足取りが軽い。
俺の部屋には日持ちのする菓子類が置かれている。俺が人間だった時に確保していた分だ。フロイドは部屋に菓子類を置くことに反対している。どうやら俺が夜中にこっそり食べていると疑っているらしいのだ。子どもじゃないんだから好きにさせてくれよ。
『これにはちみつをつけて食べるぞ』
「はい!」
ロッドに指示して、クラッカーにはちみつをつけてもらう。甘くて美味しい。
『おまえも食べていいぞ』
「ありがとうございます!」
普段よりも元気になったロッドが早速はちみつクラッカーを頬張っている。珍しくにこにこ顔を綻ばせるロッドに、俺は尻尾を勢いよく振っておいた。
268
あなたにおすすめの小説
どうも、卵から生まれた魔人です。
べす
BL
卵から生まれる瞬間、人間に召喚されてしまった魔人のレヴィウス。
太った小鳥にしか見えないせいで用無しと始末されそうになった所を、優しげな神官に救われるのだが…
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。
見習い薬師は臆病者を抱いて眠る
XCX
BL
見習い薬師であるティオは、同期である兵士のソルダートに叶わぬ恋心を抱いていた。だが、生きて戻れる保証のない、未知未踏の深淵の森への探索隊の一員に選ばれたティオは、玉砕を知りつつも想いを告げる。
傷心のまま探索に出発した彼は、森の中で一人はぐれてしまう。身を守る術を持たないティオは——。
人嫌いな子持ち狐獣人×見習い薬師。
大好きな獅子様の番になりたい
あまさき
BL
獣人騎士×魔術学院生
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
カナリエ=リュードリアには夢があった。
それは〝王家の獅子〟レオス=シェルリオンの番になること。しかし臆病なカナリエは、自身がレオスの番でないことを知るのが怖くて距離を置いてきた。
そして特別な血を持つリュードリア家の人間であるカナリエは、レオスに番が見つからなかった場合彼の婚約者になることが決まっている。
望まれない婚姻への苦しみ、捨てきれない運命への期待。
「____僕は、貴方の番になれますか?」
臆病な魔術師と番を手に入れたい騎士の、すれ違いラブコメディ
※第1章完結しました
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
長編です。お付き合いくださると嬉しいです。
宰相閣下の絢爛たる日常
猫宮乾
BL
クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。
悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――
ロ
BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」
と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。
「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。
※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)
ゲームにはそんな設定無かっただろ!
猫宮乾
BL
大学生の俺は、【月の旋律 ~ 魔法の言葉 ~】というBLゲームのテストのバイトをしている。異世界の魔法学園が舞台で、女性がいない代わりにDomやSubといった性別がある設定のゲームだった。特にゲームが得意なわけでもなく、何周もしてスチルを回収した俺は、やっとその内容をまとめる事に決めたのだが、飲み物を取りに行こうとして階段から落下した。そして気づくと、転生していた。なんと、テストをしていたBLゲームの世界に……名もなき脇役というか、出てきたのかすら不明なモブとして。 ※という、異世界ファンタジー×BLゲーム転生×Dom/Subユニバースなお話です。D/Sユニバース設定には、独自要素がかなり含まれています、ご容赦願います。また、D/Sユニバースをご存じなくても、恐らく特に問題なくご覧頂けると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる