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32 まさか
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「ウィル様。お迎えに来ました」
「なんでおまえが来る。フロイドはどうした」
どうにも気が済まないらしい殿下にネチネチと説教されていた俺であったが、突然乱入してきたロッドを見るなり目を剥いた。
なんでこいつがここに。
どうやら副団長が俺を迎えに来いとアグナス公爵家に連絡を入れたらしい。クソが。余計なことばっかりしやがって。
「やぁ、ロッド。久しぶり」
「お久しぶりです、副団長」
呑気に上官と挨拶を交わすロッドは、ふと俺に向き直ると「フロイドさんはお忙しいようで」と先の俺の疑問に答えをよこした。
「玄関先が荒れていたと。あれってウィル様の仕業ですか?」
「……あ」
そういえば、屋敷を出る前に落とし穴もどきを作っていたんだった。フロイドは引っ掛からなかったらしい。思い通りにいかないものだな。
ロッドの言葉に、殿下が眉を寄せている。その目はくだらないことをするんじゃないと言わんばかりだ。それに気が付かないふりをして、ロッドに外で待つようで顎で指示しておく。このクソボケ野郎はついうっかりでまずいことを口走る気がする。
俺とロッドがキスしたことで人間に戻れたというのは、絶対に殿下や副団長に知られてはならない。ロッドだって、単なる騎士が王族とつながりのある公爵家の次男に手を出したなんて知られたらまずいはずだ。
しっしと追い払えば、ロッドが小首を傾げて寄ってきた。馬鹿野郎。出て行けって言ってんだよ。なんで寄ってくんだよ。
ぴたりと俺の背後に控えるロッドに腹が立つ。一体部下にどういう教育してんだと副団長を睨んでやるが、やれやれと肩をすくめる副団長は確実に俺を小馬鹿にしていた。
「ウィル様。朝のお散歩好きですね。どこまで行っていたんですか?」
お部屋にいないので驚きましたと。淡々と問いかけてくるロッドを睨みつける。おまえは黙っとけ。主人である俺の許可なく口を開くな。
しかし失礼男は何も察しない。それどころか「どこにいらっしゃったんですか?」と副団長に確認する始末だ。
「嬉々として娼館に突撃しようとしていたところを私が確保しました」
どや顔で答えた副団長に、ロッドが「え」と僅かに目を見張った。その面食らったような表情に、思わず「なんだよ」と窺うような声が出てしまう。
首を捻るロッドは「どうして娼館なんて?」といらん深掘りをしてこようとする。
おまえに関係ないだろと言い放とうとしたその瞬間。
「ウィル様には僕がいるじゃないですか」
「は!?」
拗ねたように発せられた言葉に、口をはくはくさせる。え、おまえがいるからなに!?
さっとロッドから距離をとるが、なぜかその分だけロッドが詰めてくる。そのうち逃げ場を失って、壁際まで追い詰められてしまった。殿下と副団長が不思議そうにこちらを見ている。見ていないで助けろ。特に副団長。おまえの部下が粗相してんだぞ。
「ウィル様」
「な、なんだよ!」
ぐいっと顔を近付けられて、強気に睨み返そうとするが上手くいかない。俺はなんでこんなに追い詰められているんだ。俺がなにをしたっていうんだ。というか単なる騎士であるロッドが、なんで俺相手にこんな強気でくるんだ。
色々言いたいことはあるが、なぜか言葉が出てこない。それもこれも俺の眼前でちょっぴり拗ねたように眉尻を下げるロッドのせいだ。
「っ!」
壁に背中を張り付ける俺へと手を伸ばすロッド。肩にかかる髪を触られて、思わず首をすくめる。
勝手に触んな、ボケ。どうにもこいつは人との距離感がバグっている。俺が犬だったから? なんか犬の時と同じような距離の詰められ方をすると背中がぞわぞわする。
「ウィル様って僕のことが好きなんですよね?」
「は、はぁ!?」
なんで俺がおまえのこと好きにならなきゃいけない!
さらりと告げられた言葉に、カッと顔が赤くなる。色々誤魔化すようにロッドの胸を勢い込めて押せば、不意打ちだったらしいロッドがバランスを崩して後ろに下がった。
「ばっかじゃねぇの!」
渾身の叫びに、けれどもロッドは「違うんですか」と腹立たしい反応を返してくる。違うに決まっているだろう。調子に乗るな!
精一杯ロッドを睨みつけていれば、無言で事の成り行きを見守っていた殿下が「まさか」と引きつった声を出した。
「キスの相手って」
おそるおそるといった感じの疑問に、ロッドが殿下を振り返って「あ、はい」とのんびり頷く。
「僕です」
殿下がすごい目で俺とロッドを見比べる。副団長はなにを考えているのかわからない微笑を浮かべて「おやおや」と楽しそうだ。
その揶揄うような仕草に、頭に血がのぼる。
「誰がこんなクソボケ野郎なんて好きになるかよ! ふざけんじゃねぇぞ!」
「クソボケ野郎。まさかそれ僕のことですか」
いまだにとぼけた発言をしているロッドの足を思い切り蹴ってやる。「やめてください」とやる気のない声で抗議してくるロッドは、確実に俺のことをなめていた。
「もう帰る!」
ふんと背中を向けて、荒々しく扉を開け放てば、「おいウィル」という殿下の咎めるような声が投げかけられる。それも無視して駆け出してやる。朝からすげぇ苛々した。
てか結局、朝飯食ってねぇし。
「なんでおまえが来る。フロイドはどうした」
どうにも気が済まないらしい殿下にネチネチと説教されていた俺であったが、突然乱入してきたロッドを見るなり目を剥いた。
なんでこいつがここに。
どうやら副団長が俺を迎えに来いとアグナス公爵家に連絡を入れたらしい。クソが。余計なことばっかりしやがって。
「やぁ、ロッド。久しぶり」
「お久しぶりです、副団長」
呑気に上官と挨拶を交わすロッドは、ふと俺に向き直ると「フロイドさんはお忙しいようで」と先の俺の疑問に答えをよこした。
「玄関先が荒れていたと。あれってウィル様の仕業ですか?」
「……あ」
そういえば、屋敷を出る前に落とし穴もどきを作っていたんだった。フロイドは引っ掛からなかったらしい。思い通りにいかないものだな。
ロッドの言葉に、殿下が眉を寄せている。その目はくだらないことをするんじゃないと言わんばかりだ。それに気が付かないふりをして、ロッドに外で待つようで顎で指示しておく。このクソボケ野郎はついうっかりでまずいことを口走る気がする。
俺とロッドがキスしたことで人間に戻れたというのは、絶対に殿下や副団長に知られてはならない。ロッドだって、単なる騎士が王族とつながりのある公爵家の次男に手を出したなんて知られたらまずいはずだ。
しっしと追い払えば、ロッドが小首を傾げて寄ってきた。馬鹿野郎。出て行けって言ってんだよ。なんで寄ってくんだよ。
ぴたりと俺の背後に控えるロッドに腹が立つ。一体部下にどういう教育してんだと副団長を睨んでやるが、やれやれと肩をすくめる副団長は確実に俺を小馬鹿にしていた。
「ウィル様。朝のお散歩好きですね。どこまで行っていたんですか?」
お部屋にいないので驚きましたと。淡々と問いかけてくるロッドを睨みつける。おまえは黙っとけ。主人である俺の許可なく口を開くな。
しかし失礼男は何も察しない。それどころか「どこにいらっしゃったんですか?」と副団長に確認する始末だ。
「嬉々として娼館に突撃しようとしていたところを私が確保しました」
どや顔で答えた副団長に、ロッドが「え」と僅かに目を見張った。その面食らったような表情に、思わず「なんだよ」と窺うような声が出てしまう。
首を捻るロッドは「どうして娼館なんて?」といらん深掘りをしてこようとする。
おまえに関係ないだろと言い放とうとしたその瞬間。
「ウィル様には僕がいるじゃないですか」
「は!?」
拗ねたように発せられた言葉に、口をはくはくさせる。え、おまえがいるからなに!?
さっとロッドから距離をとるが、なぜかその分だけロッドが詰めてくる。そのうち逃げ場を失って、壁際まで追い詰められてしまった。殿下と副団長が不思議そうにこちらを見ている。見ていないで助けろ。特に副団長。おまえの部下が粗相してんだぞ。
「ウィル様」
「な、なんだよ!」
ぐいっと顔を近付けられて、強気に睨み返そうとするが上手くいかない。俺はなんでこんなに追い詰められているんだ。俺がなにをしたっていうんだ。というか単なる騎士であるロッドが、なんで俺相手にこんな強気でくるんだ。
色々言いたいことはあるが、なぜか言葉が出てこない。それもこれも俺の眼前でちょっぴり拗ねたように眉尻を下げるロッドのせいだ。
「っ!」
壁に背中を張り付ける俺へと手を伸ばすロッド。肩にかかる髪を触られて、思わず首をすくめる。
勝手に触んな、ボケ。どうにもこいつは人との距離感がバグっている。俺が犬だったから? なんか犬の時と同じような距離の詰められ方をすると背中がぞわぞわする。
「ウィル様って僕のことが好きなんですよね?」
「は、はぁ!?」
なんで俺がおまえのこと好きにならなきゃいけない!
さらりと告げられた言葉に、カッと顔が赤くなる。色々誤魔化すようにロッドの胸を勢い込めて押せば、不意打ちだったらしいロッドがバランスを崩して後ろに下がった。
「ばっかじゃねぇの!」
渾身の叫びに、けれどもロッドは「違うんですか」と腹立たしい反応を返してくる。違うに決まっているだろう。調子に乗るな!
精一杯ロッドを睨みつけていれば、無言で事の成り行きを見守っていた殿下が「まさか」と引きつった声を出した。
「キスの相手って」
おそるおそるといった感じの疑問に、ロッドが殿下を振り返って「あ、はい」とのんびり頷く。
「僕です」
殿下がすごい目で俺とロッドを見比べる。副団長はなにを考えているのかわからない微笑を浮かべて「おやおや」と楽しそうだ。
その揶揄うような仕草に、頭に血がのぼる。
「誰がこんなクソボケ野郎なんて好きになるかよ! ふざけんじゃねぇぞ!」
「クソボケ野郎。まさかそれ僕のことですか」
いまだにとぼけた発言をしているロッドの足を思い切り蹴ってやる。「やめてください」とやる気のない声で抗議してくるロッドは、確実に俺のことをなめていた。
「もう帰る!」
ふんと背中を向けて、荒々しく扉を開け放てば、「おいウィル」という殿下の咎めるような声が投げかけられる。それも無視して駆け出してやる。朝からすげぇ苛々した。
てか結局、朝飯食ってねぇし。
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