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31 戻ってしまった
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副団長によって王宮へと引っ張られた俺は、適当に通された客間でダラダラしていた。
隙を見て逃げ出そうと思っていたのだが、なぜか同席してくる副団長が目を光らせているためそれも叶わず。こいつ仕事ないのか? 俺に構っていないで働けよ。
「それにしてもどうしてこんな時間に? 娼館通いがしたいなら早朝ではなく夜ですよ、夜」
こちらを小馬鹿にしたように物言いに眉を寄せる。んなこたぁ言われなくても知っている。ふと思いついたのがこの時間だったというだけだ。
ソファに寝そべって、ぼんやりしておく。
黙々と茶を淹れる副団長は、テーブルの上にカップを置いた。
「どうぞ」
そっと手のひらで示されて、寝転んだまま横目で確認する。
「腹が減った。朝起きてからまだなにも食べてない」
なんか出せと催促すれば「はいはい」と副団長が苦笑する。こいつが部屋を出た隙に逃げようと考えていれば、副団長は廊下を覗いて人を呼び寄せた。「なにかウィル様に朝食を」と短く言いつけている。クソが。おまえが自分で取りにいけよ。
作戦が失敗した。
むすっと腕を組んで天井を見上げていれば「それで?」と副団長が意地の悪い笑みを浮かべた。
「ウィル様の心を奪ったお相手さんは一体どこのどなたなんでしょうかねぇ」
おまえの部下だよとは口が裂けても言えない。
ロッドは王立騎士団所属である。副団長のこいつにとっては部下にあたる。いやしかし。俺はロッドを好きと認めたわけではない。あれはなにかの間違いなのだ。
目を閉じて無視していれば、副団長が呆れたように息を吐いたのがわかった。てか俺はなんでこいつに見張られているわけ? 別に一緒にいる意味ないだろ。
「じゃあ俺は帰るから」
しれっと立ち上がってみるが、副団長が眉を寄せた。俺の進路を塞ぐように移動してきた副団長は、さりげなく俺の背中を押してソファに戻るよう誘導してくる。
「殿下が来るまでお待ちください」
「なんで俺が殿下に会ってやらなきゃならない!」
てか会えるわけないだろ。会ったら最後、俺が人間に戻ったことがバレてしまう。相手が誰かと問い詰められたら我慢ならない。
どうにかして脱出しようと奮闘するのだが、副団長相手に勝てるわけもなく。無駄に足掻いているうちに、扉が開いた。げ! と思って慌てて隠れ場所を探すが、物の少ない客間に隠れる場所なんてない。
「ウィルが来ていると聞いたが?」
ズカズカ入ってきたのはダリス殿下である。室内をゆったり見渡して、俺と視線の合った殿下は険しい顔をする。
「おまえ。また何かやらかしたのか? そろそろ本当に落ち着いたらどうなんだ」
なにやら普通に声をかけてくる殿下は、朝早くに呼び出されて不機嫌であった。けれども寝ぼけているのか。俺が人間姿に戻っていることについて特に言及はない。
これはチャンスだ。
早々に殿下を追い出そう。とりあえず真面目な顔を作って頷いておけば、殿下が偉そうに腕を組んだ。後ろから副団長が「早朝からすごい勢いで娼館に踏み入ろうとしておりましたよ」と余計な口を挟んでくる。これに殿下が眉を吊り上げた。
「馬鹿なのか?」
シンプルな罵倒に、ふんと顔を背けておく。
「別に本気で娼館行きたかったわけじゃないし。カルロッタ嬢が見当たらないから仕方なく娼館に」
「あ?」
地を這うような声が聞こえてきて、ぴたりと口を閉ざす。なにやら冷たい目をした殿下が「おい、ウィル」と低く俺を呼んだ。肩をすくめた副団長が「ウィル様ってどうしてそう見事に墓穴を掘るんですか?」と小馬鹿にするような言い方をした。
「カルロッタには近付くなと言っただろうが! まだ懲りないのか、おまえは。いい加減反省したらどうなんだ。そもそもそれが原因で犬になるなんて、ん? おまえいつ人間に戻った!?」
話の流れで、突然俺が人間であることに気が付いた殿下は目を見開いて大声を発した。普通にうるせぇ。
ガシガシ頭を掻いて「えー、あー、さっき?」と渋々答えておく。
「おまえ。人間に戻って一番にやることが娼館通いなのか?」
なにやら失礼な目を向けてくる殿下。だから別に娼館目当てだったわけではない。適当に聖女を怒らせてもう一度犬になろうと思っただけだ。
しかしそんな説明をしたところで、殿下は余計に腹を立てそうな気がする。もういいや。単に娼館に興味があったということにしておこう。
殿下の言葉を否定せずに佇んでいれば、「馬鹿なのか?」と再びシンプルに罵倒された。
「頼むから妙なことをしないでくれ。おまえ、公爵家の次男が娼館通いなんて噂流れたら目も当てられないぞ」
「はぁ。じゃあ殿下も一緒に行きます?」
「人を話を聞け。どうしてそうなる」
適当に誘ってみたのだが、殿下は額を押さえてため息を吐いてしまう。なんだかネチネチ文句を言われている。俺のことが羨ましいのかと思って気を利かせたのだが、そうではなかったらしい。気難しい殿下だ。
頭が痛いと吐き捨てる殿下に、副団長が「殿下。お気を確かに」と白々しく声をかけている。なんだこの茶番。もう帰ってもいい?
隙を見て逃げ出そうと思っていたのだが、なぜか同席してくる副団長が目を光らせているためそれも叶わず。こいつ仕事ないのか? 俺に構っていないで働けよ。
「それにしてもどうしてこんな時間に? 娼館通いがしたいなら早朝ではなく夜ですよ、夜」
こちらを小馬鹿にしたように物言いに眉を寄せる。んなこたぁ言われなくても知っている。ふと思いついたのがこの時間だったというだけだ。
ソファに寝そべって、ぼんやりしておく。
黙々と茶を淹れる副団長は、テーブルの上にカップを置いた。
「どうぞ」
そっと手のひらで示されて、寝転んだまま横目で確認する。
「腹が減った。朝起きてからまだなにも食べてない」
なんか出せと催促すれば「はいはい」と副団長が苦笑する。こいつが部屋を出た隙に逃げようと考えていれば、副団長は廊下を覗いて人を呼び寄せた。「なにかウィル様に朝食を」と短く言いつけている。クソが。おまえが自分で取りにいけよ。
作戦が失敗した。
むすっと腕を組んで天井を見上げていれば「それで?」と副団長が意地の悪い笑みを浮かべた。
「ウィル様の心を奪ったお相手さんは一体どこのどなたなんでしょうかねぇ」
おまえの部下だよとは口が裂けても言えない。
ロッドは王立騎士団所属である。副団長のこいつにとっては部下にあたる。いやしかし。俺はロッドを好きと認めたわけではない。あれはなにかの間違いなのだ。
目を閉じて無視していれば、副団長が呆れたように息を吐いたのがわかった。てか俺はなんでこいつに見張られているわけ? 別に一緒にいる意味ないだろ。
「じゃあ俺は帰るから」
しれっと立ち上がってみるが、副団長が眉を寄せた。俺の進路を塞ぐように移動してきた副団長は、さりげなく俺の背中を押してソファに戻るよう誘導してくる。
「殿下が来るまでお待ちください」
「なんで俺が殿下に会ってやらなきゃならない!」
てか会えるわけないだろ。会ったら最後、俺が人間に戻ったことがバレてしまう。相手が誰かと問い詰められたら我慢ならない。
どうにかして脱出しようと奮闘するのだが、副団長相手に勝てるわけもなく。無駄に足掻いているうちに、扉が開いた。げ! と思って慌てて隠れ場所を探すが、物の少ない客間に隠れる場所なんてない。
「ウィルが来ていると聞いたが?」
ズカズカ入ってきたのはダリス殿下である。室内をゆったり見渡して、俺と視線の合った殿下は険しい顔をする。
「おまえ。また何かやらかしたのか? そろそろ本当に落ち着いたらどうなんだ」
なにやら普通に声をかけてくる殿下は、朝早くに呼び出されて不機嫌であった。けれども寝ぼけているのか。俺が人間姿に戻っていることについて特に言及はない。
これはチャンスだ。
早々に殿下を追い出そう。とりあえず真面目な顔を作って頷いておけば、殿下が偉そうに腕を組んだ。後ろから副団長が「早朝からすごい勢いで娼館に踏み入ろうとしておりましたよ」と余計な口を挟んでくる。これに殿下が眉を吊り上げた。
「馬鹿なのか?」
シンプルな罵倒に、ふんと顔を背けておく。
「別に本気で娼館行きたかったわけじゃないし。カルロッタ嬢が見当たらないから仕方なく娼館に」
「あ?」
地を這うような声が聞こえてきて、ぴたりと口を閉ざす。なにやら冷たい目をした殿下が「おい、ウィル」と低く俺を呼んだ。肩をすくめた副団長が「ウィル様ってどうしてそう見事に墓穴を掘るんですか?」と小馬鹿にするような言い方をした。
「カルロッタには近付くなと言っただろうが! まだ懲りないのか、おまえは。いい加減反省したらどうなんだ。そもそもそれが原因で犬になるなんて、ん? おまえいつ人間に戻った!?」
話の流れで、突然俺が人間であることに気が付いた殿下は目を見開いて大声を発した。普通にうるせぇ。
ガシガシ頭を掻いて「えー、あー、さっき?」と渋々答えておく。
「おまえ。人間に戻って一番にやることが娼館通いなのか?」
なにやら失礼な目を向けてくる殿下。だから別に娼館目当てだったわけではない。適当に聖女を怒らせてもう一度犬になろうと思っただけだ。
しかしそんな説明をしたところで、殿下は余計に腹を立てそうな気がする。もういいや。単に娼館に興味があったということにしておこう。
殿下の言葉を否定せずに佇んでいれば、「馬鹿なのか?」と再びシンプルに罵倒された。
「頼むから妙なことをしないでくれ。おまえ、公爵家の次男が娼館通いなんて噂流れたら目も当てられないぞ」
「はぁ。じゃあ殿下も一緒に行きます?」
「人を話を聞け。どうしてそうなる」
適当に誘ってみたのだが、殿下は額を押さえてため息を吐いてしまう。なんだかネチネチ文句を言われている。俺のことが羨ましいのかと思って気を利かせたのだが、そうではなかったらしい。気難しい殿下だ。
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