24 / 41
24 落とし穴
しおりを挟む
『朝だぞ、起きろ。いつまで寝てる! 散歩の時間だぞ!』
「……まだ夜です」
『朝だ』
ふざけたこと言うロッドの足を踏んでやる。
ぶんぶん尻尾を振って散歩に行くぞと急かすのだが、ロッドは眠そうな目で「まだ夜です」と繰り返す。
なにを言う。すでに外はうっすら明るくなり始めている。どう考えても、もう朝だ。
「毎日早朝に起こさないでください。眠いです。絶対フロイドさんもまだ寝てますよ」
『うるさいぞ』
珍しく饒舌なロッドは、その後も文句を言い続ける。しかしぱっと着替えてくるあたり今日は散歩に付き合ってくれるらしい。俺の子分なのだから当然だ。
『急げ! はやくしないと時間がなくなる!』
「なくなりません。ウィル様は一日中暇じゃないですか」
『暇ではない。噛みつくぞ』
勢いよくロッドの足に体当たりするが、無表情で抱き上げられてしまう。外に行けと指示すれば、ロッドは頷いて足を動かす。
そうして玄関から外に出るなり俺を地面に下ろしたロッドは、深呼吸している。
「朝は気持ちいいですね」
『そうだろう』
花壇に駆け寄って、とりあえず目についた草をかじっておく。もぐもぐしてみるが、やっぱり妙なえぐみがあってぺへっと吐き出す。
「なんで草を食べようとするんですか?」
『犬になったからな』
「犬って草を食べるんですか?」
『知らない』
ふるふると体を震わせて、庭を駆ける。澄んだ空気にはしゃぐ俺。対するロッドは俺の背後をゆったりした足取りでついてくる。
『おい、おまえ!』
スタスタ玄関まで戻って、その場でくるくるまわる。
「なんですか」
『ここに穴を掘ってみろ。落とし穴を作るぞ』
「はい。わかりました」
『よしよし』
ロッドは素直だ。
ぶんぶん尻尾を振って喜びを表現する。フロイドであれば絶対にダメと言う場面である。まだ屋敷のみんなが寝ているこの時間は落とし穴作りに好都合であった。
『これでフロイドにやり返せるぞ。ここを掘るんだ。深く掘れ』
玄関先のフロイドが通るであろう位置を示せば、ロッドがそこを靴で適当に蹴って印をつける。
「あの、シャベルとかありますか?」
『小屋にあるぞ。案内してやる』
とことこ走って庭の一角にある小屋に案内すれば、ロッドはそこからシャベルを持ち出す。そうして穴を掘り始めた彼は、俺なんかよりもずっと穴を掘るのが上手い。
俺が前に落とし穴を作った時はせいぜい地面をへこませるのが精一杯だった。一方のロッドは騎士として体を鍛えているだけはある。頼りない見た目とは裏腹にしっかり穴を掘っていく。
ロッドが掘り返した土に頭を突っ込んで遊んでおく。前足を忙しく動かして土を周囲に撒き散らす。すごい楽しい。
へへっと笑っていれば、玄関ドアの開く音がした。ちらりと視線を向ければ、大きく欠伸しながら出てくるディック兄上が見えた。まずい。そういえば兄上はよく早朝から散歩しているんだった。普段は俺も寝ている時間なので気にもしていなかった。
『まずいぞ、ロッド。はやく穴を埋めろ。兄上が来た』
「え? そんなすぐには無理ですよ」
腕まくりしたロッドは、額にうっすら浮かんだ汗を拭いながら呑気に首を傾げている。
彼の言う通り、今からの証拠隠滅は無理があった。すぐに俺たちの存在に気がついた兄上が「なんだ、はやいな」と笑いながら寄ってきた。
しかし早々に穴の存在に気がついた兄上は、朗らかな笑顔から一転して眉を吊り上げた。
「なんだこれは!!」
『穴?』
「ウィル! おまえはまた妙なことをして!」
へらへら笑って誤魔化そうとするが、難しい顔の兄上は誤魔化されてくれない。ロッドのことも睨みつけて「おまえも何をやっている!」と怒鳴りつけている。
「ウィル様に落とし穴を作れと言われたので」
『おいこら。俺はそんなこと言ってないぞ』
「言いましたよ。フロイドさんを罠にはめたいと」
口の軽いロッドは、馬鹿正直に計画をすべて打ち明けてしまう。おのれ、ロッド。おまえは誰の味方なんだ。抗議のためにも後ろ足でロッドの足を踏んづけておく。
それでも表情を動かさないロッドは、「申し訳ありません」と兄上相手にぺこぺこ頭を下げている。けれどもその表情に反省の色は見えない。なんか怒られたからとりあえず謝っている感がすごい。
「土まみれだぞ」
俺の頭を撫でて土を払い落とす兄上は、苦い顔で「今すぐ元に戻せ」とロッドに命じている。ぼんやりした顔で頷くロッドは、ちらちらと俺に視線を送ってきた。どうやら穴を埋めてもいいか俺に確認しているらしい。兄上にバレてしまった以上、悔しいが諦めるしかない。埋めていいぞと頷けば、ロッドがシャベルを手に作業へ戻ってしまう。
「勝手なことをするな」
『許可をとってからやれって話? 落とし穴作っていい?』
「ダメに決まっているだろ」
即答したディック兄上は、「フロイドになんの恨みがあるんだ」と首を捻る。
『恨みならたくさんあるぞ。あいつは俺のクッキーを勝手に管理している。許せない』
「クッキー如きでそんなに腹を立てなくても」
クッキー如きとはなんだ。俺の大事なおやつだぞ。
「……まだ夜です」
『朝だ』
ふざけたこと言うロッドの足を踏んでやる。
ぶんぶん尻尾を振って散歩に行くぞと急かすのだが、ロッドは眠そうな目で「まだ夜です」と繰り返す。
なにを言う。すでに外はうっすら明るくなり始めている。どう考えても、もう朝だ。
「毎日早朝に起こさないでください。眠いです。絶対フロイドさんもまだ寝てますよ」
『うるさいぞ』
珍しく饒舌なロッドは、その後も文句を言い続ける。しかしぱっと着替えてくるあたり今日は散歩に付き合ってくれるらしい。俺の子分なのだから当然だ。
『急げ! はやくしないと時間がなくなる!』
「なくなりません。ウィル様は一日中暇じゃないですか」
『暇ではない。噛みつくぞ』
勢いよくロッドの足に体当たりするが、無表情で抱き上げられてしまう。外に行けと指示すれば、ロッドは頷いて足を動かす。
そうして玄関から外に出るなり俺を地面に下ろしたロッドは、深呼吸している。
「朝は気持ちいいですね」
『そうだろう』
花壇に駆け寄って、とりあえず目についた草をかじっておく。もぐもぐしてみるが、やっぱり妙なえぐみがあってぺへっと吐き出す。
「なんで草を食べようとするんですか?」
『犬になったからな』
「犬って草を食べるんですか?」
『知らない』
ふるふると体を震わせて、庭を駆ける。澄んだ空気にはしゃぐ俺。対するロッドは俺の背後をゆったりした足取りでついてくる。
『おい、おまえ!』
スタスタ玄関まで戻って、その場でくるくるまわる。
「なんですか」
『ここに穴を掘ってみろ。落とし穴を作るぞ』
「はい。わかりました」
『よしよし』
ロッドは素直だ。
ぶんぶん尻尾を振って喜びを表現する。フロイドであれば絶対にダメと言う場面である。まだ屋敷のみんなが寝ているこの時間は落とし穴作りに好都合であった。
『これでフロイドにやり返せるぞ。ここを掘るんだ。深く掘れ』
玄関先のフロイドが通るであろう位置を示せば、ロッドがそこを靴で適当に蹴って印をつける。
「あの、シャベルとかありますか?」
『小屋にあるぞ。案内してやる』
とことこ走って庭の一角にある小屋に案内すれば、ロッドはそこからシャベルを持ち出す。そうして穴を掘り始めた彼は、俺なんかよりもずっと穴を掘るのが上手い。
俺が前に落とし穴を作った時はせいぜい地面をへこませるのが精一杯だった。一方のロッドは騎士として体を鍛えているだけはある。頼りない見た目とは裏腹にしっかり穴を掘っていく。
ロッドが掘り返した土に頭を突っ込んで遊んでおく。前足を忙しく動かして土を周囲に撒き散らす。すごい楽しい。
へへっと笑っていれば、玄関ドアの開く音がした。ちらりと視線を向ければ、大きく欠伸しながら出てくるディック兄上が見えた。まずい。そういえば兄上はよく早朝から散歩しているんだった。普段は俺も寝ている時間なので気にもしていなかった。
『まずいぞ、ロッド。はやく穴を埋めろ。兄上が来た』
「え? そんなすぐには無理ですよ」
腕まくりしたロッドは、額にうっすら浮かんだ汗を拭いながら呑気に首を傾げている。
彼の言う通り、今からの証拠隠滅は無理があった。すぐに俺たちの存在に気がついた兄上が「なんだ、はやいな」と笑いながら寄ってきた。
しかし早々に穴の存在に気がついた兄上は、朗らかな笑顔から一転して眉を吊り上げた。
「なんだこれは!!」
『穴?』
「ウィル! おまえはまた妙なことをして!」
へらへら笑って誤魔化そうとするが、難しい顔の兄上は誤魔化されてくれない。ロッドのことも睨みつけて「おまえも何をやっている!」と怒鳴りつけている。
「ウィル様に落とし穴を作れと言われたので」
『おいこら。俺はそんなこと言ってないぞ』
「言いましたよ。フロイドさんを罠にはめたいと」
口の軽いロッドは、馬鹿正直に計画をすべて打ち明けてしまう。おのれ、ロッド。おまえは誰の味方なんだ。抗議のためにも後ろ足でロッドの足を踏んづけておく。
それでも表情を動かさないロッドは、「申し訳ありません」と兄上相手にぺこぺこ頭を下げている。けれどもその表情に反省の色は見えない。なんか怒られたからとりあえず謝っている感がすごい。
「土まみれだぞ」
俺の頭を撫でて土を払い落とす兄上は、苦い顔で「今すぐ元に戻せ」とロッドに命じている。ぼんやりした顔で頷くロッドは、ちらちらと俺に視線を送ってきた。どうやら穴を埋めてもいいか俺に確認しているらしい。兄上にバレてしまった以上、悔しいが諦めるしかない。埋めていいぞと頷けば、ロッドがシャベルを手に作業へ戻ってしまう。
「勝手なことをするな」
『許可をとってからやれって話? 落とし穴作っていい?』
「ダメに決まっているだろ」
即答したディック兄上は、「フロイドになんの恨みがあるんだ」と首を捻る。
『恨みならたくさんあるぞ。あいつは俺のクッキーを勝手に管理している。許せない』
「クッキー如きでそんなに腹を立てなくても」
クッキー如きとはなんだ。俺の大事なおやつだぞ。
251
あなたにおすすめの小説
どうも、卵から生まれた魔人です。
べす
BL
卵から生まれる瞬間、人間に召喚されてしまった魔人のレヴィウス。
太った小鳥にしか見えないせいで用無しと始末されそうになった所を、優しげな神官に救われるのだが…
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。
見習い薬師は臆病者を抱いて眠る
XCX
BL
見習い薬師であるティオは、同期である兵士のソルダートに叶わぬ恋心を抱いていた。だが、生きて戻れる保証のない、未知未踏の深淵の森への探索隊の一員に選ばれたティオは、玉砕を知りつつも想いを告げる。
傷心のまま探索に出発した彼は、森の中で一人はぐれてしまう。身を守る術を持たないティオは——。
人嫌いな子持ち狐獣人×見習い薬師。
大好きな獅子様の番になりたい
あまさき
BL
獣人騎士×魔術学院生
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
カナリエ=リュードリアには夢があった。
それは〝王家の獅子〟レオス=シェルリオンの番になること。しかし臆病なカナリエは、自身がレオスの番でないことを知るのが怖くて距離を置いてきた。
そして特別な血を持つリュードリア家の人間であるカナリエは、レオスに番が見つからなかった場合彼の婚約者になることが決まっている。
望まれない婚姻への苦しみ、捨てきれない運命への期待。
「____僕は、貴方の番になれますか?」
臆病な魔術師と番を手に入れたい騎士の、すれ違いラブコメディ
※第1章完結しました
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
長編です。お付き合いくださると嬉しいです。
宰相閣下の絢爛たる日常
猫宮乾
BL
クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。
悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――
ロ
BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」
と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。
「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。
※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)
ゲームにはそんな設定無かっただろ!
猫宮乾
BL
大学生の俺は、【月の旋律 ~ 魔法の言葉 ~】というBLゲームのテストのバイトをしている。異世界の魔法学園が舞台で、女性がいない代わりにDomやSubといった性別がある設定のゲームだった。特にゲームが得意なわけでもなく、何周もしてスチルを回収した俺は、やっとその内容をまとめる事に決めたのだが、飲み物を取りに行こうとして階段から落下した。そして気づくと、転生していた。なんと、テストをしていたBLゲームの世界に……名もなき脇役というか、出てきたのかすら不明なモブとして。 ※という、異世界ファンタジー×BLゲーム転生×Dom/Subユニバースなお話です。D/Sユニバース設定には、独自要素がかなり含まれています、ご容赦願います。また、D/Sユニバースをご存じなくても、恐らく特に問題なくご覧頂けると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる