クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました

岩永みやび

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39 待て

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 ロッドと共に、俺の寝室に移動する。

 まだ太陽が高い位置にあるが、カーテンを閉め切ればそれなりに薄暗くはなった。とはいえ相手の顔はバッチリ見えるし、なんなら活動中である使用人たちの気配も感じられる。非常に落ち着かない。

「まだ明るいけど」

 ベッドに腰掛けてロッドを見上げれば、不思議そうな瞬きが返ってくる。

「朝っぱらから娼館に行こうとしていた人がなにを言ってるんですか」
「……行ってねぇよ」

 ギリ中には入っていない。邪魔が入ったからな。

 寝室の鍵をかけて上着を脱ぎ捨てたロッドが、カツカツと靴音を響かせながら近寄ってくる。

 割と荒い手つきで肩を押されて、ぼすっとベッドに倒れ込んだ。

「……」

 されるがままなのは癪なので、俺も自分で上着を脱いでロッドに向かって投げつけておく。不意打ちだったにもかかわらず、見事にキャッチしてみせた彼は余裕の表情だ。なんか腹立つ。

 無言でベッドにあがってきたロッドに、顎を掴まれる。噛みつくようにキスされて、彼の首に両手を回しておく。

 なんとなく互いの口が離れたタイミングで、ロッドのことを引き寄せる。ベッドの上で仰向けになる俺。そこへ覆いかぶさるロッドは、すっと目を細めて再びキスを落としてきた。

「おまえ、そればっか」
「いいじゃないですか」

 悪びれないロッドは、首元に口を寄せてきた。
 軽く吸われて、眉間に皺が寄る。

「そういうのいいから」
「そういうのって?」

 じっとこちらを見下ろすロッドの頭を、スパンと勢いよく叩いてやる。痛いと小声で文句を言うロッドは、それでも俺の上から退かない。

「調子に乗るな」

 キッと睨みつければ、拗ねたような顔が見えた。

 まるで大きな犬だな、と思う。

 しゅんと垂れ下がる尻尾と耳が見える気がする。ロッドは表情が乏しくつまらない人間だと思っていたが、意外と強引で退屈しない。

「ちょっと待て」

 シャツのボタンにかけられた手を、鋭く制する。ぴたりと動きを止めたロッドは、じっと睨むようにして俺を見据える。

 なにその目。間違っても好きだと告白した相手に向ける目じゃないぞ。これだからロッドは。

 やれやれと肩をすくめれば、ロッドが「なんですか」と低く唸るような声を出す。それに薄く笑みを返して、もう一度「待て」と口にしておく。

「……ウィル様」
「待てって」
「……待ちません」

 ぎゅっと眉間に皺を寄せたロッドが、荒々しい手つきでボタンを外していく。待てと言っているだろうが。

「ウィル様って僕を揶揄うの好きですよね」
「はぁ?」

 ロッドを揶揄って遊んだ覚えはない。
 俺は、俺としては割とロッドに優しく接した方だと思う。兄上だって、俺がやけにロッドに優しいと驚いていたじゃないか。

 けれどもロッドは不満げだ。
 言っておくが、俺がはちみつを分けたのも、玄関で帰りを待ってやったのもロッドが初めてだ。十分優しいだろうが。

 きゅっと唇を引き結んだままのロッドが、手を滑らせる。いつの間にかシャツの前ははだけており、無骨な手が脇腹をそっと撫でていく。妙な感覚に、やめさせようとロッドの腕を掴んでやるが、それくらいで止まる男ではなかった。

 手が、徐々に下へとおりていく。

 腰のあたりに到達したところで、カチャカチャとベルトを外す音が響く。あっという間にベルトを攻略されて、ズボンが引きずりおろされた。

「おい」

 外気に足が晒されて、ちょっと居心地の悪さを感じる。ロッドの大きな手が、するりと太ももを撫でていった。

「ウィル様って色白ですよね」
「……そうか?」

 まぁ訓練やらなにやらで外を走り回る騎士に比べたら、色白でヒョロいだろうよ。ベッドの上で身じろぎすれば、自身の長い髪が頬を掠めてくすぐったさを感じた。

 色々なものを誤魔化すように、眉間に力を込める。その間にも、ロッドは俺の体を好き勝手に撫でまわしている。

 彼に触れられたところが、じんわり熱を持つようだ。なにかを確かめるような慎重な手つきで、至るところを暴かれていく気がする。

「っ!」

 不意に、ロッドの手が股間を掠めた。下着越しに、その存在を確かめるように往来する骨ばった手。その挙動が気になって仕方がない俺は、ベッドに預けていた頭を上げて視界に入れようとする。

 けれども、その前にロッドが下着の中に手を突っ込んできた。

「おい、ふざけるな」

 反射的にロッドを蹴り上げようとするも、なんなく片手で受け止められてしまう。しまいには「そんなに暴れないでくださいよ」と嗜めるように言われてしまい、カッとなる。

「そこを退け」

 鋭く発するが、ロッドは聞く耳を持たない。
 それどころか「ウィル様。往生際が悪いですよ」と、俺を小馬鹿にするような発言をしてみせる。完全にこちらを見下したような態度を流せるほど、俺はできた人間じゃない。

 とりあえず一発ぶん殴ってやろうと、こっそり拳を握る。けれども無遠慮に股間を触られて、びくりと肩が震えたのと同時に、あっさりと拳は開かれてしまう。

「ちょ、おま、なに勝手に」
「触ってもいいですか?」

 律儀に問いかけてくるロッドは、俺の返事を待たずにゆるゆると陰茎に触れてくる。先端を親指の腹で探るように刺激されて、徐々に熱が増していく。

「い、やっ、いいとか言ってなっ」
「ダメとも言われなかったので」

 この野郎……!

 しれっと応じるロッドは、段々と手つきが大胆になっていく。遠慮がちに触れていたのが、今では手のひら全体で包み込むようにして上下に扱う。当然ながら快感を拾いはじめる俺は、ロッドを殴るという目標を忘れて、シーツを握る。

 先走りで濡れたそこを丹念にいじられて、息が上がる。こっちはどうしようもなく追いつめられているというのに、涼しい顔のロッドは淡々と事を進めていく。

「っ、ん」
「ウィル様」

 シャツを引っ掛けているだけで、ほとんど裸に近い格好でベッドに横たわる俺。その足元を陣取るロッドは、上着を脱いだだけであとはきっちり着込んでいる。やがていっそう動きが速くなり、追い詰められた俺は呆気なく達した。ロッドの掌中に吐き出された白濁。

 少し冷静になった俺は、肩を上下させて呼吸を整える。とりあえず、このクソボケ野郎を一発ぶん殴ろう。皺の寄っているであろうシーツから手を離して、そっと拳を握り込む。

「へぁ!?」

 けれども唐突にロッドの手が後ろへとおりていき、穴の縁にそっと触れた。なにかを塗り込むような動きに、背中が粟立つ。いや、待て。本当に待て。

 おまえ、なにしてんの?

 声にならない叫びを、はくはくと口を開閉させることで伝えようとするが、ロッドはそこまで察しがよくない。そんなところに触るんじゃないという焦りに、おまえが塗り込んでいるのはもしや俺が出したものか、とか。言いたい事がたくさんあるのに、言葉が出てこない。

「ウィル様」

 相変わらずなにを考えているのかわからない顔で。ロッドが俺を見下ろす。

「なにか、えっと。香油とかありません?」

 ウィル様が出した分だけじゃ足りないです、と真顔で告げてくるクソボケ野郎。マジで、後でこいつのことは絶対に殴ってやると心に決めた。
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